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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
116/120

ドMとコミュ症が協力すれば、案外魔族に手が届くのかもしれない。④

「どうした、小童ども。さっきまでの威勢はどうした?」


 畜生、どうすれば良いんだ。

 どう考えても絶望的状況。

 この状況を打破する方法が全く浮かばない。


「ふむ……来ないなら、こっちから行くぞ」


 魔族が俺達へと一歩踏み出した。

 その次の瞬間。数体のタコのモンスターと共に、カンナが魔族へと襲い掛かった。

 魔族はモンスターを一瞬にして斬り、次にカンナを斬ろうとする。

 が、カンナはタコを纏った拳でそれを防ぐ。


「コウキ!これは多分駄目な奴だよ!コウキはウラジロと逃げて!」


「え……けど……」


「うちは何とか足止めする!だから、コウキは逃げて、助けを呼んできて!大丈夫!エスタコもいるし、うちなら何とか耐えれる!だから!」


 足止めをするって……無理だろ。

 俺達が逃げて助かる代わりに、カンナがやられるだけだ。

 何を言っているんだ。カンナを犠牲になんて出来る訳ないだろ。

 でも……このまま戦っても勝てるわけない。

 かと言って、カンナを残すわけにもいかない。

 やっぱりここは残って戦って……。



 ……戦ってどうなる?

 今まで、何度かこういう状況を経験してきた。

 その都度、この世界では何とか頑張って、諦めずに立ち向かった。

 それで、結局どうなった?俺の力で勝てたか?


 太陽の男と戦った時、結局叶わなかった。

 生の魔族と戦った時、結局叶わなかった。

 無理だっただろ。それじゃあ、今回も俺がいた所で、何も変わらないんじゃないのか?

 それなら逃げて、助けを呼びに行った方が良いんじゃないか? 


 逃げて……助けを……。

 逃げて……助けを……?


 ……いや、違うだろ。俺は前を向くんだろ。

 俺はバカかよ。何回折れれば気がすむんだ。覚悟を決めただろうが。

 足を止めても良いし、逃げても良い。それでも、諦めずに前を向くんだろ。

 今、ここは逃げてはいけないんだ。ここは、諦めずに前を向かなくちゃいけない時なんだ。

 後ろを振り返って、前から目を背けるのは辞めろ。

 諦めず、前を見るんだ。

 そうだ……前を見ろ。敵を見据えろ。


「影!……超巨大シャドウハンマー‼」


 叫びながら、カンナへと襲い掛かる魔族目掛けて超巨大なシャドウハンマーを振り下ろす。

 その巨大さに、流石の魔族も正面から受けようとはせず、背後へと一瞬にして避けていく。

 その隙を見計らって、カンナの元へと駆けていく。


「……今回は……今回は逃げない。いつも逃げて……そこから何とか這い上がって来た。けど……今回は逃げない。逃げずに、前向いて一緒に戦いたいんだ。俺は……もっと強くならないといけないんだ」


「コウキ……分かった。けど、どうする?うちらで勝てる気はしないんだけど」


「出来なくても……やろう。やるしか……やるしかないんだ」


 怖い。出来る事なら今すぐ逃げ出したい。

 それでも、逃げない。絶対に。

 俺は成長するんだ。強くなるんだ。

 俺は……変わるんだ。


 シャドウメイルを纏い、右手にシャドウハンマーを持つ。

 そして、覚悟を決め、前を向く。

 

