この世界の魔剣はしゃべるらしい。②
全体的に紫色で、黒いラインが綺麗に入っている剣。
確か、俺が馬車に乗った時から置かれていた。
声に言われるがままに頭を動かすと、俺の目の前にはこの剣が現れた。
まさかこの剣が……いや、それはないか。
この剣が、さっきの声主なんてことはあり得ない。
よく考えてみるんだ。俺が今見ているのはただの剣。
常識的に考えて、剣が言葉を発するなんてことあるはずがない。
一度落ち着いて、周りをよく確認してみよう。
そう思い、今一度周囲を見渡すが、当然声主と思われる生物は存在しない。
ユリたちも理解が出来ないのか、ただ周囲を見渡すばかりで、困惑した顔をしている。
俺たちが困っていると、再びさっきの声が聞こえてきた。
「あー、もう!お前ら話聞いてたんか!?なんで一回俺様の事を見たのに、スルーしたんや!なんや!?わざとか!?わざとなんか!?」
「……えっと……その…………どこにいるか本当に分からないんです……」
「はー!?しゃーないなー……男!右向け!あー、ちょい左向け!そうだ!そして、下を向け!あ、目あったな!これで分かったやろ!」
声の言う通りに顔を動かすと、やはり目の前には剣があった。
今、俺の視界には剣しかない。
それなのにも関わらず、目が合ったと、これで分かったと言っている。
これは……そう言う事なのか?
最初に想像した通り、この剣が声主なのか?
いや、落ち着け俺。
いくらこの世界が前世と違い、不思議が溢れる力だとしても、剣が話すなんてことはあり得ない。
実際、今まで見てきた剣は言葉を発したりしなかっただろ。
流石に剣が話すなんて……話すなんて……。
「……あの…………その……えっと……変なこと聞きます。……その、あ……もしかして……ずっと話してたのって……剣だったりしますか?……い、いや、やっぱ、何でもないです。……変なこと言ってすみませ……」
「はー?何言ってるんや?どっからどう見たって剣やろ。お前には人にでも見えるんか?」
剣だった。普通に剣だった。
本人?が剣って普通に言ってる。
驚き、困惑していると、俺の代わりにアリウムが口を開いた。
「いや、ちょっと待ってくれ!冗談だろ?剣が話すなんて聞いたことがないぞ!」
「そりゃあ、普通の剣は話さないやろな。けど、俺様は違う!何故なら、俺様は魔剣だからな!分かるか?剣の中のエリートである魔剣なんだよ!」
魔剣って……あの魔剣?
あの、ゲームや漫画で出てくる魔剣?
魔に剣と書いて魔剣?
魔剣と言えば、聖剣とは対となる伝説の剣だ。
普通の武器とは違って、特別な力を持ち、使用者に強大な力を与えるとか与えないとか言われている。
基本的に魔法が関わる漫画やゲームには出てきて、どの魔剣も強大な力を持っていた。
まじかよ、この世界には魔剣も存在していたのか。
この世界に来て随分経つが、魔剣なんて聞いたことがなかった。
アリウムの持つカエデなど、不思議な武器は存在したが、魔剣と言えるようなものではない。
勝手に存在しないと思っていたが、これは驚きだ。
一気にRPG感が出てきた気がする。
この世界では魔剣はそう出会えるものではないのか、ユリやカンナ、グリシアまでもが異常なほどに驚いているように見える。
「魔剣って……本当に存在したんだ!うちは物語だけのものだと思ってたよ!てか、魔剣ってしゃべるんだ!」
「あー、知らんかったんかー。ならさっきの反応もしゃーないな!あ、しゃべるのは魔剣だからやないで!俺様がしゃべるのは、長年人間が話すのを観察し、只管に練習した結果。いつの間にかしゃべれるようなっとったんや!どや、凄くね?凄くねー!?」
練習した結果しゃべれるってどういうことだよ。
というか、剣なのにどうやって言葉を発してるんだ。
口とかそもそもとして存在しないだろ。
「えーと、それで何で魔剣がこの特製動石に乗っているんですか?」
「お、良いこと聞くねー!ツンデレっぽい黒髪美少女よ!何を隠そう、俺様がお前らの同行者!つまりは、お前らの保護者みたいなもんなんや!どうや!」
同行者。
確か、仮冒険者の説明を受けた際、最後の方にモモ校長が言っていた気がする。
仮冒険者には一人の優秀な同行者を付けさせるとか。
同行者は命をとして仮冒険者を守とか。
そして、俺たちの同行者がこの剣。
…………は?
優秀な同行者がこの剣?
……もはや、人手すらないんですけど。
いくら魔剣だからって、剣は剣だぞ。
モモ校長たちは本当に何を考えているんだ。
剣が俺たちを守れると思っているのか……というか、剣だぞ。
だって……剣だぞ!?
「……あの、同行者って、魔剣さん以外にも同行者がいるんですよね?……あ、もしかして魔剣さんの所有者がもう一人の同行者だったりするんですか?」
確かに、よくよく考えればユリの言う通りだ。
きっと他に同行者がいるに決まっている。
いくら魔剣でも、剣に俺たちを任せるわけがないんだからな。
「何言ってるんや、優しそうな美少女よ。同行者は俺だけやで。あ、ちなみに俺の所有者は色々あって別行動中でな。今は俺一人や!」
何も考えていなさそうな魔剣の言葉により、もう一人の同行者という希望は無残にも砕かれた。
同行者が魔剣一本。
その事実に、俺どころかユリやアリウムも黙り込んでしまった。
しばらく静寂が続いたのち、魔剣は変わらぬ声色で話を始める。
「まあ、なんや。これからよろしくな!あと、俺様の名前はスターチス!魔剣スターチスや!気軽にスターチスって呼んでくれて構わないぜ!」
「えっと……はい、よろしくお願いします。……スターチス……さん」
「おい、陰キャっぽい男!スターチスで良いっていうたやろ!」
「はい……スターチス」
「それでいい!」
スターチスと呼んだからか、魔剣は少し嬉しそうに見える。
同行者が魔剣一つ。
魔剣が存在したという喜びと、魔剣と出会ったという喜びが少し前までは俺の心を支配していた。
しかし、今はこれからどうなるのかという心配と、俺たちは大丈夫なのだろうかという心配が心を支配している。
……まあ、良いか。
こういう時は、とりあえず景色でも眺めて、現実逃避をしよう。
今どうこう考えたって仕方がないしな。
もしかしたら、この世界の魔剣は想像以上に凄い可能性もあるしな。
そう思い、改めて外の景色を見ようとした時だった。
突如、辺りに女性の悲鳴が響き渡った。




