コミュ症たちは、初めてダンジョンボスと戦う。③
「ここが……ボス部屋」
俺たちが入ると同時に壁についている松明に灯りがともり、部屋の全貌が明らかになった。
部屋の両端には何かの巨大な銅像が並んでおり、最奥には巨大な玉座が設置されている。
王や皇帝が使う謁見の間を連想させるような部屋になっている。
もしかしたら、このダンジョンを作った人物は偉い人物だったのかもしれない。
そんな事を考えながら辺りを観察するが、ボスどころかモンスター自体見当たらない。
俺たちは警戒しながらも、少しずつ玉座へと近づいて行く。
そして、玉座との距離が十数メートルに近づいた時。
巨大な衝撃が走ると同時に、目の前の地面が盛り上がり始めた。
警戒を強めながら、地面を眺めていると、骨で作られた巨大な右腕が地面を割って出てきた。
それに続いて、左手、顔、胴体、足と骨で作られた体が姿を現した。
出現したそれは全体が骨、骸骨で出来ており、骸骨の頭には骨で出来た鬼の角の様な物が生えている。
目の奥は薄紫に光り、背中には古臭い剣と、傷だらけの盾を背負っている。
どことなくガスケルトンに似ているが、ガスケルトンと比べるとあまりにも巨大すぎる。
一体、これは何のモンスターなのだろうか。
そう思っていると、リュウガさんが俺の疑問に答えるかのように話し始めた。
「……こいつはグランドガスケルトンだな。ガスケルトンの上位にあたるモンスターだ。その性格は獰猛で、近くに寄って来たというだけで、どんな生物だろうが殺しにかかるような奴だ。中々に強いモンスターだぞ」
「ガスケルトンの上位にあたるモンスター……それにしても、でかすぎるでしょ!ガスケルトンの何倍もあるよ!」
「まあ、上位にあたるモンスターだからな。そりゃあ、大きくもなるだろ。それより、あいつから目をそらすなよ。見ろ、動き始めたぞ」
そう言われ、グランドガスケルトンへ目を戻す。
グランドはゆっくりと両手を後ろへ回し、背負っていた剣と盾を取り出した。
剣を右手に、盾を左手に持つと、グランドは不気味な笑い声の様な物を零し、大きく剣を振り上げた。
どうやら、俺たちを剣で殺す気のようだ。
「くるか……よし、お前ら!俺は危ない時以外は手を出さない!上手く連携を取って、お前らだけで倒してみろ!」
「分かりました!みんな、まずは攻撃を避けて、それから全員で倒しにかかろう!」
俺たちは左右へ別れ、グランドの攻撃を流れるように避ける。
その直後、一斉に行動を開始する。
松明の灯りとグランドによって作られた影を利用し、体を覆うシャドウメイルを作り出す。
それと同時に、右手にシャドウハンマーを作り出す。
パワーキャンディーによって上がった脚力を生かし、全速力でグランドへと突撃していく。
大剣を構えたアリウムと共に武器を振り上げ、グランドの右足を全力で壊しにかかる。
しかし、俺たちの一撃はグランドに直撃したのにもかかわらず、壊れるどころか傷一つついていない。
諦めず連続でハンマーを振るが、ダメージが入っている様子は全くない。
それを見たカンナとユリは同時に左足へと駆けていく。
カンナは右手にオーラを集中させ、ユリは風を凝縮させ、より強力な剣を作り出す。
二人は顔を見合わせると、同時に攻撃を食らわせた。
が、その攻撃も全く効いていない。
傷一つついていないし、グランド自体全く気にしていないように見える。
俺たちがグランドの頑丈さに動揺していると、それを本能的に理解したのか、その隙を突いてグランドは攻撃の姿勢に入った。
グランドは右手に持った剣を構えると、俺に目線を合わせ、その巨体から繰り出されたと思えないほど素早い攻撃を放った。
当然その攻撃に反応することは出来ず、攻撃をもろに喰らい、一瞬で斬り飛ばされた。
シャドウメイルで身を覆い、パワーキャンディーで体を強化していたのにも関わらず、体中に強烈な痛みが走る。
あまりの痛さに数秒動けずにいると、その隙を見逃すことなく、グランドは足を大きく上げ、踏み潰そうと近づいてきた。
そして、グランドの足が俺を踏む直前。
隙を伺っていたグリシアの矢がグランドの足に直撃し、グランドは足から倒れこんだ。
その間にユリが風を操り、俺を数メートル後ろへ後退させた。
「あ、危なかった……二人ともありがとう」
「危ない時はお互い様。気にしないで」
「グリシアさんの言う通りだよ。それより、想像以上に強いね、グランドガスケルトン」
ユリの言う通り、想像以上の強さだ。
相当巨大な体を持っているのにも関わらず、信じられない速度で動き、強力な攻撃を繰り出してくる。
