コミュ症に、接客アルバイトは難しい。①
授業を終え、教室へ戻ったのち、
俺とユリはアリウムたちに別れを告げ、酒場へと足早に帰っていた。
俺たちが足早で帰っていたのには理由がある。
今日は、俺たちが酒場を手伝う日なのだ。
俺は酒場に泊まる許可を貰う際、
酒場の手伝いをする代わりに、宿代を払わなくていいという契約を交わした。
今日はその約束に乗っ取って、初めて酒場を手伝うというわけだ。
しかし、何というか心配だ。
前世では俺は一度もアルバイトをしたことがなかった。
シンプルにめんどくさかったというのもあるが、
一番の理由は人とまともに話すことが出来なかったからだ。
前世の友達が言っていたのだが、アルバイトでは、人とのコミュニケーションが大切になってくるらしい。
そのため、コミュ症過ぎた俺には、アルバイト自体が超難関過ぎたんだ。
全く話せないんじゃ、コミュニケーションも何もないからな。
そんな俺が初めてのアルバイト。
しかも、酒場という事は間違いなく接客業。
不安でしかない。
本当に俺なんかが、手伝って大丈夫なのだろうか。
何か問題を起こさなければいいが……。
というか、シンプルにアルバイトをしたくないな。
何か手違いで、今日は中止になったりしないかな。
そんな風に祈っていると、ついに酒場に着いてしまった。
俺とユリは、大きな声で帰ったことを知らせながら、酒場へと入る。
「お、お帰り、ユリちゃんに光輝!待ってたわよ!今日は二人に酒場を手伝ってもらう日だからね。二人とも、準備は良い?」
『はい!』
「よろしい!それじゃあ、ユリはいつもの服に着替えてきて!……えーと、コウキはこれ!」
そう言いながら、お姉さんはキッチンの方から、一枚のエプロンを取って来た。
そのエプロンには、大きな文字で「お姉さんの酒場」と書かれている。
「……えーと、これは?」
「この酒場のエプロンだよ。ここで働く人には、このエプロンを付けてもらうようにしてるのよ。良いから付けてみな」
お姉さんに言われるがままに、試しにエプロンを身に着けてみる。
エプロンは俺のサイズに合わせてあるのか、ピッタリ合って、着心地が良い。
「うん、サイズはあってるみたいだね。似合ってるよ!」
「あ、ありがとうございます……」
「あ、コウキくんも、エプロン貰ったんだ。似合ってるよ!」
声のした方を見ると、エプロンを身に着けたユリが立っていた。
話している間に、準備を終えて、戻ってきていたようだ。
ユリが戻ってきたのを確認したお姉さんは、急いで指示を出し始めた。
「ユリちゃんも来たし、それじゃあ、二人に指示を出します!開店まで時間がないから、急いで準備するよ!……とりあえず、光輝には開店前準備として、肉の下準備をしてもらいます!光輝は今日が初めてだから、ユリちゃんは光輝に色々教えてあげながら、準備をするように!二人ともわかった?」
『はい!』
「よし、よろしい!それじゃあ、よろしくね!」
そう言うと、お姉さんは他の準備をしに、二階へと上がっていった。
俺はユリの指示を受けて、キッチンへと向かって行く。
キッチンは前世の家に合ったキッチンとは全く違った。
前世の家に合ったコンロや冷蔵庫、電子レンジの様な物は何一つない。
その代わりに、レンガのような素材で出来た、コンロの代わりの様な何かや、
暖炉に似ているが、暖炉ではない何か。
他にも、謎の綺麗な岩や、謎の立方体など、見たことがない物も置かれていた。
何というか……なんか凄い。
俺がキッチンの中を見て回っていると、
どこから取って来たのか、ユリが鶏肉の様な肉を、まな板の上に置いた。
「それじゃあ、これから料理の下拵えをします!準備は良い?」
「え、は、うん」
「よし、まず、私が実演しながら説明するから、それを見てやってみよう!」
そう言うと、ユリは肉の四分の一程度を切り、別のまな板の上へ移動した。
そして、慣れた手つきで、包丁を使い、
肉を素早く切りながら、説明を始めた。
「まず、肉を切る所から!肉は一口サイズで、食べやすい大きさに、こんな感じに切ってね。さ、コウキくんもやってみて!」
ユリから渡された包丁を手に取り、肉を抑える。
そして、力を入れて、一気に包丁を振り下ろしてみる。
包丁は肉に食い込み、少しずつ肉を切っていく。
が、途中で止まり、全然切ることが出来なくなった。
力を込めて押し込むが、全く切れない。
一体どうなってんだ、これ?
「あー、皮の部分は、料理してないと切りにくいかもね。じゃあ、今日は私が切るの中心にやるよ。練習すれば、上手く切れるようになるから、気にしないで良いよ!」
「……はい」
気を使わせてしまった……。
悪気はなかったんだがな。
こういうことがあるからアルバイトは嫌いだ。
しかし、料理がここまで難しいとはな。
こんなことになるなら、前世でもっと練習しておくんだった。
そんな事を思っていると、今度は謎の液体と、白い粉が入った袋をユリが持ってきた。
「よし、次にやらなきゃいけないのは、今切った肉をこの不思議な液体に浸ける事!数秒間付けたら、この白い粉をふんだんに付ける!とりあえずこれで下準備は終わり!コウキくんもやってみて!」
言われた通りに、ユリの動きを繰り返しやってみる。
液体に浸けて、粉を付けるだけ。
多少難しいが、包丁で切るのに比べれば、まだ簡単だ。
「初めてなのに上手だよ!さすがコウキくん!」
「あ、ありがとう。……だけど、この肉はどんな料理に使うの?」
「そうだねー、初めてだし、一応見せておくよ!」
そう言うと、ユリは肉を一つ持ち、
油の様な物が入った、四角い立方体の中に、ゆっくりと入れた。
それから数秒後、引き出しから箸を取り出すと、ユリは肉を慎重に取り出し、皿へとよそった。
その肉は、茶色い何かに包まれており、凄く良い香りを放っている。
途中から何となく思っていたが、これはもしかして……。
「これはカラアゲって言ってね。凄くおいしい肉料理なんだよ!」
「……やっぱりそうなんだ」
うん、どっからどう見ても唐揚げだ。
まさか、この世界に唐揚げが存在するとは。
この世界に来てから、様々な料理は見てきた。
前世の料理に似ている物から、見たことがない料理まで、本当に様々だった。
しかし、ここまで前世の物と似ている料理は初めてだ。
味もそっくりで、凄くおいしい。
良く分からないが、謎の感動がある。
「……さて、それじゃあ、下拵えの続きしよっか!私が肉を切るから、コウキくんは液体に浸けるのと白い粉を付けるのをよろしくね!」
「う、うん。分かったよ」
「よし、頑張ろうか!」
そう話して、俺たちは下拵えと戻った。
ユリの素早い手さばきもあり、下拵えは順調に進んで行った。
そして、数十分で全ての下拵えを終えることが出来た。
その数分後だった。
お姉さんの口から絶望の言葉が飛び出したのは。
「下拵えが終わったなら、光輝はこっちに来てくれる?光輝にはホールをお願いしたいと思うからさ」
ホールって……マジすか…………。
アルバイトは難しい!




