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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
学園生活編
67/120

コミュ症たちは旅に出る。②

 この日のために綺麗にしておいた服を着て、数日前に入手したローブを身に着ける。

 改めて鏡に映る自分を確認し、髪の毛を少しいじったのち、バックを手に取り、自室の扉を元気よく開ける。

 すると、俺が扉を開けるとほぼ同時に、近くの部屋の扉が開き、中から重そうなバックを持ったユリが出てきた。

 彼女は少し笑うと、ゆっくりと口を開いた。


「おはようコウキくん。ついに……旅立つ日が来たね!」


「うん、そうだね。……急に仮冒険者のことを知らされて、準備とか心配だったけど、何とか間に合ってよかったよ」


「本当にね。学園ももっと早く知らせられなかったのかな。伝えられて四日後は急すぎるよ」


 そう話しながら階段を下ると、一階にはお姉さんが一人、酒場の開店の準備をしていた。

 その面影はいつもよりも少し悲しげに、寂しそうに見える。


 お姉さんは下りてきた俺たちに気づくと、持っていた布巾を置き、小走りで俺たちへと近づいてきた。


「おはよう、ユリちゃんに光輝。……やっぱり行くんだよね」


「はい、決めた事なので。……本当に急でごめんなさい。決まってから時間が全然なくて、今日までずっと良くしてもらったのに、全然恩を返せてないのに……」


「気にしないで、ユリちゃん!ユリちゃんたちは何も悪くないんだからさ!んー、よし。まず、ユリちゃん!ユリちゃんは大体優秀だけど、時々抜けてるところがある。怒ってるときなんかは、理性が吹き飛んで、冷静な判断が出来なくなってるから、いつでも冷静でいるように心がけて!他の人のために動くのは良いけど、自分の身もちゃんと大切にするように!……絶対に、無事でここに帰ってくるように。これを約束してほしい」


「お姉さん……分かりました。冷静に、自分を大切にして、必ず無事で帰ってきます」


 ユリがそう答えると、お姉さんはニッコリと笑い、軽くユリの頭を撫でた。

 しばらく撫でると、今度は俺の方を向き、一歩俺へと近づいた。

 そして、少し考えるような仕草をしたのち、ゆっくりと口を開いた。


「次に光輝。いろいろ言いたいことはあるけどさ。……ユリちゃんを頼む。もしユリちゃんが辛そうだったら、助けてあげてくれ。そして、自分をもっと大切にしてくれ。光輝自身が思っている以上に、光輝を大切に思っている人はいるんだ。その人たちのためにも、自分を大切にだ。約束してくれ」


「お姉さん……分かりました。任せてください」


 俺の言葉を聞くと、お姉さんは再びニッコリと笑い、俺の髪の毛をぐちゃぐちゃにするほどの力で、頭を撫でた。

 少し恥ずかしかったが、それよりも嬉しいという気持ちの方が勝っている。


 ユリを助ける。自分自身を大切にする。

 必ずこの約束は守ろう。何があっても、絶対にだ。

 初めて会った時から、俺に優しくしてくれたお姉さん。

 住む所を提供し、バイトを経験させ、少し自分に自信をつけてくれたお姉さん。

 今考えても、感謝してもしきれないほどの恩が、お姉さんにはある。

 いつか必ずここに戻ってきて、絶対に恩は返す。


「あ、それとだ。辛くなったり、どうしようもなくなった時は、顔を上げ、周りを見渡してみろ。そして、覚悟を決めろ。先輩からのアドバイスだ!覚えといて損はないからな!」


