コミュ症でも、本気を出せば圧倒的強者を超えることがある。
色々あったが、成り行きで学園入学試験へ参加した光輝。
その運命はいかに…?
コミュ症が一度は経験する、先生に途轍もない怒りを覚える、トラウマ的出来事。
それが二人一組だ。
ある時は、体育で運動のペアを作るため。ある時は、授業のペアワークをするため。
先生は無慈悲にもその言葉を放つ。「二人一組を作って」と。
周りのみんながペアを作っていく中、一人ウロウロして、晒し者になる羞恥。
運よく人数的にペアが出来たとしても、基本的にそのペアとは「こんな奴クラスにいたなー」って思うくらいの関係性だ。
そんな人とまともに話せるわけもなく、何とも言えない会話をして、何とも言えない雰囲気で活動を終える。何とも言えない状況に陥ってしまう。
しかし、これはまだ良い方なのである。
もし、人数が奇数で、友達がいなかったり、友達が休んでいたり、理由は様々だが一人余ってしまった場合、最悪だ。
最後の一人ということで非常に目立ってしまう。その上に誰か他に余ってる人はいないかと、先生が俺に注目をわざわざ集めてくる。
その後、先生とペアになるか、既にできたペアに三人目として強制的に入れられるか、一人でやらされる。
どの道、ろくな目には合わないのだ。
そんなトラウマ製造言葉である、二人一組を試験担当官は放ったのだ。
最悪な気分になるのも分かってほしい。
そんなこんなで俺が精神的ダメージを受けていると、隣に座っていたアリウムが話し始めた。
「コウキ、俺はお前とは戦いたくないし、他の奴を探して、ペアを作ってくるよ。……コウキ、絶対に一緒に受かろうな!必ず、合格してまた会おう!」
それだけ言うと、アリウムはどこかへ歩いて行ってしまった。
アリウム……そうだ、俺はこの試験に受からないといけないんだ。
証明書を手に入れるために、前世で夢見た冒険者になる為に、そして、初めての友達とこれからも友達でいるために!
しかし、どうするか。俺は試験を受けに来ている志望者の中で一番弱い自信がある。
ここにいる人たちは生まれてから今まで、生呪の力を使ってきた上に、この日のために努力してきたんだろう。
それに比べて俺はついさっき力を得て、ついさっき試験に参加することになった一般人だ。
普通に考えて、俺と他の志望者には、ゾウとアリほどの実力差がある。
そんな状態で、他の志望者と戦って勝てるわけがない。
俺を含めない中で、一番弱い志望者とペアを組み、何か良い作戦を考えて、相手に何もさせずに倒す。
そんな奇跡が重なったような方法でないと、俺が勝つことは難しい。
そんな事を考え、何とか合格しようと、頭を働かせていた時。
「あの、君はもうペアを作ったのかな?」
急にした声に驚き、顔を上げると、そこには水色のマッシュルームヘアで、眼鏡をかけた、クラスに一人はいた、ガリ勉っぽい見た目の男が立っていた。
「え…………あ……作ってませんけど」
「本当ですか!なら僕とペアになりませんかね?一緒に受けてくれる人が全然いなくて、困ってたんですよ」
まじかよ。まさかペアになろうと誘ってくれる人がいるとは。
自ら誘いに言うのはハードルが高すぎたから、本当に助かった。
それにこの見た目だ。頭は良いが、運動神経が悪いタイプの人間だろうし、これならもしかしたら勝てるかもしれない。
これはペアになる以外選択肢はないな。
「えっと……それじゃあ…………お願いします」
「ありがとうございます!あ、僕はムクゲって言います。受かるのはどちらか一人ですし、こんなことを言うのは変ですけど、お互い頑張りましょうね!」
「あ……はい…………俺は光輝……です」
「それじゃあもう行きませんか、コウキさん。このまま話してても、時間の無駄ですし、早く終わらせちゃった方が、気分的にもいいでしょう」
「え……いや…………その…………」
俺が言葉を発する前に、ムクゲは俺の手を取り、歩き出した。
「さあ、早く行きましょう!」
まずいな。確かに早く終わらせたいが、まだ作戦が決まっていない。
いくら相手が弱そうでも、作戦がない状態で絶対に勝てるとは言い切れないしな。
少しでいいから時間が欲しいが……駄目だ。
こんなに今からやる気満々の人に、時間をくれなんて俺には言えない。
なんとか戦闘場に着くまでに作戦を考えなくては……。
と、頭をフルに回転させて、作戦を考えるが、一つも作戦を思いつくことができないまま、戦闘場についてしまった。
こうなってしまったら仕方がない。作戦なんかなくても、気合で何とかするしかないな。
この世界に来て、いろいろなことがあったが、結果的に全て上手くいってるんだ、今回もうまくいくに決まっている。
「さて、コウキさん。準備は良いですか?」
「あ…………はい」
「それじゃあ、お互いに悔いのない戦いにしましょう!」
それだけ話して、俺たちは試験官の指示に従いながら、配置についた。
戦闘場は学校にある体育館位の大きさで、地面は学校の校庭のように、砂と土で出来ている。
