新学期に新しい友達を作るのは、コミュ症には難しい。②
「し、失礼しま……す…………」
俺は勢い良く開いたドアと正反対の、全く勢いのない小声でそう呟きながら、教室へ入った。
教室は前世の学校と同じように、前に巨大な黒板があり、机と椅子が整列していた。
ほとんど前世の学校の教室と違いはない。
違う所は黒板が少し大きかったり、壁際にある棚の大きさが異常に大きいくらいだ。
教室には既に数人の学生が集まっていて、それぞれ楽しそうに話をしている。
その中には周りを見回している、カンナの姿もあった。
カンナは俺たちに気づくと、小走りで俺たちの方へ近づいてきた。
「ユリにコウキ、遅いよ!後ろから来てると思ったら、いつの間にかいなくて、ビックリしたじゃんか!」
「カンナが早すぎたんだよ。これでも私たちも、急いだ方なんだよ」
「ほーん、そうかな。まあ、いいや!それより席が決まってるみたいだから、ついて来て!」
そんな事を言って、カンナはさっき座っていた席の方へと歩いて行く。
「えーと、ユリが後ろで、コウキはその後ろだよ!机の上に紙が置いてあるから、それで確認してみて!」
言われた通りの席へ行き、机の上を見て見ると、そこには俺の名前が書かれた書類一式が、置いてあった。
席は窓側から二列目の一番後ろの席。
俺からしたら、一番後ろで目立たないこの席は、中々良い。
ユリたちも近くの席だし、考えうる中で結構いい席だな。
そんなことを思いながら、席につくと、カンナが思いついたかのように声を上げた。
「あ、そうだ!さっき仲良くなった子がいるから、ユリにも紹介するよ!ちょっと来て!」
そう言いながら、カンナはユリの手を引っ張っていく。
「相変わらず友達作りが早いね。それじゃあ、カンナの言う子にあってくるから、また後でね」
そう言うと、ユリはカンナに引っ張られながら、教室の真ん中の、女子が集まっている所へと入って行った。
まだ、教室に入って少ししか立っていないというのに、もう友達を作ったのか。
俺と違って、カンナはコミュ強すぎる。
そんな事を思いつつ、俺は机の上の書類を見ているふりをしながら、こっそりと当たりを見渡し始める。
学園初日。
今日は学園生活において、途轍もなく重要な一日の一つである。
理由はもちろん決まっている、この日に友達グループに入れるか入れないかで、今後の学園生活の難易度が、大きく変わるからである。
はっきり言って、友達がいない学園生活は、地獄だ。
友達がいないだけで、悲しく、寂しい気持ちになる。
友達と楽しく遊ぶことができず、休み時間に友達と話す事も出来ない。
青春を味わうことも、出来ないのである。
これは俺の前世で身に着けた知識であり、教訓である。
そして、友達を作るうえで一番大切な日が、今日なのである。
これも前世で身に着けた知識なのだが、基本的に学生は学校初日に友達で集まってグループを作る。
そのグループは学校卒業まで続いて行くのだが、初日にグループに入れず、友達が作れなかった場合、次の日からの生活で友達を作るのは非常に厳しいのである。
そのため、今日絶対に友達を作らなくてはならない。
見た所、今このクラスは4つのグループに分かれているようだ。
まず、俺が苦手としている、男陽キャグループ。
その名の通り男の陽キャが集まるグループで、いつもバカみたいに騒いでいる。
このグループには、性格は良い者もいるが、基本的には悪い者しかいないイメージがある。
個人的には、このグループは苦手だ。
次に、ユリやカンナが参加している、女陽キャグループ。
大半の女子が参加している、女の陽キャが集まるグループだな。
俺の様な一部の陰キャが、優しくされただけで好きになっちゃうタイプの奴らだ。
そして、男陰キャグループ。
俺が前世で半分入っていたグループだ。
男陽キャグループとは正反対の奴らが集まっているグループになっている。
残念ながら、カースト最下位を争えるほどのカーストにいるグループだ。
最後にぼっちグループ。
グループと言っていいか分からないが、ここではグループにしておこう。
前世で俺が半分入っていたグループで、一人でいる奴の事を言う。
……さて、グループの観察も終わったところだし、そろそろ動くかな。
やはり、狙うは男陰キャグループだ。
本当なら、男陽キャグループに入って、陽キャデビューする予定だった。
しかし、いざ陽キャグループを見ると、緊張とか心配とかで、話しかけられそうにない。
そう言う事だから、陰キャ男グループを狙うことにする。
前世ではコミュ症を発揮して、自ら話しかける事なんて出来なかった。
だが、今の俺は違う。
この世界に来た日、俺は変わったんだ。
今の俺なら、確実に話しかけられる。
俺はそう確信している!
……よし、行くぞ。
そう決心し、俺は席を立とうとする。
が、席を立つことができない。
何度頑張っても、下半身が全く動かない。
それどころか、足が震えて止まらない。
それから少し考えたのち、俺は気づいた。
自分では、入学試験で勝った時、完全に変われたと思っていた。
しかし、どうやらそれは間違いだったようだ。
悔しいが、まだ俺は完全には変われていなかった。
その証拠に、今もコミュ症が治っておらず、話しかけることができない。
……変われたと思ってたんだがな。
この間変われたのは、火事場の馬鹿力?かなんかだったんだろうか。
やっぱり、人はそう簡単には変われないのか。
何ていうか悔しいな。
いや、今そんなことを思っていても、しょうがないか。
問題はこれからどうするかだな。
話しかけられると思っていたが、まさか立つことさえ出来ないとは。
このままじゃ、友達が出来ずに、最悪の学園生活になるのは目に見えている。
さて、どうするか。
何とかしようと、考えて、考えて、考え続けるが、良い案は一つも出てこない。
時間も迫る中、途方に暮れ始めた頃。
隣の席に一人の女が歩いてきた。
その女は、彼にとっての救いとなるのか!?
それとも……どうなるんだろうね




