どの世界でも先生はろくなもんじゃないと思っていたが、意外にもそうでもないのかもしれない。③
「それでは、これよりユリ生徒の実技テストを開始する!……始め!」
ロメリア先生の合図で、ユリのテストが始まった。
始まると同時に、ユリは腰についていた鞘から剣を抜いた。
のだが……。
「なんだあれ、剣……だよな?剣なのに、剣身の部分がないぞ?」
「初めて見たら驚くよねー。まあ、見てな。すぐにどういう事か分かるから!」
カンナに言われるがままに、ユリの方を見ていると、数秒後に異変に気付いた。
辺りには吹いていないのに、なぜかユリの周りに風が吹き始めたのだ。
最初はそよ風だったのが、だんだんと強くなっていき、それに比例するかのように、風はだんだんと剣身のない剣へと近づいて行く。
そして、数秒後にはユリを覆っていた風は消え去り、全ての風が剣へと集まっていた。
集まった風は、まるで剣の剣身の様に形作られている。
それを見てようやく理解できた。
「なるほど。風の剣を作るから、剣身がなかったのか!」
「正解!もう分かってると思うけど、ユリの力は風を操る力!超強い力よ!」
風を操る力。
普通にチートレベルの力だな。
見た感じ、俺の影を操る力の様に、武器も作れるみたいだし、風を操れるってことは風で敵を吹き飛ばしたり、竜巻を起こしたり出来るのかもしれない。
そうなれば最強だ。
「はああああああ‼」
そうこう考えていると、ユリが風で出来た剣を振り下ろした。
剣と案山子がぶつかった次の瞬間。
案山子は半分に切られると同時に、その風の勢いでどこかへ飛ばされていった。
凄い威力だ。
風っていうのはあそこまで力があるものなのか。
驚きを通り越して……驚きだ。
「いやー、何とか破壊出来たよ」
テストを終えたユリは、近づいてきて、可愛い笑顔で言った。
守りたい笑顔だな。
「さすがユリ!何度見ても凄い力だね~ 」
「う、うん、カンナさんの言う通り凄かったよ。案山子を吹き飛ばすなんて、想像もしてなかったよ」
「ありがと!次は順番的にコウキくんだね。頑張ってね、応援してるから!」
「うん、頑張るよ」
そうか、次は俺の番なのか。
カンナとユリのテストを見た感じ、あの案山子は力のゴリ押しに弱いように見える。
となると、火力をだせる武器の方が良いよな。
剣、槍、ハンマー……。
そうだな、シャドウハンマーでぶん殴るのが一番だ。
作戦も決まったし、後はやるだけだが……。
……緊張する!
やばい、緊張しすぎて動揺と震えが止まらない。
クラスメイト全員が見ている前で、たった一人でテストを受けるとか、拷問かよ!
俺みたいな陰キャからしたら、みんなの前に出て何かをするのは、ただただ地獄でしかない。
先生はそのことを分かっているのかよ。
……はあー、嫌だ。
まじで嫌だ。逃げ出したい。
てか、もう逃げちゃおうかな。
なんて考えていると、すぐに準備が整ってしまった
「次はコウキだ!前に出てこい!」
ついに来たか……。
俺は仕方なく覚悟を決め、先生の所へと歩いて行った。
「準備は出来てるな。それでは、これよりコウキの生徒の実技テストを開始する!」
合図を聞いたと同時に、俺は近くで一番大きな影へと駆け出した。
そして、影に触れると同時に「影」と呟いた。
すると、影はみるみる形を変えていき、巨大なハンマーの形へと変化した。
俺はそのハンマーを両手で持ち、案山子へと駆けていく。
シャドウハンマーの威力、思い知れ!
そう思いながら、全力で案山子へと振り下ろした。
ハンマーと案山子がぶつかると、巨大な音があたりを覆った。
その音から、俺はすぐに察した。
今の衝撃音なら、間違いない。
きっと案山子は粉々に潰れているはずだ。
そう思い、ウキウキ気分でハンマーを上げた。
「……え?」
が、案山子は粉々になっていなかった。
それどころか、傷一つついていない。
巨大な音に反して、案山子には全くダメージが入っていないようだ。
焦りながら、もう一度ハンマーを振り下ろす。
が、やはり全くダメージが入っていない。
その様子を見ていた先生は、大きなため息をついていた。
ため息をつきたいのは同じだ。
何で全く効いてないんだ。
「もういい、そこまでだ。元の場所に戻っておくように」
「…………は……い……………………」
そう答え、元居た所へと静かに戻っていく。
……駄目だったな。
相当な威力だったはずなのに、全く効いていなかった。
何か仕組みがあるのか。
それともシンプルな実力不足か。
分からないが、今何を思っても変わらない。
焦りと悔しい思いと恥ずかしさと……。
様々な思いで、心がぐちゃぐちゃになっていると、ユリたちがゆっくりと近づいてきた。
「だ、大丈夫だよ、コウキくん!まだテストはあるんだし、次頑張ろうよ!」
「そうや、このテストの相性が悪かっただけで、次は上手くいくさ!コウキ、頑張れ!」
「う、うん、ありがとう。つ、次は頑張るよ」
ユリたちの言う通りだ。
今回のテストとの相性が悪かっただけで、次のテストはきっと大丈夫だ。
自分にそう言い聞かせて、次のテストに期待を持つ。
が、世の中そう甘くはなかった。
結局、俺は次のテストだった持久走も、自分の身を守る良く分からないテストも、大失敗で終わってしまった。
「……終わったな」
「いや、大丈夫だよ、コウキくん!確かに少し駄目だったかもしれないけど、実際の点数はそこまで悪くないかもよ!ほら、元気出して!」
ユリが慰めようとしているが、今はその慰めでさえ、きつい。
一体どうしてこうなったんだろうか。
やはり俺の実力不足という奴だろうか。
いや、しかし、自分で思うのもなんだが、結構実力はあったと思う。
やっぱりテスト内容が難しすぎたんじゃないのか?
