敗北を知り、コミュ症は覚悟を決める。①
何もない真っ暗な空間。
その中で、永遠と男の言葉が繰り返される。
弱く、馬鹿で、救いようがない。
その言葉が繰り返されるたび、心を張り裂けそうな痛みが襲い、狂ってしまいそうになる。
耳を塞ぎ、言葉が聞こえないよう努力するが、言葉が消える事はなく、永遠に耳に入ってくる。
幾度となく繰り返されるその言葉が、数十回繰り返された頃。
真っ暗な空間が少しずつ明るくなっていき、そこで俺は目を覚ました。
最悪の気分で目覚めた俺は、吐き気を催しながらも、周りを見渡してみる。
そこは一つの窓が取りつけられており、ベッドと机が置かれている。
この世界に来てから何度も見てきた、俺の部屋だ。
男に倒されてからの記憶が全くない。
ぼんやりとする頭を働かせるが状況が読み込めず、とりあえず廊下へ出る事にした。
外に出れば、少しくらい状況が理解できるだろう。
鉛の様に重く、だるい体をなんとか動かし、扉に手を掛けようとした所で、独りでに扉が開いた。
驚きながら顔を上げると、扉の向こうにはユリが一人立っていた。
どうやら、扉を開けたのはユリだったようだ。
「あ、コウキくん!起きたんだ……良かった!とりあえず、ベッドに戻って!まだ怪我戻ってないんだから!」
そう言われ、ユリに体を支えられながら、俺は元いたベッドへと戻り、
半強制的に暖かい毛布の中へ戻された。
「えっと……ここは酒場だよ……ね。……記憶があいまいなんだけど、一体なにがあって、どうなったの?学園は今どうなってるの?」
俺が尋ねると、ユリは深刻な顔をしながら、ゆっくりと口を開いた。
話をまとめるとこうだ。
突然現れたテロリスト集団に、当然万全な状態で対抗することは出来ず、学園は半壊状態。
授業でダンジョンへ入っていた生徒や、常時教師といた生徒を除いて、多くの生徒が怪我を負い、人によっては命にかかわるような大怪我を負った生徒もいたようだ。
教師に至っては、テロリストの一員と戦闘した大多数の教師が重傷で、一時は危険な状態だった人が大半を占めていたらしい。
しかし、学園の医療技術の高さにより、何とか一命を取り止め、全ての教師生徒から死人は一人も出なかったようだ。
建物はボロボロだが、死人が出なかったのは本当に良かった。
そして、俺の事を助けてくれたのはマリーだったらしい。
避難途中のマリーが倒れている俺を見つけ、医療所まで連れて行ったとのことだ。
信じられないほどの重症で、本当なら死んでいてもおかしくなかったが、マリーがとっさの判断で医療向けのパワーキャンディーを無理やり舐めさせ、俺たちの生命力を上げたことにより、助かったらしい。
実質的に、マリーは俺たちの命の恩人のようだ。
後でしっかり礼を言って、何かで返しておきたいな。
その後についてだが、テロリスト集団は数十分間、学園を攻め続け、学園を完全崩壊一歩手前まで追い込んだらしいが、あと一歩のところでテロリスト集団は撤退を余儀なくされたらしい。
モモ校長先生が学園に帰って来たのだ。
学園から緊急で連絡が入ったらしく、モモ校長は学園を守るため、全速力で帰って来たらしい。
モモ校長は誰が見ても思うほどに最強だ。
流石にモモ校長相手では、テロリスト集団も敵わないと分かっていたようだ。
テロリスト集団が徹底した後は、モモ校長を中心に生徒の捜索、怪我人の処置などを行っていき、何とか被害を抑えられたらしい。
今は怪我人の処置などを終え、学園の復興を行っている最中のようだ。
しかし、何より驚きなのはあの日から三日も過ぎているという事だ。
俺はあの日から三日間も眠っていたらしく、その間はユリたちに怪我を見てもらっていたらしい。
ユリたちには助けてもらってばかりだと、しみじみと感じる。
ちなみに、この世界の医療技術のお陰で、俺の怪我はこの三日間でほぼかすり傷となるまで治ったらしい。
今じゃ痛みはほとんどなく、特にひどいのは体の重さと、だるさ位だ。
ユリから聞いた話をまとめると、こんな感じだろうか。
「……とりあえず、三日間いろいろとありがとう。本当に……ユリたちには助けられてばかりだよ」
「何言ってるの、助けられてるのは私たちだよ!三日前だって、ムクゲの前からコウキくんが逃がしてくれたんじゃん!」
「いや……別にだよ。……今となっては、正しかったか分からないしさ…………」
本当に、今となってはあの行動が正しかったのか分からない。
あの時、もしみんなと戦っていたら、どうなっていたんだろうか。
……今になって思えば、あの男が言っていたことは本当だ。
あの男の言う通り、俺は弱くてどうしようもない男だ。
それなのに、馬鹿な俺は勘違いしてしまった。
俺はきっと、心の底では思っていたのだ。
自分は特別で、力があり、強い奴なのだと。
グレイムに勝ち、ムクゲに勝ち、調子に乗り、そう勘違いしてしまっていたんだ。
しかし、現実は全く違った。
男が言うような、最低な奴だったんだ
俺は弱く、馬鹿で、救いようのない奴だった。
ユリやアリウムたちに死ぬほど助けられたのに、自分が危険な目に合えば、そんなユリたちよりも自分の安全を求め、生を懇願する。
今思えば、あの時俺の心の中に、ユリたちの存在は全くなかった。
男の言う通り、きっと俺は自分が大切なだけなんだ。
……すべてが嫌になってくる。
結局、俺は何一つ変わっていなかった。
前世と変わらず、どうしようもない奴だった。
「……コウキくん、大丈夫?顔色悪いけど……」
「いや……大丈夫だよ。……ただ、俺が弱くて、どうしようもない奴ってことを再認識しただけだからさ……」
「え、何言ってるの?……何があったかは分からないけど、そんなことないよ。コウキくんは強くて、私たちだって何度も助けてもらったよ。コウキくんは、自分で思ってるよりも強くて、勇敢で、皆のために動ける。そんな人だよ!」
「……そんなことないよ。俺は……弱い。…………救いようがない、弱者だ」
「だから違うって!コウキくんは……」
ユリが何か話しているが、全く頭に入ってこない。
何を言おうが、今俺の頭の中にあるのは、あの男の言葉と自分への劣等感だけだ。
もう良いから、ユリには出て行ってほしい。
今は一人になりたいのが、何で分からないんだ。
もう良いんだ。
もう……全部、どうでも良いんだ。
俺が弱くて、馬鹿で、救いようのない奴。
それでいいじゃないか。
もう俺をほっといてくれ……。
全てを知り、俺は全てが嫌になっていた。
そんな時、再び部屋の扉が開いた。
「……え、ロメリア先生!」
ユリの声を聞き、ゆっくり扉の方を見てみると、そこに立っていたのはロメリア先生だった。




