表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
91/120

冒険者は弟子にすべてを託していく。③

「お前らからの連絡が全くなくて、嫌な予感はしていたが……まさか魔族が来ていたとはな」


「あ……き、気を付けてください!……その魔族、地面を操ったり、凄いエネルギー出したり……凄い強いんです」


「いろいろ出来るみたいだな。まあ、後は俺に任せとけ!コウキ、お前は怪我人の応急処置を頼む。少しくらいなら出来るだろ」


「は、はい!」


 そう答えると、急いでアリウムたちのそばへと駆け寄る。

 念のため持って来ておいた応急処置セットを取り出すと、不器用ながらに傷口を消毒し、治療していく。

 大した治療は出来ないが、それでもあるとないとでは大分違うはずだ。

 頼むから、師匠が魔族を倒すまで、全員どうにか生きてくれ……。


「……さて、俺の弟子と冒険者仲間がお世話になったな!」


「……貴方モ冒険者デスカ。全ク、倒シテモ倒シテモ湧イテクル。私ハ『生』ヲ司ル魔族。ドウセ貴方モ挑ンデクルノデショウ。ソレナラバ、無駄ナ会話ハ不要。……サッサトカカッテ来イ!」


「無駄な会話は不要か……俺的にはいろいろ聞きたかったんだけどな。まあ、倒してから聞くことにするか!」


 そう言い放つと同時。

 師匠はハンマーを取り出すと、魔族へと駆け出した。

 魔族は地面を操り、師匠を操った地面で潰しにかかる。

 

 師匠は迫りくる地面をハンマーで軽く破壊すると、そのままハンマーを構えつつ、魔族へと急接近する。

 そして、ハンマーを全力で振り、強烈な一撃を放った。

 それに対し魔族は右手に力を集中させ、ハンマーに攻撃する形で、その攻撃に対抗する。

 ハンマーと拳がぶつかり合い、強烈な衝撃が辺りを襲う。

 その衝撃に思わず目を瞑り、次に目を開いた頃には師匠と魔族が高速で攻撃を繰り返していた。


 師匠がハンマーで攻撃すると魔族は両腕でそれを防ぎ、

 魔族が動く地面で攻撃すると、師匠はハンマーを上手く動かし、それを防ぐ。

 他にも複雑な攻撃を繰り返しているようだったが、動きが早すぎて、目で追う事すら儘ならない。

 

 途轍もない力と速度の攻撃に防御。

 それなりに鍛錬を積み、それなりに成長できたから分かる。

 ハッキリ言って、二人とも俺たちの何倍も強い。

 隙を突いて師匠のアシストをしようとも考えていたが、それすらも出来ない。

 悔しいが、俺には見ている事しか出来なさそうだ。


「……中々ヤルデハナイカ、冒険者」


「お前こそ、やっぱり強いな!それじゃあ……もう少し速度を上げるぞ!」


 そう叫ぶと、更に攻撃の速度が上がり始めた。

 少し目で終えていた攻撃ですら目で追えなくなり、二人の間で何かが起こっている事しか認識が出来ない。

 周りへの衝撃も強まっていき、相当離れているはずなのに、その場で留まるのでやっとだ。

 

 それから数秒後。

 突如として師匠が俺の元まで吹き飛ばされた。

 それと同時に、魔族も数メートル後ろへ下げられている。

 何が起こったのか理解できず、師匠の腹部を見てみると大きな傷跡があった。

 魔族の右腕は折れており、普通じゃあり得ない方向へ曲がっている。

 どうやら互いに攻撃が直撃し、互いに吹き飛ばされたようだ。

 

 しかし、これはまずい。

 師匠と魔族では魔族の方がダメージを負っているように見える。

 だが、魔族には師匠が持っていない力がある。

 あの普通なら死んでいるはずの怪我でさえ、一瞬で治してしまうほどの治癒能力だ。

 あの力がある限り、いくら互いにダメージを受けようが、魔族が回復することにより、最終的に師匠のみがダメージを受ける事になってしまう。


 俺の考え通り、魔族は一瞬にして折れた腕を治してしまった。

 それどころか、攻防で多少傷ついていた体も完全に治し、戦う以前の万全な状態へと戻ってしまった。


「フム。中々強カッタガ、ヤハリ私ヲ倒ス事ハ出来ナイヨウダナ。……ソロソロ、終ワリニシテシマオウカ」


「……それには、同意見だな。俺も何となくお前の出来る事が分かって来たところだ。……生を司る魔族。要は、生に関する事なら何でも出来るってコトだろ?その動く地面からして、物質を生物にしたり、生物を操る事だって出来る訳か。その超再生も魔力の一環だな」


