いくら強くても、変態と秀才の前には無力なのである。
「あー、もう、どうなってんの!」
疲れ果てたカンナが、私の横でそう叫んだ。
モヒカンの人たちと戦いを始めて、数分後。
私たちは、モヒカンの人たちに一撃も入れられずにいた。
相手が強くて、攻撃する隙がないとか、相手が早くて攻撃が当たらないとか、別にそう言うわけじゃない。
攻撃されているわけでもないし、避けられているわけでもない。
ただ、何故か私たちの攻撃が当たらない。
カンナが攻撃しようとすると、足を滑らせて、転んでしまい、
私が攻撃しようとすると、風がモヒカンの人たちを何故か避けていく。
ふざけてるわけでもないし、手を抜いてるわけでもない。
私たちは本気で戦っている。
それなのに、当たらない。
本当に、意味が分からない。
「ふんふーん。なんで当たらないか気になるかー?しょーがないなー、そこまで言うなら、教えてあげるよ!俺様の力はラッキー!ただひたすらに、ラッキーである力だ!」
「ラッキー?えーと、運が凄く良いってこと?」
「凄くなんてもんじゃないぞ!超絶凄くだ!俺様のラッキーにかかれば、お前らは俺に触れる事すら出来ないのだ!つまり、最強の防御と言っても過言じゃない!さらに、俺様の隣にいる金髪で無口女!この女は最強の攻撃を持っている!行け!その力をあいつらに見せてやれ!」
モヒカンがそんなことを言うと、金髪の女の子はモヒカンの頭を叩いたのち、ゆっくりと前へ出てきた。
金髪の子は、上を向いたと思うと、巨大な叫び声をあげた。
あまりの大きさと、迫力に圧倒されていると、
いつの間にか、その子の目が赤色に染まっているのに気が付いた。
いや、それだけじゃない。
さっきよりもガタイが良くなっていて、髪も伸びている。
歯や爪も伸びていて、その見た目は猛獣のようにも見えてくる。
金髪の子は叫ぶのをやめたかと思うと。
ゆっくりと、私たちの方を向いた。
次の瞬間。
私の横にいたはずのカンナが突風とともに、姿を消した。
その代わりに、カンナがいた所には金髪の子が一人立っていた。
突然の事に動揺しながら、私は風で壁を作る。
が、その壁を突き抜け、金髪の子の右腕の一撃が、私に炸裂した。
私は抵抗することが出来ず、元いた場所の数メートル先に殴り飛ばされた。
体中に激痛が走っている。
風で作った盾と、風で作ったクッションのお陰で、ダメージは最小限に抑えられたはず。
それなのに、このダメージ。
体がしびれて、上手く起き上がれない。
少し先に、カンナが壁に寄りかかり、倒れているのが見える。
どうやら、カンナも金髪の子に殴り飛ばされたみたいだ。
相当身体能力を上げているカンナでさえ、反応出来ずに大ダメージを受けているみたい。
カンナを超える程の身体能力……あの子、相当強い。
「はっはっはー!どうだ!彼女の異名はバーサーカー!その名の通り、理性を失う代わりに、とんでもない力を得る力だ!普通なら、理性を失うと仲間も攻撃しちまう!だが、俺のラッキーがあれば、俺に攻撃することはないのだ!ラッキーだからな!」
暴走する代わりに、カンナ以上の力を得る力か。
普通なら団体戦には向かないけど、モヒカンの人のラッキーなら、話は別。
運がいいおかげで、攻撃されないから、一緒に戦うことが出来る。
これは、厄介。
状況を把握しながら、なんとか立ち上がり、私はカンナへ近づいて行く
「……カンナ、大丈夫?」
「なんとかー……。あの子力強すぎでしょ。全力でガードしたのに、吹き飛ばされたよ!モヒカンの力も厄介だけど、あの子の力も厄介だねー。……して、ユリよ。何か作戦があるんでしょ?」
「モヒカンの人を倒す手段はもう浮かんでるけど、金髪の子を倒す手段は考え中かな」
「おー、モヒカンの方は浮かんでるんだ。流石ユリ!……それじゃあ、金髪の方はうちに任せてもらおうかな。あの指輪を使って、ぶっ倒してあげるよ!」
あの指輪か。
カンナが言ってるのは、この数日間で手に入れた、
カンナの新しい力の事だと思うけど、大丈夫なのかな?
