先輩冒険者から学ぶものは多くあるのかもしれない。③
この世界に来てから、様々な出会いを経験した。
友として、敵として、様々な人たちと出会った。
その中でユリやカンナ、アリウムたちと出会い、友達になった。
新たな友達ができ、俺自身人と話す事が少しずつ増えてきた。
そのお陰で、俺のコミュ症は少しずつ治っていき、それなりに普通に話を出来るようになった。
……なんてことは、全くない。
ハッキリ言おう。
ユリたちとは話せているが、実際の所、俺は今も変わらずコミュ症だ。
相も変わらず、人と目を合わせて離せないコミュ症なんだ。
ユリたちとまともに話せているのは、それなりに長い間一緒にいたからだ。
話す事が何度もあったため、必然的に話せるようになっていったんだ。
そんなコミュ症である俺と、初対面の女子一人を置いて行く。
これは新手の拷問といっても差し支えないくらいだ。
コミュ症と美少女がまともに話すのは、テストで全教科100点を取るのと同じくらい難しいんだ。
そのことをみんなは分かっているのだろうか。
……そんなに思うのなら、会話をしなければいいと思うかもしれない。
しかし、それはそれでまずい。
何一つ言葉を交わさず、静かな空間で、初対面の女子と松明を眺めている。
どう考えたって、空気が重苦しくて、耐えられるわけがない。
実際、今現在もこの空気に押しつぶされそうだ。
様々な思いや考えを頭の中で流し続け、十数秒が立とうとしていた頃。
俺は覚悟を決めた。そして、恐る恐る口を開いた。
「えっと……その…………キ、キキョウさんはどこにむ、向かってるか知ってるんですか……?」
「………… …………」
……無視された。
清々しいほどの無視に、一瞬で心が折れる音が聞こえた。
辛い、帰りたい、もう嫌になってくる。
一体、俺の何が悪かったというんだ。
普通の質問を、普通のトーンで話しただけじゃないか。
もしかして、この話題は嫌だったのか?
それなら……そうだな、確かキキョウはリュウガさんの弟子だと言っていた。
リュウガさんについての話なら、言葉を発してくれるかもしれない。
折れた心をなんとか支えながら、勇気を出して一言放つ。
「……そ、そう言えば……リュウガさんっていい人ですよね……ほら、俺たちにいろいろ良くしてくれてるし……ね」
「………… …………」
やはり無視された。
もしかして怒っているのだろうか、見知らぬ間に何か悪いことをしてしまったのだろうか。
頼むから何か言ってくれ、一言で良いから何か言ってくれ。
支えていた心が完全に折れようとしていたその時だった。
小さく、キキョウの声が聞こえた。
聞き取れず聞き返すと、今度ははっきりと話し始めた。
「師匠は超良い人 良い人じゃない」
「え、あ、うん……そ、そうですね。……えっと、リュウガさんはどんな人なんですか?」
「……師匠は超凄い人 冒険者として超強い ハンマーの使い方が超上手い 人情も超良い ワタシは師匠に救われた 信じられないほど良くしてもらった 師匠は超最強 ……聞いてる?」
「え、うん……き、聞いてるよ。…………その、リュウガさんは超凄い人なんだね」
俺がそう言うと、キキュウは松明に顔を向けたのち、小さく頷いた。
やった……話が出来た。
死に掛けながらも、話をすることが出来た!