「ホウ、教エテナイノニ分カルトハ……。以外ト頭モ切レルヨウダナ。シカシ、ソレガドウシタ?」


「いや……超再生が魔力なら良かった!それなら、俺でもお前を倒せそうだ!」


 そう言うと、師匠は大きな笑みを浮かべた。

 それから大きく深呼吸をすると、右足を少し下げ、左足を大きく前に出した。

 ハンマーを右手のみで握りしめ、大きくハンマーを後ろへ引く。

 すると、右手からハンマーにかけて、綺麗な銀色に輝くオーラが纏わり始めたのが見えた。

 ふと、師匠の顔を見ると、その顔からは笑顔が消え、見たことがないほど真面目な表情へと変わっていた。

 その表情から本気の攻撃を仕掛ける事はすぐに理解できた。


 魔族もそれを理解できたのか、魔族も真剣な表情で、左手に力を籠め始めた。

 その左手は少しずつ緑色に輝き始め、見ているだけで相当な威力である事を理解できた。

 

 どうなるかは分からないが、次の一撃で大きく勝負が動く。

 そう考えていると、師匠が大きく声を上げた。


「コウキ!……良いか、よく見ておけ!今から俺が放つのは、俺が持つ最強の一撃だ!どんな弱者が使おうが、格上の強者を倒すことが出来る。どんな物にもダメージを与えられる最強の一撃だ!」


「最強ノ一撃……面白イ!良イゾ、ソノ攻撃、真正面カラ受ケテヤル!コイ、冒険者!」


 その言葉に答えるように、師匠は足に力を入れ、大きく動きを開始した。

 それに対し、魔族は師匠を仕留めるべく、緑色に光る左手で攻撃を仕掛ける。

 ついに、両者の攻撃が発動する。


 師匠は銀色に輝くハンマーを魔族に向け、全力で振り下ろす。

 それと同時に、全力で叫ぶ。


「無力の一撃!」


 瞬間。

 両者の一撃が炸裂した。

 その攻撃に、周囲には大きな衝撃が走り、土埃が大きく舞い始める。

 俺はその場に留まるのがやっとで、二人がどうなったのか見る余裕すらない。


 数秒後、衝撃は消え去り、土埃が少しずつ減っていくのが分かった。

 それを確認すると、すぐに師匠の方に目をやり、状況の確認を急ぐ。

 そこには師匠と魔族、二人が立っているのだけは確認できた。

 急いで立ち上がり、状態を確認しようと二人の元へと駆け出す。


 そして、二人まで後少しという所だった。

 衝撃の景色が俺の目に飛び込み、気付いた時には俺は既に叫んでいた。


「師匠……ししょーーーーーーーーーー‼」


 その時、俺の目の前には腹の辺りを、左手で突き抜けられている師匠の姿があった。

 俺は急いで近寄ると、魔族をすぐに剥がし、すぐさま傷口を確認する。

 師匠の腹には中くらいの穴が開いており、中からは少しずつ血が流れ落ちていた。

 その傷口を目にすると同時に、俺は理解してしまった。

 この傷は助からない。師匠は死ぬ。

 理解すると一瞬体が硬直したが、すぐに動き出し、傷口を塞ぎにかかる。


 普通なら死ぬ傷。

 だけど、まだ分からない。

 だって師匠だぞ。こんな簡単に死ぬわけがない。

 師匠なら何とか耐えきって、生き残れるはずだ。

 落ち着いて傷口をふさいで、それで……それで……。


「いやー……悪い……やっちまった…………。これはキキョウに……どやされるな……ははっ……」


「何言ってるんですか!しゃべらないでください!落ち着いて……落ち着いて呼吸を整えて!……それで……それで……」


「おいおい、何……泣いてんだよ。…………もしかして、俺が死ぬと思ってんの……か?あのなあ、俺が死ぬわけないだろ……」


「イヤ、貴方ハ死ヌ。私ハ攻撃ト同時ニ、貴方ノ体ノ構造ヲ少シ変化サセタ。簡単ニ説明スルト、貴方ニ空イタソノ穴。ソノ傷口カラノ出血ハ通常ノ出血ニ比ベ、少ナクナルヨウニシタ。ソノ変ワリ、ソノ傷口ハ何ガアッテモ塞ガラナイヨウニシタ。意味ガ分カルカ?……ツマリ、貴方ハコレカラ時間ヲカケテ、迫リクル死ニ怯エナガラ出血死スルシカナイノダ!」


 魔族は無慈悲にもそう言い放った。

 この師匠の傷は絶対に塞がらない。

 師匠はどうする事も出来ず、出血死するしかない。


 ……ふざけるな。

 師匠は死なない。絶対に死なない。

 何があろうが、死なせない。

 こんな良い人を、俺の大切な師匠を、死なせてなるものか。

 絶対に助けてやる。


 そう決心し、ゆっくりと立ち上がり、魔族の方へと振り返る。

 するとそこには、右腕を失い、体中がボロボロになった魔族の姿があった。

 その様子から察するに、師匠の攻撃によって殴り飛ばされたようだ。

 だが……だが、魔族の腕を吹き飛ばしたって……。

 