端には木が生えていたり、ベンチがあったりと、休めるスペースもあるようだ。
所々に、試験に合格したと思われる志望者がいて、みんなして俺たちを見てきている。
凄い緊張してきた。
なんでこんなに人が見てるんだよ、聞いてないぞ。
緊張と、恥ずかしさと、焦りでどうにかなってしまいそうだ。
俺みたいな陰キャは、人前で何かをするのは死ぬほどつらいんだ。
それに一人で何かをやる時よりも、人前で何かをやるほうが、圧倒的に実力が下がり、いつもの実力を発揮できなくなるんだぞ。
試験官はそのことをしっかり分かっているのだろうか。
そんなことを考えていると、試験官が前に出てきた。
「それでは、これより志望者コウキと、志望者ムクゲの試験を開始する!それでは……始めっ!」
試験官がそう言うと、どこからか開始を合図するゴングが聞こえてきた。
ついに始まるのか。よし、落ち着いて行こう。
相手はおそらくそこまで強くない、影で武器を作って、一気に攻撃すれば案外何とかなるかもしれない。
そう考え、俺は力を発動させるため、叫ぶ。
「影!」
瞬間。
影は形を変えながら、立体的に飛び出してきた。
そして、一般的な剣の形になると、俺の手の中に納まった。
それをしっかりと確認し、剣を握りしめ、俺はムクゲへと走っていく。
先手必勝だ、このまま一気に決めてやる。
その直後。
ムクゲの後ろから、何かが飛び出してきたと思うと、瞬間的に俺はその何かに吹き飛ばされた。
「ぐへっ……」
な、なんなんだ一体。
突然、ムクゲの後ろに何かが見えたと思ったら、お腹に強烈な痛みが走って……。
あの後ろに見えたのは何だったんだ?
そう思い、ムクゲの方を見てみると、一目でそれが何か理解できた。
ムクゲの後ろから出てきたのは、数本の長く、青色のうねうね動く1mほどの長さの物体。
なんどか前世では見たことがある、間違いない。あれは触手だ。
触手がムクゲの後ろから生えてきたんだ。
ムクゲの力は触手を生やす力なのか。そこまで強い力には思えないな。
不意を突かれたが、普通にやりあったら、俺でも案外簡単に勝てるかもしれない。
そう考え、真っ直ぐにムクゲの方を見て、剣を向ける。
そして、ムクゲが一歩足を踏み出したのを見て、走る。
そのままムクゲに斬りかかろうとするが、ムクゲに剣が届く直前、さっきのように触手に殴り飛ばされてしまう。
「どうしました、コウキさん、その程度の実力なんですか!そんなんじゃ僕の触手の攻撃から逃げることは出来ませんよ!」
言ってくれるな。よし、落ち着いて考えてみよう。
剣で届かないなら、もっとリーチの長い武器だ。
リーチの長い武器と言えば……。
「いくぞ……影」
そう言うと、握っていた影の剣は変化していき、影の槍へと変化した。
変化すると同時に、ムクゲの方へ駆けていく。
普通の槍よりも長い槍だ。あの触手の長さなら、触手が俺に届くより先に、俺の槍の方が早く届くはずだ。
これならいける!
と、思った次の瞬間だった。
ムクゲの後ろから生えていた触手は、瞬間的に数メートル伸び、まだムクゲに近づけていない俺を殴り飛ばした。
なんだよ……あれ。
急に伸びるなんて聞いてないぞ。
畜生、どうする。俺の武器はムクゲに近づかないと攻撃できない。
しかし、ムクゲの触手は数メートル伸びて、多少離れていても俺を攻撃できるようになった。
俺が近づこうとすると、触手で攻撃されて殴り飛ばされる。
圧倒的に俺の方が不利だ。その上に相手の方が経験も知識もある。
……無理だ、どう考えたって勝てない。
いや、分かっていたことか。この世界に来たばかりの俺が、この世界で生まれ育ち努力してきた奴に勝てるわけなかったんだ。
俺はそこまで運動神経が高くない上に、力にも慣れていない。
仕方がないだろ、いくら特別な力を貰おうが、別の世界に来ようが、そんなすぐに人は変われないんだ。
凄い力を得て、少し調子に乗ってたのかもしれないな。
残念だが、今回は諦めよう。少しすればきっと俺も変われて、強くなれる。
試験に合格するのはそれからでいい、
そう思い、降参しようとした時だ。
どこからか声がした。
「頑張れ‼」
突如した、聞き覚えのある大声に驚き、俺は声主を探す。
今の声は……まさか。
しばらくあたりを見渡すと、彼女は戦いを見ている合格した志望者たちの中にいるのが見えた。
「頑張れ、コウキくん!頑張って、諦めないで!」
間違えない、あれはユリ。
ここにいるって事は合格したのか。
……頑張れか。無茶を言うな。
どう考えたって勝てないんだ、諦めるしかないだろ。
それに俺はこの世界に来たばかりだから、まだ力にも世界にも慣れてないんだぞ。
無理に決まってる。いくら今の俺があがいたところで勝てないんだから、さっき考えたように潔く諦めて、俺がこの世界に慣れて、自分を変えられてから挑んだほうが良いに決まって……。
そう思った直後だった。
一つの疑問が俺の頭をよぎった。
……変えられてからって、俺はいつ変われるんだ?
