想像力は無限大なのかもしれない。③
「ねーねー。なんで無視するの、マリーちゃん。わたしの話聞いてるー?」
そう言いながら、しばらく黙っているマリーへ近づいて行く。
女が目の前に来ても、マリーは黙ったままで、微動だにしない。
その様子を見た女は、より不気味に笑うと、今度は俺の方を向き、
嘗め回すように俺の体を見てきた。
何とも不気味で、気味が悪い。
しばらく俺の体を見ていた女は、マリーへ目を戻し、
再び、馬鹿にするように話し始めた。
「へー、今度はこのアホそうな男に色目を使うんだー。まあ、いいんじゃない?マリーちゃんにはお似合いだよー」
アホそうな男とは失礼だな。
確かに頭は悪いが、初対面でアホは失礼過ぎる。
「……別に、コーキもそんなんじゃないよ。……それより、何の用?団体戦までは会わないんじゃなかったの?」
「コーキも、ねえ……。別にー、ちゃんと団体戦に参加する仲間が出来たか、心配で見に来てあげたんだよー。ちゃんと仲間が出来たみたいで良かったよー。……まあ、ガリッガリで弱そうだけどー」
女がそう言うと、女と一緒に来た男女はクスクスと笑い出した。
この状況。前世で一度見たことがある。
いじめている人と、いじめられている人の構図だ。
一人か二人の主犯格が中心になっていじめ、
周りの取り巻きが、主犯格に乗って、何も考えずにいじめに加担する。
何度か見たことがある、最悪の構図だ。
状況から察するに、この女がマリーをいじめている主犯格だろう。
しかし、主犯格はマリーの元友達だったはずだ。
それが、ここまで……。
酷いとしか言いようがない。
「……勘違いしてるみたいだけど、コーキは強いよ。コーキが本調子なら、あんたら全員、瞬殺できるレベルなんだからね」
「おいおい!この俺を瞬殺?バカなこと言ってんじゃねえよ!」
そう言いながら、巨大な図体の男は俺の方へと近づいてきた。
俺の目の前に来た男は、無理やり俺の肩を組んできて、顔を近づけてくる。
ハッキリ言って、息が臭い。
「なあ、こんな坊主に俺が瞬殺できるわけないだろ!坊主もそう思うよな!」
「……え、あ、その……はい」
一瞬言い返そうと思ったが、勢いに圧倒されて、はいと言ってしまった。
何やってんだよ俺、ダサすぎる。
弱いとかそう言うレベルの話じゃないぞ……。
「ハハッ!本人が認めちゃってんじゃん!まあ、マリーの話に乗るんだから、こんなもんよねー。どうせ、他の仲間も弱くて、しょーもない奴らなんでしょー!淫乱なマリーちゃんの事だから、全員色目使って集めた、きもい奴らなんでしょうし!」
「違う!そんなんじゃ……」
マリーが反論しようとすると、
女はマリーの髪を掴み、怖い目で睨んだ。
そして、言い聞かせるように、ゆっくり話していく。
「いい?弱くて、気持ちの悪いマリーちゃんたちはわたしたちには敵わないのー。マリーちゃんも、その仲間も全員弱いんだから、いくら足掻いたって無駄ー。さっさと諦める方が身のためだよ。……そっちの男もさ、今のうちに出るのやめた方が良いよ?わたしたちは団体戦で、マリーちゃんとその仲間に、公開的に酷い事をするつもりなの。団体戦では、何をしてもいいルールだからね。……酷い目にあいたくなかったら、出ないことをお勧めするよー」
そう言うと、女はマリーの髪を離し、
取り巻きの男女の所へと歩き始めた。
それを見た巨大な図体の男も、女と同じように歩き始める。
……シンプルにムカつく。
何が敵わないだよ。
何が足掻いたって無駄だよ。
俺たちの事を何も知らないくせに、どうこう言ってくるんじゃねえよ。
俺の友達も、マリーも強いんだ。
しょうもなくないし、弱くない。
最高の奴らなんだよ。
それにだ。
マリーの事を散々言いやがって。
一体何様のつもりなんだよ。
実際の所、マリーは悪いことはしてないはずだ。
それなのに、勝手に怒り出し、勝手に嫌って、勝手にいじめて……。
弱くて、気持ちが悪いのはお前らの方だろ。
集団にならないとなんにも出来ない、クソ野郎どもが。
一人じゃ何にもできない、弱者どもが。
……だが、そんなことを思っても、口には出せない。
言ったら殴られるかもとか、そう言う自分への保身や、臆病さが勝ってしまう。
本当なら全部こいつらに言ってやりたい。
だが、あと一歩勇気が出ない。
あの女を止めて、ぶん殴ってやりたいが、足が震えて動けない。
……はあ、やっぱり、駄目だな俺は。
心の底でそう思いながら、少し顔を上げる。
すると、そこにはマリーの姿があった。
俺の目に映ったマリーは、泣いていた。
それを見た瞬間。
何かが吹っ切れたのか、考えるよりも先に、
言葉が口を衝いて出ていた。
「……おい、待てよ」
「……んー。なんか言ったー?」
「……一つ言っておく。俺は確かに弱いよ。だけど……だけど、俺の友達とマリーさんは強い。お前らよりも全然強い。俺らがお前らに敵わない?……ふざけんなよ。それはこっちのセリフだ。お前らごときが、俺たちに……俺たちに勝てると思うなよ!俺たちがお前らを叩きのめしてやる!……そして、約束しろ。もしこの戦いで俺たちが勝ったら、マリーさん謝れ。分かったか、クソ野郎が!」
「……ハハッ!いいよ!もし私たちが負けたら、土下座でも何でもしてあげるよ。……でも、負けたらどうなるか……覚えといてよね」
それだけ言うと、赤髪の女たちは帰っていった。
……やっちまったあああ!