「……残念ダ。貴方ガ命ヲ犠牲ニシテ破壊シタ私ノ右腕。私ノ魔力ヲ使エバ、コノ程度治セ……治セ……治セ……ナイ?」


 魔族はそう言うと、緑色の光を右腕の方へ集めるが、一向に何かが起こる気配がない。

 右腕は生えてこないし、ボロボロになった体すらも治る気配がない。

 ついさっきはすぐに再生していたのに、一体何をやっているんだろうか。

 そう思っていると、師匠はゆっくりと口を開いた。


「無力の一撃はな……どんな奴にも必ずダメージを与える技なんだよ。……たとえ相手が不死身でも、攻撃の効かない化け物でも、必ず効くんだ。……そして、この攻撃で出来た傷は魔力や生呪の力で治療することは出来ない!……分かるか?残念だが……その腕はもう再生しない!」


「再生シナイ……コレハ……シテヤラレタナ」


 魔族の表情は見たことがないほどに焦り、誰が見ても分かるほどに動揺していた。

 自らの魔力が通じないのが初めての経験だったのかもしれない。


 どんな化け物にも効く攻撃。

 流石師匠の最強の一撃だ。

 もしかしたら、このまま行けば魔族を倒すことが出来るかもしれない。

 魔族を倒せれば、魔力で変化させられた構造も戻り、師匠の傷口も防ぐことが出来るかもしれない。

 そうすれば……そうすれば師匠も助かるかも……。


 そう思ったのもつかの間。

 師匠が大きく咳き込むと同時に、大量の吐血をした。

 焦って師匠の方へ近づき、その様子を確認する。

 話をしているうちに、傷口からは相当な量の血が流れだし、顔色も悪くなっているのが分かった。


「師匠……少し待っててください……俺が……俺が何とか……」


「いや、待てコウキ。……もちろん俺は死ぬ気はない……けどな……万が一のことを考えて……大切な事を言っておく」


「大切な事って……そんな……やめてくださいよ……やめてくださいよ、縁起でもない!」


 瀕死の状態で伝える大切な事……まるで遺言だ。

 そんな事を聞くわけにはいかない。

 絶対に師匠は死なないんだ。

 そんな縁起でもない事、聞いちゃならないんだ。

 

 そう思っていると、師匠は右手を上げ、弱い力で俺の服を掴んだ。

 師匠のその表情から、師匠が本気であるという事が分かってしまった。

 分かると同時に、再び涙が止めどなく流れ始めた。


 分かっている。分かっているんだ。

 これから魔族を倒そうが、魔力を解けようが、師匠は死ぬ。

 この傷と出血じゃもう無理だという事は分かっている。

 だけど……認めたくない。

 死んでほしくない。大切な師匠に生きていてほしい。

 生きていてほしいんだ……。


「全く……そんな泣くなよ。……良いか、よく聞け。まずはカナリーと他の冒険者に……悪い、後は任せると伝えといて……くれ……。そして、キキョウには約束守れなくてごめん。お前なら……お前ならきっと立派な冒険者になれると……頼む。……最後にコウキ。よく聞け。……俺の死はお前のせいじゃない。……俺が最近鍛えてなかったせいだ……だから、気にすんな!なんも悪くないからな!」


「はい……分かりました……分かり……ました……」


 俺がそう答えると、師匠はニッコリとした表情をした。


「だから泣くなって……お前は悪くないから……胸を張れ。……コウキ、お前はモンスターを殺せない……臆病で、人と上手く接することも……出来ない。そう、自分で思っているだろ。……確かに事実だ。……だがな、大丈夫だ。……お前は強い!誰が何と言おうが、お前は強い、もっと自信を持て!……良いか、これからお前の前には巨大な壁がたくさん現れるはずだ……。困難な状況に陥ったり、絶望するかもしれない……そんな時は足を止めても良いし、逃げても良い。それでも……絶対に諦めずに、前を向け!そうすれば、きっと……希望の光が見えてくる!だから……諦めずに前を向け。これが……お前に伝えたい事だ……」


 それだけ告げると、師匠は傷だらけの体をゆっくりと動かし始めた。

 傷口を左手で抑え、右手でハンマーを握りしめる。

 フラフラになりながらも右手に握ったハンマーを地面に着き、体を支える。

 立ち上がると、しっかりと前を向き、両足に力を籠め、右手に握ったハンマーを大きく振り上げた。

 そして、吐血しながらも大きく叫ぶ。


「……俺の……俺の名は酒井リュウガ!……この世界の平和のために戦い、見たことがない景色を見るために冒険を続ける……冒険者だ!……見てろ、コウキ、キキョウ!俺の……悪足掻きを!……無力の一撃!」


 そして、リュウガはハンマーを振り下ろしながら魔族へと立ち向かう。 

 魔族は襲い来るリュウガに対し、心臓目掛けて鋭い地面を放つ。

 魔族の一撃はリュウガが攻撃を話す直前に、リュウガの心臓を突き抜いた。

 それでも、リュウガは止まることなく攻撃を続ける。


 リュウガの振り下ろされた一撃は、魔族の角に直撃し、頑丈な角を粉々に砕くことに成功した。

 それを目にすると、リュウガは大きく笑顔を浮かべ、動かなくなった。

 そして、酒井リュウガは命を落とした。

最後まで立ち向かい、師匠逝く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