コミュ症たちは、初めてダンジョンを冒険する。③
「コウキくん汗凄いけど大丈夫?いったん休憩する?」
「え、あ、大丈夫だよ。まだまだ全然いけるよ」
そう答えながら、流れる汗を拭う。
それなりに長い距離を歩いているのにも関わらず、ユリたちは汗一つ掻いていない。
それどころか、全く疲れていないように見える。
何と言うか、皆化け物だな。
……しかし、いくらみんなが凄かろうが、流石にこれはまずい。
罠に引っかかり、そこから真っ直ぐに歩き始めて、恐らく三十分は経っている。
途中途中ガスケルトンなどのモンスターと戦うことは何度かあったが、出口に着くことは全くない。
部屋も灯りも、何一つ存在しない。全く同じ空間を歩き続けている。
このまま数時間経っても戻れなければ、最悪の事態になりかねない。
何とか地上に戻る方法を見つけなくてはならない。
「……みんなごめんね。うちが罠に引っかかったから、こんなことに……」
「だから気にすんなって!そう言う時もある!」
「そうだよ。こういう時こそ、カンナさんはいつも通り、元気なのが一番だよ」
「アリウム……グリっち……ありがとうー!……そうだね、元気良くいかないとだよね!」
そう答えると、カンナは少し元気を取り戻し、スキップをしながら洞窟を進み始めた。
少し水筒の水を飲んだのち、俺もユリと話しながら、その後を追う。
そして、更に数十メートル進んだ頃。
先頭のカンナが突如足を止めた。
何事かと思い、前をよく見てみると、そこにはボロボロの木製扉が取りつけられた部屋があるのが見えた。
俺たちは顔を見合わせると、部屋まで全速力で走り出す。
全く同じ空間を永遠と歩き続け、ようやく見つけた部屋。
恐らくは、ここには何かがあるはずだ。
ようやくこの空間から抜け出せる。
自然と心は踊り、それと同時に安心感が押し寄せてくる。
しかし、その安心感は長くは続かなかった。
俺たちがある程度部屋へ近づくと、突然周囲に強い揺れが起こった。
驚き、その場にとどまると、今度は周囲の地面から何かが出てきた。
地面から出てきたのはガスケルトン。
それも数えきれないほどのガスケルトンで、俺たちを囲むように出現していく。
……これは間違いない。俺たちは罠にかかってしまったようだ。
原理は分からないが、俺たちが部屋の近くに寄ったせいで、罠が発動したのだろう。
そして、俺たちを倒すために、大量のガスケルトンが姿を現した。
「これは……罠か!ちくしょう、やられた!」
「どうする?ガスケルトンに囲まれたよ!」
「みんな落ち着いて!それぞれ武器を用意して、連携を取りながら戦うよ!」
ユリの指示に従い、俺たちは上手く連携を取り、大量のガスケルトンを少しずつ倒していく。
ハンマーで殴り、剣で斬り、拳で殴る。
お互いがお互いをフォローし合い、ガスケルトンと戦っていく。
しかし、いくら倒してもガスケルトンが減る様子はない。
いや、正確には減っているのだろうが、迫ってくるガスケルトンの量が多く、減っているように感じないのだ。
これはまずい、非常にまずい。
「駄目だ、斬っても斬っても沸いてきやがる!これは逃げないとまずくないか!?」
「逃げるといっても、どうやって?敵は次から次にやってきますし、そんな隙があるようには思えない!」
グリシアの言う通りだ。
逃げたいのはやまやまだが、ガスケルトンが周りを覆い、倒しても倒しても別のガスケルトンがやってくるせいで、逃げることが出来ない。
かと言って、このまま戦っていれば俺たちが倒されるのは明白。
大技で一気に倒すという手もあるが、その衝撃で天井が崩れ落ち、生き埋めにならないとも
