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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
学園生活編
8/120

コミュ症でも、本気を出せば圧倒的強者を超えることがある。

色々あったが、成り行きで学園入学試験へ参加した光輝。

その運命はいかに…?



 コミュ症が一度は経験する、先生に途轍もない怒りを覚える、トラウマ的出来事。

 それが二人一組だ。


 ある時は、体育で運動のペアを作るため。ある時は、授業のペアワークをするため。

 先生は無慈悲にもその言葉を放つ。「二人一組を作って」と。

 周りのみんながペアを作っていく中、一人ウロウロして、晒し者になる羞恥。

 運よく人数的にペアが出来たとしても、基本的にそのペアとは「こんな奴クラスにいたなー」って思うくらいの関係性だ。

 そんな人とまともに話せるわけもなく、何とも言えない会話をして、何とも言えない雰囲気で活動を終える。何とも言えない状況に陥ってしまう。

 

 しかし、これはまだ良い方なのである。

 もし、人数が奇数で、友達がいなかったり、友達が休んでいたり、理由は様々だが一人余ってしまった場合、最悪だ。

 最後の一人ということで非常に目立ってしまう。その上に誰か他に余ってる人はいないかと、先生が俺に注目をわざわざ集めてくる。


 その後、先生とペアになるか、既にできたペアに三人目として強制的に入れられるか、一人でやらされる。

 どの道、ろくな目には合わないのだ。

 

 そんなトラウマ製造言葉である、二人一組を試験担当官は放ったのだ。

 最悪な気分になるのも分かってほしい。

 そんなこんなで俺が精神的ダメージを受けていると、隣に座っていたアリウムが話し始めた。


「コウキ、俺はお前とは戦いたくないし、他の奴を探して、ペアを作ってくるよ。……コウキ、絶対に一緒に受かろうな!必ず、合格してまた会おう!」


 それだけ言うと、アリウムはどこかへ歩いて行ってしまった。

 アリウム……そうだ、俺はこの試験に受からないといけないんだ。

 証明書を手に入れるために、前世で夢見た冒険者になる為に、そして、初めての友達とこれからも友達でいるために!


 しかし、どうするか。俺は試験を受けに来ている志望者の中で一番弱い自信がある。

 ここにいる人たちは生まれてから今まで、生呪の力を使ってきた上に、この日のために努力してきたんだろう。

 それに比べて俺はついさっき力を得て、ついさっき試験に参加することになった一般人だ。

 普通に考えて、俺と他の志望者には、ゾウとアリほどの実力差がある。


 そんな状態で、他の志望者と戦って勝てるわけがない。

 俺を含めない中で、一番弱い志望者とペアを組み、何か良い作戦を考えて、相手に何もさせずに倒す。

 そんな奇跡が重なったような方法でないと、俺が勝つことは難しい。

 そんな事を考え、何とか合格しようと、頭を働かせていた時。

 

