人生にはすぐに答えを出さなくても良い事も、あるのかもしれない。③
転生コミュ症と、グレイムの戦いが、今始まる!
「いっくぞおおお!」
そう叫びながら、俺はグレイムへと駆けていく。
ある程度近づくと、シャドウハンマーを大きく振り上げ、勢いに乗せて振り下ろす。
ハンマーはそのままの勢いで、グレイムへと向かって行く。
だが、ハンマーはグレイムの胴体に当たる直前、岩で作られた腕に防がれてしまう。
それとほぼ同時に、もう片方の腕を使い、俺へと攻撃を仕掛けてきた。
何とかその一撃を躱すと、一度少し後ろへと下がっていく。
……あぶなっ!!
もう一歩足を踏み出してたら、確実に死んでたぞ。
何で俺は戻ってきちゃったんだよ、今頃になって凄く後悔している。
ゴブリン程ではないが、グレイムから放たれる殺気に、足が震えて止まらない。
こちとら初めてモンスターを見たのが数十分前で、モンスターと戦ったのも、本当についさっきなんだぞ。
少しくらい手を抜いてくれたって良いじゃないか。
しかし、どうするか。
さっきのグリシアの攻撃が、胴体を貫いていたところを見ると、恐らく胴体の強度はそこまで高くはない。
もう一撃胴体に加えられたら倒せるかもしれないが、頑丈な腕と、見た目にそぐわないスピードが厄介すぎる。
真正面から行けば、頑丈な両腕に守られるし、
回り込もうとしても、スピードが速すぎて回り込ませてもらえず、真正面の戦いに持ってかれてしまう。
何とか両腕の動きを封じられれば良いんだが、どうするかな。
一回ゆっくり考える時間をくれないかな。
そんな事を考えても、グレイムが攻撃の手を休める事はない。
グレイムは片腕を大きく上げ、俺の方へと近づいてくる。
「……くっそ、影よ、盾に変化しろ!」
そう叫ぶと、影はすぐに左手へと集まりだし、想像した通りの形へと変化した。
その盾を使い、グレイムの攻撃を何とか受け流すと同時に、さらに別の影を変化させ始める。
「影!」
瞬間、右手に集まった影は俺が想像した姿。
影の槍へと変化した。
その槍をしっかりと握り、グレイムを突き刺そうとする。
が、片方の腕にいとも簡単に止められてしまう。
やはり、このままじゃ駄目だ。
自分で思うのもなんだが、この数日間の学園生活で、多少運動神経や、戦闘技術、力の技術を大きく上げることが出来たと思う。
そのお陰で、今はグレイムと戦うことが出来ている。
しかし、体力は有限だ。
この状況が続けば、体力がなくなり、俺がやられるのは目に見えてる。
何とか体力がなくなる前に、勝負をつけなければならない。
一度状況を理解しよう。
グレイムの弱点は恐らく胴体。
しかし、驚異的なスピードと、頑丈な腕のせいで胴体まで攻撃が届かない。
近くには室内なのにもかかわらず、森が広がっている。
また、天井の光と、森のお陰で広範囲に影が広がっていて、
影を操れば、大抵の武器を、大量に作ることが出来る。
こっちの利点は、大量の影を使えるという点か。
それなら……手数で勝つ。
「影よ、双剣に変化しろ!」
叫ぶと同時に、いつもの流れで触れていた影がそれぞれの手へと集まっていく。
そして、影の双剣へと姿を変えた。
それと同時に、走る。
出来る限り、様々な動きをしろ。
上手く動き、グレイムを翻弄しながら、攻撃を繰り出せ。
そうすれば隙が生まれて、きっと胴体に攻撃を当てられる。
多分だけど!
