祭りの始まりは、問題だらけである。①
「……ついに来たか」
起きると同時に、俺はそう呟いた。
今日は、団体戦がある、花火大会当日。
ここ数日間の全ての努力が試される日だ。
……行きたくねえ。
団体戦は昼からなのにもかかわらず、今から超絶緊張している。
俺のせいで負けたらと思うと、怖くて気分が落ち込む。
もし、これで完全敗北して、努力がすべて無駄になったりしたら、俺はもう二度と立ち直れないだろうし……。
本当なら、仮病でも使って休んでやりたい。
……前世の俺なら、本当に仮病を使って、休んでいただろうな。
嫌な事からは逃げて、言い訳をし、逃げた自分を正当化する。
それが前世の俺のやり方だった。
だが、今の俺は前世の俺とは違う。
行きたくないし、休みたい。
それでも、俺は行かないとならないんだ。
今の俺には、それなりに背負ってる者がある。
今の俺には、逃げちゃならない理由がある。
だから、俺は行かなければならない。
俺は自分の頬を叩き、気合を入れる。
そして、着替え、必要な物を持ったのち、部屋のドアを開けた。
いつもの様に、一階へ降りると、
まだ朝なのにも関わらず、酔った客で溢れかえっていた。
何事かと思いながらキッチンを見てみると、お姉さんやユリが大忙しに作業をしていた。
「えっと……おはようございます。これって……何の騒ぎなんですか?」
「あ、ちょうどいい所に来たね!光輝も少しは暇でしょ!エプロン着て、ホールで何とかしておいて!」
良く分からないが、手伝った方が良いというのだけは分かる。
そう思い、言われた通りにエプロンを着け、ホールへと出て行く。
やっぱり、凄い客の数だ。
いつもの倍以上の客が入っている。
もしかして、花火大会と関係があるのだろうか。
そう考えていると、どこかから聞き覚えのある声が聞こえた。
「お、兄ちゃん!今日は兄ちゃんも働いとるんか!」
「あ、ハゲさんにアフロさん。おはようございます。……その、何でこんなに客が多いんですかね?いつもの倍以上いますけど」
「そんなの決まってるらろー。今日は年に一度の花火大会ららららー。花火大会はこの街で、一番大きら祭りれらー。朝らら晩られ、一切仕事をせず、騒ぐことが許られる日なんらー。この日だけは、女房にもなんも言われらいらら、騒ぐしかなくてー。楽しくて―。祭りらー」
飲み過ぎているせいか、アフロさんはろれつが全く回っていないな。
だが、大体は理解できた。
俺が想像している以上に、花火大会は大きな祭りだったようだ。
あれ、待てよ。
そんな大きな祭りのチラシに、大きく書かれていた団体戦って、
もしかして、相当大きいイベントなんじゃ……。
となると、多くの人が見に来たりして……。
……今は考えないでおこう。
そんなことを思いながら、次々に入ってくる客をさばき始める。
数十分間、案内したり、注文したりを繰り返すが、
少しでもキリが付く気配は一切しない。
流石にここまで動きっぱなしなのは初めてだ。
最近は酒場のバイトにも慣れてきて、多少なりとも普通に働けるようになったが、ここまでの長時間労働となれば、話は別だ。
流石に疲労感が出てくる。
そんな時だった。
「おい、遅えよ!酒はまだか!」
突如聞こえた怒鳴り声に、驚きながら声のした方を見てみる。
そこには珍しすぎるモヒカンをした、おっさん顔の男がユリともめていた。
「申し訳ございません。今準備していますので、少々お待ちください」
「あー?待てねえよ!俺はお客様だぞ!お客様は神様なんだよ!神様を待たせるなんて、どうかしてるんじゃねえか?」
あれはどっからどう見たって迷惑客だな。
真っ赤な顔からして、相当酔っている。
酔っている迷惑客程厄介な客はいない。
ユリは大丈夫だろうか。
そう思い、ユリの顔をのぞいてみると、
ユリは少し怖い顔をしていた。
以前のダンジョン攻略でグリシアに見せたのと同じような顔。
うん、これは大丈夫そうだな。
あの顔の時のユリは、凄いからな。
「申し訳ございません。本当にもう少しなので、少しだけ待っていただけませんか?……それと、他のお客様の迷惑になりますので、もう少しお静かにお願いします」
ユリが少し強く言うと、モヒカンの客は、より強く言い返す。
「待てねえっつってんだろ!悪いが、静かにも出来ねえよ!静かにしてほしいなら、酒持ってこいや!」
「……お客様、静かにしていただけないようでしたら、こちらもそれ相応の対応を取らせていただきます」
ユリがそう言った次の瞬間。
突如酒場の入り口の方から何かが飛んで来た。
よく見てみると、それは人。
それも、良く見知った人だった。
その人は、モヒカンの客に衝突し、そのままモヒカンの客を吹き飛ばした。
モヒカンの客は壁に突撃し、それから動かなくなった。
「……えっと、な、なにしてるんだ…………カンナ」
「え、だって、迷惑客だったでしょ?だから、蹴り飛ばしてやっただけだよ!」
こいつまじで言ってんのか……。
確かに迷惑客だったが、それでも蹴り飛ばすなよ。
「ちょ、カンナ何やってるの!」
「え、うちがやんなくたって、ユリがやってたでしょ。凄い怖い顔してたし」
「やるとしても、軽く店の外に出すだけだよ!全く……今の人外に運ぶから、カンナ手伝って」
そう話しながら、ユリとカンナはモヒカンの客を運び始めた。
やっぱり……カンナは凄いな。いろいろな意味で。
そういえば、カンナはどうしてここに来たんだろう。
団体戦の時間まで、約束とかはしてなかったはずだが。
「いやー、凄いな、カンナ。一撃で気絶させるとは」
「ああ……え、アリウム!何でここに?」
「そんなん、店を手伝いに来たに決まってんだろ。団体戦の時間まで、俺たちも暇だったからよ。来ちゃった」
「来ちゃったって……まあ、ありがとう。助かるよ。……それじゃあ、キッチンのお姉さんにいろいろと聞いて来てくれ」
「おうよ!」
そう答えて、アリウムはキッチンへと向かって行く。
結構大変だったからな、アリウムたちが来てくれたのは、ありがたすぎる。
それから、カンナとアリウムが加わり、
何とか酒場は、いつものように回り始めた。