まだ完全には使いこなせてないし、暴走する可能性もある。
暴走する可能性は確か五分五分。
そんな状態で新しい力を使うのなら、他の作戦を考えた方が良いんじゃ……。
「ユリ、大丈夫だよ!だって、うちだよ!長い間一緒にいたんだから、うちが凄いことは、ユリが一番良く分かってるでしょ!」
「……うん、そうだね!それじゃあ、金髪の子はカンナに任せるよ!モヒカンの人は、私に任せて!」
「よし、それじゃあ、やりますか!」
そう言うと、カンナはポケットの中から、一つの指輪を取り出した。
カンナは勢いよく、自らの指へ指輪をはめた。
その次の瞬間。
カンナを覆っている、カンナの力の大きさを示す、
ピンク色のオーラが、一気に大きく膨れ上がった。
ピンク色で、赤い宝石がはめ込まれている指輪。
以前、店主の店という店でカンナが買った、興奮の指輪と呼ばれる指輪だ。
その指輪は装着者に、周囲の視線が強くなったように感じさせる力を持っている。
そして、カンナの力は、興奮すると身体能力が上がる力。
加えて、カンナは他人に見られたり、酷い事を言われたりすると興奮する、ちょっと変わった性格をしている。
つまり、周囲の視線が興奮するカンナにとって、興奮の指輪程適したアクセサリーはない。
指輪を付けると、視線が強くなり、凄い興奮する。
凄い興奮することによって、さらに身体能力を上げることが出来る。
だけど、この指輪にも問題はある。
この指輪はあまりに視線を強く感じすぎるため、普通の人は耐えきれず、気を失ってしまうことが多々あるらしいのだ。
実験で何度か試していたけど、カンナでさえ、二回に一回は気を失ってしまっていた。
それに加えて、あまりにも急激に身体能力が上昇するせいで、力を制御し切れない一面もある。
成功するかどうかは、本当に五分五分。
と言うか、どちらかと言えば、失敗する可能性の方が高いかもしれない。
今カンナを覆っているオーラは、かつて見たことがないほどに、大きく膨れ上がっている。
これは……どっちなんだろう。
力を制御できているのか、それとも暴走しかけてるのか。
「……カンナ、大丈夫?」
「…………ユリ。……何て言うか……最高に興奮してる!今なら、誰にも負ける気がしない!とりあえず、あの金髪の方、倒してくる!」
カンナはそう言って笑った。
そして、金髪の子を見ながら、ゆっくりと歩き始めた。
あの顔は……間違いなく、成功している。
何度も実験を見てきたから分かる。
あれは、力を制御できている時の顔だ。
だけど、状態を見るに、長くは持たなそう。
勝負は、すぐに決まる。
カンナがある程度近づくと、金髪の子は足に力を入れ、全力で地面を蹴る。
その勢いを利用し、カンナへと急接近する。
そして、右手を振り下ろし、カンナを潰しにかかる。
が、カンナはその攻撃を軽々と片手で止め、
もう片方の手で、金髪の子を殴る。
金髪の子はもろに一撃を喰らうが、それでも耐え、反撃の一撃を繰り出す。
しかし、カンナはそれすらも片手で止め、金髪の子を吹き飛ばす。
その直後、追い打ちをしようと、カンナは駆け出した。
そして、カンナの拳と金髪の子の拳が衝突する。
そこからは、単純な殴り合いが始まった。
殴って殴られての繰り返し。
あまりの迫力に、私もモヒカンも近づくことが出来ない。
数十秒間殴り合った所で、限界が来たようだ。
金髪の子一度引こうと、一歩足を下げた。
その次の瞬間。
そうするのを待っていたのかのように、
流れるような動きで、カンナは金髪の子に急接近した。
「くらえ!おりゃあああああああああ!」
そう叫びながら、カンナの一撃が金髪の子の腹部へと炸裂した。
突然の急接近に動揺した金髪の子は、その一撃に対応することが出来ず、
そのまま軽々と殴り飛ばされた。
金髪の子はそのまま壁に衝突し、動かなくなった。
変化が解けている所を見ると、気を失っているみたいだ。
「……う、うそだろ。……あ、あいつがやられるなんて…………」
金髪の子が負けるのを想像もしていなかったのか、
モヒカンは相当衝撃を受けているように見える。
さて、カンナが勝ったことだし、私もやるか。
私は、こっそりと風を凝縮し、モヒカンの後ろへ配置しておく。
その後、今度は派手に、大量の風をまとめ、空に浮く風の槍を作っていく。
「……ま、まあいいさ!どれだけお前らが攻撃しようと、絶対に俺に攻撃は当たらない!俺様のラッキーの前には、何者も無力なのだ!」
