冒険者は弟子にすべてを託していく。③
「お前らからの連絡が全くなくて、嫌な予感はしていたが……まさか魔族が来ていたとはな」
「あ……き、気を付けてください!……その魔族、地面を操ったり、凄いエネルギー出したり……凄い強いんです」
「いろいろ出来るみたいだな。まあ、後は俺に任せとけ!コウキ、お前は怪我人の応急処置を頼む。少しくらいなら出来るだろ」
「は、はい!」
そう答えると、急いでアリウムたちのそばへと駆け寄る。
念のため持って来ておいた応急処置セットを取り出すと、不器用ながらに傷口を消毒し、治療していく。
大した治療は出来ないが、それでもあるとないとでは大分違うはずだ。
頼むから、師匠が魔族を倒すまで、全員どうにか生きてくれ……。
「……さて、俺の弟子と冒険者仲間がお世話になったな!」
「……貴方モ冒険者デスカ。全ク、倒シテモ倒シテモ湧イテクル。私ハ『生』ヲ司ル魔族。ドウセ貴方モ挑ンデクルノデショウ。ソレナラバ、無駄ナ会話ハ不要。……サッサトカカッテ来イ!」
「無駄な会話は不要か……俺的にはいろいろ聞きたかったんだけどな。まあ、倒してから聞くことにするか!」
そう言い放つと同時。
師匠はハンマーを取り出すと、魔族へと駆け出した。
魔族は地面を操り、師匠を操った地面で潰しにかかる。
師匠は迫りくる地面をハンマーで軽く破壊すると、そのままハンマーを構えつつ、魔族へと急接近する。
そして、ハンマーを全力で振り、強烈な一撃を放った。
それに対し魔族は右手に力を集中させ、ハンマーに攻撃する形で、その攻撃に対抗する。
ハンマーと拳がぶつかり合い、強烈な衝撃が辺りを襲う。
その衝撃に思わず目を瞑り、次に目を開いた頃には師匠と魔族が高速で攻撃を繰り返していた。
師匠がハンマーで攻撃すると魔族は両腕でそれを防ぎ、
魔族が動く地面で攻撃すると、師匠はハンマーを上手く動かし、それを防ぐ。
他にも複雑な攻撃を繰り返しているようだったが、動きが早すぎて、目で追う事すら儘ならない。
途轍もない力と速度の攻撃に防御。
それなりに鍛錬を積み、それなりに成長できたから分かる。
ハッキリ言って、二人とも俺たちの何倍も強い。
隙を突いて師匠のアシストをしようとも考えていたが、それすらも出来ない。
悔しいが、俺には見ている事しか出来なさそうだ。
「……中々ヤルデハナイカ、冒険者」
「お前こそ、やっぱり強いな!それじゃあ……もう少し速度を上げるぞ!」
そう叫ぶと、更に攻撃の速度が上がり始めた。
少し目で終えていた攻撃ですら目で追えなくなり、二人の間で何かが起こっている事しか認識が出来ない。
周りへの衝撃も強まっていき、相当離れているはずなのに、その場で留まるのでやっとだ。
それから数秒後。
突如として師匠が俺の元まで吹き飛ばされた。
それと同時に、魔族も数メートル後ろへ下げられている。
何が起こったのか理解できず、師匠の腹部を見てみると大きな傷跡があった。
魔族の右腕は折れており、普通じゃあり得ない方向へ曲がっている。
どうやら互いに攻撃が直撃し、互いに吹き飛ばされたようだ。
しかし、これはまずい。
師匠と魔族では魔族の方がダメージを負っているように見える。
だが、魔族には師匠が持っていない力がある。
あの普通なら死んでいるはずの怪我でさえ、一瞬で治してしまうほどの治癒能力だ。
あの力がある限り、いくら互いにダメージを受けようが、魔族が回復することにより、最終的に師匠のみがダメージを受ける事になってしまう。
俺の考え通り、魔族は一瞬にして折れた腕を治してしまった。
それどころか、攻防で多少傷ついていた体も完全に治し、戦う以前の万全な状態へと戻ってしまった。
「フム。中々強カッタガ、ヤハリ私ヲ倒ス事ハ出来ナイヨウダナ。……ソロソロ、終ワリニシテシマオウカ」
「……それには、同意見だな。俺も何となくお前の出来る事が分かって来たところだ。……生を司る魔族。要は、生に関する事なら何でも出来るってコトだろ?その動く地面からして、物質を生物にしたり、生物を操る事だって出来る訳か。その超再生も魔力の一環だな」
「ホウ、教エテナイノニ分カルトハ……。以外ト頭モ切レルヨウダナ。シカシ、ソレガドウシタ?」
「いや……超再生が魔力なら良かった!それなら、俺でもお前を倒せそうだ!」
そう言うと、師匠は大きな笑みを浮かべた。
それから大きく深呼吸をすると、右足を少し下げ、左足を大きく前に出した。
ハンマーを右手のみで握りしめ、大きくハンマーを後ろへ引く。
