異世界で女騎士に会ったとしても、コミュ症はまともに会話することができない。②
「そこの貴様!ここで何をやっている、お前は何者だ!」
急に聞こえた声に驚き、ほぼ反射的に後ろを向いた。
声のした方には、長い剣を持ち、銀色の鎧に身を包んだ、黒髪ロングの女。
そして、似たような服装をしている、甲冑で顔を隠している人が二人、全員こちらに剣を向けて立っていた。
あの見た目。あの言葉遣い。
長年小説や、ゲームで見てきたんだ、見間違えるわけがない。
あれはどんなRPGにも絶対に現れる騎士。
そう、女騎士だ。
本当に異世界には、女騎士が存在したのか!
一気に気分が上がってくる。
「おい、聞いたのが分からないのか!」
女騎士がさっきより強い声で聞いてくる。
女騎士との初対面だ。
そうだな、ここは落ち着いて、クールに答えることにしよう。
よし、行くぞ!
「……あ…………その……ども」
……ダメだった。
いや、よく考えれば分かることだった。
前世では、俺は基本的に女と話すことはなかった。
例えば「ここ最近、話した女性は?」と聞かれたとする。
その時、母親か、コンビニで「ビニールはいりますか?」「あ、いや、大丈夫です」と会話したコンビニバイトの女性と答えるような男だったんだ。
そんなコミュ症が、異世界に来て数秒で、女と話せるわけがない。
そんな俺の事も考えずに、女騎士はさらに強い声で話してくる。
「なんて言ったんだ?話すならはっきりと話すんだ、何を言っているか分からない。それで、貴様は何者なんだ!」
「…………あ、えっと……日本から……その……」
「はっきり話せといっただろ!……貴様、怪しいな。我々と一緒に来てもらおうか」
そう言い放って、女騎士はゆっくりこちらに近づいてくる。
……しょうがないじゃん、はっきり話せないものは話せないんだから、しょうがないじゃん。
そんなに強く言わないでくれよ。……しかし、まずい。
おそらくここで捕まってしまえば、面倒くさいことになることは確実だ。
何とかこの状況を打破しなくては。
「い、いや、待ってください。……あの、俺は、怪しい者じゃなくて……」
「はっきり話せと言っているだろ!」
んー、怖い。普通に泣くほど怖い。
学校で話も聞かず、理不尽に怒鳴りつけてきていた、教師くらい怖い。
異世界の女騎士はもっと優しいものだと思っていたのに、めちゃくちゃ怖いやん。
このままじゃ俺普通に泣いちゃうぞ。
そんな事を思っても、女騎士は近づいてくる。
こうなったら、仕方がない。前世から使ってきた奥の手を使うとしよう。
「ちょ、ちょっと待ってください。あ、あれなんですか!」
「あれ?」
そう言って、女騎士が振り向いた瞬間。
俺は即座に後ろを向き、駆け出した。
そう、俺は女騎士から逃げるため、走りだしたのだ。
これでもクラスの中では、下から8番目くらいの足の速さだった。
つまり、遅いことは遅いが、遅すぎるわけでもないのだ。
この速さなら、重そうな鎧を着た女騎士に追いつかれることはないはずだ。
そう思ったのもつかの間、後頭部に何かがぶつかり、強烈な痛みが走った。
思わず、悲鳴を上げて倒れこむ。
「い、痛い!な、なんだ?」
「貴様、逃げるとはいい度胸だな」
そう言いながら、女騎士はゆっくりと近づいてくる。
女騎士はさっき何も持っていなかった右手に、何か小さなものを持っている。
それを見てようやく分かった。
どうやら俺の後頭部にぶつけられたものは、石だったらしい。
女騎士が転がっていた石を拾い、それを凄い力で投げ、俺を倒したようだ。
……石投げただけで、あの威力かよ。
筋力ゴリラかよ。
「さて、もう逃げようもないぞ。大人しくついてきてもらおうか!」
「い、いや、だから誤解で…………。その、俺は別に悪い奴じゃなくて……なんて言うか、別の世界っていうか…………」
「もういいから、さっさと私たちについてくるんだな」
そう言い放ち、女騎士は俺の腕に手を伸ばしてくる。
まずい、このままだと本当に捕まってしまう。
どうする、どうする、どうする?
