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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
117/120

強くなったコミュ症は影を操り太陽へ挑む。

「いっ……痛い……!」


「もう!男でしょ?ちょっとの痛みくらい我慢しなさい!もし我慢出来ないくらい痛いな~ら~……ワタシが体を使って、癒してあ・げ・よ・う・か♡」


「うえ……いや、だ、大丈夫です!……ほん、本当に大丈夫です!」


 バラーンから繰り出される投げキッスに悪寒を感じながら、

 治療が終わった腹部を抑え、その場から離れる。

 

 剣の魔族を撃破してから、数十分が立った。

 魔族を倒した後、俺達はすぐさま怪我の治療に入った。

 傷が深いコケが一瞬危険な状態だったが、ウラジロの手慣れた処置技術もあり、何とか全員が生き延びることが出来た。

 それから、水の迷路を抜けると、バラーンが連絡を取っておいた医療班と合流し、本格的な治療を受け始めた。

 そして、最終的な治療を終え、今に至るという訳だ。


「だけど、みんな無事で良かった!うちは一瞬もう駄目かと思ったよ!……コウキ、さっきはありがとうね!何度も助けてくれて!」


「……え……あ、いや……気にしなくていいよ。カンナが無事で本当に良かった。……カンナこそ、さっきはありがとう」


「何言ってるの!お互い様だよ!」


「……あ、そう言えば……その、剣の魔族はどうするんですか?」


 剣の魔族は気絶しているが、生きてはいる。

 苔を使って捕らえてはいるが、目を覚ませば簡単に逃げだされてしまうだろう。

 やはり、この状況では殺すしかないのだろうか。


 ……嫌だな。

 いくら魔族でも、やっぱり殺すのは嫌だ。

 目の前で誰かが死ぬのは、敵であっても見たくない。


「そうね……捕獲に成功した事だし、ギルドに連れ帰って話を聞くことにするわ。この魔族の魔力で水の迷路なんて作れるとは思わないし、いろいろ聞くことがあるからね♡」


 良かった。話を聞いた感じ、殺しはしないのか。

 上手くいけば話し合いで済んで、誰の命も無くならずに今回の一件が終わるかもしれない。

 そうなる事を心の底から願っておこう。


「さて、今日はここで解散にしましょうか!みんな疲れてるだろうし、ゆっくり休むと良いわ!」


「分かりました。……あ、コウキくん!わちきはコケの様子見てから行くから、先に本部に帰ってていいよ!」


「分かりました。……あ、カンナは……」


「うちはバラーンさんと一緒に帰るから、ここでお別れかな!今日は久しぶりに会えてよかった!……コウキ、またね!今度会う時はもっと強くなってるよ!」


「うん……俺だってそうだよ。それじゃあ……また!」


 軽く話すと、俺は先に本部へと帰っていく。

 いろいろあったが、誰も死なず、魔族に勝てた。

 力も使いこなせ、触れずに影を操れた。

 ほとんどが上手く言った事に心が躍り、自然と足取りも軽くなる。

 そして、スキップで道を進んでいた時。一つの店が目に入った。

 そこは以前、力で悩んでいた時に無理やり入店させられたカフェ。

 ここで、一つの考えが浮かんだ。


 そう言えば、悩んでいた時にここのカフェには世話になった。

 ここは一つ……礼を言うためにもカフェに入ってみるのはどうだろう。


 普段ならば、一人で入ることなど絶対にない。

 しかし、今の俺はテンションが最高峰に高い。

 魔族に勝てたし、良い日でもある。

 今なら……今の俺なら、一人でカフェに入るという、陰キャコミュ症では不可能な行動を可能に出来るのではないだろうか。

 いける……いける気がする。絶対に無理だと思っていたが、今ならいける気がする。

 テンションMAXの今なら、難攻不落のカフェを落とせる気がする!


「いざ……カフェ攻略……!」


 最高峰のテンションのまま、力強く扉を開く。

 そして、勇気を心に留め、店内へと一歩踏み込む。

 次の瞬間。店内の客ほぼ全員の視線が入口へと送られた。

 自分へと集まる客達の視線。


 その視線を目にすると同時に、心に留めた勇気はどこかへと消え去った。

 緊張のせいか、鼓動が一瞬にして早くなり、視野も狭まる。


「あ……あ……あの……き、き……と……」


「あ!悩んでたお客さん!また来てくれたんだ」


「あ……前の……て、店員さん……」


「今忙しいから、そこのカウンター席に座ってて!」


「あ……はい」


 言われるがままに店員の指示した席に腰を下ろす。


 いやー……怖かった。

 やっぱりテンションに身を任せて、カフェに挑むべきじゃなかった。

 客の視線を一斉に浴びた瞬間。本気で人生終わったかと思った。

 うん。もう二度とカフェに一人で来るのは辞めよう。

 いくらカフェに憧れがあっても、いくらテンションMAXでも絶対にやめておこう。


「……会計を頼めるか?」


「あ!……はい、ちょっと待ってー」


 改めてカフェに一人で入らない決心を固めていると、隣に座っていた男が席を立った。

 特に意味もなく、会計を進める男の顔を横目で見る。

 オレンジ色で、尖った髪形をしている冷たい目の男。

 不思議と、この男とはどこかで会ったことがある気がする。

 横からだからか、見覚えはあるが、誰だか全く思い出せない。

 何か引っかかり、必死に記憶を探る。

 