「え、先輩?」


「まあ、そのうち分かるよ。それより、二人とも時間は大丈夫なの?」


 お姉さんに言われ、時計を見ると、酒場を出る予定の時間を数分過ぎていた。

 お姉さんと話しているうちに、想像以上の時間が経過していたようだ。

 俺たちは焦り、バックをしっかりと握りしめ、酒場の扉へと向かって行く。

 そのまま扉を開け、酒場を出る直前で動きを止め、ユリと顔を見合わせると、同時に頷き、お姉さんの方を向いた。

 そして、心の底から声を出し、言葉を放った。


『お姉さん、いってきます!』


「ユリちゃん……光輝…………いってらっしゃい!」


 お姉さんの笑顔をしっかりと目に焼き付け、俺たちは約束した場所へと駆け出す。

 道中は町復興のために働く、冒険者や一般人などの声で溢れ、いつも以上に騒がしく感じる。

 そんなことを考えながらも走っていると、約束した場所の前にアリウムたちが集まっているのが見えた。

 それを目にし、俺たちはさらに速度を上げ、走っていく。


「あ、おはよう、コウキにユリ!」


「ああ、おはようアリウム。……ギリギリ遅刻してないよな?」


「うん。ギリギリセーフっぽいよー。間に合ってよかったね、コーキ!」


 その聞き覚えのある声に、声のした方を見てみると、そこにはマリーが眠そうな顔をして立っていた。


「え、マリーさん?一体何でここに……あ、やっぱり、マリーさんは一番目の仮冒険者だったんじゃ……」


「そう!コーキも聞いてよ!」


 俺が仮冒険者と口に出すと、マリーは目を大きく開け、俺の顔へ顔を近づけてきた。

 そして、大声で文句を言うように話を始めた。 


「あたしも頑張ったんだよ!襲撃事件ではさ、いろんな人を助けて、助けて、助けまくったんよ!それなのにさー。ひどくない!?なんであたしは選ばれてないの!?あたしもめっちゃ頑張ったんだよ!おかしいでしょ!」


「……え、マリーさん仮冒険者に選ばれてないの?」


「選ばれてないの!ホントになんでよー!あたしもみんなと一緒に行きたかったのにさー」


 マリーが選ばれていないとは驚きだ。

 てっきり、一番目の仮冒険者チームに選出されたから、俺たちが仮冒険者の話を聞いた際にはいなかったと思っていた。

 まさか、仮冒険者自体に選ばれていなかったとはな。


 となると、一番目の仮冒険者チームには一体だれが選ばれたんだろうか。

 マリーは生徒内では強い方だと思う。

 そんなマリーよりも凄い人たちが選ばれたとなると、それはもう相当強いはずだ。

 そうなると、どんな人が選ばれたのか、気になってくる。


 というか、俺が選ばれてマリーが選ばれないなんておかしいだろ。

 俺を選ぶくらいなら、マリーを選ぶ方が確実に良い。

 学園側は一体なにを考えてマリーじゃなく、俺なんかを選んだんだ。


 と、そんなことを考えていると、遠くの方から俺たちの方へ走ってくる男が見えた。

 男は俺たちの目の前まで近づくと、手に持っていた書類を見ながら、一人一人の顔を凝視し始めた。

 何なんだと思いながら見ていると、全員の顔を凝視し終えた所で、書類をしまい、大きく口を開いた。


「その風貌から、仮冒険者の皆様とお見受けします!これより、皆様に搭乗して頂く特製動石へ案内いたしますので、ついて来て下さい!」


 それだけ告げると、男は振り向き、ゆっくりと来た道を戻り始めた。

 どうやら、この男は俺たちを案内するように任された人だったらしい。


「ごめん、マリーさん。時間みたいだし、俺たち行くね。……あ、言いたかったんだけど、その、この間の襲撃事件の時、俺の事を助けてくれて……」


「あ、ちょい待ち!コーキの話を聞きたいのはやまやまなんだけど、時間内ならあたしの用をすまさせて!コーキ!て、出して!」


 マリーの勢いに押されながら、言われた通りに手を出すと、マリーは俺に何かを手渡ししてきた。

 恐る恐る手の中のものを見てみると、そこには綺麗なピンク色の布袋が入っていた。


「えっと……これって……」


「それはあたしが徹夜して作った、パワーキャンディー!すんごい思いを入れて作ったから、めちゃくちゃ力が強いはずだよ!なんていうか、仮冒険者に選ばれたお祝いみたいな?ほら、団体戦のお礼も、いろいろあって出来てないしさ。その一環でもあるかな。……まあ、とりま受け取って!そのアメ舐めて、仮冒険者頑張ってね!」


「マリーさん……ありがとう。大切に舐めるよ」


「うん!あ、ほら、もうみんな行ってるよ!早く行って!」


「あ、ホントだ。それじゃあ……行ってくるよ。……ま、またね!」


 俺がそう言って駆け出すと、マリーは満点の笑顔を見せ、大きく手を振ってくれた。

 俺は笑顔で返し、先を歩くユリたちへと駆けていく。


 俺がユリたちに追いつくとほぼ同時に、案内していた男は足を止めた。

 その男の目の前には、一つの馬車が置かれていた。


 いや、馬車と言うのは少し違う。

 何故なら、その馬車には馬が繋がれておらず、その代わりに別の生物が繋がれていたからだ。

 その生物はダチョウとアヒルが混ざったような、何とも言えない見た目をしており、不思議な雰囲気を醸し出している。


 馬がいるはずの部分にいるという事は、あの鳥?が馬車を運ぶと思うが、その様子が全く想像できない。

 そんなことを思っていると、案内してくれた男は準備を終わらせると言い、何やら作業を始めた。


 暇な時間が出来、ふと周りを見渡していると、一人の男が目に入った。

 銀色のがっしりした鎧を着ていて、目つきの怖い中年の男。

 どこかで見たことがあるような気がし、少し記憶の中から探していると、すぐに男の事を思い出した。

 それと同時に、急ぎ足で男へと向かって行く。

 そして、男にある程度近づいた所で、思い切って声をかける。


「あ、あの……す、すみません!お、俺のこと、覚えてませんか!」


 男は振り返ると、じっくり俺の顔を見始めた。


 やはり間違いない。 至近距離で顔を見て、ハッキリした。

 この男は、俺を最初に救ってくれた男だ。

 