話は聞いてくれないし、逃げることもできない。
こうなったら、試してみるか……。
そして、俺はしっかりと前を見る。
「ん、なんだその目は。何を考えているんだ」
「か、覚悟してくださいよ……影!」
叫ぶと同時に、俺の影は変化し始める。
「な、なんだ!」
突然動き始めた影に驚きながら、女騎士は後ろへ引こうとする。
しかし、もう遅い。
俺の作った影の武器は、
巨大な影でできたハンマーは、すでに完成している。
俺は完成した巨大な影のハンマー。
言うなればシャドウハンマーを大きく振り上げた。
そして、女騎士に向けて、全力でぶつけた。
ハンマーが女騎士にぶつかると同時に、女騎士は力に押され、真っすぐ後ろへと吹き飛ばされていった。
……すっげええええええ!
あの強そうな女騎士を、吹き飛ばしたぞ。
持った感じは軽くて、家によくあるハンガーをかけるあれを持ってるような感覚だった。
それがぶつけた瞬間、良く分からないけど、ハンマーが重くなって、吹き飛ばして……良く分からないけど、凄い。
やっぱり、この能力は強力かもしれない。
しかし、そんな喜びもつかの間。
女騎士はゆっくりと立ち上がってくる。
「……貴様、よくもやってくれたな!ぶった斬ってやる!」
凄いキレてる。
あの一撃を食らって立ち上がるとは、凄いな。結構な距離吹き飛んだし、相当ダメージがあってもおかしくないと思うんだが。
しかし、次は通用しないかもしれないし、どうするか。
……こうなったら、やれることは一つだな。
さっきは失敗したが、今は相当な距離があるんだ。上手くいくはずだ。
そう思い、俺はさっきのように後ろを向く。
そして、女騎士とは真逆の木が生い茂っているところを目指し、駆け出した。
「え……、いや、ちょっと待て!」
女騎士が何か叫んでいるが、知ったことじゃない。
このまま戦って勝てるかもしれないし、勝てないかもしれないが、さすがに異世界に来ていきなり戦う気にはならない。
相手があの女騎士なら尚更だ。
そんな事を思いながら、俺はただひたすらに走っていく。
体力がないせいで、何度か休憩を挟んだが、それでも確実に森を進んで行った。
そして、駆け出して、数分立った頃。
「はあ、はあ……あ、あれは、光だ!」
やっと森を抜けられると思い、最後の力を振り絞り、走り出す。
そして、ついに森を抜けた。
森の外はひたすらに綺麗な草原が広がっていて、圧巻の光景になっている。
前世では見たことのないような景色に、俺は思わず数秒間あっけにとられた。
それから我に返り、すこし進んでから周りを見てみると、少し遠くにそれは見えた。
大きな壁に囲まれて、巨大な敷地を持ち、前に数人が並んでいる門がある。
あの見覚えのあるような見た目。
間違いない。
「……街だ!」
思わず俺は声に出した。
もし草原だけで、何もなかったりしたら、どうしようかと思っていたが、街があって良かった。
しかし、実際に壁に囲まれた街を見て、改めて実感した。
俺はどうやら、本当に異世界に来たようだ。
そう思うと、ワクワクとドキドキが心の底から湧き上がってくる。
「よし、いくか」
そう呟き、俺は町を目指して走り出す。
主人公がゴリラの筋力と言っていますが、主人公はゴリラの握力が凄いことしか知りません。
握力強いし、筋力強いんじゃねって感じで思ってます。
面白くなりそうだと、少しでも思ったら、評価かブクマ登録お願いします!




