自分で思っている周りの気持ちと、周りが思っている周りの気持ちは違うのかもしれない。
『す、すげえ……』
マリーの家以上の豪邸を目の当たりにした俺とアリウムは、思わずそう呟いた。
団体戦から数日後。
俺とアリウム、ユリとカンナはムクゲの家族が住んでいる、豪邸へと足を運んでいた。
その理由は、ムクゲの家族から、招待を受けたからである。
何でもムクゲの一件のお詫びと、大切な話をしたいとのことで、あの事件に深くかかわった俺たちを招待したらしい。
話を聞いたときは、その怪しさもあり、断ろうとした。
しかし、執事がご馳走を用意していると伝えると、カンナがご馳走につられ、行きたいと言って聞かなくなった。
最終的に招待を受ける事になったのだ。
それにしても、凄い豪邸だ。
マリーの家も豪勢だったが、ここはそれ以上だ。
よく分からない銅像は大量にあるし、不思議な植物が綺麗に整列して生えている。
あまりの豪勢さに圧倒されながら、俺たちは執事の指示に従い、豪邸へ入って行く。
豪邸内は想像以上に広く、至る所に芸術品が飾ってある。
床には赤いカーペットが敷かれており、金持ちの雰囲気を醸し出している。
執事について行っていると、一つの巨大な部屋へ到着した。
部屋の中心には長いテーブルに、背もたれが長い椅子が置かれている。
テーブルには次々に料理が運ばれている最中で、どれもこれも美味しそうだ。
「旦那様はまだ来られていないようなので、みなさま先に席へお付きください。そこの料理は全て客人である皆様への料理ですので、ご自由にお食べください」
それだけ告げると、執事は軽く会釈をしたのち、部屋を出て行った。
ムクゲの家族を呼びに行ったのだろうか
しかし、こんな状況で料理を出されても、口をつける気にはならない。
ムクゲの話が本当なら、今から来る人たちはそれなりに酷い人たちだ。
そんな人たちが出した料理。
何か変な物が入っていないとは言い切れな……。
「何これおいしい!皆も食べてみなよ!マリーが作ったのと同じくらい美味しい料理だよ!」
どうやら、すでにカンナは料理に口をつけているようだ。
カンナには警戒心という物が存在しないのだろうか。
だが、しばらくしても異常はなさそうだし、料理自体には何も入っていないようだ。
それなら、俺も料理を食べるとしよう。
どれも良い匂いがして、美味しそう。
どれから食べようか、悩ましいな。
そう思っていると、俺が料理に口をつける直前。
しまっていた扉が開き、白髪で眼鏡を付けた男性と、水色の髪をしている女性が部屋へと入って来た。
その後ろには、執事がひっそりとついて歩いている。
その様子から考えるに、この二人がムクゲの家族。
俺たちをここへ呼んだ張本人で間違いなさそうだ。
二人は俺たち一人一人の顔を確認すると、ゆっくりと口を開いた。
「……君がコウキくんで、君がアリウムくん。そして、君がユリさんで……そっちの君は?話では三人のはずだが」
「あ、うちはカンナです。一応事件にかかわってるので、お願いして一緒に来させていただきました!」
「そうだったのか。こちらの伝達ミスだ、すまなかったね。……さて、悪いが私はせっかちなんでね、早速本題に入ろうか」
そう言うと、男は眼鏡を取り、両膝を地面についた。
同じようにして、隣にいた女も両膝を地面についた。
そして、こちらを鋭い目つきで見ると、両手を地面に着き、頭を深く下げた。
「この度は、誠に申し訳なかった!全責任はムクゲと私たちにある!本当に……本当にすまなかった!」
突然の土下座と謝罪に、俺たちは驚き、誰一人として、一言も発することが出来なかった。
しばらく静寂が続いたのち、ゆっくりとアリウムが口を開いた。
「い、いや、頭を上げてくださいよ!急にどうしたんですか!一旦落ち着いてください!」
「あんな事件が起こったのには私たちの責任もあるんだ!本当に、すまない!」
「だから、一回頭を上げて!」
俺たちは動揺しながらも、夫婦を落ち着かせ、
謝るのを辞めない夫婦たちを椅子に座らせることに成功した。
落ち着いた夫婦は俺たちの心情を悟ったのか、
一度水を飲み、冷静になったのち、改めて口を開いた。
「取り乱してしまい、すまなかった。何とか謝らないとと思ってしまってな。……私はムクゲの父で、こっちが私の妻だ。今回は、ムクゲが本当に酷い事をした。本当にすまない!」
「え、いや、まあ、はい。……そ、そんな謝らないでくださいよ」
……何と言うか、ムクゲから聞いていた印象と大分違う。
貴族じゃない人間に負けただけで、馬鹿にし、蔑み、見放すような人たちだと聞いていた。
その話からして、貴族が一番とか考えているような、最低な奴らだと思っていた。
それがどうした事か。
貴族でも何でもない俺たちをご馳走でもてなし、息子であるムクゲがやった事なのにもかかわらず、自分がやった事の様に、何度も何度も謝る。
それも、土下座でだ。
想像していた人間と、真逆の人間だ。
本当にこの二人が、話に合った両親なのか?