この世界に来てから、何度も何度も、この世界に来て少ししか立ってないから、まだ変われていないからと、言い訳をしてきた。
本当にこのまま俺は変われるのだろうか。
前世でもそうだった。
ずっと、今は駄目でも、少ししたらきっと変われると、何の努力もせずにそう思い込んでいた。
結果的に、死ぬまで何も変わらず、なりたいものにもなれない。楽しい人生だったとはいえ、心から最高と言える人生ではなかった。
このまま、いつまでも同じような言い訳を並べていたら、結局前世と同じ人生を送ることになるんじゃないだろうか。
……そうだ。
少ししか立ってないからとか、まだ変われていないからとか、違うだろ。
そんなんじゃ永遠に変われないということを、俺は前世で学んだろ。
このまま諦めて、いつか変わるのを待ってしまったら、今までと同じだ。
変わるんだろ、この世界で俺は変わるんだろ。
変わるなら、今だ。
今、自分の力で変わるんだ。
「……そうだ…………変わるんだ!」
そう呟き、俺は今一度前を向く。
確かに力を使ってきた年数も、この世界の経験も、知識もムクゲの方が上だ。
しかし、俺には前世の経験と知識がある。
それに、ムクゲは圧倒的に有利な状況に油断している。
まだ、勝てるかもしれない。
何か……何かいい手が……。
そう考え始め、数秒が立ったところで、一つ作戦を思いついた。
成功する確率は30%くらいか。
それでもやるしか……ないよな。
ここで勝って、俺は変わるんだ。
そう決心し、緊張も、恥ずかしさも、焦りも全部忘れて叫ぶ。
「い……いくぞ、ムクゲ。俺の全力、受けてみやがれ!」
「全力ですか。いいですよ、見せてみてくださいよ!」
そして俺は右足を一歩前に踏み出す。
そのまま真っすぐムゲルに向かって行く!と思わせ、俺は後ろを向き、走り出した。
「は……はあ!?全力を見せるんじゃなかったのかよ!おい、逃げるのか!」
ムクゲが何か叫んでいるが、攻撃してこず、叫ぶだけならラッキーだ。
叫んでいる間に、作戦を実行させてもらう。
この世界に来て、神様から力を貰った時から疑問に思っていた。
俺の影を操る力の範囲は、一体どこまでなのだろうか。
この操れる影は自分の影だけなのだろうか、それとも自分以外の影も操れるのだろうか。
もし自分以外の影も操れるのだとしたら……。
「この影も操れるってことだよな!」
そう言い、俺は端にある木で出来た木陰に、足を踏み入れ、叫ぶ。
「影よ、変化しろ!」
瞬間。
木陰は大きく揺れたかと思うと、変化しながら、立体的に飛び出してきた。
そのまま変化し続けながら、俺の手へと近づいて行き、数秒で手の内に納まった。
……成功だ。思った通り、どうやら自分の影だけでなく、自分以外の影も操れるようだ。
俺は木の影を利用して作ることに成功した。
森で女騎士を殴り飛ばした影の武器、シャドウハンマーを。
木の影を使ったからか、シャドウハンマーは森で作った物より数倍大きな、超巨大ハンマーになっている。
予想はしていたが、どうやら大きな影を使うと、その分影で作れるものも、大きくなるようだ。
……そして、俺は知っている。
突然、想定外の出来事が起きた時。
人は驚き、焦り、パニックに陥るということを、
その症状は圧倒的優位に立ち、油断している奴に程、よく起こるということを。
「な……な…………なんだよ、それ!なんなんだよその巨大なハンマーは!?そんなの想定外だぞ!?」
ムクゲが焦っているうちに、しっかりとムクゲの方を向き、走りやすいように体を構える。
そして、体を構えると同時に、すぐさま走り出した。
「く……来るな!」
焦ったムクゲは触手で攻撃を仕掛けてくるが、もう遅い。
触手が俺に届く前に、俺のハンマーが直撃する。
「……いくぞ、超巨大シャドウハンマー!」
そう叫び、巨大なハンマーを振り下ろす。
ハンマーはムクゲに真っすぐに向かって行き、そのまま巨大な音を立てて、ムクゲを叩き潰した。
しばらく待ってから、ハンマーを動かすと、そこにはボロボロになって、半分地面に埋まったムクゲが倒れていた。
それを見た試験官は、俺の方に手を向けると、話し出した。
「志望者ムクゲの気絶が確認されました。よって、勝者は志望者コウキ!志望者コウキの学園入学を許可します!」
勝者コウキ!ってことは俺の勝ちか?
……そうか、勝ったのか。
何度か諦めそうになったが、圧倒的に不利な状況から勝ったのか。
必死こいて、ボロボロになって、戦って……勝ったのか。
「…………しゃああああああああ!」
俺は叫んだ。
周りの目も気にせず、ただ自分の勝利を喜び、叫んだ。
この日、俺は初めて自分を変えたのだ。
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