勇気を出した自分を、全力でほめてあげたい気分だ。
あの勢いを見るに、どうやらキキョウは相当リュウガさんの事が好きなようだ。
弟子だから高評価しているのもあるだろうが、あそこまで言うという事は確かにリュウガさんは凄い人なのだろう。
どんな人なのか、少し知りたくなってきた。
そうだな。後で冒険者としての戦い方でも聞いてみようか。
俺もシャドウハンマーというハンマーを武器として扱っているわけだし、ハンマー使いらしいリュウガさんから学ぶことが多くあるかもしれないしな。
「うん、思い切って、後で聞いてみよう……」
「聞いてみようって、何がだ?」
「……え……り、リュウガさん!戻ってきてたんですか」
「おう、もう行けるから、二人とも行く準備しろ!……そういえば、他の二人はどこ行ったんだ?」
「あ、今席を外してます」
「分かった。二人が帰ってきたら出発だな」
俺たちは準備を整え、ユリたちが帰って来たところで再び歩みを続けていく。
その道は、先程までの道と違い凸凹で、想像以上に歩きにくい。
それに加えて、道が細く、ギリギリ人一人歩けるくらいの道幅で狭い。
先頭の松明の光が見えずらく、何度か転んでしまう事もあった。
そんな危険な道を進んで行くと、一同は巨大な空間に到着した。
空間は半円形で、天井は今までの洞窟と違い、岩でない何かの素材で出来ているように見える。
地面は平らで、これも今までの岩の様な素材とは違うように思える。
そんなことを思っていると、リュウガさんは空間の中央に松明を置き、付近の地面に腰を下ろした。
「もうそろそろだな……よし、お前ら!ここが一番見やすいんだ、こっちこい!」
「えっと、結局うちらは何でこんな所に来たんですか?」
「まあ、落ち着けや。もうそろそろだからよ。……と、お前ら、上を見てみろ!」
言われるがままに天井を眺めていると、少しずつ天井に異変が生じ始めた。
所々に小さく光る点の様な物が現れ始め、ゆっくりと伝染するかのように光の数が増えていく。
それと同時に、松明の光以外存在せず、暗闇に包まれていた空間が少しずつ明るくなってくるのを感じる。
その様子は幻想的で、息をのむほどに美しい。
数十秒立つ頃には、天井の点は全て現れ、洞窟の天井は満点の星空へと変化した。
周囲は明るい雰囲気に包まれ、どことなく心が温まってくる気がする。
あまりの景色と雰囲気に、俺たちは誰一人として言葉を発することが出来ない。
ただひたすらに、俺たちは眼前に広がる幻想的な景色を美しいと感じる事しかできなかった。
俺たちが黙り込んでいると、リュウガさんがゆっくりと口を開く。
「ここは随分前に見つけた穴場でな。ほぼ毎日、大体この時間になると、こうして洞窟に星空が現れるんだ。一体何が光ってて、どういう原理で光ってるのかは全く分からねえけどよ。……どうだ、綺麗じゃねえか?」
「はい……何て言うか……凄く綺麗です。……こんな景色、見たことがありません」
プラネタリウムや、イルミネーションと似た美しさがあるが、実際の所は全く違う。
実際の星空とは違った美しさがあり、幻想的だ。
こんな空間、前世でもこの世界でも見たことがない。
ただただ、綺麗だ。
「……冒険者ってのはな、危険が伴うし、辛いことがたくさんある大変な仕事なんだ。時には大怪我を負うことだってある。肉体的に限らず、精神的にもな。……だがな、辛いことがある分、幸せに思えることだってあるんだ。この洞窟だって、その一つさ。冒険を続けてると、こういう洞窟みたいに見たことがないような、凄い事に出会えるんだ。……何て言うかよ、ワクワクしてこねえか?」
「……はい、ワクワクしてきます。……なんかもう、凄い、熱くなってきます!」
「だろ!……まあ、何が言いたいかって言うとよ。いろいろと辛いことがあるだろうが、それでも冒険者は面白くて、最高の仕事だってことだ!」
最後にそう言うと、リュウガさんは水筒を口に着け、再び幻想的な景色に目を奪われ始めた。
何となく、リュウガさんが俺たちをここに連れてきた意味が分かった気がする。
モンスターとの戦いで、様々な事を感じていた俺や、初めて仮冒険者として戦ったユリたちの姿を見て、先輩冒険者として、冒険者の素晴らしさを教えようとしてくれたのだろう。
辛い事もあるが、最高の仕事。
この景色を見たら、同意せざるを得ない。
冒険者はモンスターや魔族と戦うだけと思っていたが、こんな経験を出来るのか。
冒険者……想像以上に奥が深く、凄い仕事なのかもしれない。
美しい景色を目にし、冒険者の素晴らしさを再認識しながら、俺は再度その景色に心を奪われる。
俺たちは星空が消え去るまで、その場を動かず、星空が消え、数分立ったのち、帰路へ足を進めるのだった。
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