コミュ症は初めて魔族と対峙する。①
「おい……いん……お……ろ!」
誰だろう。
どこかで、俺の事を呼ぶ声が聞こえてくる。
声は少しずつ大きくなっていき、怒鳴り声の様にも聞こえてくる。
その声色は必至で、相当焦っているようにも聞こえる。
この聞き覚えのある声は……確か……。
「……スターチス?」
「あ!やっと起きたか陰キャ!お前いつまで寝てんねん!」
寝てんねん……そうだ、俺は寝ていたんだ。
いつもの様にベッドに入り、いつもの様に熟睡していたんだ。
そんな時、突然声が聞こえてきて、目を開くとそこにはスターチスが刺さっていた。
なるほど。
スターチスが寝ている俺を起こそうと、必死に声をかけていたのか。
しかし、一体何故そんな事をしたんだろうか。
どことなく焦っているように見えるし、何かあったのだろうか。
「えっと……何かあった?」
「ああ、おおありや!とりま俺はいかなあかん所があるから、お前は宿の前にいるユリたちと合流して、東側の町の出口に向かえ!良いか、これから何があろうが、判断はお前ら自身に任せる!頼むで!」
それだけ告げると、スターチスは突如として姿を消した。
訳も分からず動揺しながらも、急いで服を着替え、ローブとベルトを装備し、部屋の扉を開く。
小走りで宿を出ると、そこにはユリたち仮冒険者一同が揃っていた。
「あ、コウキくん!」
「あ、おはよう、みんな。……その、良く分からないんだけど、一体何が怒ってるの?」
「コウキも分からないか。実は俺らも分からないんだ。スターチスに突然起こされて、東側の出口に行けとしか言われてなくてよ。まあ、良く分かんないけど、とりあえず行ってみようぜ!」
俺たちはアリウムの意見に賛成し、東側の町の出口目指して走り出した。
出口への道図時は町の外へ出る際、何度も通ってきた見慣れた道だ。
今では地図を見る事無く、出口へ向かうことが出来る。
そう、いつもこの道を通っていたんだ。
だからこそ分かる。今この町には何かが起こっている。
この道は毎日活気に溢れ、そこら中から楽しそうな人々の笑い声が聞こえていた。
早朝だろうが、真夜中だろうが必ず人は歩いており、一人も人がいないなんて状態は見たことがない。
しかし、今現在。この道には人一人いないのだ。
それどころか、横に広がる家々の中に人がいる気配すらしない。
いくら何でもおかしい。何かがあったのは確実だ。
町の人々は一体どこへ行ったのか。
この町で何が起こっているのか。
不安と疑問は増していくばかりだ。
他のみんなも同じことを考えたのか、アリウムたちの顔も曇っているように見える。
その不自然な状況から、焦りが増し、自然と足が速くなる。
そして、数分後。
前方に東側の出口が見えてきた。
そこには何十人もの冒険者が集まっており、何かをしているように見える。
俺たちは一気に駆けだし、冒険者の元へと近づいて行く。
冒険者の元へ着くと同時に俺たちの目に映ったのは、信じられないほどのモンスターの大群だった。
今まで見たことがないほどのモンスターの軍勢が、何十人もの冒険者と戦っている。
互いに傷つけ合い、一進一退の攻防を繰り広げている。
あまりにも壮絶な光景に、俺たちは誰一人として声を発することが出来なかった。
その時、後ろから聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこには、特徴的なリーゼントの男が立っていた。
「仮冒険者の皆さん!ご無事でしたのですね。何よりです」
「ギルド長!一体何がどうなってるんですか?今着たばっかで、状況が全く読み込めていないんですけど……」
「あっと……その、俺たちもそこまで状況を把握できていないんです。……今朝、突如としてモンスターの大群が、我を忘れたかのようにこの町へ襲撃してきたんです。……とりあえず全住民はギルドへ避難させ、全冒険者で事態の収拾に当たっています」
ギルドへ避難していたから、町に誰一人として姿が見えなかったのか。
それにしてもモンスターの襲撃か。
一体何が原因かは分からないが、大変な事になった。
見た感じ、モンスターは冒険者の倍以上の数いるようだし、数だけで言えば相当不利。
我を失い、死に物狂いで向かってくる様子を見ると、モンスターもより凶暴になってるだろう。
ハッキリ言って、状況は悪いな。
となれば……。
「それじゃあ、私たちも戦いに参加します!仮であっても、私たちは冒険者です。この状況を見過ごすわけにはいきません。それに、どう考えたって冒険者側が不利ですし、私たちでもいないに越したことはないはずです!」
「本当ですか!?……それなら、仮冒険者の皆さんも……」
「その必要はないぞ!」
声が聞こえた方を向くと、そこには戦闘準備を整えた師匠とキキョウが立っていた。
師匠は荷物を下ろすと、俺たちの方へと近づいてきた。