 体は鍛えた。

 戦闘方法は教わった。

 力の遣い方も理解し始めた。

 今出来る事は……この世界に来て身に着けた、全てをぶちかますだけだ。


「……行くぞ、カンナ。俺達……一緒に戦うんだ」


「……うん!絶対勝つ!」


 俺達は息を合わせ、魔族へと同時に駆け出す。

 魔族は慣れた動きで浮かぶ剣を放つが、エスタコのスミタコによってすぐさま操作を失い、その場に転がり落ちた。

 魔族はそれを見ると、浮かぶ剣を操るのを諦め、自らの剣で向かい打つ。


 俺達は出来る限り同じタイミングで、別方向から攻撃を放つ。

 カンナの神速撃と、俺のシャドウハンマーが全く別の方向から向かって行く。

 しかし、魔族は素早い動きで神速撃を弾くと、すぐさまシャドウハンマーを剣で受け止める。

 それでも怯む事無く、左手に影で槍を作り出すと、すかさず攻撃を仕掛ける。

 同時に、カンナもエスタコを纏い、攻撃を仕掛ける。


 出来る限り息を合わせた連続攻撃。

 魔族に攻撃をさせず、防御以外の選択肢を取れないよう、攻撃を続ける。

 魔族を倒せるレベルの攻撃を繰り出すことは出来ない。

 このままじゃ、魔族を倒すまで行かないのも分かってる。


 だが、まずはこれで良い。

 このまま、魔族に攻撃をさせなければ、負ける事はない。

 負けなければ、いずれ必ず隙は出来る。

 その隙が出来るまで、今は攻撃を続ける。

 そうすればきっと……。


「甘すぎじゃよ」


「……え」


 魔族が何かを呟いた直後。

 腹部に強烈な痛みが走ると同時に、数メートル先へと斬り飛ばされた。

 恐怖に怯えながらも腹部へ目をやると、一太刀の斬り傷が見える。

 傷からは少しずつ出血が起きており、体を動かすだけで傷が尋常じゃない程に痛む。

 出来る事なら倒れてのたうち回りたいが、痛すぎてそれすらも出来ない。

 一応は致命傷ではなさそうだが、それでも痛い。

 そりゃあそうだ。こちとら転生しても元は高校生だぞ。

 斬られたら痛いに決まっている。


 痛みに耐えながらも、ゆっくりと立ち上がり、魔族へと目をやる。

 そこには一人立つ魔族と、その場に蹲るカンナの姿があった。

 カンナは何とか立ち上がろうとしているようだが、体が言う事を聞かないのか、立ち上がることが出来ないようだ。


「……残念だったな、弱き小童ども。これが実力差という物じゃ。まずはタコ使いから……死ね」


 魔族は剣を大きく振り上げると、カンナへと狙いを定める。

 カンナは依然として動くことは出来ず、魔族の攻撃から逃げる事が出来ない。

 バラーンに目をやるが、バラーンは倒れたまま目を覚ましていない。

 コケは生きていはいるが、傷のせいで動けず。ウラジロは恐怖に支配されているからか、座り込んだまま立ち上がれていない。

 俺はカンナの元へ向かおうとするが、動こうとすると体に痛みが走り、その場に倒れこんでしまった。

 

 駄目だ。このままじゃ剣がカンナに触れる。

 あの剣を喰らえば、間違いなくカンナは死ぬ。

 流石のカンナも生きて助かる事は不可能だ。


 死ぬ……カンナが死ぬ。


 いや……駄目だろ。

 カンナが死ぬなんて……それこそ駄目だ。

 ふざけんなよ。そんな事あって良い訳がない。

 カンナは良い奴なんだ。こんな俺にも楽しく、真正面から接して、友達になってくれた。

 どんな人ともすぐに友達になれて、友達のためならどんな事でもする。

 友達思いの良い奴なんだ。そんな良い奴が……ここで死んで良い訳がない。

 考えろ……考えろ、俺。今、俺に出来る事は何だ。

 どうすれば魔族を倒せる?どうすればカンナを助けれる?


 ……あ……あれならいける。

 あれを使えば、魔族をカンナから離せる。

 あれを使えれば、カンナを助けられる。

 いや……でも、あれは一度も成功したことはない。

 こんな状況で成功する訳がない。

 失敗したら、カンナは死ぬかもしれない。


 いや……それでも……やるしかない。

 これしか選択肢がないんだ。やるしかない。


「……今だ……今なんだ。……大切な友達を救えないのなら……今まで鍛錬した意味がないんだ。……頼む……頼む……頼む!俺の思いに答えてくれ!今ここで……俺に力をよこせ!かげええええええええ!」