「あの、君はもうペアを作ったのかな?」


 急にした声に驚き、顔を上げると、そこには水色のマッシュルームヘアで、眼鏡をかけた、クラスに一人はいた、ガリ勉っぽい見た目の男が立っていた。


「え…………あ……作ってませんけど」


「本当ですか!なら僕とペアになりませんかね?一緒に受けてくれる人が全然いなくて、困ってたんですよ」


 まじかよ。まさかペアになろうと誘ってくれる人がいるとは。

 自ら誘いに言うのはハードルが高すぎたから、本当に助かった。

 それにこの見た目だ。頭は良いが、運動神経が悪いタイプの人間だろうし、これならもしかしたら勝てるかもしれない。

 これはペアになる以外選択肢はないな。


「えっと……それじゃあ…………お願いします」


「ありがとうございます!あ、僕はムクゲって言います。受かるのはどちらか一人ですし、こんなことを言うのは変ですけど、お互い頑張りましょうね!」


「あ……はい…………俺は光輝……です」


「それじゃあもう行きませんか、コウキさん。このまま話してても、時間の無駄ですし、早く終わらせちゃった方が、気分的にもいいでしょう」


「え……いや…………その…………」


 俺が言葉を発する前に、ムクゲは俺の手を取り、歩き出した。


「さあ、早く行きましょう!」


 まずいな。確かに早く終わらせたいが、まだ作戦が決まっていない。

 いくら相手が弱そうでも、作戦がない状態で絶対に勝てるとは言い切れないしな。

 少しでいいから時間が欲しいが……駄目だ。

 こんなに今からやる気満々の人に、時間をくれなんて俺には言えない。

 なんとか戦闘場に着くまでに作戦を考えなくては……。

 

 と、頭をフルに回転させて、作戦を考えるが、一つも作戦を思いつくことができないまま、戦闘場についてしまった。

 こうなってしまったら仕方がない。作戦なんかなくても、気合で何とかするしかないな。

 この世界に来て、いろいろなことがあったが、結果的に全て上手くいってるんだ、今回もうまくいくに決まっている。


「さて、コウキさん。準備は良いですか?」


「あ…………はい」


「それじゃあ、お互いに悔いのない戦いにしましょう!」


 それだけ話して、俺たちは試験官の指示に従いながら、配置についた。

 戦闘場は学校にある体育館位の大きさで、地面は学校の校庭のように、砂と土で出来ている。 

 端には木が生えていたり、ベンチがあったりと、休めるスペースもあるようだ。

 所々に、試験に合格したと思われる志望者がいて、みんなして俺たちを見てきている。

 

 凄い緊張してきた。

 なんでこんなに人が見てるんだよ、聞いてないぞ。 

 緊張と、恥ずかしさと、焦りでどうにかなってしまいそうだ。

 俺みたいな陰キャは、人前で何かをするのは死ぬほどつらいんだ。


 それに一人で何かをやる時よりも、人前で何かをやるほうが、圧倒的に実力が下がり、いつもの実力を発揮できなくなるんだぞ。 

 試験官はそのことをしっかり分かっているのだろうか。

 そんなことを考えていると、試験官が前に出てきた。


「それでは、これより志望者コウキと、志望者ムクゲの試験を開始する!それでは……始めっ!」


 試験官がそう言うと、どこからか開始を合図するゴングが聞こえてきた。


 ついに始まるのか。よし、落ち着いて行こう。

 相手はおそらくそこまで強くない、影で武器を作って、一気に攻撃すれば案外何とかなるかもしれない。

 そう考え、俺は力を発動させるため、叫ぶ。


「影!」


 瞬間。

 影は形を変えながら、立体的に飛び出してきた。

 そして、一般的な剣の形になると、俺の手の中に納まった。

 それをしっかりと確認し、剣を握りしめ、俺はムクゲへと走っていく。

 先手必勝だ、このまま一気に決めてやる。


 その直後。

 ムクゲの後ろから、何かが飛び出してきたと思うと、瞬間的に俺はその何かに吹き飛ばされた。

 

「ぐへっ……」


 な、なんなんだ一体。

 突然、ムクゲの後ろに何かが見えたと思ったら、お腹に強烈な痛みが走って……。

 あの後ろに見えたのは何だったんだ?


 そう思い、ムクゲの方を見てみると、一目でそれが何か理解できた。

 ムクゲの後ろから出てきたのは、数本の長く、青色のうねうね動く1mほどの長さの物体。

 なんどか前世では見たことがある、間違いない。あれは触手だ。


 触手がムクゲの後ろから生えてきたんだ。

 ムクゲの力は触手を生やす力なのか。そこまで強い力には思えないな。

 不意を突かれたが、普通にやりあったら、俺でも案外簡単に勝てるかもしれない。


 そう考え、真っ直ぐにムクゲの方を見て、剣を向ける。

 そして、ムクゲが一歩足を踏み出したのを見て、走る。

 そのままムクゲに斬りかかろうとするが、ムクゲに剣が届く直前、さっきのように触手に殴り飛ばされてしまう。


「どうしました、コウキさん、その程度の実力なんですか!そんなんじゃ僕の触手の攻撃から逃げることは出来ませんよ!」


 言ってくれるな。よし、落ち着いて考えてみよう。

 剣で届かないなら、もっとリーチの長い武器だ。

 リーチの長い武器と言えば……。

 

「いくぞ……影」

 

 そう言うと、握っていた影の剣は変化していき、影の槍へと変化した。

 変化すると同時に、ムクゲの方へ駆けていく。

 普通の槍よりも長い槍だ。あの触手の長さなら、触手が俺に届くより先に、俺の槍の方が早く届くはずだ。

 これならいける!