すると、右手からハンマーにかけて、綺麗な銀色に輝くオーラが纏わり始めたのが見えた。
ふと、師匠の顔を見ると、その顔からは笑顔が消え、見たことがないほど真面目な表情へと変わっていた。
その表情から本気の攻撃を仕掛ける事はすぐに理解できた。
魔族もそれを理解できたのか、魔族も真剣な表情で、左手に力を籠め始めた。
その左手は少しずつ緑色に輝き始め、見ているだけで相当な威力である事を理解できた。
どうなるかは分からないが、次の一撃で大きく勝負が動く。
そう考えていると、師匠が大きく声を上げた。
「コウキ!……良いか、よく見ておけ!今から俺が放つのは、俺が持つ最強の一撃だ!どんな弱者が使おうが、格上の強者を倒すことが出来る。どんな物にもダメージを与えられる最強の一撃だ!」
「最強ノ一撃……面白イ!良イゾ、ソノ攻撃、真正面カラ受ケテヤル!コイ、冒険者!」
その言葉に答えるように、師匠は足に力を入れ、大きく動きを開始した。
それに対し、魔族は師匠を仕留めるべく、緑色に光る左手で攻撃を仕掛ける。
ついに、両者の攻撃が発動する。
師匠は銀色に輝くハンマーを魔族に向け、全力で振り下ろす。
それと同時に、全力で叫ぶ。
「無力の一撃!」
瞬間。
両者の一撃が炸裂した。
その攻撃に、周囲には大きな衝撃が走り、土埃が大きく舞い始める。
俺はその場に留まるのがやっとで、二人がどうなったのか見る余裕すらない。
数秒後、衝撃は消え去り、土埃が少しずつ減っていくのが分かった。
それを確認すると、すぐに師匠の方に目をやり、状況の確認を急ぐ。
そこには師匠と魔族、二人が立っているのだけは確認できた。
急いで立ち上がり、状態を確認しようと二人の元へと駆け出す。
そして、二人まで後少しという所だった。
衝撃の景色が俺の目に飛び込み、気付いた時には俺は既に叫んでいた。
「師匠……ししょーーーーーーーーーー‼」
その時、俺の目の前には腹の辺りを、左手で突き抜けられている師匠の姿があった。
俺は急いで近寄ると、魔族をすぐに剥がし、すぐさま傷口を確認する。
師匠の腹には中くらいの穴が開いており、中からは少しずつ血が流れ落ちていた。
その傷口を目にすると同時に、俺は理解してしまった。
この傷は助からない。師匠は死ぬ。
理解すると一瞬体が硬直したが、すぐに動き出し、傷口を塞ぎにかかる。
普通なら死ぬ傷。
だけど、まだ分からない。
だって師匠だぞ。こんな簡単に死ぬわけがない。
師匠なら何とか耐えきって、生き残れるはずだ。
落ち着いて傷口をふさいで、それで……それで……。
「いやー……悪い……やっちまった…………。これはキキョウに……どやされるな……ははっ……」
「何言ってるんですか!しゃべらないでください!落ち着いて……落ち着いて呼吸を整えて!……それで……それで……」
「おいおい、何……泣いてんだよ。…………もしかして、俺が死ぬと思ってんの……か?あのなあ、俺が死ぬわけないだろ……」
「イヤ、貴方ハ死ヌ。私ハ攻撃ト同時ニ、貴方ノ体ノ構造ヲ少シ変化サセタ。簡単ニ説明スルト、貴方ニ空イタソノ穴。ソノ傷口カラノ出血ハ通常ノ出血ニ比ベ、少ナクナルヨウニシタ。ソノ変ワリ、ソノ傷口ハ何ガアッテモ塞ガラナイヨウニシタ。意味ガ分カルカ?……ツマリ、貴方ハコレカラ時間ヲカケテ、迫リクル死ニ怯エナガラ出血死スルシカナイノダ!」
魔族は無慈悲にもそう言い放った。
この師匠の傷は絶対に塞がらない。
師匠はどうする事も出来ず、出血死するしかない。
……ふざけるな。
師匠は死なない。絶対に死なない。
何があろうが、死なせない。
こんな良い人を、俺の大切な師匠を、死なせてなるものか。
絶対に助けてやる。
そう決心し、ゆっくりと立ち上がり、魔族の方へと振り返る。
するとそこには、右腕を失い、体中がボロボロになった魔族の姿があった。
その様子から察するに、師匠の攻撃によって殴り飛ばされたようだ。
だが……だが、魔族の腕を吹き飛ばしたって……。
「……残念ダ。貴方ガ命ヲ犠牲ニシテ破壊シタ私ノ右腕。私ノ魔力ヲ使エバ、コノ程度治セ……治セ……治セ……ナイ?」
魔族はそう言うと、緑色の光を右腕の方へ集めるが、一向に何かが起こる気配がない。
右腕は生えてこないし、ボロボロになった体すらも治る気配がない。
ついさっきはすぐに再生していたのに、一体何をやっているんだろうか。
そう思っていると、師匠はゆっくりと口を開いた。
