コミュ症だって、大切な役目を任されることはある。②
「いやー、それにしてもここ数日間でいろいろあったな」
騎士団本部からの帰り道。
アリウムが思い返すようにそう呟いた。
「ホントそれ!ただ普通の日常を送ってただけなのに、急にいろいろ起こるんだから、流石のうちも疲れちゃったよー」
確かに、アリウムとカンナの言う通りだ。
普通に授業を受けていると、学校が襲撃され、俺はムクゲと再会し、再戦する事となった。
その後、何とかムクゲに勝利するも、テロリストの幹部である太陽を操る男と戦い、惨敗。
その戦いで、弱さと悔しさを知り、強くなるという、新たな目標が出来た。
そして今日。まさかの仮冒険者に選ばれ、仮ではあるが冒険者として頑張ることになった。
本当に、ここ数日で一気に様々な出来事が起きた。
「それにしても、コウキが元気そうで何よりだ。俺が見舞いに行った時はずっと魘されてたからよ。結構心配だったんだよ」
「それは心配かけたな。あ、お見舞いも来てくれてありがとうな。……実は色々あってさー。けどまあ、もう大丈夫だ」
「そっか。まあ、なんかあれば俺に相談しろよ。絶対相談乗るからよ!」
「アリウム……おう!」
そんなことを話し、俺がアリウムの優しさを再認識している時だった。
突然、後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには狐顔の男が、ニコニコしながら一人で立っていた。
その特徴的な顔の知り合いは一人しかいない。
マリーの一件で共に戦ったマリーの友達、ゲッケ。
「やあ、皆さんお揃いで!」
「おお、ゲッケか!久しぶりっちゃ久しぶりだな。こんなところで何やってんだ?」
「実はそこのコウキはんに用があってな。出来れば二人っきりで話したいんやけど、良いかな?」
「え、あ、その……うん。いいよ」
「そう言う事なら、俺たちは邪魔だろうし、先に帰っとくよ。またな、二人とも!」
それだけ告げると、アリウムたちは軽く挨拶を済ませ、その場から立ち去った。
出来る事なら、アリウムたちにいてほしかったが、ゲッケが二人が良いなら仕方がない。
実の所、俺はそこまでゲッケと仲が良くない。
いや、仲が良くないというのは少し違うか。正しくは殆ど話したことがないだ。
マリーの一件で、ゲッケと一緒になる事は度々あったが、俺がコミュ症というのと、ゲッケ自体が基本マリーとしか話さないというのがあり、話す機会が少なかったのだ。
そのせいで、今もゲッケに対してはコミュ症を発揮してしまい、上手く話すことが出来ない。
しかし、殆ど話したことがないというのに、ゲッケは何用で俺へ会いに来たのだろうか。
俺がゲッケに対して何かをする機会は無かったし、俺が謝るようなことはしてないと思う。
関わった時期から考えて、恐らくマリーの一件に関する事の可能性が高い。
まあ、それが分かったとしても、何用かは見当が付かないな。
「いやー、すまんな、急に呼び止めて。そこまで話したりもしてへんし、驚いたやろ」
「……え、あ、それはまあ。…………そうです」
「やっぱかー、すまんな!それでな、コウキはんに大切な話が合ってなー。実は、まだコウキはんに言っていなかったことがあるんや」
「……え、い、言ってなかった事……ですか?」
「おう。そのな……ホンマにありがとう。心の底から礼を言う!」
ゲッケは荷物を地面に置くと、そう言いながら深く頭を下げた。
突然の出来事に、思わず唖然としてしまった。
礼を言うって言っていたよな。
礼って……お礼の礼だよな。
ゲッケが俺に対してお礼なんて、一体どういうことだ。
全く理解が追い付かない。
ゲッケは少しして頭を上げると、近くのベンチへ座り、独りでに話を始めた。
ゲッケ曰く、マリーはとある貴族の獣人の娘らしい。
そして、ゲッケはそのマリーに仕える執事の一人だった。