 魔族が剣を振り下ろし、剣がカンナに直撃する直前。

 俺の叫び声が響き渡ると同時に、カンナの影が動き始めた。

 影はゆらゆらと揺れながら空中へと浮かび上がり、触手の様に動きながら、襲い掛かる魔族を殴り飛ばした。


「……え……これは……うちの影が……」


「か……カンナ!」


 傷口を抑えながら、何とかカンナへと駆け寄る。

 魔族の剣はギリギリの所でカンナに触れておらず、カンナは何とか無傷のようだ。

 カンナの無事を確認すると、安心したせいか一気に気が抜け、その場にへたり込んだ。


「こ、コウキ!大丈夫?」


「……カンナこそ……無事でよかった。……本当に良かった」


「……え……うん。ありがとう、コウキ。助かったよ!……だけど、うちの影に触れてなかったよね?触れてない影も操れるようになったの!?」


「まあ……ぶっつけ本番だったけど……」


 成功した。ギリギリで触れていない影を操る事に成功した。

 空中に浮かび上がった影は暴走し、俺に襲い掛かることなく停止している。

 これなら……いける。今なら……出来る気がする。

 今なら……今の俺達ならあの魔族にも勝てる気がする。


「……なあ、カンナ。俺はカンナを失いたくない」


「……え!?何!?告白!?」


「いや、違う!……いやさ、今カンナが死ぬと思って、本当に怖くなった。自分が死ぬのより、よっぽど怖かった。……そして、何があっても友達に……カンナに何があっても死んでほしくないと思った。……だから、力を貸してほしい。カンナを助けるために、カンナも力を貸してほしい。あの魔族を倒すために……情けないけど、俺一人じゃ勝てないからさ」


 カンナはしばらく俺の顔を見ると、ニッコリと笑った。

 そして、ゆっくりと立ち上がり、口を開く。


「うん。もちろんだよ!というか、さっき言ってたでしょ!一緒に戦うって!だけど、うちが戦うのはうちを助けるためじゃなくて、コウキを助けるためだからね!勘違いしないように!」


「……分かった。やろう……カンナ」


 怖い。魔族を目にすると、恐怖が湧き上がってくる。

 死にたくないし、出来る事なら今すぐ逃げ出したい。

 

 ……けど、友達を失うと思った時に感じた恐怖。

 その時の恐怖に比べたら、今の恐怖は全然だ。

 それに、今は不思議と勇気があふれ出てくる。

 大丈夫だ……俺達なら出来る。

 絶対に諦めず、前を向く。

 

「……ほっほっほっ…………まさか、触れていなかった影が動き出すとはのう。その様子から察するに、今成長したという訳か。………………面白い。面白いぞ小童ども!小童よ、名を聞いてなかったな!名乗れ!」


「え……あ……光輝だ」


「コウキか!コウキよ、訂正しよう!弱き小童どもと言ったが、貴様らは強い!ワシが認めてやろう!そのうえで……ワシの力にひれ伏せ!」


 魔族は叫ぶと、新たに召喚した大剣を握りしめ、俺達へと迫る。

 

 さっき成功したので、何となく感覚は覚えている。

 今の俺なら、絶対に成功できる。

 部屋中の影を触れずに、手足のように操る。

 想像するんだ。今までの経験から、最も手足のように扱える形は何だ。


 ……そうだ……触手だ。

 あのムクゲの触手の様に、滑らかに動き高い攻撃力を持つ。

 そんな触手の様に……姿を変えろ。


「……影!」


 願い叫ぶと同時に、影は姿を変える。

 周囲の影は浮かび上がり、触手の様に動き出す。

 そして、迫りくる魔族へと一斉に攻撃を仕掛ける。

 触手の動きに合わせ、俺とカンナも同時に駆け出す。


 触手は縦横無尽に動きながら魔族へ攻撃を続けるが、魔族は軽々と触手を躱す。

 そんな魔族へ、触手の合間から攻撃を仕掛ける。

 カンナは神速撃を、俺はシャドウハンマーを魔族へと繰り出す。

 しかし、魔族は大剣を操り、全ての攻撃をいなし続ける。

 それでも決して諦める事無く、今使える全てを使い、攻撃を続ける。

 

 影の触手で常時魔族へ攻撃を繰り返す。

 触手の攻撃の隙間から、カンナは神速撃で一撃を狙い、攻撃で隙が出来るカンナをアシストしつつ、俺は魔族を攻撃する。

 カンナを、大切な友達を失わないために。

 どんな手段を使っても、この魔族に勝つために。

 必死に攻撃を続ける。


「……休む暇なく続く触手の連続の攻撃に、息の合った二人の攻撃。中々に良いぞ!しかし、これでは勝負はつかないぞ?……どれ、ここはワシが動いてやろうか!」


 魔族は叫ぶと、防御に徹していた大剣を大きく振り上げた。

 当然、触手の連続攻撃は全て正面から直撃し、俺とカンナの連撃も直撃した。

 しかし、それに全く反応すること無く、魔族は楽しそうに笑みを浮かべると、大剣を振り下ろした。


「剣技・一刀両断」

 