 間違いなく話した事がある。

 というか、何か重要な人の様な気がする。

 この世界で会ったのは確かだし、記憶を探れば流石に……。


「……あ」


 男が店を出ると同時に、その男が誰なのかを思い出した。

 次の瞬間。周りの目を全く気にすることなく、勢いよく立ち上がり、店の出口へと駆けていく。

 そして、店を出ると同時に目に着いた、その男へと叫ぶ。


「ま、待て!……アーズリバイス!」


 言葉を耳にすると、男は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 その目は冷たく、相変わらず不気味な雰囲気を放っている。

 しかし、不思議と以前と比べて、恐怖は薄い。


「……アーズリバイスと言ったな。誰だ貴様」


「お、覚えていないか?……お前らが魔防学園を襲った日。……お前に倒された……影使いだよ」


「影……覚えていないな。悪いが、俺は何万人もの人間を殺している。わざわざ倒した男を覚えていてはキリがないからな」


 覚えていないか。

 まあ、そりゃそうか。一瞬で倒されてたし、覚えているはずがない。


 ……だけど、それはそれとしてムカつく。

 こっちは忘れたくても忘れられなかったってのによ。

 クールぶりやがって……今に見てろよ。


 今日まで、この男を倒すまで努力し続けてきた。

 初めて、心の底から悔しいと思い、初めて、心の底から越えたいと思った男。

 その男が、今目の前にいる。

 運命か偶然か、街に来て数週間で出会うことが出来た。

 今だ。今なんだ。今しかないんだ。

 今このチャンスを逃すわけにはいかない。

 今ここで、この男に勝つ。


「……覚えてないなら、それはそれで良い。……その代わり……覚悟しろよ。俺の……成長した力、見せてやるよ!」


 付近の影を操り、影の短剣を形作っていく。

 

 男に負けてから、ただ強くなるために鍛錬を続けてきただけじゃない。

 鍛錬の合間合間で考えていた。

 どうすれば男に攻撃が通じるのか。

 どうすれば、相性最悪な俺の力で、この男に勝てるのか。

 いくつか作戦は建てれたが、どれも実践で使うには厳しいものばかりだった。

 しかし、触れずに影を操れるようになった今なら、今の俺ならいける。

 今の俺なら、どんな作戦でも実現することが出来る。


 今、この瞬間だけは悲観的な考え方をやめろ。

 自分に自信を持ち、全てを実現できるように考えろ。

 今の俺は臆病なコミュ症陰キャじゃない。

 今の俺はどんな事でも出来る最強陽キャだ! 


「……よし、いくぞ!」


 覚悟を決め、男から見えないよう、短剣を体の後ろへと持っていく。

 そして、鍛え上げた脚力を存分に使い、男へと一直線に駆け出す。

 男は溜息をつきながら、オレンジに光り輝く球体を作り出した。

 球体の放つ光は一瞬にして周囲を包み、周囲は太陽の光に支配される。

 太陽と影は同時に存在できない。当然、太陽に包まれた影は消え去っていく。

 以前の俺なら、ここで武器を消され、なすすべもなくなっていた。

 

 だが、今の俺は違う。

 影で作り上げられた短剣は消え去る事はなく、右手の内に存在している。

 それを確認すると、太陽と短剣の間に体が入るように動きつつ、男へと一気に近づいて行く。

 そのまま間合いに入ると同時。太陽を上手く隠しながら、男へ短剣で斬りかかる。

 男は片手でいなすが、高速の連撃をすべていなすことは出来ず、頬に軽く切り傷を負った。


「よし……」


 上手くいってる。完璧だ。

 やはり、太陽の光を直接浴びなければ、影は消えないようだ。

 体で太陽の光を遮り、影の武器を消えないように守る。

 男に反撃の隙を与えないように、出来る限り連撃を繰り出す。

 ここまでは完璧。問題は次だ。


「……面倒くさいな。攻撃は下の中だが、防御はどうかな」


 男は呟くと、俺目掛けて球体を放つ。

 完全に嘗めているのか、その速度は簡単に目で追える程度。

 

 俺の影では、太陽の攻撃を防ぐことは出来ない。

 防御しようにも、影を出した瞬間消されてしまう。

 なら……攻撃させなければいい。

 太陽を前方に放ち、お前の後ろに影が出来る瞬間。

 今、この瞬間を待っていたんだ。


「いけ……影!」

 