 

 と、思った次の瞬間だった。

 ムクゲの後ろから生えていた触手は、瞬間的に数メートル伸び、まだムクゲに近づけていない俺を殴り飛ばした。

 

 なんだよ……あれ。

 急に伸びるなんて聞いてないぞ。

 畜生、どうする。俺の武器はムクゲに近づかないと攻撃できない。 

 しかし、ムクゲの触手は数メートル伸びて、多少離れていても俺を攻撃できるようになった。

 俺が近づこうとすると、触手で攻撃されて殴り飛ばされる。

 圧倒的に俺の方が不利だ。その上に相手の方が経験も知識もある。



 ……無理だ、どう考えたって勝てない。

 いや、分かっていたことか。この世界に来たばかりの俺が、この世界で生まれ育ち努力してきた奴に勝てるわけなかったんだ。

 俺はそこまで運動神経が高くない上に、力にも慣れていない。

 仕方がないだろ、いくら特別な力を貰おうが、別の世界に来ようが、そんなすぐに人は変われないんだ。

 凄い力を得て、少し調子に乗ってたのかもしれないな。


 残念だが、今回は諦めよう。少しすればきっと俺も変われて、強くなれる。

 試験に合格するのはそれからでいい、

 そう思い、降参しようとした時だ。

 どこからか声がした。


「頑張れ‼」


 突如した、聞き覚えのある大声に驚き、俺は声主を探す。

 今の声は……まさか。

 しばらくあたりを見渡すと、彼女は戦いを見ている合格した志望者たちの中にいるのが見えた。


「頑張れ、コウキくん!頑張って、諦めないで!」


 間違えない、あれはユリ。

 ここにいるって事は合格したのか。


 ……頑張れか。無茶を言うな。

 どう考えたって勝てないんだ、諦めるしかないだろ。

 それに俺はこの世界に来たばかりだから、まだ力にも世界にも慣れてないんだぞ。

 無理に決まってる。いくら今の俺があがいたところで勝てないんだから、さっき考えたように潔く諦めて、俺がこの世界に慣れて、自分を変えられてから挑んだほうが良いに決まって……。


 そう思った直後だった。

 一つの疑問が俺の頭をよぎった。

 

 ……変えられてからって、俺はいつ変われるんだ?

 この世界に来てから、何度も何度も、この世界に来て少ししか立ってないから、まだ変われていないからと、言い訳をしてきた。

 本当にこのまま俺は変われるのだろうか。


 前世でもそうだった。

 ずっと、今は駄目でも、少ししたらきっと変われると、何の努力もせずにそう思い込んでいた。

 結果的に、死ぬまで何も変わらず、なりたいものにもなれない。楽しい人生だったとはいえ、心から最高と言える人生ではなかった。


 このまま、いつまでも同じような言い訳を並べていたら、結局前世と同じ人生を送ることになるんじゃないだろうか。

 

 ……そうだ。

 少ししか立ってないからとか、まだ変われていないからとか、違うだろ。

 そんなんじゃ永遠に変われないということを、俺は前世で学んだろ。 

 このまま諦めて、いつか変わるのを待ってしまったら、今までと同じだ。

 変わるんだろ、この世界で俺は変わるんだろ。

 変わるなら、今だ。

 今、自分の力で変わるんだ。

 

「……そうだ…………変わるんだ!」

 