とにかく、動くのをやめなければ、何とかなる。
そう考え、動きながら、ひたすらに様々な攻撃を繰り出す。
攻撃を繰り出すたび、頑丈な腕に防がれるが、確実に押してはいる。
このままいけば……。
「あ、上だ!危ない!」
「……え?」
グリシアの叫びが聞こえ、ふと上を見ると、
グレイムが右腕を振り上げているのが見えた。
焦り、下がろうとするが、遅かった。
下がり切る前に、グレイムの右腕は振り下ろされた。
あ、やばい、死ぬ。
これ、死ぬやつだ。
一気に走馬灯が流れてきた。
この世界に来てからの記憶が、一気に流れてきた。
よく考えたら、第二の人生で、何が出来たんだろう。
変わるとか言っても、結局変われてないし。
ついさっきなりたい理由を見つけた冒険者にもなれなかったし。
友達もたくさんは出来なかったし、彼女も出来なかった。
最高の人生も、送れていない。
……まあ、良いか。
最後は、立ち向かって、カッコ良く死ぬんだ。
それなりに、良い最後なのかもな。
「……くたばれ、ゴーレムやろうが」
そう呟くと同時に、グレイムの無慈悲な一撃が、俺に振り下ろされ……。
「ウィンドスラッシュ‼」
グレイムの一撃が、俺に直撃する直前。
突然、後ろから放たれた風の斬撃の様な物が、グレイムを吹き飛ばした。
「……え?…………俺、生きて…………」
「ごめん、気を失ってて、遅れちゃった。二人とも、無事でよかった!」
「……え、ゆ、ユリ!」
そう、そこに立っていたのはユリだった。
見た所、さっき飛んできた斬撃は、ユリが飛ばした物だったようだ。
助かった。
完全に死んだと思ってた。
ユリは命の恩人だな。
「ちなみにうちもいるよ!いやー、完全に気を失ってたわ。迷惑かけたね」
「……な、なんでみんなも来たんですか?目覚めたなら、逃げればよかったじゃないですか!」
「そう言うわけには行けないよ。私たちは冒険者志望だよ?困っている人がいたら、助ける。それが冒険者なんだから、ここで逃げたら、私たちは冒険者でも、なんでもなくなっちゃうから。それに、グリシアさんも、コウキくんも、今は大切な仲間だよ。そんな仲間を置いて行けるわけないでしょ」
そう言うと、ユリは風の剣を構えながら、俺の所へと駆けよってきた。
そして、俺の体中を見て回ると、ゆっくりと話し始めた。
「うん、大きな怪我はないみたいだね。良かった!」
「……ユリのお陰だよ。……と、とりあえず、戦って分かった、グレイムの特徴を話すよ」
そう言って、俺はユリたちにグレイムの事を説明し始めた。
恐らく胴体が弱点だという事。
腕が頑丈で、見かけにそぐわないスピードがある事。
胴体を攻撃しようにも、腕に防がれて、そう簡単に攻撃が通らないという事。
説明を聞くと、ユリは少し考えたのち、
ゆっくりと口を開いた。
「つまりは、両腕を封じて、その間に胴体を攻撃できればいいんだよね。……よし、分かった。まず、全員で攻撃を仕掛けて、上手くグレイムを翻弄しよう。途中で、私とカンナで、両腕を封じるから、その隙にコウキくんが、胴体を攻撃して!それで良いかな?」
「いや、でも、グレイムって相当強いよ?……両腕を封じる事なんて出来るの?」
「ふっふっふっ……うちらを舐めるなよ!まあ、見ときな!」
「いや、でも……」
そう話していると、ユリに吹き飛ばされてから、様子を見ていたグレイムが、ゆっくりと動き始めた。
俺たちを睨め付けると、凄い勢いで俺たちの方へと突っ込んでくる。
それなりの勢いがあるし、直撃したら、ひとたまりもない。
ここは何とか避けて……。
「ここはうちに任せて!……強大な敵に挑む、この瞬間。…………興奮してきたあああ!」
そう叫びながら前に出ると、カンナはグレイムを軽々と受け止め、全力で殴り飛ばした。
そうなるのを分かっていたかのように、風で球体を作っていたユリは、
殴り飛ばされたグレイムに、作った風の球体を大量に放つ。
さらに攻撃を受けたグレイムは壁に打ち付けられ、多少ダメージを受けたように見える。
ユリとカンナが強いことは知っていた。
しかし、これ程とは思わなかった。
相当な威力の突進を軽々と受け止め、いとも簡単に殴り飛ばすカンナ。
器用に風を操り、多少ではあるがあのグレイムにダメージを与えたユリ。
二人とも、想像以上に強過ぎる。
これは、俺も頑張らないとな。
そう思い、俺も影で武器を作りながら動き出す。
