コミュ症は魔剣に言われるがまま、人を助ける。
「最近、俺様の影が薄いと思う」
仮冒険者一同が集まるなり、魔剣スターチスはそう言い放った。
ダンジョン攻略から数日後。
突如、魔剣スターチスから仮冒険者一同へ召集が掛かった。
緊急事態らしく、早急に集まるように言われ、全速力でスターチスの元へ来たのだが……。
影が薄いと思うってどういうことだ?
緊急事態で、早く集まれと言われたから、ご飯も食べずに集まったのだが、全く理解が追い付かない。
俺たち全員が呆然としていると、スターチスは話を始めた。
「いやさ、最近お前ら俺様に全然会いに来ないやん!来たとしても、全然話してくれないやん!流石の俺様も、寂しくてもう限界や!」
「え、それはまあ……依頼を受けたこと以外、話す事なんてないし……」
「いや、あるやろ!どうやったら強くなれるかとか、いつもどんな生活を送ってるのかとか、どうやってしゃべってるのかとか……いろいろ話す事はあるやないか!」
そう言われても困る。
どうやったら強くなれるかは師匠に聞けるし、毎日稽古をつけてもらっているから、わざわざスターチスの所へ行く必要がない。
生活とか、どうやって喋ってるのかは気になりはするが、わざわざ危機に行くことはない。
ハッキリ言って、依頼を達成した報告以外、スターチスに会いに行く必要はないのだ。
そりゃあ、会う頻度が少なくなるのは当然だ。
しかし、結局スターチスは何が言いたいんだろうか。
急いできたのに、まさか文句を言うためだけに呼んだのだろうか。
俺がそう思っていると、アリウムが代わりに口を開いた。
「えっと……結局スターチスは何が言いたいんだ?」
「だからやなー……俺様はもっと目立ちたい!お前らにもっと必要とされたい!もっと影を濃くしたい!ってことで、今日は俺様がお前らに授業をしてやる!」
『……授業!?』
「そや!取りあえず、善は急げや!おい、筋肉バカ!俺様を持て!そして、俺様の言う通りに進んで行け!他の奴らは、その後をついて来い!……おい、筋肉バカ!早くしろ!」
アリウムは言われるがままにスターチスを両手で持ち上げた。
そして、スターチスの指示する方へゆっくりと歩き始めた。
仕方なく、俺たちもその後を続いて行く。
スターチスが案内し始めてから数分後。
俺たちが到着したそこは、以前訪れたことのある、様々な物が売られている商店街だった。
商店街はいつも通りに人で溢れており、至る所から楽しそうな話声が聞こえてくる。
スターチスは商店街で、一体どんな授業をするつもりなのだろうか。
「よし、ええか!今から、お前らには困っている人たちを見つけて、その人たちを助けて貰う!」
「困っている人を助ける……?」
「そうや!なんでこんなことをやらせるかは、後で言う!お前らはとりあえず困っている人を見つけてこい!そんでもって、助けてこい!あ、ちなみにそれぞれ単独行動な!」
スターチスはそれだけ言うと、地面に刺さり、日向ぼっこを始めた。
いろいろと思う所はあったが、俺たちは別れ、困っている人を探し始めた。
取りあえず、困っている人を見つければいいわけだな。
とは言っても、困っている人なんてそうそういない。
特に楽しく、活気で溢れている商店街にそんな人がいるなんて全く思えない。
本当に困っている人に出会えるのだろうか。
……あれ、ちょっと待て。
それ以前に、もしかしなくても、困っているに話しかけるって、俺自ら話しかけるってことだよな。
俺が知らない人に話しかけるってことだよな。
いや、きつすぎる。
俺がコミュ症だという事は、スターチスも知っているはずだろ。
コミュ症が知らない人に話しかけるのは途轍もなく難しいんだ。
信じられないほどの勇気がいるし、一歩間違えれば心が持たず、精神的に死ぬかもしれないんだぞ。
スターチスは何を考えているんだ。いくら何でも酷過ぎるだろ。
俺は一体どうすれば良いんだ……。
そんな事を考えながらも、周囲を観察しながら、商店街を進んで行く。
道行く人は楽しそうな笑顔で溢れ、困っている人は一人も見当たらない。
諦めて、元いた場所に戻ろうか。
そう思い始めた時。近くで子供の泣き声が聞こえてきた。
動揺しながらも音を聞き分け、鳴き声がする方へ走っていくと、男の子が一人、道端で大泣きしているのが見えた。
その見た目から察するに、歳は五、六歳辺りだろう。
緊張し、鼓動が早くなる胸を押さえ、一度大きく深呼吸する。
そして、大丈夫と自分に言い聞かせながら、勇気を振り絞り、子供に話しかけてみる。
「えっと……あ、そ……ど、どうしたの?大丈夫?」
そう尋ねると、子供は一度俺の顔を見たのち、さらに大きな声で泣きわめき始めた。
突然泣き声が大きくなったことに動揺しながらも、もう一度大丈夫か尋ねてみる。
すると今度は、泣きながらも質問に答えてくれた。
「ママが……ママが……マーーーーマーーーー!」
なるほど。
状況と今の発言から察するに、どうやら母親と逸れてしまったらしい。
所謂、迷子と言う奴のようだな。
俺は少し考えたのち、バックの中から袋を一つ取り出した。