 そう呟き、俺は今一度前を向く。

 確かに力を使ってきた年数も、この世界の経験も、知識もムクゲの方が上だ。


 しかし、俺には前世の経験と知識がある。

 それに、ムクゲは圧倒的に有利な状況に油断している。

 まだ、勝てるかもしれない。

 何か……何かいい手が……。

 

 そう考え始め、数秒が立ったところで、一つ作戦を思いついた。

 成功する確率は30%くらいか。

 それでもやるしか……ないよな。

 ここで勝って、俺は変わるんだ。

 そう決心し、緊張も、恥ずかしさも、焦りも全部忘れて叫ぶ。


「い……いくぞ、ムクゲ。俺の全力、受けてみやがれ!」


「全力ですか。いいですよ、見せてみてくださいよ!」


 そして俺は右足を一歩前に踏み出す。

 そのまま真っすぐムゲルに向かって行く!と思わせ、俺は後ろを向き、走り出した。


「は……はあ!?全力を見せるんじゃなかったのかよ!おい、逃げるのか!」


 ムクゲが何か叫んでいるが、攻撃してこず、叫ぶだけならラッキーだ。

 叫んでいる間に、作戦を実行させてもらう。

 

 この世界に来て、神様から力を貰った時から疑問に思っていた。

 俺の影を操る力の範囲は、一体どこまでなのだろうか。

 この操れる影は自分の影だけなのだろうか、それとも自分以外の影も操れるのだろうか。

 もし自分以外の影も操れるのだとしたら……。


「この影も操れるってことだよな!」


 そう言い、俺は端にある木で出来た木陰に、足を踏み入れ、叫ぶ。


「影よ、変化しろ!」


 瞬間。

 木陰は大きく揺れたかと思うと、変化しながら、立体的に飛び出してきた。

 そのまま変化し続けながら、俺の手へと近づいて行き、数秒で手の内に納まった。

 

 ……成功だ。思った通り、どうやら自分の影だけでなく、自分以外の影も操れるようだ。

 俺は木の影を利用して作ることに成功した。

 森で女騎士を殴り飛ばした影の武器、シャドウハンマーを。

 木の影を使ったからか、シャドウハンマーは森で作った物より数倍大きな、超巨大ハンマーになっている。

 予想はしていたが、どうやら大きな影を使うと、その分影で作れるものも、大きくなるようだ。


 ……そして、俺は知っている。

 突然、想定外の出来事が起きた時。

 人は驚き、焦り、パニックに陥るということを、

 その症状は圧倒的優位に立ち、油断している奴に程、よく起こるということを。

 

「な……な…………なんだよ、それ!なんなんだよその巨大なハンマーは!?そんなの想定外だぞ!?」


 ムクゲが焦っているうちに、しっかりとムクゲの方を向き、走りやすいように体を構える。

 そして、体を構えると同時に、すぐさま走り出した。


「く……来るな!」


 焦ったムクゲは触手で攻撃を仕掛けてくるが、もう遅い。

 触手が俺に届く前に、俺のハンマーが直撃する。


「……いくぞ、超巨大シャドウハンマー!」


 そう叫び、巨大なハンマーを振り下ろす。

 ハンマーはムクゲに真っすぐに向かって行き、そのまま巨大な音を立てて、ムクゲを叩き潰した。

 しばらく待ってから、ハンマーを動かすと、そこにはボロボロになって、半分地面に埋まったムクゲが倒れていた。

 それを見た試験官は、俺の方に手を向けると、話し出した。


「志望者ムクゲの気絶が確認されました。よって、勝者は志望者コウキ!志望者コウキの学園入学を許可します!」


 勝者コウキ!ってことは俺の勝ちか?


 ……そうか、勝ったのか。

 何度か諦めそうになったが、圧倒的に不利な状況から勝ったのか。

 必死こいて、ボロボロになって、戦って……勝ったのか。


「…………しゃああああああああ!」


 俺は叫んだ。

 周りの目も気にせず、ただ自分の勝利を喜び、叫んだ。

 この日、俺は初めて自分を変えたのだ。

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