「……えっと、その必要はないって?」
「文字通り、その必要がないんだ。お前らが居なくても、ここは大丈夫だってことだ!その代わり、お前らには別にやってもらいたいことがあるんだが、良いか?」
駄目だ、話について行けない。
居なくても大丈夫って、流石にそうは思えない。
モンスターは冒険者の倍以上の数。
凶暴性も高く、一体一体がしっかりと強い。
よく見ると、冒険者の中には既に深手を負っている者もいる。
ユリが言っていた通り、冒険者側が相当不利なんだ。
未熟な俺達でも、いないよりかはマシなはず。
師匠は一体何を考えているんだ。
「いや、リュウガさん!俺たちはまだまだですけど、いないよりかはマシなはずです!俺たちが不利な状況なんですから、俺たちも混ざって戦いますよ!」
「落ち着けアリウム。要はお前らは冒険者側が不利だから、お前らも戦うって言ってんだな。それならいらない心配だ。この町の冒険者はお前らが思ってる以上に強いからな。心配するな!そこにいるカナリーだって、相当強いんだぞ」
師匠に名指しされたギルド長は焦ったような仕草をすると、
全力で首を横に振りながら、全力で否定し始めた。
「いやいやいやいやいや!……何言ってるんだいリュウガ!俺は弱いし、気弱だし、どうしようもないし、いない方が良いし、存在自体消えるべきだし……」
「あー、分かったから一回落ち着け、スカラー!よし、お前ら一回見てろ!それからもう一度ここでお前らが必要か考えてみろよ」
そう言いながら、師匠はギルド長に後ろを向かせると、何やら背首のあたりを探り始めた。
しばらく探り続けていると、探していたものを見つけたのか、探るのをやめ、背首の一点に人差し指を置いた。
そして、スイッチオン!と言うと同時に、人差し指に力を入れた。
次の瞬間。
ギルド長は突如空を見上げると、嘗て聞いた事のないほどの叫び声をあげた。
それをきっかけにギルド長の体に変化が生じ始めた。
筋肉は一回り大きくなり、リーゼントに綺麗にまとまっていた髪はほどけ、長髪へと変化した。
表情は真剣で、どこか凶暴にも見える。
数秒前のギルド長とは別人と言っていいほどに変化していた。
「えっと……ギルド長?」
「……仮冒険者どもよ。心配をかけて悪かったな。……だが、もう大丈夫だ!ここは俺に任せろ!」
以前と大分違う口調になったギルド長は、突如雄叫びを上げると、モンスターの大群へと突っ込んで行った。
ギルド長は右腕を大きく振り上げたかと思うと、信じられないほどの勢いで振り下ろし、前方のモンスターを一瞬にして殴り飛ばした。
周囲のモンスターはギルド長の危険性を感じ取ったのか、一丸となってギルド長へと襲い掛かる。
が、ギルド長は一切気にすることなく、モンスターへと突進していき、襲い掛かるモンスターを弾き飛ばしていく。
あまりの迫力に、開いた口が塞がらない。
今までのギルド長からは考えられない戦い方に、考えられない強さ。
本当にあれがギルド長なのか疑うほどに別人だ。
俺たちが動揺したのに気付いたのか、師匠はゆっくりと説明を始めた。
「スカラーの力はスイッチを押すと強くなる力でな。背首辺りにあるスイッチが押されると自信に溢れ、凶暴な性格になって、途轍もなく強くなるんだ。普段のひ弱なスカラーからは考えられない姿だろ」
「はい……何て言うか、凄いです。モンスターを次々に倒していって……何と言うか凄いです」
「だろ!スタミナがないっていう弱点はあるが、それでも相当強いぞ!さて、スカラーの強さを見ても、お前らが戦う必要があるとは思うか?」
俺たちは一度顔を見合わせると、同時に首を横に振った。
あの強さのスカラーがいるんだ。
俺たちが居なくとも、モンスターを倒し終えるのは時間の問題だ。
「よし!それじゃあ、お願いがあるんだが、聞いてくれるか?」
「はい!それで、お願いって?」
「実はここと真逆の西側の出口にも少しではあるがモンスターが襲撃してきたんだ。そっちも冒険者が対応してるんだが、数分前から連絡が途絶えてな。状況が分からないから、お前らに様子を見てきてほしいんだ。お前らは強いからな。何かがあっても、対応できるだろうしな。……お願いできるか?」
『はい!任せてください!』
「よし、頼むぞ、仮冒険者!それじゃあ、俺はモンスターの大群の相手をしてくるかな。……行くぞ、キキョウ!」
それだけ言うと、師匠はハンマーを両手に握り、全速力で駆け出した。
キキョウもその後を追い、一直線に走り出す。
それを見送ると、俺たちは師匠に言われた通りに、西側の出口へと走り出す。
あの強さのギルド長に、師匠がいるんだったらモンスターの大群が倒れるのも時間の問題だろう。
後は連絡が途絶えた西側の出口の方だ。
西側の出口にいた冒険者は大丈夫だろうか
その先で仮冒険者を待ち受ける者とは!?




