冒険者は弟子にすべてを託していく。①
「いくぞおおおおおおお!」
そう叫びながら、カンナは一直線に女性へ駆けていく。
右手にピンク色の指輪をはめている所を見るに、最初から全開で行くようだ。
カンナは強く拳を握ると、大きく拳を下げたのち、何もしてこない女性に全力で殴り掛かる。
カンナの一撃はいとも容易く直撃し、女性は何かをすることもなく、そのまま殴り飛ばされた。
そして生まれた隙を見逃すことはなく、アリウムはカエデを変形させながら追い打ちを掛けようとする。
カエデを両手で握りしめると、しっかりと女性を視界にとらえ、叫んだ。
「変剣!」
次の瞬間。
カエデは剣とは言えないほどに大きく、
狼の牙の様に鋭く、捕食者のような見た目をしている剣へと変化を遂げた。
カエデが変化を終えたのを確認すると、アリウムはカエデを振り、女性へ斬りかかる。
今度も女性は反応することなく、簡単にカエデに捕まった。
カエデの掴む力が強力だからか、女性はカエデから逃れることが出来ないようだ。
それを確認しながら、俺とユリが斬りにかかる。
影で作られたノコギリと、風で作られた剣。
二つの刃は同時に女性の上部に刺さり、深手を与える事に成功した。
そのまま押し込めば、更に深手を与えられただろうが、俺たちは瞬時に剣を解除し、一定距離後ろへ下がる。
一同が下がったのを確認すると、グリシアは叫びながら、矢を放った。
「……サンドラアロウ!」
瞬間、黄色い一線が女性目掛けて放たれた。
当然女性は避けることが出来ず、まともにその一撃を喰らう事となった。
聞いていた以上の威力だ。
奥の手ともいえる強力な弓矢だとは聞いていたが、まさかここまで強く、速いなんて思わなかった。
威力が強すぎて地面が大きく抉れているし、矢自体は速過ぎて目で追えなかったぞ。
これだけ強力な攻撃だ。流石の魔族も気絶くらいはしているはず。
いや、頼むからしていてくれ。
そう心の底から願いながら、収まっていく砂埃の奥を確認する。
よく見るとそこには女性が倒れることなく立っているのが見えた。
女性の腹には巨大な穴が開いており、それがグリシアの攻撃によって作られたものだという事は一目瞭然だ。
どこからどう見ても、瀕死状態。
人間なら間違いなく死んでいる状態だ。
「あの怪我……もうまともには動けないはず」
「うん……凄い……凄いよ!うちら、魔族を追い込んでるよ!」
「ああ、これなら行けるかもしれねえ!取りあえず、カエデでもう一度捕まえて……」
「待って!何か様子がおかしい!」
ユリにそう言われ、女性の様子をよく見てみる。
女性は俺たちにつけられた傷を数秒見つめると、右手を大きく上げ、何かを呟いた。
すると、女性の体が緑色の光に包まれ始めた。
その次の瞬間。
女性の傷口は見る見るうちに治っていき、体に空いた穴に関しては一瞬で塞がった。
目の前で起こったあり得ない出来事に、俺たちはただ驚き続ける事しかできない。
「……言ッタハズ。私ハ生ヲ司ル魔族。ソウ、私ノ魔力ハ生。ツマリ、生ニ関スル事ナラドンナ事ダロウガ知ッテイル。ソシテ、生ニ関スル事ナラドンナ事デモ出来ル|。私トイウ生物ノ体ノ一部ヲ再生サセル事ナド造作モナイ」
魔力が生。
授業で聞いた事がある。
魔族は俺たち人間が持っている生呪の力と似たような力を持っているらしい。
それを魔力というらしいのだが、生呪の力より強力であり、あらゆるものに影響を与えることが出来る。
単純な話、生呪の力の上位互換の力を魔族は持っているという事だ。
魔力は一つの言葉で表せるらしいのだが、「生」とはどういうことだ?
