この世で最も怒らせてはならない生物は、陰キャである。②
「……そうだ、アリウムに加勢しないと…………」
様々な物がしまわれている棚の向かい側から、アリウムたちが戦っている音が聞こえてくる。
アリウムはまだ戦闘中の様だ。
人数的にアリウムは一対三で戦っているはず。
こんな俺でもいないよりかはマシのはずだ。
そう考え、立とうとするが、体が全然動かない。
何度も体を動かそうとするが、動けない。
自分で思っている以上に、体は限界を迎えていたみたいだ。
体が言う事を聞かない。
早くアリウムを助けに行かないといけないのに……畜生。
そんな時だった。
巨大な破壊音がしたかと思うと、
銀色の鎧を着た、数人の兵士が部屋へと入ってきた。
「……え、いや……え?」
「大丈夫かい?君はコウキくんだね。私たちはこの国の騎士団員。君の友達のカンナという子から、いろいろと聞いてね。助けに来たんだ」
「カンナが……」
ほとんど事情を伝えずに出てきたのにも関わらず、
どうやらカンナは大体の状況を理解し、騎士団に助けを求めていたらしい。
まさか、間接的にカンナに助けられることになるとは。
これに関しては後でお礼を言わないとな。
しかし、騎士団が警察的な役割を補っていたとは知らなかったな。
そんなことを思いながら一安心していると、
部屋の外から見知った顔の女性が部屋へと入ってきた。
「……え、ロメリア先生!?ど、どうしてここに?」
「どうしてもこうしてもあるか!コウキ生徒、君はここで何をしているんだ!」
そう言うと、先生はボロボロの俺を正座させ、説教を始めた。
何で大人に相談しなかったのかとか。
何で一人で突っ込んだのかとか。
何で一日で二回も問題を起こすのかとか。
夕方の数倍強く説教された。
「……全く、良いか、お前はまだ子供だ。自分では出来ることだらけだと思っているだろうが、大人から見たら出来ないことだらけだ。今回は運よく何とかなったかもしれんが、次はどうなるか分からない。良いか、次からは大人を頼れ。駄目そうに見えたり、頼りにならなかったりするかもしれない。だがな、きっと君たちの助けになるはずだ。大人をもっと信じるんだ。分かったか!」
「は、はい!……ところで、何で先生はここに?」
「私はユリ生徒とコウキ生徒の教師だぞ?来るに決まっているだろうが!さあ、とりあえず治療からだ。私について来い」
そう言うと、先生はゆっくりと部屋を出て行った。
何とか体を動かしながら、俺はその後をついて行く。
その後、俺は治療系の力を持つ人に治療してもらったのち、
ロメリア先生に付き添われながら酒場へと帰っていった。
酒場ではお姉さんとカンナが心配そうな顔をして待っていた。
事情と、ユリも俺も大丈夫だと伝えると、カンナは緊張が解けたのか泣き出し、
お姉さんは何も言わずに俺を抱きしめてくれた。
お姉さんの腕の中は優しくて、抱きしめられていると心が一気に落ち着いていった。
それから俺はカンナとロメリア先生を見送り、
その後、自室に入って、即爆睡した。
これは後日聞いた話だが、今回事件を起こしたムクゲとその仲間は、事情聴取を行ったのち、騎士団に捕まることになったらしい。
アリウムはムクゲの仲間と戦っていたという事実。
そして、関わった人たちの証言から、無実という事になり、捕まることはなかったらしい。
今はどこで何をしているか分からないが、アリウムにはまた会いたい。
ムクゲたちに倒され、捕らえられていた生徒たちは命に別状はないらしく、
治療と事情聴取を終えたのち、それぞれの家へと帰っていったとの事だ。
そして、事件から二日後の今日。
ユリも酒場へと帰ってきた。
ユリが帰ってくるなり、お姉さんはユリへと駆け寄り、全力で抱き着いた。
「ただいま、お姉さんにコウキくん!」
「ユリちゃん!ユリちゃん!ユリちゃーん!無事でよかったよ、本当に心配したんだからね!大丈夫、何もされてない?」
「き、きついよ、お姉さん!私は大丈夫だよ!ちょっと殴られただけで、大した怪我はしてないから!」
「それなら、よかった!もう……本当に気を付けてよ。私は凄く心配したんだからね。もっと、自分を大事にしなさい!」
「分かったよ、心配かけてごめんね」
ユリがそう言うと、お姉さんはさらに強く抱きしめ、頭を強く撫でた。
それを見ていた俺は、覚悟を決め、ゆっくりとユリたちの方へと近づいて行く。
そして、お姉さんがユリを話したところで、
覚悟を決め、謝った。
「ご、ごめん、ユリ。……俺が、俺がムクゲに因縁をつけられていなかったら……もしかしたらユリは襲われなかったかもしれない。……その、俺のせいで、ユリを危険にさらしてしまった。……ホント、ごめん…………」
果たし状の事を考えると、ユリがターゲットにされたのは俺のせいだ。
ムクゲが俺を狙ったせいで、ユリにも危険が及んだんだ。
だから、もし、俺がムクゲに狙われていなかったのなら、ユリは襲われることはなかったんだ。
謝って許されることじゃない事は分かっている。
だが、今の謝る事しかできない。
深く頭を下げていると、ユリがキョトンとした声で話し出した。
「いや、何言ってんの?」
「……え?いや、だから、謝ろうと……」
「そもそもとして、犯人たちは生徒全員を狙ってたんでしょ。だったら、遅かれ早かれ私は捕まっていたと思うよ。それに、大切なのはそこじゃないよ。私が捕まって、それをコウキくんが助けてくれたってのが大切なんだよ。……コウキくん、助けてくれてありがとう!」
本当なら、怒られて、殴られたっておかしくない。
それなのに、お礼なんて……。
「……お礼を言うのは……俺の方だよ。……改めて、出会ってから今日まで、いろいえお……本当にいろいろありがとう」
「もう、いまさら何言ってんの。友達でしょ!」
「……ああ、そうだな!」
「んー、良く分からないけど、二人とも仲が良いならよかった!ユリも帰ってきたことだし、今日は腕を振るって、料理しちゃうよ!」
そう言いながら、お姉さんは厨房へと入って行った。
ユリは荷物を置きに、二階へ階段を上がっていく。
それを見送り、俺は夕食の準備を進める。
……ユリはああ言っていたが、少なからず俺に原因があったのは確かだ。
今回の一件で良く分かった。
この世界にも、前世の世界と同じように悪い奴がいる。
しかも、生呪の力があるせいで、そいつらは前世の奴らよりも、より凶悪になっていた。
もっと、しっかりしないとだめだな。
どんな状況でも、正しい判断が出来るようにならないと駄目だ。
明日からの学園生活。
今まで以上に、真剣に取り組もう。
もう、友達を危険な目に合わせないように、
自分自身も危険な目に合わなくなるように。
この日、俺はそう心に誓った。
コミュ症陰キャは、更に覚悟を決める。
次回、アリウムがアリウムでアリウム。