 叫ぶと同時。

 男の背後に作られていた影が触手の様に動き始め、隙を突くように男を殴り飛ばした。

 予想だにしていなかった方向からの攻撃に、男はなすすべなく壁に叩きつけられた。


「やった……やった!……どうだ!確かに、影は太陽に同時に存在できないし、太陽に影は勝てない。……だけどな、太陽は影を消すと同時に、影を生み出してるんだよ!……太陽ある所に影はないが、太陽ある所に影はある。矛盾してるが……これが事実だ!……お前が太陽を操れば操るほど、操れる影は増えてくんだ!」


「影……影使いと言っていたが、そう言う事か。……久しぶりだな、膝をつくのは。……良いだろう、もっと攻撃してこい。全て受け切ってやろう」


「言われなくても……やってやる」


 再び太陽から隠れるように短剣を持つと、男へと一気に駆けていく。

 男は太陽を動かし、短剣を消そうとするが、太陽が動くと新たな影が出現し、背後から男を襲う。

 それに対応しようとすると、短剣で俺に攻撃される。

 新たに生み出される影と俺との連携攻撃。

 その攻撃力に、流石の男も反応し切れず、一瞬男のバランスが崩れた。

 当然その隙を逃す事はなく、短剣を構え、一気に仕留めにかかる。

 

 その時。

 数か月前と同じ感覚が、俺の右手を襲った。

 突如として握りしめていた武器が消え去る、あの感覚。

 太陽によって影が消された感覚だ。

 しかし、男が操る球体は目の前にあり、体を挟んだ位置にある短剣を消す事は不可能。

 何故短剣が消えたのか、理解が追い付かない。


「……なあ、影使い。俺がいつ、太陽は一つしか生み出せないといった?」


「え……あ……」


 言葉を聞いたのち、ふと頭上に目をやる。

 数十メートル。いや、数百メートル先だろうか。

 そこには本物の太陽とは別に、巨大なサイズの太陽が浮かんでいた。

 

 畜生、そう言う事だったのか。

 最初から操っていた小さな太陽とは別に、頭上に巨大な太陽を発生させる。

 その光によって短剣は消し去られたってわけか。

 ここまで真上に太陽があるとなると、流石に俺達で作られる影は小さくなっている。

 この大きさじゃ、男に致命傷を負わせることは出来ない。

 それなら、一度建物内に入り、影を新たに入手し、その影で男を倒す。

 状況から判断して、最適解で動くんだ。

 

 落ち着き、考えを巡らす。

 影を入手すべく、建物へ入る為の最短ルートを探し、そのルートへ向かおうとする。

 その時だった。体の力が抜け、地面に引っ張られるように、俺はその場に倒れこんだ。

 訳も分からず立ち上がろうとするが、上手く立ち上がることが出来ない。

 気付けば視界が歪み、体が熱くなっているのを感じる。

 これは……。


「……熱中症。高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節が上手くできなくなり、体が熱くなり、立ち眩みが起こったり、体に力が入らなくなったりする。……少しずつ太陽の温度を上げていたからな。この暑さに気が付かなかったか」


 熱中症……体の異変はそのせいか。

 畜生、体が全く動かない。

 考えもまとまらないし……少しずつ意識が遠のいて行く。

 これは……駄目な奴だ。

 これは……何とかしないと……。


「……その這いつくばる姿で思い出したぞ。学園を襲撃した際、ダンジョン近くで戦った弱くて馬鹿な生徒か。……まだ、冒険者を目指していたとはな」


「……当たり前……だろ。……俺は……冒険者になって……最高の人生を送るんだ。……お前なんかに……とやかく言われたくない……ね……」


「弱くて馬鹿な分際で良く言う。弱くては何も救えない。何も叶えられない。それが何故分からないのか。……まあ、良い。今日は少し気分が良い。貴様を見逃してやろう。……せいぜい、弱いなりに冒険者なんかになるのは諦めて、田舎で農家にでもなってるんだな」


 それだけ告げると、太陽を消し去り、男は俺から離れて行った。

 その男は一切警戒しておらず、既に俺を気にも留めていない。

 俺は動かない体を動かしながら、何とか考えをまとめる。

 そして、男を睨みながら言葉を放つ。


「待てよ……。良いか……覚えとけよ。……お前は、俺が絶対に倒す。……何があっても……倒す。……弱くて馬鹿な俺が……倒す。……覚えとけ、お前はお前が馬鹿にした弱い馬鹿な奴に……倒されるんだよ!……待ってろよ……待ってろよ!」


 男は一度振り返ったが、再び顔を戻し、歩きを再開した。

 遠のいて行く意識の中で、俺は強くリベンジを誓った。

あと一歩届かず……。

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