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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
学園生活編
38/120

コミュ症に、接客アルバイトは難しい。②

 居酒屋系飲食店のホール。

 それは、考えうる限り、最もコミュ症が苦手とするアルバイトの一つである。

 ホールは客を席に案内したり、注文を聞いたりする。

 つまり、必ず人と関わる仕事であり、重要な仕事の一つなのである。


 さらに、ここは酒場だ。

 基本的にこういう酒を飲む、居酒屋のような店では、必ず客がホールの店員に絡んでくるらしい。

 コミュ症が、そんな客とまともに話せるとは到底思えない。

 それなのにも関わらず、お姉さんは俺にホールを任せてきた。

 お姉さんは俺にホールを任せるという事の重大さを理解しているのだろうか。


 ……何はともあれ、この状況を何とかしなくては。 

 さすがに俺にホールはきつい。

 そう思い、頭をフル回転させるが、良いアイデアは一つも浮かばない。


 そんな時、ついに一組目の客が来店してしまった。 

 客は二人組で、片方はハゲで、もう一人はアフロの40台過ぎくらいのおっさんだ。

 突然の来店に、何をすればいいか分からず戸惑っていると、

 横からお姉さんが説明をしてくれた。


「とりあえず、私の動きを見ながら勝手に学んでくれ。大丈夫光輝なら出来るさ」


 それだけ言うと、お姉さんは俺を連れ、二人の客の方へと歩き出した。


「いらっしゃい!ハゲにアフロ!まだ誰も来てないから、好きな席にどうぞ」


「おう、ありがとさん。けど、わしはハゲとらん!」


「俺もアフロじゃないぞー。鳥の巣ヘアーだー!」 


 そんな事を話しながら、ハゲとアフロの客は近くの席に着いた。

 話している感じからし常連客だろうか。

 仲が良さそうで、凄く楽しそうだ。

 そう思っていると、お姉さんは俺の手を取り、俺を二人の前へ持っていった。 


「……あ、そうだ。お得意さんの二人には紹介しておくよ。こいつは今日からここで働くことになった、光輝です。仲良くしてあげてくれ!」


「……え、あ、その……こ、光輝です……よ、よろしくお願いしま……す」


「おう、よろしく!わしは自称この店の常連や。気軽にハゲ呼んどくれ。まあ、ハゲてはないんやけどな」


「あー、俺はアフロって呼ばれてますー。まあ、アフロって呼んでくれー。まあ、アフロじゃないんだけどねー」


 ……ここは笑う所なのだろうか。

 こういう会話に慣れていないから、全く分からん。

 俺が戸惑ってるのが分かったのか、お姉さんは話を始めた。


「さて、二人とも今日はどうする?」


「それじゃあ、いつも通り、酒とカラアゲで頼む!」


「了解。光輝、酒を持ってくるの手伝ってくれる?」


「は、はい」

 

 そう答え、俺はお姉さんと一緒にキッチンへと向かって行く。

 

 ……気を使わせてしまった。

 やっぱり俺はアルバイトが嫌いだ。

 アルバイトでは俺が何かしでかすと、必ず他の人に迷惑が掛かってしまう。

 何か小さい事でも必ず他の人の迷惑になってしまうんだ。

 だから、アルバイトは嫌いなんだ。

 俺が落ち込んでいると、酒を取ったお姉さんが、近くの椅子に腰を下ろした。


「……光輝、お前は人と話すのが苦手だろ」


「え……はい、苦手です。その、人と話すと緊張して、頭が真っ白になって……なんて話せばいいか分からなくなるんです」


「なるほどな……光輝、お前は優しすぎる」


「…………え?俺が優しい?」


 俺が優しいってどういうことだ?

 俺はユリやアリウムと比べると、優しくはないと思う。

 というか、俺の優しさは人並み以下だ。

 お姉さんは一体何を?


「ああ、緊張とかどうとか言ってたが、人と上手く話せない人はな、みんな相手の事を気にしすぎてしまっているんだ。相手が嫌な思いをしないか考え、相手を傷つけない言葉を慎重に選んでいる。優しいから、相手の事を深く考えてしまうんだろう。確かに、相手の事を考える事は大切な事だと思う。……だが、その代わりにお前は自分の事を考えな過ぎている。良いか光輝、もっと自分の事を考えろ。一回、自分の気持ちを素直に話してみるんだ」


「素直に……」


「今来たハゲとアフロは、ああ見えて優しくて、言われたことを気にしないタイプの奴らだ。一度、相手の事を考えず、自分の思った通りに話してみろ。こういうのは小さな積み重ねが大切だからな」