マリーの事をお嬢様と言っていたことから、何となくは分かっていたが、実際に聞くと驚きだ。
数か月前まで、マリーたちはここから遠く離れた町で、楽しく、平凡な日常を送っていたのだが、ある日、町に冒険者を育成する魔防学園のうわさが入って来た。
その町に冒険者に関する学園の情報が入ったのは初めてだったため、冒険者になりたがっていたマリーは興奮し、すぐに学園へ行けるよう、両親にお願いしたらしい。
しかし、両親は遠く離れた場所だったこともあり、一人で行かせることは流石に出来ない。
そこで、小さい頃からマリーに仕えていたゲッケが同行し、学園近くに別荘を用意することで、マリーが学園へ行くことに同意したらしい。
結果、マリーとゲッケは学園に入学し、学園生活を送ることになったらしいのだが、そこで一つの問題が起こった。
それがマリーいじめの一件だ。
古くから一緒にいた、大切なお嬢様であるマリーを傷つけられ、ゲッケははらわたが煮えくり返るほどの怒りが芽生え、すぐさまいじめっ子へ報復へ行こうとした。
だが、マリーはそれを良しとしなかった。
いじめの事をそこまで重く考えていなかったというのもあるだろう。
しかし、一番の理由はゲッケが傷つく可能性があったからだ。
報復するとなると、ゲッケも多少傷を負うのは目に見えていた。
マリーは心優しい美少女だ。
執事だろうが、自分のために傷つくのを、見たくなかったのだ。
自分の周りの人が傷つくくらいなら、自分がいじめられたままで良いとでも考えたのだろう。
何度ゲッケがマリーを説得しようが、決して報復を許してはくれなかったらしい。
そんな時、リアトリスたちから、団体戦の話が来た。
マリーは受けようとしなかったが、様々な手を使い、マリーを説得し、団体戦を受けさせることに成功した。
団体戦のメンバーの問題があったが、ムクゲの一件で、間接的にマリーを助けた俺たちにならお願いできるのではと思い、俺たちに声をかけたらしい。
その後、俺たちと話し、マリーも積極的になっていき、団体戦で打ち勝ち、マリー自身の手でいじめを終わらせることとなった。
「……せやから、コウキはんには感謝してるんや。もし、コウキはんが居なければ、多分いじめも無くなってなかった。ホンマに、ありがとう!」
「……い、いや、その……いいよ。べ、別に俺たちがしたくてしたことだし……さ。頑張ったのはゲッケの方だと思うぞ。……その、気にしないで、頭を上げてくれ」
「コウキはん……これは一生もんの恩や。これから、どんな手を使ってでも、この恩は返す。これは約束や。時間は掛かるかもしれんが、絶対に恩は返すから待っててくれ!」
「……わ、分かった」
「よし、約束や!」
ゲッケは勢いよく立ち上がり、軽く背を伸ばした。
話したい事をすべて話せたからなのか、少しスッキリした様に見える。
「それじゃあ、話したい事も話せたし、ワイは行くな。時間とって悪かったな!じゃあな!」
それだけ言うと、嵐の様にどこかへ走り去った。
一人取り残された俺は、少し休んだのち、酒場へと歩き始める。
そこまで話した事がなかったから分からなかったが、ゲッケは想像以上にマリーを大切にしている、良い奴だったんだな。
執事とはいえ、あそこまでお嬢様のために頑張れるのは凄いと思う。
それに、マリーもマリーで良い奴過ぎる。
マリー自身、いじめをそこまで重く考えていなかったのは少しあると思うが、それでも辛かったと思う。
辛くなければ、リアトリスたちと話していた時に、あんな顔はしない。
それでも、ゲッケたちを巻き込まないために、平気なふりをして、耐えていたんだろう。
本当に……凄い奴だ。
俺もゲッケやマリーみたいに、少しでも良い人になりたいな。
そんなことを思いながら、酒場へと足を進めていく。
もう少し……もう少しで……