いや、けどユリたちは出来てたし……。
なんてことを考えていると、大量の書類を片手に持ったロメリア先生が、教室へと入ってきた。
「これより、成績発表を行う!呼ばれた者から前に出るように!」
そして、先生が一人ずつ名前を呼ぶ始めた。
考えうる限り最悪だな。
一人ずつ呼ばれて、みんなの前で成績発表とか……。
先生ってのはどの世界でも変わらないのかもな。
やっぱり先生は生徒に地獄を見せる、ただただの最悪な人間だ。
はあ……胃が痛い。
帰りたい。
なんてことを考えていると、すぐに俺の番が来てしまった。
「コウキ生徒!前に来い!」
名前を呼ばれ、仕方なく前に歩いて行く。
先生の前に着くとすぐに、成績の発表が始まった。
「まず、座学のテストだが……0点。次に実技テストの合計は……300点中24点だ」
分かってはいたが、酷すぎるな。
座学0点で、実技24点って……。
赤点ってレベルじゃないよな。
座学に関しては、0点なんて初めて見たぞ。
「……ひどい点数だな。この点数だ、もちろん君がクラス最下位だ。毎年このテストは行われているが、ここまでひどい点数は初めて見たぞ。よくこの低さでこの学園に合格できたな」
「…………はい…………まあ………………」
駄目だ、心が折れそうだ。
周りの視線も痛いし、先生からの言葉も痛い。
前世でも何度か経験した、
みんなの前で強い言葉で、ぶつくさ言われるという、ただの地獄。
こういう事を、やられる側の事を全く考えずに、いとも簡単にするから教師は嫌いなんだ。
はあ……もう良いから……早く終わらないかな。
そう思いながら、適当に話を聞いていた時。
先生から意味の分からない言葉が放たれた。
「まあ、良かったじゃないか。こんな点数を取れて」
「はい…………え、良かった?」
今、良かったって言ったよな?
流石にこの状況で、教師にそんな事を言われたことはない。
良かったじゃないかって、いくら何でも皮肉が過ぎないか。
「ああ、良かった。コウキ生徒。さっきも言った通り、君がクラスで最下位だ。つまりだ、コウキ生徒はこの中で最も伸びしろがあり、最も成長することができるという事だ!」
「……最も成長……できる…………?」
「ああ、そうだ。これは私の考えだが、弱く、才能がない者を悪いとは思わない。人は誰しも、最初は弱い。それを忘れているからこそ、人は弱い者を悪い者として見ているのだ。……いいか、人は誰しも、最初は弱い。つまりだ、弱い者は、強い者へと変わることができるという事だ!自分に自信を持て、そうすれば、きっと強くなれる」
「強く……なれる……」
全く想像をしていなかった言葉に、驚きが隠せない。
前世を合わせれば、多くの先生と出会い、様々な事を教わってきた。
しかし、俺が悪い点数を取ったり、周りに比べて出来ないことがあった時。
先生たちは俺に対して怒るか、見捨てるかしかしてこなかった。
こんな事を言って来た先生は初めてだ。
衝撃的過ぎたせいか、つい本音が漏れてしまう。
「お、俺でも強くなれるんでしょうか?……俺は相当弱いですよ?」
「当たり前だ。弱い者は誰でも、強くなれる。それはこのクラスの全員にも言えることだ。諸君はまだ弱く、はっきり言って私たちの足にも及ばないだろう。しかし、安心しろ。これから数年間で、諸君は必ず強くなる。……いや、強くして見せる!それが、学園の使命だからな。……おっと、時間も迫ってきたな。次はシクラ生徒、前に来い!」
そう言って、先生は成績発表を続けた。
俺は様々な思いを巡らせながら、自分の席へと戻っていく。
こんな俺でも強くなれると、
ロメリア先生はそう言ってくれた。
強くして見せると言ってくれた。
言葉では上手く表せないけど、何というか心の奥が、フワフワしている。
さっきまでの地獄にいるかのような気持ちが、嘘のようだ。
……俺はどの世界でも、先生はろくなもんじゃないと思っていた。
しかし、意外にもそうでもないのかもしれないな。
少なくとも、ロメリア先生は良い先生だと思う。
……期待には応えないとな。
絶対に強くなってやる。
精神的にも、肉体的にもだ。
少しではあるが、一度は変われたんだ。
絶対に今度も変われるはずだ。
絶対に……強くなる。
俺はこの日、
心の中で、強くそう決心した。
先生がコウキたちの名前を呼ぶとき、生徒とつけてるのは先生を呼ぶときだけ、先生と付けるのはおかしいからだそうです。




