異世界のチート能力は、本当にチートなのかもしれない。②
それはこの世界に来た日の出来事。
俺は死んだことに対する動揺と、新たな世界に対するワクワクを持っていた。
そんな中、新しく得た力を試していた時だった。
銀色の鎧に身を包んでいて、黒い長髪一人の女性。
ゲームで出てくる、女騎士が目の前に現れたのだ。
最初は初めて見た女騎士に、気持ちが高まっていた。
そう、その時はまだ、女騎士の恐ろしさに気づいていなかったのだ。
俺の事を見つけたと同時に、その女騎士は急に大声で俺を怒鳴りつけてきた。
そして、様々な事情を説明しようとしている俺を無視し、問答無用で捕まえようとしてきた。
あまりの迫力と、怖さに俺が逃げようとすると、今度は石を俺の後頭部にぶつけ、全力で襲い掛かってきたのだ。
結果的に俺は何とか逃げることが出来たのだが、その出来事のせいで、女騎士にトラウマが出来てしまった。
そして、その女騎士こそが、今目の前にいる校長先生なのだ。
どこかで見た顔だとは思ったが、まさかあの女騎士だったとはな。
しかし、ここで一つ問題が出てきた。
あの時、俺が女騎士を吹き飛ばして、女騎士から逃げてしまったという事だ。
もし女騎士が、校長先生がこのことを覚えていて、俺があの時に逃げた男だと気づいたとする。
そうなれば俺は取り押さえられ、なぜ逃げたのか、なぜあの森にいたのかを聞かれ、最終的に捕まる可能性もある。
それは回避しなくてはならないのだが……。
……回避のしようがないな。
校長先生が俺の事を覚えていないことを祈るしかないよな。
もし覚えていたら……まあ、どうしようもないし詰みだからな。
と、そんなことを考えている時。
ふと、前を見た瞬間、校長先生と目が合ってしまった。
まずい、完全に目が合った。
すぐに下を向いたが、恐らく俺の顔は完全に見られてしまっただろう。
こうなったら俺の事を覚えていないのに賭けるしかない。
頼む……どうか俺の事を忘れていてくれ……頼む。
そう思いながら、恐る恐る校長先生の方を向いてみる。
しばらくの間見ていたが、校長先生は俺に近づいてくる気配はない。
どうやら校長先生は、俺の事を覚えていなかったようだ。
良かった……一時はどうなることかと思ったが、覚えていなかったなら何よりだ。
そんなこんなで勝手に焦ったり安心したりしていると、校長先生がゆっくりと話を始めた。
「……さて、それでは私から話をさせてもらう。この授業は君たち学生に、モンスターの危険性を教える授業である。この中には既にモンスターと対峙したことがある者もいるだろう。しかし、その者たちはおそらくモンスターの危険性を理解できていない。いいか、モンスターは強力で、危険な生物なんだ。それを今から見せてやろう。……例の物を持って来てくれ!」
校長先生がそう言うと、ロメリア先生が奥から檻の様な物を持ってきた。
遠くからじゃ良く見えないが、その檻の中には何か生物が入っているように見える。
一体何が入っているのか。
それは檻が近くまで来た所で、ようやく理解できた。
緑色の肌に、少し尖った鼻。
人間の子供位の背丈で、片手には小さな剣を持っている人型の何か。
普通の人ならこれが何か分からないだろうが、何度も様々なRPGをしてきた俺はわかる。
あの特徴的見た目からして、あれはどのRPGにも必ず出てくるモンスター。
ゴブリンだろう。
「す、すげえ……」
思わず、そう呟いていた。
本当にゴブリンは存在したのか。
初めて見るモンスター、ゴブリンにワクワクとドキドキが止まらない。
一気にテンションが上がってくる。
一体どんな風に話すのだろうか。
一体どんな風に攻撃をするのだろうか。