一撃で、確実にグレイムを倒せる武器。
俺が作った事がある武器で、一番火力があるのはシャドウハンマー。
そうなると、シャドウハンマーを作るのが一番良いが、少し不安もある。
それなら……。
「……二つ作ればいい。影」
そう呟くと同時に、両手に集まっていた影は大きく変化を始める。
影はいつも通り数秒で変化し終わり、二本のシャドウハンマーへと変化した。
これなら、十分な火力があるし、胴体に攻撃できれば、倒せるはずだ。
「……ユリ、カンナさん、隙を作ってくれれば、確実に俺が倒します。……だから…………その……」
「うん、隙は私たちが作るから任せて!行よ、カンナ!」
「おうよ!」
そして、ユリとカンナはグレイムへと駆け出した。
それに気づいたグレイムは、ゆっくりと立ち上がり、
防御の姿勢に入る。
それを見たユリは、風で出来た剣を前に出し、叫ぶ。
「ウィンドランサー‼」
叫ぶと同時に、風で作られた剣身が伸びながら広がっていき、グレイムに直撃した。
その風は素早く回転し、防御していた腕を大きく弾いた。
何とかもう一度防御しようとするが、防御し終える直前に、両腕は抑えつけられた。
左腕はカンナが、右腕はユリの風が抑え込み、完全に両腕を封じ込んだ。
『今だ!』
ユリたちがそう叫ぶと同時に、俺は大きく飛び上がった。
そして、振り上げた二本のハンマーを全力で振り下ろす。
「……くらえ、ダブルシャドウハンマー‼」
振り下ろされたシャドウハンマーは、グレイムの胴体に直撃し、グレイムを地面に叩きつけた。
叩きつけられたグレイムは、数秒で動かなくなり、辺りは静まり返った。
「……やった……よな?」
「流石に気絶してるみたいだね……」
「……やったあああ!ユリ、コウキ、グリシア、うちらの勝ちや!」
カンナが尋常じゃないほどに叫んでいる。
だけど、そうか、勝ったのか。
嬉しさと、安心でどうにかなってしまいそうだ。
一時は死にかけて、どうなる事かと思ったが、良かった。
「あれ、コウキ泣いてる?そんなに怖かったのー?」
そう言われて、自分の顔を触ってみると、いつの間にか涙が流れていた。
一気に緊張が解けたせいか、いろいろな感情があふれ出し、今頃になって泣いてしまっていたらしい。
「え、いや、泣いてないよ!」
そう言いながら、こっそりと涙を拭いていると、
ユリがグレイムを風のロープで縛りながら、ゆっくりと話始めた。
「まだ、グレイムの息はあるみたいだけどどうする?今なら簡単に殺せそうだけど。……コウキくん、倒したのはコウキくんが決めるべきだと思う」
「え、俺が?……そうだな。…………ごめん、やっぱり俺には殺せないや。甘いかもしれないし、駄目なのかもしれないけど、やっぱり俺には殺せない!」
「そっか……うん、コウキくんがそれで良いなら、良いと思うよ!……さて、それじゃあ、一回ダンジョンから出よっか。グリシアさんもそれで良い?」
「…………はい、それで良いです」
「よし、なら行こっか!」
そう言った次の瞬間。
俺たちの目の前に、何かが落ちてきた。
この衝撃、この音、この既視感。
まさかと思い、顔を上げてみる。
するとそこには、二体のグレイムが立っていた。
最悪だ。
さっき倒したのと、別のグレイムが落ちてきた。
その状況に、誰もが動けなくなってしまった。
「ど、どうする?別のグレイムが二体も来たけど。先に言っとくと、力を使い過ぎで、うちは今、全力を出せないんですけど……」
「私も、グレイムの拘束でほとんどの風を使ってるから、使える風はほとんどないんだけど……これは……」
「うん、やばいよね……逃げるにも、逃げられないだろうし……」
ハッキリ言って、絶望。
さっきのグレイムは、最初のグリシアの一撃があり、ユリとカンナが万全な状態だったから勝てたと言っても過言ではない。
グリシアの一撃が入っておらず、全員万全じゃない、さらにグレイムは二体、この状況じゃ、相当厳しい。
万事休すか。
その場にいた全員が、諦めかけたその時。
目の前に眩い光が下りてきた。
その光の眩さに、目をくらましていると、光の中から声が聞こえた。
「はー、全く何をやってるんだ、貴様らは」
「……え、嘘だろ」
そこに現れたのは、俺たちの担任。
ロメリア先生だった。
補足?
カンナの力は、短時間に一気に身体能力を上げると、使用後、少しの間身体能力が上がりづらくなる。