 この世界に来てから少し立った頃。

 俺は右も左も分からず、街に入るときに必要不可欠である通行証明書を持っていなかった。

 通行証明書を持っていなかった俺は街に入ることが出来ず、その上コミュ症のせいで上手く話せず、全てがどうしようもなくなっていた。

 そんな時、俺を助けてくれたのがこの男だ。


 男は誰がどう見たって怪しい俺に手を差し伸べ、助けてくれた。

 もし、この男が助けてくれなければ、俺はそもそもとしてユリやアリウムに会う事は無かったし、街に入る事すら出来なかった。

 この男が一番最初に助けてくれたお陰で、今の俺はある。

 機会があればお礼を言いたいと思っていたが、まさかこんな急に再開することになるとは……。


「……あの、数か月前にこの街に来たんです。……それで、通行証明書がなくて、困ってて……その時、特別許可証をくれて、助けてくれて……その、覚えてない……ですよね」


「……いや、覚えているぞ。確かコウキと言ったっけか」


「……え、名前まで覚えててくれたんですか?……その、あの時はありがとうございました!……門番さんのお陰で、魔防学園に入学できて……友達も出来て……何とか変わることが出来ています!」


「まあ、仕事だからな。そこまで気にするな。……なるほどな。この数か月間で、いろいろな事を経験してきたようだな。……コウキ、お前は人に恵まれてるな。お前が出会った友人や恩師、大切にしろよ」


 人に恵まれている。

 確かに、そうかもしれない。

 この門番さんもそうだが、ユリやアリウム、カンナにお姉さんにロメリア先生。

 他にも大勢の人に出会ってきたが、俺が出会った人たちは良い人だらけだった。

 みんな良い人で、様々な場面で、俺を助けてくれた。

 一人でも少し違った人と出会っていたら、今の俺はないはずだ。


 思い返してみれば、俺は人に関しては信じられないほどに恵まれていたんだな……。

 あれ、と言うか……。


「なんで俺がそうだって分かるんですか?俺と門番さんって、一回しかあってないはずじゃ……」


「この仕事をしていると、何となく分かるんだよ。……それより、友人が呼んでいるぞ。良いのか?」


「あ、本当だ……その、すみません。俺もう行きます。…………門番さん、本当にありがとうございました!」


 最後に深々と頭を下げ、俺はユリたちの元へと向かって行く。

 どうやら、準備が整ったらしく、既にユリたちはその馬車の中へ入っていた。

 案内してくれた男の手を借り、何とか俺も馬車へ乗り移る。


「コウキ、お前どこ行ってたんだ?」


「え、ああ、まあちょっとあってさ。まあ、もう大丈夫だよ。……アリウム、ありがとうな」


「え、ありがとうって?」


「……いや、何でもないよ」


「なんだよそれ。……お、動き出したな。ついに街を出るのか。」


「本当だ。この街とも、しばしのお別れか」


 この世界に来てから、いろいろあった。

 言葉で説明できないような不思議な力や、ゲームでしか見たことがない騎士との出会い。

 優しい人に助けられ、心優しき美少女と出会い、流れで受ける事となった入学試験。

 そこで初めての友達と出会い、強敵と戦い、ボロボロになりながらも、手にした初めての勝利。

 それから、ドMの変態美少女との出会いや、酒場のお姉さんとの出会い。


 学校に通い、良い教師や校長と出会い、学園生活で新しく得た友達。

 初めてのダンジョンや、復讐しにきた強敵との再戦。

 様々な楽しくも、体力を使う授業や、いじめを止めるための、友達全員で協力した戦い。

 

 突然の襲撃者に、壊された日常。

 復習に燃える強敵との再再戦。

 最強の強敵との戦いと敗北。

 そして、その先で手にした、新たな目標。


 本当に……本当にいろいろあった。

 

 そして、様々な思い出を心に持ちながら、俺は初めて旅へ出る。

 強くなるために、冒険者になる為に、最高の人生を送るために旅へ出る。

 この世界で得た、新たな友達と一緒に。

とりあえず学園日常編はこれで終了!

次回からは、仮冒険者編が始まるので、乞うご期待を!

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