「そうとも限らないよ。悪いけど、あなたの力の攻略法は、もう見つけてるの」
「あー?攻略法ー?いいぜ、やってみろよ!その空飛ぶ槍でなんかするのか?」
「まあ、そうかな!」
そう言いながら、私は作った全ての槍をモヒカンへと放つ。
風の槍は全速力でモヒカンへと向かって行く。
最初は何の変化もなく向かって行っていた。
しかし、モヒカンに当たる直前、
全ての槍がモヒカンを避けるかのように、外れてしまう。
やっぱり、真正面からの戦いでは、相手に分があるみたい。
相当強く風をまとめているのにもかかわらず、簡単に外されている所を見るに、
ただ単に火力を上げるだけじゃ、あの力は攻略できそうにない。
となると、やっぱりあの作戦で行くしかないかな。
「おいおい、どうした?攻略法を見つけてるんじゃないのか?」
「まあ、見ててよ。行くよ……ウィンドボール!」
そう叫ぶと、付近の風が私の頭上へと集まりだした。
頭上へ風は一気に形を作っていき、巨大な風の球体を作り出した。
私は球体を作り終えると、剣身がない剣を取り出し、
風で剣身の部分を作る。
よし、これで準備は整った。
これならいける。
私は、準備が整うと同時に、片手を高く上げた。
そして、全力で片手を下ろし、頭上の風の球体を放つ。
風の球体は地面を破壊しながら、一直線にモヒカンへと向かって行く。
その後を追い、私もモヒカンへと走る。
これは私の完全なる予想。
恐らく、あのモヒカンの人のラッキーは、
モヒカンの人が意識している物質や、生物にしか発動しない。
数時間前の、酒場での出来事。
カンナがモヒカンの人を蹴り飛ばした時、
モヒカンのラッキーは働くことなく、モヒカンの人は簡単に蹴り飛ばされた。
これまでの言動や行動から見るに、あのモヒカンの人がカンナに蹴られることを許すとは思えない。
だから、普通ならラッキーでカンナの攻撃を避けていたはず。
それなのに、モヒカンの人はそれをしなかった。
力を発動しないようにしてた可能性もあるけど、
モヒカンの人は自分の力を自身に思ってるみたいだし、
誇りにも思っているみたいだった。
それなら、力をわざわざ発動しないでおく理由がない。
時間制限とかもあるかもしれないけど、
この長い戦闘中に時間が来ていないのはおかしい。
そうなると、時間制限の可能性は低い。
このことを考えると、カンナの蹴りにラッキーが働かなかったのはおかしい。
何で働かったのか。
それは、意識外の攻撃だったから。
それが一番理由としてあり得る。
それなら、私も意識外からの攻撃をすればいいだけ。
「……良く分かんないけどよお!どれだけ、大きな攻撃でも、俺のラッキーの前には無力!」
モヒカンがそう言うと、風の球体は不思議な力が働いたかのように、
モヒカンを避け、空高く飛んで行った。
その様子を見たモヒカンの人は、勝ち誇ったような顔をしている。
だけど、これは私の予想通りだ。
今、モヒカンの意識は完全に私に向いている。
となれば……。
「意識外の後ろからの攻撃は、必ず当たるよね?」
私は、事前にモヒカンの後ろに配置しておいた、風が凝縮されたものを発動する。
凝縮されたものは、全速力でモヒカンの足へと向かって行き、
物の数秒でモヒカンの足へと衝突した。
突然の攻撃に反応できる事もなく、
足を攻撃されたモヒカンは、頭から後ろへと倒れこんだ。
予想通り。
意識外の攻撃に、ラッキーは発動しない。
そして、あまりにも突然の出来事に、
モヒカンの人の意識は、足を襲った何かに、完全に向いているはず。
つまり……。
「私の攻撃にラッキーは発動しない!くらえ!」
そう叫びながら、私は風の剣を振り下ろす。
当然、モヒカンは反応し切れず、風の剣にラッキーが働くこともなく、
風の剣はモヒカンへと炸裂した。
攻撃を受けたモヒカンは、風の勢いに吹き飛ばされ、
地面に叩きつけられたのち、完全に気絶した。
その様子を見ると、疲れて座っていたカンナが走って抱き着いてきた。
「ユリー!勝ったねー!やったよー!」
「うん、やったね!少し休んでから、旗は持ってこうか!」
「うん、そうだね!そういえば、他のみんなは勝ってるかな?」
「きっと大丈夫だよ!コウキくんも、グリシアさんも強いから!」
そうだよね、コウキくん。
次回、主人公VS牛?
少しでも面白ければ、ブクマか評価してくださると幸いです!