ゴブリンに対する様々な疑問が浮かび上がってくる中、もっと近くで見たいという気持ちが高まってくる。
もう少し近くで見たいと思い、一歩前に踏み出した瞬間だった。
少し前まであった、ワクワクした気持ちと、ドキドキした気持ちが一瞬で消え去った。
そして、恐怖という感情が心を支配した。
なぜそんな事が起きたのか。
理由は簡単だ。ゴブリンの殺意を受けてしまったからだ。
一歩踏み出した瞬間、俺の目に影で見えていなかったゴブリンの目が映りこんだ。
俺が目にしたゴブリンの目。
それは生きてきた中で、一度も見たことがないような、恐怖心を煽るような目。
おそらくあれが殺意を持った目という奴なんだろう。
それを見た瞬間、俺の心は恐怖に包まれ、足の震えが止まらなくなった。
ただひたすらに怖い。
なんなんだ、あの目は。一瞬で全てが嫌になった。
今すぐこの場から逃げ出したい。
しかし、足が震えて体が動かない。
俺はモンスターを甘く見ていたのかもしれない。
所詮はRPGで出てくるやられ役で、結局の所人間よりも弱いと、勝手に思いこんでいた。
しかし、それは大きな間違いだった。
実際のモンスターは強そうで、怖い本物の化け物だった。
……誰か助けてくれ、あんな奴と一緒の空間にいたくない。
あのゴブリンから今すぐはなれたい。もういやだ。
空気が重い、今すぐこの場から逃げ出したい。
そんな事を思った時。
パンッ!
何かの大きな音で、俺はふと我に返った。
音のした方を見ると、校長先生が両手を合わせて立っていた。
どうやら今の音は、校長先生が出したようだ。
「……一度落ち着け。モンスターの空気に飲まれるな。……こいつはゴブリンと言い、それなりの冒険者でもやられる可能性があるほどの強さを持つモンスターだな。君たちもみて分かっただろう、このゴブリンの持つ殺意。…………怖いか?まあ、怖いだろうな。……ロメリア先生、ゴブリンの檻を開けてくれ!」
「……え?」
今あの校長先生なんて言った?
檻を開けてくれって……つまりはゴブリンを檻から出すってことだよな。
正気かよ、この状況であのゴブリンを開放したらいったいどうなるのか分かってないのか。
そんな事を思っても、ロメリア先生は動きを止めない。
ロメリア先生は慣れた手つきで鍵を使い、ゴブリンの檻を開けた。
檻が開いた瞬間、ゴブリンはすぐさま檻の外に飛び出し、戦闘態勢へ入った。
「……いいか、今は怖くていい。だが、この学園に来た以上、必ずモンスターとは戦う事となる。だから、慣れろ。すぐにとは言わん、ゆっくりで良いから恐怖に慣れるんだ」
そう言いながら、校長先生は剣を抜いた。
そして、剣をゴブリンに向け、話を続ける。
「まずは、私がモンスターとの戦いを見せる。モンスターの危険性と人間の強さを、しっかりと理解するように!」
そんなことを言って、校長先生はゆっくりとゴブリンへと歩いて行く。
ゴブリンは警戒しながらも、小さな剣を強く握りしめた。
ある程度距離が近づいた、次の瞬間。
ゴブリンは聞いた事のない奇声を発しながら、校長先生へと襲い掛かった。
そして、そのまま小さな剣で、校長先生を突き刺した。
刺された校長先生は大量の血を吹き出し、倒れこんでしまった。
「…………え?」
……嘘だろ、刺されたぞ。まさか、やられてしまったのか?
いやいや、一見やられたように見えるが、校長先生は騎士団の団長だぞ。
そんな簡単にやられる事はないはずだ。
きっとすぐに立ち上がって、反撃するに決まってる。
しかし、校長先生が起き上がる気配は一切ない。
……まさか、本当に死んじゃったのか?
実際に本物のモンスターを目にした時。
人は恐怖心を持たず、ゲームで戦う時の様に戦えるのだろうか。