その見た目に反し、体は固く、ただの骨とは思えないほどの頑丈度を持っており、渾身の攻撃でも傷一つつかなかった。
そう簡単に倒せないとは思っていたが、これは長い戦いになるかもしれない。
「……あ!そう言えばグリっち!うちらの攻撃じゃビクともしなかったのに、よくあいつを倒れさせられたね!一体どうやったの?」
「簡単な事よ。グランドガスケルトンの体をよく見てみて。よく見ると、所々に小さなひびが入っているの。そのひび目掛けて矢を放っただけ。もしかしたらと思ったけど、ひびの入っている部分は脆いのかもね」
グリシアに言われ、グランドの体をよくよく観察してみる。
よく見ると、確かにグランドの至る所にひびが入っている。
大きなひびから小さなひびまで様々だが、どのひびも相当前に出来たもののように見える。
「確かに、よく見るとひびが入ってるな」
「先頭に夢中で気づかなかった……。もし本当にひびの部分が弱点なら、グランドガスケルトンを倒せるかもしれない。みんな耳かして!」
言われるがままに耳を貸すと、ユリは作戦の概要を伝えてきた。
概要が全員に伝わると同時に、俺は目を丸くした。
そして、大声で反発する言葉を繰り出した。
「え、俺がそんな大役を!?い、いや、いや、いやいやいや、無理だよ!」
「無理っつっても、コウキが適役だし、コウキ以外の役割も完璧だし、変えようがないだろ。まあ、大丈夫だ!何とかなるさ!」
「いや、でも……」
「大丈夫、コウキくん!もしもの時は、他のみんながフォローするよ!何より、緊急時にはリュウガさんが居るから大丈夫!ね!」
「え、でも……」
やっぱり無理だと言おうとしたが、その時、倒れていたグランドが立ち上がってしまった。
倒されたグランドは怒りをあらわにし、咆哮を放つと、右手を振り上げながら、少しずつ近づいてくる。
迫りくるグランドを前に、再び無理だということは出来ず、仕方なく俺は役割を果たすことにし、作戦を開始した。
まず、迫りくるグランドへと、アリウムとカンナが全速力で向かって行く。
アリウムは右足へと走りながら、大声で変剣と叫んだ。
すると、手に持っていた大剣は光りながら、より大きく、より柔らかく形を変え始めた。
大剣は物の数秒で変化を終え、狼の牙の様に鋭く、捕食者のような見た目をしている、もはや剣とは呼べない武器へと姿を変えた。
その間、カンナは左足へと走りながら、ポケットから指輪を取り出した。
そして、勢いよく指輪を自らの指に装着すると、カンナを覆っていたピンク色のオーラが大きく膨れ上がった。
「こ・う・ふ・ん・してきたー!」
そう叫びながらカンナは右腕に体中のオーラを集め始めた。
オーラは数秒で右腕に集まり、右腕はピンク色の光で、かつてないほどに輝いていた。
アリウムとカンナは顔を見合わせ、頷くと、同時にグランドの両足へと急接近した。
そして、二人は同時に叫んだ。
『喰らええええええええええええええ‼』
アリウムの持つ獣の様な牙へ変化した大剣は、生物を捕食するかのようにグランドのひびが入った部分へ噛みつき、そのまま一部分を噛みちぎった。
カンナの右の拳は一直線に、ひびの入ったグランドの左足に直撃し、轟音を発しながら、グランドの左足を殴り壊した。
グランドは強烈な一撃に、叫び声を上げながら膝をついてしまった。
それを目にすると、俺とユリは攻撃を開始する。
俺はシャドウメイルを解き、周辺の影に触れながら走る。
そして、一定距離走ると、右手に持つシャドウハンマーへ、全ての影を纏い始める。
影は一気にシャドウハンマーへと集まっていき、数秒でシャドウハンマーは数倍巨大なハンマーへと変化した。
俺はシャドウハンマーの準備を整えると、師匠に教えてもらった構えを思い出し、実行に移す。
左足を前に出し、右足を少しずつ引く。
それと同時にハンマーに角度をつけ、両手で握りしめる。
左足に力を入れ、ハンマーを振り切る準備に入る。
「いくよ、コウキくん」
そう言うと、ユリが俺の足回りに風を集め始めた。
俺の準備が終わっているのを確認すると、ユリは風を操り、俺をグランドの目の前へと吹き飛ばした。
俺はグランドの目の前に到着すると同時に、最大限にハンマーに力を入れる。
目の前に現れた俺を見逃すはずなく、グランドは足のダメージに動揺しながらも、俺目掛けて、左手に握った盾を投げ飛ばした。
それを見かねたグリシアは赤く光る矢を盾へと放つ。
矢が盾を突き破ると同時に、盾は突如発火し始め、そのまま地面へと落下した。
俺はそれを気に留める事無く、風で作られた地面をしっかりと踏みしめ、左足に力を入れる。