地面を操ったり、自分の体を再生したり、強力な力を使っていることは理解できるが、実際の力はどんな力なのか、全く理解できない。
「……理解出来ナイカ。ソレナラ、見セテヤロウ。例エバ、スライムノ様ニ、自由自在ニ動クコノ地面。コレハ私ガ地面ヲ生物ニ変エタノダ。ソシテ、生物ニナッタ地面ヲ操ッテイルノダ。……コンナフウニナ」
女性がそう呟いた次の瞬間。
強烈な衝撃波が俺たちを襲った。
あまりの衝撃に耐えることが出来ず、思わず目を瞑ってしまった。
それから数秒後。
何とか閉じた目を開き、何が起こったのか、周囲を確認する。
すると真横に、数秒前まで女性の横にあった動く地面が伸びてきていた。
驚き、一歩下がりながら、真横へ伸びた地面の先を見てみる。
そこには、地面と壁に挟まれ、気絶しているグリシアの姿があった。
「え……あ……グリ……シア……?…………ぐ、グリシアー!」
何が起きたのか、全く分からなかった。
気づいた時には地面が近くにあり、グリシアが倒されていた。
「他人ノ心配ヲシテイル場合ジャナイゾ。次ハ、貴方タチダ。……ソウダナ。私ノ右手ヲ見テミロ。今右手ニ緑色ノ光ガ集マッテイルノハ見エルダロ。コレハ付近カラ集メタ生物ガ生キルタメノ力。所謂生体エネルギーノ様ナ物ダ。コノエネルギーハ途轍モナイ力ヲ秘メテイテナ。モシ、コノエネルギーヲマトモニ受ケタラ……ドウナルト思ウ?」
そう言うと、女性は緑色に光る右手を前に出した。
光は時間がたつにつれ大きく輝いて行く。
ハッキリ言って、生体エネルギーがどうとか、エネルギーが力を秘めているとか、何を言っているかは全く分からなかった。
俺は生物系統の事が苦手なんだ。
良く分からない言葉を良く分からないまま並べられたって、理解できるわけがないだろ。
……しかし、一つだけ分かった事がある。
どう考えてもあの光はやばい。
まともに喰らえば、倒される気しかしない。
何とかして放つのを阻止出来ればいいが、恐らく阻止は出来ない。
阻止する前に打たれるか、地面を操られ、阻止するのを阻止されるに決まっている。
本能的に、それを理解することが出来る。
それなら、極限まで防御力を高め、あの攻撃を耐えるしかない。
周囲の全ての影を操り、シャドウメイルを極限まで硬くする。
ユリたちも同じ考えだったのか、それぞれがそれぞれの方法で、防御態勢に入っていた。
「防御ヲ上ゲ、攻撃ニ耐エヨウトイウノカ。……浅イナ。何故、貴方タチ程度ガ、私ノ攻撃ヲ耐エラエッルト考エテシマッタノカ。……サラバダ。可哀ソウナ生物ヨ」
女性は右手の光を俺たちへと放った。
放たれると同時に光は俺たちを覆いつくすほどに広がっていき、俺たちを襲い掛かる。
迫りくる光を前に、突如本能的に理解した。
このままでは防げないと、確実に死ぬと。
それと同時に、俺は頭で理解することなく、バッグへ手を伸ばす。
そして、キャンディーを取り出すと、すぐさま口へ放り込み、噛み砕く。
右足を一歩下げ、ローブを前に出し、自らをローブで守るように構える。
その動きを終えるとほぼ同時。
巨大な光が俺たちを包み込んだ。
補足:女性の魔力は生に関する全てを操ることが可能。
例えば、生物でないものに命を与えることが出来るし、命を直接与えたものは自由に操ることが出来る。生きている生物だったら、どんな生物も多少なら操れる。生物の体の一部を変化させることも可能で、その気になれば心臓を100mくらいにして、体を内側から爆散させることも可能。体を修復させたのは、自らの体を変化させた。生に関してれば何でもできるチートだと考えて下せえ。




