ドMとコミュ症が協力すれば、案外魔族に手が届くのかもしれない。①
「よし……よし……大丈夫……俺なら……行ける」
何度も自分に言い聞かせ、怯える心を励ます。
そして、数分間その行為を数分間続けたのちに、覚悟を決めて部屋を出る。
部屋の外にはコケとウラジロが待っており、すでに準備満タンのようだ。
俺達は軽く話すと水の迷路へと歩き始める。
ついに、この日が来た。
剣の魔族を倒し、水の迷路を攻略する。
この日のために、数日間鍛錬を続けてきた。
体を鍛え、師匠から教わった技術を磨き続け、暴走を制御すべく影の力を操る。
そのお陰か、暴走の制御は出来ないが、少しずつ影に触れずに影を操る方法が分かってきた。
言葉でどうすれば良いか言い表せるほどではない。
しかし、感覚で分かる。きっかけさえあれば、きっと影に触れずに操れるようになる。
もう少し、もう少しだ。もう少しで俺は更に強くなれる。
そんな事を考えながら歩いていると、すぐに目的地の水の迷路に到着した。
迷路の前には既に冒険者が二人立っており、楽しそうに話しているのが見えた。
そのうちの一人が俺達に気づいたかと思うと、その場から猛スピードで俺の元へと駆け出した。
何事かと思い逃げようとするが、よく見るとそれが知り合いだという事に気き、動きを止める。
「コウッキー!久しぶりー!」
そう叫ぶと、ドMで元気の良い仮冒険者。
カンナは俺へと飛びついてきた。
「え……カンナ……え……え!カンナ!久しぶりだな!」
「だね!まだ全然立ってないのに、少しあってないだけでも凄い久しぶりに感じるよ!元気にしてた!?」
「も、勿論だよ。カンナも相変わらず元気そうで良かった。なんか……その、少し見ないうちに雰囲気少し変わった?」
「あ、分かる!?色々あってね!一皮むけたって言うのかな!」
「えっと……二人は知り合いなの?」
二人で騒いでいると、何も知らないウラジロが口を開いた。
よく考えたら、コケとウラジロはカンナと面識がない。
何とか紹介しようとするが、そんな俺を遮って普段通りに挨拶を繰り出す。
「どうも、カンナです!よく使う武器は素手、共感できる言葉は永遠ほど怖いものはない、性癖はドMで、いじめられると興奮しちゃうタイプです!ぜひいじめてね、ちなみに彼氏募集中だから、程よくドSの男友達がいたら、紹介よろしく!」
「え……あ……なるほど!わちきはウラジロ!カエルが好きです!こっちはコケで、揚げ物が好きです!」
少し驚きながらも、ウラジロはすぐに対応して挨拶をした。
誰もが戸惑うであろうカンナの挨拶にすぐに対応する。
この対応力は流石ウラジロと言わざる負えない。
そんな事を考えると、カンナが思い出したように服をまさぐり始めた。
そして、服の中から何かを取り出すと、それを前に出す。
全身が赤色で覆われており、吸盤がついた足が8本ついている。
大きさは30cmほどで、丸く可愛い目をしている。
見た目から察するにタコだろうが、以前見たタコに比べて、前世のタコに近いように見える。
全体的にゆるキャラっぽさがあり、可愛い見た目をしている。
「それからこれはエスタコ!タコの魔族で、うちの相棒!」
「タコの魔族……タコの魔族って……タコの魔族!?」
「うん!ほら、エスタコも挨拶して!」
「……エスタコっす。タコの魔族やらせてもらってるっす。角がないのは昔超短く斬られてから、元に戻らなくなってないように見えてるだけっす」
いや……え?……いや……え?……え?
魔族って言ったよな。カンナも本人も言ってたよな。
タコの魔族って……何で?何でタコの魔族とカンナが一緒にいるんだ?
というかそれって良いのか?というかタコの魔族って、タコの魔族か?
想定外で信じられない状況に理解が追い付かない。
カンナの服の中から出てきて、カンナが相棒って言ってる所を見るに敵ではないっぽいよな。
しかし、少し見ない間に何で魔族が相棒になってるんだよ。
「もう、カンナちゃん!駄目でしょ!何も言わず魔族出したら驚いちゃうわっよ!エスタコちゃんは人間に協力的な魔族で、今はカンナちゃんの相棒として頑張ってるのよ!」
「え……あ……バラーンさん」
「久しぶりね、コウキくん♡前よりもたくましくなって……ワタシも感激よ♡」
「あ……は……い……」
バラーンがウインクをすると同時に、背筋に悪寒が走った。
何か狙われている気がして、怖い。
シンプルに身の危険を感じる。
「だけど良いんですか?……その、一応は魔族なんですよね」
「そうねー……。人に悪い人と言い人がいるように、魔族にも良い魔族と悪い魔族はいるのよ!もし人を襲い、敵意があるのならそれは戦わなくてはならないわ!だけどね、良い魔族に対しては戦う必要はないし、逆に仲良くするべきだとは思わない?」
「確かに……良い魔族と悪い魔族……確かにそうですね。……い、今まで悪い魔族しか見てなくて……ちょっと偏見だけで話してました。……すみません」
「仕方がない事よ、知らなかったんだものね!……まあ、エスタコちゃんは最初滅茶苦茶敵だったのだけどね。少し前にタコの魔族が大量に発生したでしょ。それエスタコちゃんが召喚したせいだしね」
「それは言わないでくれっすよ。今はカンナのお陰で更生して、カンナの相棒として頑張ってるんすから!」
「それもそうね!」
それもそうねって……ええ……。
これは大丈夫なのか?
いやまあ、良い人と悪い人がいるように、良い魔族と悪い魔族がいるってのは良く分かる。
だけど、少し前まで敵だったって大丈夫なのだろうか。
タコのモンスターと俺も戦ったけど、結構殺意あって強かったぞ。
……まあ、カンナなら大丈夫か。
一応、今は仲が良いみたいだし問題なさそうだしな。
何より、あのカンナが相棒って言ってるってことは、相当仲も良さそうだ。
タコも敵意はなさそうだし、今は可愛い見た目だしな。
「……さて、話はここまでにしましょ!みんな、準備は良いわね!こ・れ・よ・り~!水の迷路攻略を開始するわよ!さあ!行くわよお!」
『……はい!』
俺達は声をそろえて答えると、バラーンに続くように水の迷路へと一歩を踏み出す。




