謎の因縁をかけられたコミュ症は、ただひたすらに困惑する。②
学園入学試験日。
俺は二人組を作れと言う無理難題を受け、何もできずベンチで一人俯いていた。
そんな時、俺に話しかけてくれたのがムクゲだ。
ムクゲは俺にペアを作っているかどうか聞き、作ってないと答えると、ペアになろうと誘ってくれた。
その後、俺とムクゲはペアになり、試験を受けたのち、俺が合格し、ムクゲが不合格となった。
あれから一度もあっていなかったが、まさかこんなところで会うことになるとは。
見た目が違いすぎて、全然気が付かなかった。
以前はマッシュルームヘアで、眼鏡をかけた、クラスに一人はいそうな、ガリ勉っぽい見た目をしていた。
それが、今はオールバックでヤンキーっぽい見た目をしている。
イメチェンにもほどがある。
「……あ、見た目が違いすぎて、気が付かなかったよ…………」
「まあ、俺にもいろいろあったからな。確かに気づかなくてもおかしくはないか」
「……う、うん…………」
そう答えると、当たりがまた静寂に包まれた。
ムクゲたちは何か言ってほしそうな目で、俺の方を見つめてくる。
何か変な事を言ってしまったのだろうか。
それとも、やっぱり最初に気づかなかった事に怒っているのだろうか。
うーん、分からん。一体俺に何をしてほしいんだよ。
……あれ、よく考えたら、ムクゲが果たし状を送ったってことになるよな。
だとしたら、一体何の目的で送ったんだろうか。
もしかして、試験の時のリベンジをしたいとかか?
それとも、ただ会って話したいだけだとか?
……いや、よく考えたらそこじゃない。
ムクゲが果たし状を送ったってことは、ムクゲがユリを連れ去ったってことだ。
重要なのはそこだ。
一体何でユリを誘拐したんだろうか。
俺を呼びだすだけなら、ユリを連れ去る必要はなかっただろ。
見た感じ、近くにユリはいなさそうだ。
ユリは大丈夫なのか?
そう思い、ユリの事を聞こうとすると、
その前にムクゲがゆっくりと口を開いた。
「……聞いてくれないのか?いろいろあったって、何があったのかって」
「え、あ、ごめん。……な、何があったの?」
「そうだな。まずは、俺の生まれから話そうか……」
そう言って、ムクゲはゆっくりと自分語りを始めた。
ムクゲが言うに、ムクゲは貴族の生まれらしい。
小さい頃から英才教育を受けていて、所謂エリートでもあったらしい。
そこそこ有名な貴族らしく、親の跡を継げば、楽して裕福な人生を送れるのは確定だったそうだ。
しかし、ムクゲは小さい頃、自分を助けてくれた冒険者に憧れ、
親の後を継ぐのを断り、冒険者を志すようになったそうだ。
それから、エリートであるのにも関わらず、毎日必死に努力し、強くなっていった。
そして、冒険者に一番近い、魔防学園に入学するべく、この間の試験を受けたらしい。
今まで努力してきたこともあり、受かる気満々だったらしいのだが……。
「そこで現れたのがお前だ。お前を見つけた時、俺よりも弱くて、自身もなさそうだと思ってな、絶対にこいつになら勝てると思って、お前を誘ったんだ。……実力では、絶対に勝ってたんだよ!それがどうだ、少し油断したせいで、俺は負け、お前は勝った。…………この世は実力社会だ。実力があるものだけに、全ての権利がある。そして、俺には実力があるんだよ。それなのに……お前に俺の気持ちが分かるか!?」
「……え、あ…………はい」
確かに、ムクゲの言う通り、実力ではムクゲの方が上だった。
実際に最初は俺が押されていたし、普通に戦ってれば、あのまま俺が負けていただろう。
だが、隙を突き、俺がムクゲを倒した。
それが結果だし、現実だ。
今そのことをいろいろと言われたって、何というか……困る。
「……お前に負けてから、俺は散々だった。貴族でもないお前に負けた俺は、周りの奴らからは馬鹿にされて、蔑まれる事になった。お前に俺の気持ちが分かるか?分からないだろうな!」
「えっと……まあ…………」
「ついには親からも見放された俺は、全てがどうでもよくなったんだ。……冒険者とか、家族とか、友達とか、全てがどうでもよくなった。……だが、その代わりに、俺の中に一つ、大きな野望が出来たんだ」
「……野望…………?」
「ああ、それはな……魔防学園をぶち壊すことだよ。……その手始めに、俺たちは今、今年の魔防学園入学者を襲っているんだ。……ここにいる奴らは試験に落ちた奴らでよ。自分を倒した奴に復讐するのを手伝う代わりに、作戦を手伝ってもらってんだ。……おい、聞いてんのか?」
「……いや…………は?」
全てが理解できなかった。
魔防学園を壊す?
入学者を襲う?
復讐?