その中から赤色の球体を取り出すと、泣いている子供に出来る限り優しい声で話しかけながら、その球体を食べさせてあげた。
「どう?おいしい?」
「…………うん」
飴玉作戦成功だ。
前世の経験からして、泣いている子供には面白い事をするか、美味しい食べ物を上げれば泣きやむと予想した。
そのため、マリーから貰ったパワーキャンディーの中に混ざっていた普通の飴玉を食べさせてあげたが、俺の考えは正しかったらしい。
子供は泣き止み、必死に飴玉を舐めている。
「よし……えっと、お母さんがどこにいるか分かる?」
「……んーん」
「じゃあ、どっちからここに来たは分かる?」
「……あっち」
そう言うと子供は商店街の奥の方に指をさした。
子供の母親が子供を探し、来た道を戻っていることを考え、俺は子供を連れて、来た道を戻ることにした。
逸れないように子供の手を握ると、出来る限り子供が不安に思わないよう、他愛もない会話をしながら、歩き始めた。
好きな事や好きな食べ物。そして、母親の好きな所を話終えた頃。
前方から、大声で男の名を呼びながら向かってくる女性が目に映った。
その様子を目にすると、子供はママと叫びながら、女性の方へ駆けだした。
二人が近づくと、女性は子供を泣きながら抱きしめた。
どうやら、この女性が子供の母親だったようだ。
「あなたがうちの子を連れてきてくれたんですか……ありがとうございました!本当に、ありがとうございました!」
「え、いや、そんな……」
「本当にありがとうございました!あなたが居なければ、今頃どうなっていたことか……。若い冒険者さん。このご恩は忘れません。本当にありがとうございました!ほら、ケンくんも!」
「冒険者のお兄さん……ありがとう!」
「いや、もう、大丈夫です!」
母親は深く頭を下げると、子供としっかり手を繋ぎ、感謝の言葉を述べながら、商店街の奥へと姿を消した。
時間は掛かったが、母親と合流できて本当に良かった。
二人とも凄く嬉しそうで、泣いて喜んでいたな。
その様子を見たからか、困っている人を助けたからか。
何故かはわからないが、不思議と良い気分になってくる。
不思議と口角が上がり、気分も上がっている。
何と言うか、凄くフワフワした気持ちだ。
……取り合えず、他にも困っている人を探してみるか。
他にも迷子がいるかもしれないし、何かしら困っている人がいるかもしれない。
そう思い、再び辺りを観察しながら、歩き始める。
それからどれくらいの時間が立っただろうか。
何人もの困っている人を助け、俺たちはスターチスの元へと集まった。
全員が集まったのを確認すると、スターチスは話を切り出した。
「さて、お前ら。ちゃんと人助けしたみたいやな。それでだ。お前ら、助けられた奴らはどんな様子だった?」
「そうだな……。泣いて喜んでる人もいれば、めちゃくちゃ感謝してきた人もいたな!」
「うちが助けた人の中には、凄い喜んでいる人はたくさんいたけど、嫌がってたり、悲しんでる人は一人もいなかったよ!」
「そうか。良いか、その様子をよく覚えておけ。お前らがモンスターを討伐したりしてるとき、お前らは直接感謝や、喜んでいる様子を見る事はない。けどな、見えないだけで、みんなお前らがさっき助けた奴らと同じような表情をしてるんだ。……何が言いたいかって言うとな、お前らが戦う事によって、救われている奴らはたくさんいるんや!そのことを、そんな奴らの表情を心の隅で良いから覚えておけ。冒険者ってのは色々あるが、きっとそれが心を支えてくれることが必ずある!だから覚えておけ!これが俺様が今日伝えたい事や!」
俺たちがモンスターを追い払ったり、依頼をこなすことで、救われている人がいるか。
俺たちがモンスターを必死に戦って来た事によって、あんな嬉しそうな笑顔になった人がいるのか。
感謝を述べている人や、幸せになっている人がいるのか。
改めて考えると、少し良い気分になっていく。
まだまだだけど、こんな俺でも人を救っていたのか。
俺が頑張って、救える人がいる。
そう思うと、不思議とやる気が出てきて、頑張ろうと思えてくる。
「さて、黙ってるけど、お前ら理解できたか?俺様の言いたい事」
「あ、はい。……なんとなく、理解できた」
俺たちが頑張ることによって、救われている人はいる。
目に見えなくとも、その人たちは必ずいる。
うん、必ず覚えておこう。
何やかんや、スターチスは凄い魔剣なんだ。
スターチスの言う通り、心の支えになる事があるのだろう。
「そうか、なら良かった!よし、それじゃあ、時間もあれやし、飯でも食いに行くか!今日は俺様が奢ったる!その方が、それっぽいしな!」
「本当ですか!よっしゃあ!それじゃあ、早速行こう!」
「あ、でも頼みすぎるのは駄目やからな!流石に限度は考えてくれよ!」
そんな事を話ながら、俺たちは行きつけの酒場へと歩き始めた。
この時、俺たちは忘れてしまっていた。
幸せは長くは続かないという事を。
幸せは突如として崩れ去るという事を。
幸せは長くは続かない……。




