先輩冒険者から学ぶものは多くあるのかもしれない。①
「それじゃあ、これから報酬を分けたいと思います!」
カンナはそう言いながら、テーブルの上に金の入った袋を置いた。
俺たちは依頼を達成したのち、ギルド長に依頼の結果を報告しに行った。
依頼が達成されたことを確認すると、ギルド長は依頼の報酬として、報酬金を渡してきたのだ。
仮冒険者の内は、報酬など貰えないものだと思っていたが、仮冒険者も冒険者の一部であるとして、依頼をこなすと、報酬をしっかり貰うことが出来るらしい。
そして、現在。
俺たちはギルド付近の酒場に寄っていた。
夕食を済ませると同時に、報酬を山分けにしようと考えたのだ。
カンナは袋を広げると、少しずつ金額を数え始めた。
「……7、8、9っと!えー、数えた所、報酬金額は……20万モリアでした!凄くない!?20万だよ!」
「20万って……20万!?」
20万って……1が20万個で20万だよな。
俺たちはモグラと少し戦って、追い払っただけだぞ。
それで20万も貰えるのか!?
……いや、よく考えたら、命が懸かってるんだよな。
一歩間違えれば大怪我を追ったり、最悪死ぬかもしれない。
命を懸けている事を考えると、それ相応の金額なのかもしれない。
というか、逆に安いくらいなのか?
この世界の価値観があやふやだから、良く分からないな。
そんな事を考えながらも、20万モリアを5人で均等に分けたモリアを。
4万モリアを、俺は受け取った。
始めて受けた依頼の報酬。
初めて仮冒険者として手にした金に、嫌でもテンションが上がってくる。
依頼をこなし金を手にする。まさしく冒険者らしくて、なんか良いな。
「よし、初めての依頼を祝して、今日はたくさん食べようぜ!すみませーん!ツカドンくださーい!他のみんなは何食べるんだ?」
「そうだなー。私は野菜炒めでも食べようかな!それから……このアマアマジュースってのも美味しそう!私はこの二つを買おうか……」
「お、お前ら仮冒険者たちじゃねえか!」
メニューを見ながら、食べ物を選んでいると、ユリの後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
声の方を見ると、そこにはハゲ頭の中年男性が一人立っていた。
あの特徴的な頭に、後ろに背負っているハンマー。
間違いない。昨日俺たちを宿へ案内してくれた冒険者のリュウガさんだ。
リュウガさんは座っていいか聞くと、空いている席に座り、酒を一つ頼んだ。
「確か、今日初めての依頼を受けたんだってな!どうだった?依頼は達成できたのか?」
「はい!依頼は完璧に達成できて、今は報酬を分けて、夕飯を食べようとしていたところなんです!」
「そうか!初依頼を達成できたなんてすげえじゃねえか!そうだな……よし、ここの飯代は俺がおごろう!初依頼達成祝いだ!遠慮しないでドンドン食え!」
「いいんですか!ありがとうございます!……それじゃあ、遠慮なく、すみませーん!ブクブクドリンク一つお願いします!」
リュウガさんも加わり、俺たちはより楽しくなりながら、夕食を進めていく。
次々に運ばれてくる美味しそうな料理を、一同は楽しく口へと運んでいく。
その様子を見ながら、俺もリュウガさんに奢ってもらう緑色の飲み物を口に運ぶ。
ふむ。試しに飲んでみたが、このブクブクドリンクとか言う飲み物美味しいな。
見た目は溶岩の様にぶくぶくしているが、飲むと炭酸の様にシュワシュワして、甘くて美味しい。
その上、頭の中がフワフワし、体が熱くなってくるのを感じる。
この世界にもこんな美味しい飲み物があったとは……もっと早くに出会いたかったな。
そんなことを思っている時だった。
気になったのか、半分酔っ払ったリュウガさんが一つ訪ねてきた。
「確かコウキっつったっけか。飲み物飲むばかりで、飯を全然食ってないみたいだけど大丈夫か?食欲がねえのか?」
「え……あ、はい。……いや、その……大丈夫です」
