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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
学園生活編
32/120

この世で最も怒らせてはならない生物は、陰キャである。①

「……行くぞ!」


 そう叫びながら、ムクゲへと俺は走る。

 それと同時に、影に触れ、武器を作り出す。

 

 この影の量からして、シャドウハンマーみたいな大きな武器は作れない。

 それなら、そこまで大きくなく、ムクゲの触手を攻略できる武器を作ればいい。

 ムクゲの触手は数が多く、意外とパワーもある。

 さらには速度も速くて、体の一部みたいに操っていた。

 だが、一本一本の強度はどこまでない。

 それなら、一本一本確実に斬り、触手の数自体を減らすに限る。

 

 そう思い、俺は影を変化させる。

 長剣よりも動かしやすく、短剣ほどに火力が劣るわけでもない。

 長剣と短剣の間くらいの大きさの剣だ。

 これなら、一本一本確実に斬れる。

  

 俺は剣をしっかりと握り、一本の触手へと襲い掛かる。

 想像した通り、触手はいとも簡単に斬ることができ、斬られた触手はムクゲの背へと帰っていった。

 俺は勢いに乗り、さらに触手を斬っていく。


 これならいける!

 そう思った直後だった。

 横から、強い衝撃を受け、俺は部屋の端へと吹き飛ばされた。

 何が起こったのか分からず、衝撃を受けた方を見て見ると、

 そこにはローブを着ている男たちが立っていた。


 ……忘れていた。

 そう言えば、こいつらの相手もしないといけないんだったな。

 

「おいおい、俺たちの事を忘れんなよ!これで5対1だが、お前まだ勝てると思ってんのか?この人数差に、実力差だぞ。絶望的状況だ、諦めたらどうだー?」


 確かにそうだ。

 一人相手でさえ、勝てるかどうか分からないのに、

 それが五人相手だ。

 どう考えたって、勝てる状況じゃない。

 だが……それでも……。


「……それでも、俺は諦めないぞ。確かに絶望的かもしれない。…………だけど、ここで逃げたり、諦めたりするのは嫌だ。……ここで現実から目をそらしたら、俺はこれから変われないと思うし、最高の人生を送れないと思うから。…………それに……俺は……俺はお前らを許せない!だから、絶対に逃げないぞ!」


「……そうだ!それでこそ、俺のダチだ!」


 どこからか、そんな声が聞こえてきたかと思うと、

 ローブの男たちが一瞬で吹き飛ばされた。

 ローブの男たちがいた方を見ると、そこには一人のローブを付けた男だけが立っていた。


 その男は、手に持っていた大剣を地面に刺すと、

 ゆっくりとローブを脱ぎ捨てた。

 

「……え、う、嘘だろ…………アリウム!」


 そう、そこに立っていたのは、俺に出来た初めての友達。

 入学試験に落ちた男、アリウムだった。


「え……な、なんでこんな所に……?」


「実はそこのオールバックの男に誘われてな。このグループに入ったんだよ。……まあ、表面上はだけどな。魔防学園を壊すとか、生徒を襲うとか許せるわけがないだろ。だからよ、隙を突いて作戦を潰そうと、グループに入ったふりをしていたんだよ!……さて、話は後だ!他の男どもは俺に任せろ、オールバックの男は、お前に任せた!」


 そう言うと、アリウムはローブを身に着けた男に、剣先を向けた。

 何が何やら、状況が急すぎて理解が追い付かない。

 

 ……けどまあ、友達にここまで信じられたんだ。

 やるしかないだろ。

 俺はさらに剣を強く握り、再度ムクゲの方を向く。


「……裏切り者だったのかよ。……まあ、いいか。一人増えた所でなんも変わんねえからよ!さて、来いや!」


「……言われなくても、行ってやる!」


 俺はさっきと同じように、剣で触手を斬っていく。

 アリウムのお陰で、他の敵を気にすることなく戦える。

 触手は簡単に斬れるし、確実に触手の数は減っていっている。

 このまま行けば、恐らくは勝てる。

 落ち着いて、でもって大胆に、

 一本一本確実に斬っていこう。

  

 そう思いながら、数十本の触手を斬った頃。

 急にムクゲが触手を動かすのをやめた。


「……なるほど、入学試験の日と比べれば、確かに強くなってはいるみたいだな。だが、実力がないのには変わりない。……誇っても良いぞ。俺の最強の技で負けれるんだからな!」


 ムクゲがそう言うと、数十本の触手が一気に集まりだした。

 触手は少しずつ絡まりあい、物の数秒で完全に形を変えた。

 数十本の触手は、絡み合う事により、一本の太い触手へと変化したのだ。

 その触手は普通の触手の何倍もの太さで、部屋にギリギリ収まるくらいの大きさだ。


 これが最強の技か。

 普通の触手よりも太くて大きいが、触手は触手だ。

 さっきと同じように、剣で斬って終わらせてやる。


 そう考え、触手へと近づいた次の瞬間。

 俺はいつの間にか部屋の端に座り込んでいた。


 何でこんなところに?

 そう思うと同時に、腹部に強烈な痛みが走った。


「い、いてえ……い、一体何が…………?」


「……見えなかったか。ただ、この触手でお前を殴っただけだ。どうやら、早すぎて全く反応できなかったみたいだな」


 触手で殴っただけ?

 嘘だろ、全く見えなかった。

 気が付いたら体に痛みが走っていた。

 なんて速さだよ。

 

 それに、とんでもない力だ。

 殴られたところが痛すぎて、全く立ち上がれない。

 普通の触手の何倍ものパワーがあるのか?