言い切れない。
何かいいアイデアが浮かべば良いが、俺の頭じゃ全くそんなアイデアは浮かばない。
ハッキリ言ってまずい。一体全体どうすれば良いんだ。
悩みに悩み、結局目の前の敵を倒す事しか出来ず、少しずつ押され始めた時。
突如として、ガスケルトンの背後から眩い光が放たれた。
突然の光に思わず目を瞑り、数秒後にゆっくりと目を開くと、目の前にいたガスケルトンの内数体が倒されていた。
その他のガスケルトンは倒れてはいないものの、数秒前に比べ、動きが相当鈍くなっているように感じる。
突然の出来事に動揺していると、ガスケルトンの群れの中から一人の女性が俺たちの目の前へと現れた。
その女性は綺麗な白髪で、どこか悲しそうな表情を浮かべている。
真っ黒でボロボロなローブを身にまとい、足には何も着けておらず裸足で歩いて来た。
「……コンニチハ。……貴方タチハ……冒険者カシラ?」
「え、あ、はい。……え、えっと……その……あなたは?」
「私ノ名ナドイイ。……状況カラ見ルニ、モンスター二襲ワレ、絶体絶命ナノカシラ。……ネエ。私ガ助ケテアゲル。ソノ変ワリ、私ノ質問答エテクレル?」
どこからともなく現れた謎の女性に戸惑いながらも、俺は難しい事は考えず頷いてしまった。
その様子を見ると、女性はガスケルトンへと目を向け、何かを呟いた。
すると数秒後。
ガスケルトンの地面が盛り上がったかと思うと、生きているかのように動き出し、ガスケルトンの体へと巻き付き始めた。
全てのガスケルトンに巻きつき、動きを完全に止めたかと思うと、ガスケルトンに巻き付いた地面は少しずつガスケルトンを潰していく。
そして、数秒と掛からずに、全てのガスケルトンは地面に潰され、骨の折れる音がすると同時に倒された。
一体何が起こったのか、衝撃的な出来事に開いた口が広がらない。
地面が動き出したかと思うと、ガスケルトンを潰し、一瞬で全滅に追い込んだ。
ローブの女性が何かしたことに間違いはないが、何をしたのだろうか。
状況から考えるに、地面を操る生呪の力か何かなのだろうか。
「す、凄すぎる。うちらがめちゃくちゃ手こずってたガスケルトンの群れをこんな一瞬で倒すなんて……」
「別二普通ノ事。ソレヨリ、全員疲レキッテイルヨウネ。少シソノママ、止マッテイテ」
それだけ言うと、女性は小さく何かを呟いた。
すると、俺たちの真下にある地面が緑色に光り始めた。
その幻想的な光に見とれていると、不思議と体が軽くなっていき、疲れも一気に消えて行った。
それどころか、戦う前より調子が良くなったように感じる。
「ち、力が湧き上がってくる……。えっと、その……い、一体なにをしたんですか?」
「……質問バカリ。少シ前ノ話ヲ忘レタノ?助ケル代ワリニ、質問ニ答エルヨウニ言ッタハズ。質問ヲシテイイノハ私ダ」
「え、あ、すみません。……そ、その、それで……質問というのは?」
「マズ、ココハドコダ?貴様ラハ何者ダ?貴様ラハ何故ココニイル?」
怒涛の質問攻めだ。
いくら質問を答える約束をしたとしても、一気に質問されると流石に困る。
もしこの女性が恩人じゃなかったなら、一つ文句を言っている所だぞ。
……いや、コミュ症を発揮してどうせ言えないか。
そんな事を考えながらも、一つ一つの質問に答えていく。
ここはデイングの町近くのダンジョンであるという事。
俺たちは仮冒険者で、魔防学園の生徒であるという事。
俺たちはダンジョンを攻略するために、ここに来たという事。
大体の質問に答え終わると、女性は少し考え込むような仕草をして、黙り込んでしまった。
それから数秒静寂が続いたころ、女性は考えるのをやめ、最後に一つ質問を放った。