何故か分からないが、急にいろいろと吹っ切れて、
それで、思ったこと全部言ってしまった。
感情に任せて、何も考えずに、めちゃくちゃ早口で言ってしまった。
確か、やばいこと言ってたよな。
俺たちの方が強いとか、お前らとか、勝てると思うなとか。
やばい事しか言ってないな。
これじゃあ、宣戦布告の様なものだろ。
……まあ、仕方がないか。
状況が状況だったし、どう考えたって悪いのはあいつらだしな。
逆に、言ってよかったよな。
だが、これで後に引けなくなった。
もう勝つ以外の選択肢はなくなったな。
頑張らないとだな。
あ、そう言えばマリーは大丈夫だろうか。
泣いていたし、あそこまで言われてたんだ、大丈夫じゃないわけないだろうが……。
そう思いながら、マリーの方を向いてみると、
マリーはボロボロに泣きながら、俺の方を見ていた。
「コーキ……ありがど……あだしのだめに、あんなに言ってぐれて!あたし……怖くって。言い返そうと思ったけど、何も言い返せなくて、それで、それで……」
「え、いや、お礼なんて良いよ。俺が言いたくて言っただけだしさ。いや、その、もう大丈夫だから、泣くのやめてさ」
「……うん。本当にありがと……。あ、そうだ。これあげるよ」
そう言って、マリーはバックの中から何かを取り出し、渡してきた。
マリーが渡してきた物。
それは……何の変哲もないおにぎりだった。
「……おにぎり?」
「うん。食べてみて」
何で今おにぎり?
今凄く感動的な状況だったと思うんだが……何でおにぎり?
そう思いながら、おにぎりに口をつけてみる。
一口食べると、すぐに体に異変が起こった。
心の底から温まっていき、自然と体が軽くなっていく。
さっきまでの疲れがウソみたいに消え去った。
一体どういうことだ?
「……つ、疲れが取れて、体が軽くなった。……一体、どういうことなの?」
「言ったでしょー。あたしの力はさ、凄い料理を早く作れる力だって。これも力の一環でね。そのおにぎりには、心があったまって、体が軽くなるように愛情を込めたんだ!その効果が働いたんだよ!……まあ、効果が出るのは食べてる間だけで、食べ終えたら次第に効果は消えていくんだけどね。疲れてるみたいだったし、必要かなーって思って。あと、さっき言い返してくれたお礼にさ」
凄い料理って、こんな特殊な料理を作れるのか。
愛情を込めて作ったって、そうなるように作ったってことだろうか。
もし、別の事を祈って作ったら、別の効果が発現したりするのだろうか。
まあ、食べてる間だけしか効果が出ないのなら、そこまで意味ないか。
そう思った直後だった。
俺の頭に、一つの考えが浮かんだ。
「……ねえ、マリーさん。ちょっと試したいことがあるんだけどいいかな。……もしかしたら、面白いことが出来るかもしれないんだけど…………」
「え、なになに?ちょー気になる!」
俺は考えをマリーに伝え、考えを試すため、マリーの家へと向かった。
その後、様々な実験をしたのち、俺は家へと帰った。
それから、怒涛の日々が始まった。
影で上手く鎧を作れるようになるための特訓。
体力や、筋力を身に着けるための特訓。
戦闘により慣れるための特訓。
それに加えて、酒場での働きや、通常の授業。
さらに、マリーの力に関する実験など、
様々な事をしていく内に、時間は過ぎて行った。
そして、晴天の今日。
ついに、団体戦がある、祭りの日が来たのだった。