 ……畜生、一気に状況がまずくなった。

 早すぎて全く見えない上に、途轍もない力を持っている触手。

 いくら何でも強すぎる。


「……畜生、攻撃が当たれば、そんな触手簡単に……」


「それじゃあ、やってみるか?抵抗しないから、その剣でこの触手を斬ってみろよ。ほら、やってみろ」


 そう言うと、ムクゲは触手をゆっくりと俺の方へ伸ばしてきた。

 油断を誘っているのか、それとも本気で言っているのか。

 どちらにせよ、攻撃しない手はない。

 

 そう思い、触手がある程度近づいた所で、俺は触手に斬りかかった。

 が、剣は触手に少し食い込んだ所で、全く動かなくなった。

 力強く動かすが、それ以上触手を斬り進める事は出来ない。


「無理だろ。そりゃあそうだよ。この触手は何十本もの力を持っているんだぞ。その分強度も増しているに決まってるじゃねえかよ!」


 そう言いながら、ムクゲは触手を使い、

 俺を壁へと打ち付けた。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 死ぬほど痛い。

 気を抜くと、気を失ってしまいそうだ。

 体の奥の方から、血が噴き出しているのが分かる。

 つらい、今すぐ倒れて眠りたい。

 眠りたい……けど、ここで倒れるわけにはいかない。

 

 ボロボロの体を何とか起こし、ムクゲの方をしっかりと向く。

 状況は最悪。

 ムクゲの触手は強くて速い。

 もう一撃でも喰らったら、確実に倒れる。

 一撃喰らう前に倒したいが、俺の攻撃は触手には通らない。

 一体どうすれば……。


 ……いや、どうすればじゃないだろ。

 攻撃が通らないのなら、攻撃が通る武器を作ればいいだけだろ。

 考えろ、考えるんだ。

 前世での、日本での記憶。

 そして、この世界に来てからの経験。

 全てを使って、攻撃が通る武器を作るんだ。

 

 思い出せ、何か、何かなかったか。

 あの触手を斬れるように鋭く、そこまで大きくない武器。 

 何か……何か……。


「…………あ、あった」

 

 あの武器なら……いけるか?

 いや、迷う時間なんてない。

 いける可能性が少しでもあるなら、やるしかない。


「………………影」


 小さくそう呟くと、影はゆっくりと変化していく。

 イメージするんだ。

 その武器そのものを作るんじゃない。

 実物よりもさらに鋭く、

 さらに切れ味が良い武器を作るんだ。

 あんな触手、いとも簡単に斬れるような、そんな切れ味を!


 そう願い、想像すると、影は想像していたものへと変化した。

 平べったく、片方にのみ刃がある剣。

 いや、剣とは少し違う。

 その武器には、剣の刃先には存在しない、ギザギザの刃がついているのだから。

 そう、俺が作ったのは、誰もが一度は使ったことがある、

 誰でも使えるが、途轍もない切れ味を持つ道具。

 ノコギリだった。


 俺が知る、最高に切れやすい道具。

 想像通りに作れてよかった。

 後は……斬るだけだ。


「……なんだそれ?新しく作ったかと思ったら、刃がギザギザじゃねえか。面白いもんが見えるかもって、期待して損したぜ。そんなんじゃ、絶対に俺の触手は斬れねえよ!」


「……そんなこと……やって見なくちゃ分からない!」


 そう叫び、俺は触手へと駆け出す。

 そして、全力で斬りかかる。


 これが俺の最後の攻撃だ。

 頼む、届け!


 影で出来たノコギリは、真っ直ぐ触手に向かって行く。

 そして、勢いに乗り、触手を斬っていく。

 ノコギリはさっきの剣よりも、触手を斬っていき、触手の半分まで、たどり着いた。

 が、そこでノコギリは動きを止めた。


「……一瞬焦ったが、残念だったな!やっぱり、お前じゃ、俺の触手を斬る事は出来な……」


「まだだ!」


 そう答え、ノコギリに全力で力を入れる。

 ノコギリの真価はここからだ。

 そう、ノコギリに出来る事は、ただ斬る事だけじゃないんだ。

 ノコギリはここからさらに動かすことによって、さらに斬り進めることが出来る。


「喰らえ‼」


 そう言いながら、俺は一気にノコギリを引く。

 ノコギリは動きだし、触手を斬り進めていく。 

 そして、触手を真っ二つに斬り裂いた。


「……は?…………はああああああああ!?」


 ムクゲは何が起こったのか理解できず、ただただ叫んでいる。

 俺はその隙を見過ごさない。

 触手を斬り裂いたノコギリの形を、瞬時に変えながらムクゲへと駆け出す。

 そして、ノコギリから変化して出来た棍棒をしっかりと握りしめ、振り上げる。

 ムクゲは何とか抵抗しようとするが、もう遅い。 


「これが、お前が弱いと呼んだ者の、弱者の一撃だ!」


 そう叫びながら、全ての力を使い、棍棒を振り下ろす。

 棍棒はムクゲの顔面に直撃し、ムクゲを殴り倒した。

 倒れたムクゲは気を失い、完全に動かなくなった。


「……だから言ったろ、この世界で一番怒らせちゃいけないのは、陰キャだって」


 それだけ言い放つと、俺はその場に座り込んだ。

 体中が痛いし、凄く疲れた。

 だが……俺の勝ちだ。

弱者の一撃が、強者を倒す。

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