そして、叫びながら、ハンマーを全力で振る。
「いくぞ、超巨大シャドウハンマー!」
ハンマーはグランドの顔面に直撃し、破壊音を発しながら、グランドを殴り飛ばした。
グランドは地面に倒れこみ、動かなくなった。
間違いない、作戦は成功だ。
作戦はこうだった。
アリウムとカンナがグランドの両足を狙い、全力の一撃を放つ。
二人の攻撃によりグランドのバランスが崩れると予想し、その隙に俺とユリで止めを刺す。
ユリが風で俺を攻撃が届く場所まで移動し、そこで俺が全力の一撃を放つ。
グリシアはグランドが抵抗するのを考慮し、アシスト役に回る。
全員がしっかりと仕事をした事により、グランドに強烈な一撃を喰らわせることが出来た。
全力の一撃だったし、一応ひびの入っている所を狙って殴った。
流石のグランドも、これで立ち上がることはないだろう。
俺はユリに下ろされると、影を解き、大きく背伸びをする。
緊張が解け、体中に疲労感が現れ始めた。
一度落ち着き、深呼吸をしたのち、その場に座り込もうとした。
その時、ユリが大声を上げ、俺の名を呼んだ。
「コウキくん!危ない、避けて!」
「……え?」
急いで振り返ると、目の前にはグランドの古びた剣が落ちてきていた。
その瞬間、死を悟り、思わず目を閉じてしまった。
しかし、剣が俺に当たる気配はなく、剣がどこかにぶつかる気配もない。
恐る恐る目を開けると、目の前には一人のハゲが巨大な剣を片手で受け止めていた。
「ったく、油断しすぎた。いくら強力な一撃を喰らわせようが、敵が完全に気絶してるのを確認するまで油断するな。不意打ちを喰らって、一撃で倒されちまうかもしれないぞ」
そう言いながら、いつの間にか立ち上がっていたグランド目掛けて、巨大な剣を投げ返した。
剣は途轍もない速度でグランドへ直撃すると、そのままグランドを壁へ打ち付けた。
グランドの目から薄紫の光は消え去り、今度こそ完全に動きを停止した。
「あ、あ、ありがとうございます。助かりました」
「まあ、こういう時のためにいるんだからな。次からは気を付けろよ、今は俺がいたからよかったが、次も俺がいるとは分からないからな」
「分かりました、肝に銘じておきます」
そう答えると、師匠は優しく笑った。
まじで、危なかった。
師匠が居なければ死んでいたかもしれない。
グランドが完全に倒れたと思い、油断していた。
もっとグランドの様子を確認し、警戒心を強めるべきだった。
次からは、もっと警戒心を持っておこう。
「コウキくん、大丈夫?」
「え、あ、うん。師匠のお陰で助かったよ」
「それなら良かったー……。だけど、やったね、コウキくん!私たち、私たちだけで、ボスモンスターを倒したんだよ!」
「そっか……そうだ、そうだよ、俺たち、勝ったんだ!」
そう、最後は油断したが、ほぼほぼ俺たちだけで、グランドガスケルトンを倒すことに成功したのだ。
改めてその事実を確認すると、喜びや衝撃で、興奮が収まらない。
あのどう見たって強そうで、実際に途轍もない強さを誇ったグランドを、俺たちは倒すことに成功したんだ。
嬉しすぎて、この場で叫びまくってやりたいくらいだ。
「いやー、うちら頑張ったよ!だって、あのでかいのを倒したんだよ!」
「まじで、俺たち凄すぎるだろ!ボスモンスターを初見で倒すとか、俺たちまじで凄すぎるだろ!」
「そうだな、これは俺も驚いたな。本当にボスモンスターを倒すなんて、想像してなかったぞ。ちょっとお前らの実力を見誤ってたかもな。ボスモンスターを初見で、その歳で倒すなんて普通じゃできない。お前ら、誇って良いと思うぞ!」
師匠のその言葉に、俺たちは顔を見合わせると、照れたように笑い始めた。
自分より何倍も強い大人からそう言われると、やはり嬉しいものだ。
口のニヤニヤが止まらない。
「よし、お前ら!今日は俺が飯を奢ってやる!やる事やったら、ダンジョンを出て、飯屋にでも行こうぜ!」
「え、ホントですか!やったー!……よーし、やる事やって、早くご飯食べに行こー!」
俺たちは少し休憩したのち、部屋の探索を始めた。
変な所や、隠し通路なんかを探しつつ、面白そうなものは貰って行く。
数分間探し歩いていると、王座の下に隠し通路があるのを発見した。
何かがあるのは確実だったが、ここまでで手に入れた宝が大量にあるのと、全員の体力が限界だったのがあり、そこの探索はまた後日にすることにし、ダンジョンを出た。
俺たちはギルドで宝の整理などをしたのち、師匠に奢ってもらうべく、酒場へと向かうのだった。
勝利を掴み、コミュ症たちは宴を楽しむのだった。
次回、久しぶりに剣が出ます。