「無力の一撃はな……どんな奴にも必ずダメージを与える技なんだよ。……たとえ相手が不死身でも、攻撃の効かない化け物でも、必ず効くんだ。……そして、この攻撃で出来た傷は魔力や生呪の力で治療することは出来ない!……分かるか?残念だが……その腕はもう再生しない!」
「再生シナイ……コレハ……シテヤラレタナ」
魔族の表情は見たことがないほどに焦り、誰が見ても分かるほどに動揺していた。
自らの魔力が通じないのが初めての経験だったのかもしれない。
どんな化け物にも効く攻撃。
流石師匠の最強の一撃だ。
もしかしたら、このまま行けば魔族を倒すことが出来るかもしれない。
魔族を倒せれば、魔力で変化させられた構造も戻り、師匠の傷口も防ぐことが出来るかもしれない。
そうすれば……そうすれば師匠も助かるかも……。
そう思ったのもつかの間。
師匠が大きく咳き込むと同時に、大量の吐血をした。
焦って師匠の方へ近づき、その様子を確認する。
話をしているうちに、傷口からは相当な量の血が流れだし、顔色も悪くなっているのが分かった。
「師匠……少し待っててください……俺が……俺が何とか……」
「いや、待てコウキ。……もちろん俺は死ぬ気はない……けどな……万が一のことを考えて……大切な事を言っておく」
「大切な事って……そんな……やめてくださいよ……やめてくださいよ、縁起でもない!」
瀕死の状態で伝える大切な事……まるで遺言だ。
そんな事を聞くわけにはいかない。
絶対に師匠は死なないんだ。
そんな縁起でもない事、聞いちゃならないんだ。
そう思っていると、師匠は右手を上げ、弱い力で俺の服を掴んだ。
師匠のその表情から、師匠が本気であるという事が分かってしまった。
分かると同時に、再び涙が止めどなく流れ始めた。
分かっている。分かっているんだ。
これから魔族を倒そうが、魔力を解けようが、師匠は死ぬ。
この傷と出血じゃもう無理だという事は分かっている。
だけど……認めたくない。
死んでほしくない。大切な師匠に生きていてほしい。
生きていてほしいんだ……。
「全く……そんな泣くなよ。……良いか、よく聞け。まずはカナリーと他の冒険者に……悪い、後は任せると伝えといて……くれ……。そして、キキョウには約束守れなくてごめん。お前なら……お前ならきっと立派な冒険者になれると……頼む。……最後にコウキ。よく聞け。……俺の死はお前のせいじゃない。……俺が最近鍛えてなかったせいだ……だから、気にすんな!なんも悪くないからな!」
「はい……分かりました……分かり……ました……」
俺がそう答えると、師匠はニッコリとした表情をした。
「だから泣くなって……お前は悪くないから……胸を張れ。……コウキ、お前はモンスターを殺せない……臆病で、人と上手く接することも……出来ない。そう、自分で思っているだろ。……確かに事実だ。……だがな、大丈夫だ。……お前は強い!誰が何と言おうが、お前は強い、もっと自信を持て!……良いか、これからお前の前には巨大な壁がたくさん現れるはずだ……。困難な状況に陥ったり、絶望するかもしれない……そんな時は足を止めても良いし、逃げても良い。それでも……絶対に諦めずに、前を向け!そうすれば、きっと……希望の光が見えてくる!だから……諦めずに前を向け。これが……お前に伝えたい事だ……」
それだけ告げると、師匠は傷だらけの体をゆっくりと動かし始めた。
傷口を左手で抑え、右手でハンマーを握りしめる。
フラフラになりながらも右手に握ったハンマーを地面に着き、体を支える。
立ち上がると、しっかりと前を向き、両足に力を籠め、右手に握ったハンマーを大きく振り上げた。
そして、吐血しながらも大きく叫ぶ。
「……俺の……俺の名は酒井リュウガ!……この世界の平和のために戦い、見たことがない景色を見るために冒険を続ける……冒険者だ!……見てろ、コウキ、キキョウ!俺の……悪足掻きを!……無力の一撃!」
そして、リュウガはハンマーを振り下ろしながら魔族へと立ち向かう。
魔族は襲い来るリュウガに対し、心臓目掛けて鋭い地面を放つ。
魔族の一撃はリュウガが攻撃を話す直前に、リュウガの心臓を突き抜いた。
それでも、リュウガは止まることなく攻撃を続ける。
リュウガの振り下ろされた一撃は、魔族の角に直撃し、頑丈な角を粉々に砕くことに成功した。
それを目にすると、リュウガは大きく笑顔を浮かべ、動かなくなった。
そして、酒井リュウガは命を落とした。
最後まで立ち向かい、師匠逝く。