意味が分からない。
どうしてそんな考えになるんだ。
困惑していると、俺の考えていることを読み取ったのか、
ムクゲはまたゆっくりと話し始めた。
「……分かってるよ、意味が分からないんだろ。だが、仕方がないだろ、壊せば全てが変わるんだ。俺を馬鹿にしてきた奴も、蔑んできた奴も、誰も俺を見下せなくなるんだ。そう思ったら、体が勝手に動いて、行動に移しちまったんだ。……言っておくが、お前らは何も言えねえからな。お前らと俺じゃ、俺の方が実力が上だ。実力が高い方が相手を自由にするのは、この世の摂理だからな!お前たちが俺に逆らえないのは当然だ!……さて、話はここらへんで止めるか」
そう言うと、ムクゲは背中から、さらに触手を出した。
そして、一度深呼吸をすると、戦闘態勢に入った。
どうやら、ムクゲは既にやる気満々の様だ。
……いや、駄目だ。やっぱり意味が分からない。
何でそんな考えになるんだよ。
全てが変わるって、変わるからってやっていい事といけないないことがあるだろ。
自分の欲望のために、一つの学校を壊すなんて、どうかしている。
確かに分かる所はあるが、流石に自分勝手すぎる。
しかし、どうするか。
話し合いが通用しそうにないし……戦うしかないのか。
以前の俺なら、絶対にムクゲには勝てなかっただろう。
だが、魔防学園に入って、俺は多くの経験を積んだ。
戦い方や、力の使い方も学んだし、今日なんかはモンスターとも戦った。
今の俺なら、普通に戦って、ムクゲにも勝てるかもしれない。
問題は敵の数だ。
ムクゲ以外も一緒に相手するとなると、流石にきつい。
とりあえず、話をして時間を稼ごう。
時間を稼ぎつつ、何かいい作戦を思いつくのを願おう。
そう思い、とりあえず俺はユリについて聞くことにした。
「……そ、そういえば、ユリはどこにいるんだ?……預かったって、果たし状に書いてあったけど……」
「ユリ……ああ、あの女か。そこの中にいるんじゃないのか?」
そう言いながら、ムクゲが指さしたほうを見てみる。
そこには、大量の袋が積まれていて、よく見ると合間合間に袋でない何かが積まれているように見える。
近づいてよく見ると、その積まれていたものは、学園の服を着た生徒たちだった。
生徒たちはみな少し怪我をしているようで、かすり傷をしている者から、ボロボロに怪我をしている者まで様々だが、全員気絶しているようだ。
まさかと思い、その中から急いでユリを探し始める。
「……ユリ!」
目立った外傷はないし、息もしている。
とりあえず気絶しているだけだし、一応は大丈夫そうだ。
良かった。
「……ユリに、ユリに何かしたのか?」
「……あ、ただ殴っただけだよ。そいつを捕まえるのは意外と簡単だったんだぜ。ちょっとボコした生徒を人質に取ったら、全く抵抗しなくてよ。触手で一発殴っただけで、すぐに気絶しやがったんだよ。全く、冒険者志望が聞いて呆れるよな!」
「……そうか」
ユリが簡単に捕まるわけがないと思っていたが、そう言う事だったのか。
人質を取られて抵抗しなかったとは。確かにユリならそうしそうだな。
自分の身が危険な時くらいは、自分を最優先にしたっていいだろうに。
全く、バカかよ……。
しかし、酷いありさまだ。
ユリはそこまで怪我をしていないが、他の奴らの怪我はひどすぎる。
殴られすぎて、体中あざだらけになっている者や、少し焼かれた跡のある者。
いくら何でも酷過ぎる。
「……ここまで、ここまでやる必要はあったのか?……この人たちは、そこまで悪いことをしたのか?」
「さあな、そこまでボコボコにしたのは俺じゃなくて、そこに立ってる俺の仲間だ。俺に聞くな。……だが、そうだな。悪いのはそいつらだろ」
「……は?」
「そいつらに実力がないから。だからそうなるんだ。どうせ合格できたのはお前みたいに、運が良くて、奇跡的に相手の隙を付けたからだろ。実際に実力がないくせに、粋がるからそうなるんだ。力が無くて、度胸がない奴は、底辺を這いつくばって生きて行けばいいものを」
「這いつくばってって……てか、弱い奴には何をしたっていいと思ってるのか?」
「それはそうだろ。弱い奴には生きている意味がないからな」
「……そうか」
どうやらムクゲは、弱い奴には何をしても良いという考えの持ち主の様だ。
弱ければ、ここまで酷い事をしても良いと思っているのか。
何もせず、ただ試験に合格しただけの、ただの生徒に……こんなことをしても良いと思っているのか。
ああ、駄目だ。流石に我慢が出来ない。
自分で言うのもなんだが、俺はそこまで怒ったりはしない。
前世でも、高校に入ってから怒ったことは一度もなかった。
基本的に、どんなことをされても許すし、文句の一つも言ったりしなかった。
怒る相手に興味がなかったからかもしれないし、
意見を言う勇気がなかったのと同様に、怒る勇気もなかったからかもしれない。
はたまた、怒られる人が、かわいそうだと思っていたからかもしれない。
ともかく、しばらく怒っていなかったら、本当に大したことじゃ怒らなくなった。
これもなれという物だろうか。
……だが、そんな俺でもさすがにこれは許せない。
目の前でこんなものをみて、許せるわけがない。
ハッキリと思える。俺は今、怒っている。
「ムクゲ……それじゃあ、俺がお前に勝ったら……俺の方が強いってことになるよな……そうしたら、お前はお前の言う、弱い奴になるよな……」
「何言ってんだ?……もしかして、キレてんのか?お前みたいな、弱くて、度胸もない。暗くて、ろくに話すことが出来ないような雑魚がキレたって、全く怖くないな。ほら、どうした?許せないなら、何かしてみろよ!」
「……お前は一つ勘違いしているようだな。確かに俺みたいな陰キャは、傍から見たら弱いし、度胸もない。暗いし、ろくに話す事も出来ないよ。だけどな、陰キャは外に出せないだけで、うちにはちゃんと、強い力を持ってるんだよ。一つ言っておく。この世界で一番怒らせちゃいけない生物は、陰キャだ!……お前はその陰キャを怒らせたんだ、覚悟しろよ!」
俺はそう言って、ムクゲの方をしっかりと向いた。
そして、怒り解き放ち、覚悟を決める。
俺は一歩、大きく前へ踏み込んだ。
怒った影使い陰キャVS触手使いの戦いが今始まる……!
あ、リアルの用事が片付いたので、来週から投稿頻度があがる……かもです!多分だけど!