 瞬間。周囲の影触手は吹きとばされ、俺達も左右へ吹き飛ばされた。

 転がりながらも何とか立ち上がり、元いた場所へと目をやると、そこには一線が出来ていた。

 水の迷路は真っ二つに斬られ、割れた天井の隙間から空を見ると、雲すらも斬られていた。


「……さて、驚いている暇はないぞ。まずはコウキからじゃ!……剣技・重撃一撃」


 魔族は構えると、目にもとまらぬ速さで俺へと斬りかかる。

 ギリギリの所で反射的にシャドウハンマーで防御するが、あまりの力に少しずつ押されていく。

 影の力でシャドウハンマーが斬られないように強化しつつ、押し潰されないように全力で力を籠める。

 

「どうした!そんな力じゃ、簡単に倒されてしまうぞ」


「う……ぐ……うるせえ!」


 なんて力だよ!

 これでもこの世界に来てから、力に関しては継続して鍛えてるんだぞ!?

 何でこんな簡単に押されてるんだ!畜生が!

 頑張れ俺!頑張れ!

 ここで俺が負けたら、ここにいる大切な奴らが全員死ぬと思え!

 底の底の底から力出せええええ!


「……全く……仕方がないな……コケコケ!」


 聞き覚えの声がしたかと思うと、突如として背中から力が加わった。

 力のお陰か、少しずつ魔族の剣を押し返し始める。

 この背中を押す感触は……苔か!


「……仮冒険者君に触れといて……良かったよ。……仮冒険者君に苔を発生させ……その苔でゴーレムを作る。……少しでも……力になると良いな」


「……コケさ……ん!……お陰で……押し返せる!」


 一気に力を籠め、全てを出し切る気でハンマーを振る。

 魔族の剣は一時的に押し返され、俺への攻撃の中断を余儀なくされた。

 

「……ほお!やるな!だが……次だ!……剣技・荒斬撃」


 魔族は押し返され、バランスを崩したのにも拘らず、すぐさま再び剣を振る。

 剣は一直線に俺へと迫り、俺の腹部を斬る。

 その直前。横から現れた何者かが、その一撃を受け止めた。


「……あ……ば、バラーンさん……!」


「もう……後輩が頑張ってる姿見ちゃったらあ……燃えてきちゃうじゃないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお♡コウキくん!い・ま・よ!」


「……はい!……シャドウ……ハンマアアアアアアア!」


 突如現れたバラーンに動揺し、生まれた魔族の隙を見逃す事なく、攻撃を放つ。

 全力で振られたシャドウハンマーは魔族の腹部に直撃し、魔族を数メートル後ろへと殴り飛ばす。


「……ぐふっ……やるな!だが、威力が足りないぞ!これではワシを倒す事は……」


「いや……これで良いんだ。……この威力……この距離だから良いんだ!今だ……カンナ!」


「絶対に外せない……みんながうちを見てる……最高に……興奮する!神速撃!」


 一瞬。まさしく一瞬だった。

 俺がその位置へ魔族を追いやる事を信じ、

 力を溜め続けていたカンナの一撃が魔族を襲った。

 魔族は想定外の位置からの一撃に対処できず、一気に壁へと殴り飛ばされた。


「……決まった」


 カンナの一撃が決まった。

 やった……やった……やった。

 これは俺達の……。


「ふっふっふっ……なるほどな。これは一本取られたわい」


「……え……まだ……動けて……」


「……想定だらけじゃった。苔使いのアシストに、鋼鉄の男?の防御。コウキの完璧な威力の攻撃に、タコ使いの一撃。……読めてはいたが、想定外が続くだけで、反応できなくなるとはな。これだから……戦いは……最高……じゃ」


 立ち上がったかと思った魔族は、それだけ話すと再び倒れこんだ。

 倒れた魔族は立ち上がる気配がなく、完全に気絶したようだった。


「……今度こそ本当に……」


「うん……うちら……うちらの……勝ちだよ」


 俺達は顔を見合わせると、同時に前を向いた。

 そして、二人同時に大きく口を開け、叫んだ。


『やったあああああああ!うあああああああああああああ!』


 俺達の勝利の咆哮は、辺り一面に響き渡った。

激戦の末、二人の一撃によって勝負決着!

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