ドMとコミュ症が協力すれば、案外魔族に手が届くのかもしれない。③
「さて……まずはワタシの力からよ!ワタシの力は……ホット=ディフェンス!心が燃える程……硬くなる!行くわよー!」
叫びながら、バラーンは真正面から突撃していく。
魔族は新たに浮かぶ剣を召喚すると、全ての剣をバラーンへと放つ。
しかし、バラーンは全く臆することなく突撃していく。
そうなると、当然剣はバラーンに直撃する。
が、剣はバラーンに刺さることなく、バラーンの肉体に弾かれた。
その肉体からは一切流血しておらず、それどこか傷一つついていない。
「ふむ……ならば、これでどうじゃ!」
魔族は冷静に片手に握る剣をバラーンへと振り下ろす。
剣は真っ直ぐにバラーンに直撃するが、鋼鉄の肉体の表面で、なすすべなく停止した。
バラーンは一切魔族の攻撃を気にすることなく、真正面から一撃を放った。
勢いの乗った一撃に、流石の魔族も一歩後退する。
バラーンがその隙を逃すはずがなく、バラーンの連続攻撃が魔族を襲う。
魔族は全ての剣で攻撃を繰り出すが、バラーンの肉体を貫くことは出来ない。
レベルの違う攻防に、思わず呆然としていると、バラーンが大きく口を開けた。
「あんたち!何やってるの!ボーっとしてないで、あんたらも攻撃しなさい!ここは戦場よ!一手が全てを分ける戦場なのよ!状況を見極めなさい!あんたたちに出来る事をして、作戦の成功に貢献しなさい!」
そうだ……そうだった。
戦闘に圧倒されているだけじゃ駄目なんだ。
今日まで、出来る限りの鍛錬を積んできただろ。
バラーンに任せるだけじゃなく、俺も一緒に戦うんだ。
俺が……俺が剣の魔族を倒すんだ。
しかし、どうする?
レベルが違いすぎて、あの攻防に入って行ける気がしない。
攻撃を気にすることなく殴り続けるバラーンに、攻撃を弾きつつ、剣で斬り続ける魔族。
一体どうやって、バラーンのアシストをし、コケが魔族に触れられるようにすればいいんだ。
がら空きの魔族の背中を攻撃するか。
いや、恐らくは見抜かれて、浮かぶ剣を使って攻撃される。
かと言って、真正面からバラーンと一緒に攻撃すれば、バラーンの邪魔になるだけだ。
考えろ……考えろ……考えろ。
カンナも、コケも、ウラジロも、みんな攻防が凄すぎて、隙を狙う事しか出来ていない。
どうすれば良い……今、俺達が出来る事を考えるんだ。
ウラジロは人形を投げれて、俺は影で攻撃できる。
コケは苔を操れて、触れれば勝てて、カンナは攻撃と、タコでいろんな物を出せる。
どうする……前世から今日までの知識を使って、考えるんだ。
「人形……影……苔……殴り……タコ…………タコ……あ」
「ん?コウキくんどうかしたの?」
「いや……もしかしたら……バラーンさんに対応するので必死な今なら……コケさんを魔族に血被けられるかもしれない」
「え!ほんと!?」
「はい……でも……その、失敗するかもだし……俺なんかの作戦じゃ」
「大丈夫だよ!コウキの作戦なら、絶対いける!だって、コウキだもん!コウキ、作戦を教えて!」
一気に寄って来るカンナに焦りながらも、カンナの言葉を信じ、考え付いた作戦を伝える。
ハッキリ言って、成功確率は五割。失敗すれば、俺かカンナかコケが大怪我を負う可能性もある。
リスクを考えると、良い作戦だとは思えないが……。
「……よし、仮冒険者君。その作戦で行こう。仮冒険者さんもそれで良いよね」
「もちろん!コウキが考えた作戦なら、うちは何も言わないよ!」
「え……二人とも……こんな作戦で良いの……?」
「それが今の最善手だろ。さて、バラーンさん一人にこれ以上任せるわけにはいかない。早く準備をしよう」
コケの言葉を聞くと、全員が作戦成功のために動き出す。
コケは苔でゴーレムを作り、ウラジロは大量の人形を発生させる。
カンナはエスタコの準備をし、俺は影で鎧と盾を作る。
全員の準備が整うと同時に、すぐさま作戦を開始する。
「まずはうちらから!エスタコ!タコ墨煙!」
「はいっすううううう!」
エスタコは顔を膨らませると、魔族目掛けて、黒い煙の様にタコ墨を放つ。
通常のタコ墨と比べて煙に似ており、魔族を一瞬にして覆いつくした。
それを確認すると、ウラジロ以外の3人は煙の中へと駆け出す。
「目くらましか……小童どもめが、無駄な事を。ワシ相手に目くらましをしてきた者は数十人もおるわい。目が見えなかろうが、小童如きの攻撃……ここだ!」
魔族は自らに接近する何か目掛けて剣を振るう。
剣は何かを確実にとらえ、真っ二つに斬り裂いた。
しかし、魔族が斬り裂いたものは、人間どころか、生物ですらない。
ウラジロが作り出した、ただのサメの人形だった。
「人形……む?前方から大量の何かが接近してくる。これは……全て人形か?……なるほど。人形に攻撃力はないが、ここまで多いと気が散るな」
魔族がタコ墨と人形に気を取られているのを確認すると、俺達は互いに合図を送りながら魔族へと駆け出す。
攻撃の姿勢に入り、全員同時に叫びながら魔族へと襲い掛かる。
タコ墨で視界を奪い、ウラジロが投げる人形で魔族の気を引く。
通常の魔族なら全て完璧に対応するだろうが、バラーンとの攻防の最中に突如として起きた出来事に、流石に一瞬ずつは反応が遅れるはずだ。
そして出来た隙を狙って、三方向から俺、カンナ、コケのゴーレムで攻撃する。
完ぺきとは言えないが、相当良い作戦だ。
これなら……。
「ふむ……小賢しい!」
魔族は多少驚きながらも、一瞬にして苔のゴーレムを斬り裂いた。
直後、カンナを蹴り飛ばすと、俺へと剣を振り下ろす。
それに対し、シャドウシールドを前に出し、真っ向から勝負する。
盾で何とか防御するが、その攻撃の重さに、思わず押し潰されそうになる。
それでも、足腰と腕に力を入れ、何とか耐える。
一秒でも、一瞬でも時間を稼ぐべく、全力で耐える。
一見したら、無駄な行為だ。
防ぎ続けるくらいなら、盾を捨てて後ろに逃げた方が良い。
だが、これで良い。このままで良いんだ。
俺達はただの時間稼ぎ要因だ。
この隙に……ゴーレムの後ろに隠れたコケが近づければ、それでいい。
「……ナイス囮だ、仮冒険者君。悪いね、魔族。その命、貰うぞ」
瞬間。
コケの掌が魔族の背中に触れた。
「なんじゃ……?」
「悪いね、魔族。これでもうおしまいだ」
「触れた……触れた……触れた!」
やったぞ、コケが魔族に触れた。
これで作戦は成功だ。
これで、魔族を倒せるんだ!