「最後ニモウ一ツ質問ヲスル。……生物ハ何故生キテイルノダト思ウ?生物ハ何故無意味ニモ生キ続ケルノダト思ウ?」
突如放たれた重い質問に、俺は言葉に迷ってしまった。
すると、アリウムがすぐさま口を開いた。
「んー、みんながどうかは分からないけど、俺は夢を叶えるために生きてるんだと思います!誰しもが持っている夢を叶えるために、必死に生きて、努力し続けているんだと思います。ていうか、俺がそうってだけなんですけどね」
「んー、うちは世界中を見て回る為かな!世界は広いし、まだまだ知らないことだらけだし!他にはいろんな食べ物を食べるため!後は彼氏を作る為とか!あ、よく考えたらこれはうちが生きる理由か!生物が生きる理由かー……。んー、何だろうな……」
「……イイヤ、ヤハリ大丈夫。……ソノ生キル理由、ナクサズニ持チ続ケテクダサイネ」
そう言う女性の表情はどこか寂しげで、悲しそうに見えた。
女性は質問の答えを聞き終えると、静かに地面に両手をついた。
そして、何かを小さく呟くと、俺たちの後ろにあった壁が、先程ガスケルトンを倒した地面と同じように動き始めた。
壁はそれぞれ別方向へと動き出し、壁に穴を作る形で広がっていった。
地面は一気に広がっていき、仕舞には数十メートルは離れているであろう地上まで続く穴を作り出した。
「……コレクライデ良イカ。ソノ穴ヲ通ッテ、ココカラ地上ヘ出テ行ケ。ソシテ約束シロ。ダンジョンニ立チ入ルノハ良イガ、ソノ地下デアルコノ場所ニハ二度ト立チ入ルナ。コレハ貴方ラノタメニ言ッテイル」
「え、立ち入るなって、どうしてですか?」
「……約束シロ。二度ト立チ入ラナイト」
その真剣な表情にそれ以上何も聞くことが出来ず、俺たちはその場を後にした。
静かに女性によって作られた穴を歩いて行き、数分かけて地上に着くと同時に、穴はすぐさま閉まって行き、地面は元の普通の地面へと姿を変えた。
「……うちら夢でも見てたのかな?」
「夢じゃないと思うよ。……だけど、一体何者なんだろう。凄く強かったけど、一体何であんなところにいたんだろう」
「まあ、考えてもしょうがない!取りあえず無事に戻ってこれたんだし、良しとしよう!」
カンナの言う通り、深く考える事は辞めておこう。
強かったが、どこか不気味でもあった。
普通の人間でないのは確実だし、こういう時は忘れるのが一番だ。
何とか忘れて、この後起こる良い事でも考えておこう。
「……ねえ、みんな。今日の一件で、私思ったことがあるの。ハッキリ言って、私たちのダンジョンの知識は低い。そのせいで罠に引っかかったりして、危ない目にもあったしさ」
「確かにそうだな。もし知識があれば罠に引っかからなかったかもだし、危険な目にすら合ってなかっただろうしな。それがどうしたんだ?」
「提案なんだけど、明日からのダンジョン攻略には助っ人を呼ぶのはどうかな?あくまでサポート役としてで、危険が迫ったりしたら助けて貰うってのはどうかな?」
なるほど。
ダンジョン知識がある誰かを呼び、サポート役として一緒にダンジョンを攻略してもらうのか。
攻略は俺たちが中心に行い、罠に引っかかりそうになったり、実際に引っかかった時に助けて貰うという事だろう。
「良いと思うけど、そんな人いる?」
「うん。たった一人だけいるよ!ダンジョンの知識がありそうで、強くて、私たちのお願いを聞いてくれそうな人が!」
恐らく、ユリと俺が考えている人物は同一人物だろう。
知識があり、強く、人の願いを簡単に聞いてくれる。
優しく、頼りがいがあるハゲ頭の冒険者。
確かに、あの人なら助けてくれるかもしれない。