「……反応からして、ムクゲから私たちの話を聞いたことがあるのだろうが、恐らくそれは間違った人間像だ」
「間違った人間像?」
「ああ、ムクゲには、昔から周囲の言動を自分にとって悪いように考えてしまう癖があってな。……入学試験以降、どうやら私たちや周囲の人間が、ムクゲ自身を馬鹿にしていると思ってしまったようなんだ。実際の所、私たち含め、大半の人間はそんな事は思っていなかった。私たちはなんとかムクゲと話をしようとしたのだが、上手くいかず、ムクゲは例の事件を引き起こすことになってしまった。……だから、君たちが危険な目にあったのは、私たちがムクゲとしっかり話すことが出来ていなかったからなんだ。本当にすまない!」
なるほど、何となく分かった。
ムクゲは周りの言葉を悲観的に考えてしまう性格のようだ。
そのせいで、友達や両親が馬鹿にしてきているように感じ、全てが嫌になってしまった。
両親はムクゲと話し合いをしようとしたが、馬鹿にしてきていると感じたムクゲは、話し合いを拒否。
自らが拒否したのにもかかわらず、両親が見放したと勝手に考えた。
様々な不満や、悔しさなどが積もった末、事件を引き起こしてしまった。
大体こんな感じか。
話を聞いた感じは、両親はほとんど悪くない。
フォローしようと頑張っている所を考えるに、子供思いの良い親なのだろう。
「……ムクゲのお父さんは何も悪くないですよ。だから、謝らないでください。私たちは無事ですし、結果的には取り返しのつかないほどの大事件にはならなかったんですから」
「ユリさん……ありがとう。でも、私たちにも問題があるんだ。だから、謝らさせてくれ。…………そして、君たちに言わなくてはならないことがある。実は、騎士団に捕まっていたムクゲが、つい先日脱走したんだ」
「……え、脱走?」
脱走。つまり、騎士団から逃げ出したってことだよな。
それって、相当やばい事なんじゃないのか。
何やかんや言っても、ムクゲは事件で多くの人たちを傷つけている。
傍から見たら、危険な人物だ。
そんな人が、脱走した。
前世の世界で言えば、銀行強盗をした極悪犯が、刑務所から脱走したような物。
相当危険な状況じゃないか。
あれ、待てよ。
よく考えなくとも、俺相当やばいんじゃないのか。
ムクゲを倒して、計画を止めたのは俺とアリウムだ。
さらに、俺は入学試験での因縁の様な物もある。
もし、脱走したムクゲが復讐なんかを考えていたなら、
間違いなく一番最初に狙われるのは俺だ。
冷静に考えたら、もの凄く焦って来た。
これって、俺は大丈夫なのだろうか。
「……全力で捜索は行われているから、すぐにまた捕まることになるだろう。だが、その前に君たちの前に現れる可能性があるから、気を付けてほしいんだ。特に、コウキくんとは因縁があるみたいだから、現れる可能性が特に高い。君は強いだろうから、心配いらないだろうが、十分気を付けてくれ。……そして、もし、もし君の前に現れて、話す余裕があるなら、ムクゲに伝えてほしいことがあるんだ」
「……つ、伝えてほしい事ですか」
「……私たちはお前の両親だ。お前がどんなことをしようが、私たちだけは絶対にお前の味方であり続ける。何があってもだ。……だから、一度一緒に話をしようと。……そう、伝えてくれ」
「わ、分かりました。もし機会があれば、必ず伝えます」
「余裕があったらで良いから、頼む。……今一度、君たちを危険な目に合わせてしまって済まない。今日はお詫びとして、出来る限り楽しんで行ってくれ。執事、最高級のもてなしを!」
ムクゲのお父さんがそう言うと、執事が何かの合図を出した。
すると、扉を開け、大勢の楽器を持った人たちが部屋へと入って来る。
その人たちは部屋に入るなり、楽器をセットし、滑らかな動きで演奏を始めた。
以前漫画で見たことがある。
金持ちの人たちが食事をする時、オーケストラのような人たちが演奏をしてくれることがあるとか。
実際に俺自身がやられてみると、凄いお金持ちになった気分になってくる。
そう思いながら、俺たちはご馳走を食べ続ける。
それから、俺たちはご馳走をしっかりと平らげ、楽しい時間を過ごしたのち、豪邸を後にした。
その後、特に何かあるわけでもなく、なんの事件もないまま、俺はいつも通りベットへ入った。
ムクゲが行方不明か。
マリーの件が片付いて、少しはゆったりとした日々になると思っていたが、一難去ってまた一難だな。
ムクゲは俺に恨みがあるだろうし、関わらずに済むわけがない。
脱走したって、いつかは捕まる。
それなのに、ムクゲは一体何を考えているのだろうか。
そもそもとして今はどこにいるのだろうか。
分からないことだらけだし、気になることだらけだ。
まあ、そのうち分かる……か…………。
そして、この日も眠りについた。
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