どうやら、俺が料理に手を着けていないのを不思議に思ったらしい。
別に食欲がないという訳ではない。
どちらかといえば腹は減っているし、料理だって美味しそうだ。
ただ、少し料理を食べる気分になれない。
「……なるほどな。今回の依頼で何かあったのか?」
「……え?」
「顔を見ればわかるよ。俺はこう見えてそれなりに冒険者をやって来たんでな。お前みたいなやつは何度か見てきた。……何か悩みがあったら言ってみろ。意外と俺は頼りになるぜ!」
普段ならば、こんな殆ど話した事のないような酔っ払いハゲに自らのことを話したりはしなかっただろう。
しかし、ブクブクの効果か、頭がフワフワしていた俺は、不思議と言葉を放ってしまった。
「実は……実は俺、モンスターを殺せないんです」
「モンスターを殺せない?」
「はい……詳しくは言えないんですけど……そう言うのに慣れてないし……殺したくないっていうか……。それでもって……今日モグニンと戦ったんですけど……モグニンを殴った時の感覚が何とも言えなくて……。よく考えたら、俺は生物らしいモンスターと戦うのは初めてで……ここまで冷静な状態で戦うのも……初めてだったんです。だからか、変な感覚が今も残ってて……何て言うか……」
「なるほどな。要はお前はモンスターを殺せない。そんなお前が初めてモンスターらしいモンスターを殴って、色々感じてるわけか」
「……まあ…………はい」
……俺は何をやってるんだろうか。
随分前のダンジョンでの一件で、モンスターについては考えをまとめ、覚悟を決めたじゃないか。
それを今になって、実際に戦う時にぶつくさ考えて……。
楽しかった夕食中に、先輩冒険者の気分を悪くするような事をして……。
俺は本当に駄目だな……。
「……んー、そのモンスターを殴っていろいろ思ったのって良い事じゃねえのか?……てか俺は安心したよ。お前みたいなやつがいてよ」
「……え?」
「これは俺持論だけどな。生き物を自らの手で殺せないなんて言うのは当然なんだよ。モンスターのせいで危険が身近にあるせいで、みんなモンスターを殺すようになったけどな、そのせいでみんな命を軽んじまってると思うんだ。俺はそれが嫌でよ。命ってのはもっと大きくて、大切な者だと思うんだ。だから、まだお前みたいなやつがいて良かったと思うな。命を大切にしてくれる奴がいてよ」
「命を大切に……」
「けどまあ、冒険者になるからには、モンスターと戦わないわけにはいかない。もし、モンスターと戦う上で、辛くなった時はこう思え!暴走したモンスターを落ち着かせるために、人を守るために、理由はどうであれ、誰かのために戦ってると思うんだ。これは逃げてるようにも思えるかもだけど、それで良いんだよ。心の底から、自分の本心から戦う理由が見つかるまでは、理由を使って逃げまくれ。これが俺が今までの冒険で培った考えだ!」
「逃げるですか……」
不思議な考え方だ。
俺は今まで、この世界では立ち向かう事ばかり考えていた。
変わるために、逃げる事は絶対にしないように考えてきた。
それが、逆に逃げるべき時もあるのか。
理由が見つかるまでは、逃げる選択肢を取っても良いのか。
冒険で培った考え……か。
いろいろと考えさせられるものがある。
そう思っていると、リュウガさんはジョッキ半分残っていた酒を一気に飲み干すと、大きな音を立てながらテーブルへジョッキを置いた。
そして、楽しそうに笑いながら、話を切り出した。
「そうだ!お前ら、明日も依頼はあるだろうが、その後は暇か?」
「多分暇だと思いますけど、それがどうかしたんですか?」
「よし、暇なら少し付き合え!お前らに見せたいものがあるんだ!」
俺たちは良く分からないまま、リュウガさんの勢いに押され、依頼を終えた後に会う約束をした。
なんでも、町の近くのとある所で、見せたいものがあるらしい。
一体なにを見せたいんだろうか。
そんなことを思いながらも、俺たちは楽しい夕食を再開し、楽しい夜を過ごしていった。