 それだけ言うと、お姉さんは俺に酒の入った瓶と、木製のコップを手渡ししてきた。

 俺はお姉さんに言われるがままに歩いて行く。


 相手の事を考えすぎているか。

 自分では分からないが、そうだったのだろうか。

 もっと、自分の事を考えて、思った通りに話す。

 俺にできるだろうか。

 

 一歩歩くごとに、心臓が早くなっているのが分かる。

 手足も震えて、息が早くなっている。

 これから、俺は初対面の二人と話さなくてはならない。

 緊張と怖さで、何も考えられなくなってくる。

 俺は……俺はどうすれば……。


「お、酒を持って来てくれたんやな、兄ちゃん。ありがとさん」

 

「あ、はい。……どうぞ」


「せや、聞いてくれよ!このアフロが、またわいの髪をハゲ呼ばわりするんやで。ひどくないか?わいはハゲてないっていうのによ!」


 まずい、話しかけられた。

 俺はどうすれば…………。


 ……自分の思った通りに。

 そうだ、自分な思った通りに話すんだ。

 頑張れ俺、お姉さんの言った通り、小さな積み重ねが大切なんだ。

 変わるんだろ?

 なら、頑張れ!


 自分を鼓舞し、ゆっくりと口を開く。

 そして、思ったことを声に出す。


「い、いや、ハゲさんはハゲてますよ。だ、だって、光が反射して、頭が太陽みたいに光り輝いてますもん」


 俺がそう言うと、辺りは静まり返った。

 まずい、やっぱり言うんじゃなかった。

 やっぱり、怒って……。


「……ぷ、ふははははははは!兄ちゃんの言う通りやー!ハゲ、お前頭に光が反射して、頭が超絶光ってるぞー!」


「ば、誰の頭が綺麗に輝く、希望の光や!俺の頭は光っとらんがな!」


「いや、希望の光とは言ってないだろー!それに、ハゲはハゲだってー!……いやー、兄ちゃんも面白いこと言うなー」


「え、あ、どうも」


 自分では面白いと思わなかったが、どうやら中年男性二人にはウケたようだ。

 二人が笑って、店内は明るい雰囲気に包まれていった。


 怒ってるのかと思ったが、怒ってなくてよかった。

 それどころか、笑って楽しそうになってくれるとは。


 ……何でだろう、少し心が軽くなった気がする。

 さっきと比べて、緊張も少し解けている。

 何故か分からないが、さっきよりも上手く話せる気がする。


「あ、そういや、兄ちゃんもユリちゃんと同じ魔冒学園の生徒なんか?いやー、凄いな。わしは尊敬するわ!」


「い、いえいえ、そんなことないですよ。ユリと比べれば自分なんてまだまだですし」


「いーや、通えてるだけ凄いって!あそこは入学試験が難しいってことで有名やからな!あ、魔冒学園と言えばさ……」


 そうして、中年男性のハゲを中心に、会話は続いていった。

 二人の話が楽しいからか、俺自身いつも以上に話を出来ていた。

 そのせいか、気づいたころには十数分が過ぎていた。


 その後、客も増えていき、他の客の接客をすることになり、俺は他の席へと向かって行った。

 他の席ではいつも通りの話し方になり、コミュ症を発揮してしまった。

 だが、いつもよりかは普通に話せていた気がする。


 それから約三時間後。

 やっと、人の出入りが減ってきた。 


「あ、光輝。光輝は今日が初めてだし、もう上がっちゃっていいよ!」


「あ、はい。ありがとうございます」


「……そう言えば光輝、どうだった?自分の思った通りに話せた?」


「あ、最初の席では話せていたと思います。それでも、他の席になるとやっぱり緊張したりして……上手く話せませんでした。だけど……だけど、少しだけ話せるように、成長できたと思います」


「そ、なら良かった!こういうのは積み重ねだからね!それじゃあ、お休み!」


「はい、お休みなさい!」


 そう話して、俺は二階の自室へと歩いて行った。 

 自室へ戻ると、近くの机にエプロンを置き、ベットへ飛び込んだ。


 今日は疲れたな。

 さすがに人生初めてのアルバイトは大変だった。

 それでも、思っていたよりかは楽しかったかもな。

 まあ、まだ好きにはなれないかな。


 しかし、いつもよりしっかり話せた気がする。

 少し、ほんの少しだけだけど、成長できた気がする。

 

 ……良い一日だったな。

 明日は、みんなとお出かけか。

 楽しい一日に……なると良い…………な。


 そうして俺は眠りについた。

 明日が良い日になるように、心の中でそう願って。

何事にも、小さな積み重ねが大切である。

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