……それで、一体どうやって倒すんだ?
バラーンさんを信じて、ここまで命懸けでやって来た。
だけど、苔を生やす力でどうやって魔族を倒すのか、見当もつかない。
本当に、これで良かったのだろうか。
「……よくやったわ、あなたたち!これでワタシたちの勝ちよ!」
「あの……バラーンさん……勝ちって……ど、どうやって……」
「まあ、見てなさい♡」
コケは警戒する魔族へと目をやる。
そして、小さく笑うと、ゆっくりと説明を始めた。
「……僕の力は、苔を生やす力。触れた物になら、その物のどこにでも苔を生やせる。分かるかい?触れた物であれば、どこにでも生やせるんだよ。それが生物なら、皮膚にも、口内にも……体内にも。……コケコケ」
「……何が言いたいのじゃ?さっきから小童が……あ?なんだ……これは……」
「まずは喉。次に……肺に胃。腎臓に……そうだな、血液にも生やそう。そして最後に……心臓。これで仕舞だ」
言い終わると、魔族はその場に倒れ、動かなくなった。
数秒後、魔族の全身に苔が生え始め、完全に苔に覆われた。
なるほど。
話を聞いた感じ、コケが苔を生やせる場所は、どこにでも生やせるようだ。
それは内臓や、血液などの生物の体内にある物でも出来ると。
今のは魔族の体内にある様々な物に苔を生やしたみたいだ。
何と言うか……怖すぎる。
体内に大量の苔を生やされて死ぬとか……こんな死に方絶対にしたくない。
怖いし辛いしキツイし……まあ、一応勝てたし良かった……か。
ただ、見たくない物を見ちゃったな。
やっぱり、生物が死ぬところは出来る限り見たくない。
「さて……終わりましたよ。魔族の死体はどうしますか?僕は……」
「……?僕は何ですか、コケさ……コケさん?」
言葉を止めたコケへ目をやると、そこには剣に貫かれたコケの姿があった。
その隣には、生えていたはずの大量の苔を削ぎ落す魔族の姿があった。
想定外の状況に、考えがまとまらず、何もする事が出来ない。
みんなも同じ状態なのか、誰一人として動けず、言葉すら発しない。
「……ふむ。流石に今のは危なかったわい」
「……ありえな……い……。僕の……苔……を……」
「まさか体内に生やせるとはな。初めての事で動揺したが、体内に苔を生やせるなら、体内に剣も召喚できるのではと思ってな。斬った物を燃やす剣を召喚し、苔を全て燃やしきった。全く……ワシが魔族でなかったら危なかった。ここまでワシを追い詰めたのは、お前を含めて5人じゃ。誇ってよいぞ」
体内に……剣を出した?
何で……そんなことが出来るのかよ。
いや……今の口ぶりからして、まさか初めてやったのか。
初めてやって、成功して、最終的に全ての苔を消して生き延びる。
意味が分からない。化け物過ぎる。
何で今のコケの攻撃に対応できるんだよ。
こんな化け物……どうやって倒せば……。
「さて……次は……」
魔族は新たに剣を出すと、俺の方へと構える。
次の瞬間。突如として突風が俺を襲った。
あまりの強さに目を瞑り、突風が収まった頃に目を開く。
すると目の前には、仁王立ちするバラーンの姿があった。
「バラーン……さん?」
「……もう……駄目じゃないの……戦場で目を……瞑ったら……駄目じゃない♡」
最後に呟くと、バラーンはその場に倒れこんだ。
バラーンの胸には大きな傷跡があり、魔族の一撃を喰らったのは明らかだった。
どうやら、俺を守るために魔族の攻撃を喰らい、鋼鉄の体を貫通してダメージを受けた。
そして、倒された。
俺が反応できていれば……バラーンは……。
いや……それよりもこれは……駄目だ。
やばい……これはやばい……。
「ふむ。一番強いのを先にやってしまったか。……さて、小童ども。次はどいつが死にたい?」
作戦は失敗し、最も強いバラーンは倒れた。
コケも重傷を負い、カンナもウラジロも、当然俺も恐怖で体が動かない。
駄目だ。
絶望だ。
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