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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
112/120

コミュ症がお洒落なカフェに入るのは、一世一代の覚悟が必要である。③

 いつの間にか日は落ちかかっている。

 迷路の調査と報告で、想像以上に時間を使っていたようだ。

 

 本当に、今日は疲れた。

 トラップだらけの危険な迷路に入って、そこで力を使ったら急に暴走が起こった。

 迷路の中心についたら、超強い魔族と戦う事になった。

 やられそうになった時、力が暴走してか、黒い何かが出てきて、魔族と黒い何かの戦いを眺める事になった。

 振り返ってみると、一日で起きた出来事だとは思えない。


 ……暴走を制御出来るようになったら、強くなれると思っていた。

 暴走は体を鍛え、力を使い続けていれば、暴走も制御できるようになると思っていた。

 しかし、俺の力に起こっている出来事は、思っている以上に大きな事なのかもしれない。

 俺の影から出てきた何か。あの何かは一体何なんだろう。

 魔族と互角以上に戦えるほどの実力に、俺と同じ影を操る力。

 考えれば考える程、良く分からなくなってくる。

 あー……何か考えるのも面倒くさくなってきた。

 何で俺ばっかり大変な目に合わなくちゃいけないんだよ……。


「……まあ、人生山あり谷ありですよ!」


「……そうですかね。……え…………え……ふぇ……!?」


 突如、至近距離で聞こえた声に驚きながらも距離を取る。

 そこに立っていたのは茶髪で一種のポニーテールのような髪形をしたそばかすが特徴的な女性。

 その風貌から察するに、歳は俺より少し高いくらいだろうか。


 これも男陰キャコミュ症の特性だろうか。

 女性から突然話しかけられたことにより、一瞬にして頭の中が真っ白になる。

 どんな態度を取ればいいのか、どんな言葉を放てばいいのか、一向に浮かんでこない。

 数秒沈黙が続くと、女性の方から口を開いた。


「あ、ごめんなさいね!なんか元気なさそうで、凄い考え事してるみたいだったからさ!」


「あ……いや……だいじょう……びで……す」


「そうだねー……悩み事があるのなら、うちの店入って行かない?考え続けるんじゃなくて、休むのも大切だと思うよ!」


 そう言いながら、女性は手を引いて行く。

 女性の先には、お洒落なカフェのような店がある。

 当然の事だが、コミュ症がカフェに入るのには相当な覚悟がいる。

 仲の良い友人と入るのなら、まだ多少は楽だ。

 しかし、一人で入る。もしくは、客引きによって入るのは一世一代の覚悟がいるのだ。

 

 かと言って、この状況で店に入るのを断ることは出来ない。

 何故なら、コミュ症だからだ。


「え……あ……はい……」


 半強制的に合意させられると、女性に連れられるまま店へと入って行く。

 店内は想像以上にお洒落で、店中に明るい雰囲気が漂っている。

 店内の半数の席は埋まっており、大半の席には女が座っている。

 男もいるにはいるが、大抵は彼女連れだ。


 何と言うか……陽キャの店っぽい。

 雰囲気凄く良いし、良い匂いするし、曲もなんか落ち着く。

 女率高いし、彼氏彼女羨ましいし、椅子お洒落だし。

 駄目だ、考えがまとまらない。

 なんかもう……凄い!初めて来るけど凄い!

 けど、帰りたい!こんな所俺には似合わないし、陽キャのオーラに当てられて消えそうだ!

 なんか緊張するし、心臓のバクバクが止まらん!


 そう思う俺をよそに、女性は俺をカウンター席へと座らせる。

 そして、メニュー表を手渡すと、好きなのを注文するように告げて、店奥へ消えて行った。


 いや……ええ……。

 マジかよ……どっか行きやがった……。

 取りあえず、注文する物を選べばいいんだよな。


「マジカルアイスファンタスティックコーヒー。

 スーパーチョコアイスプレチーノ。

 カフェインアイススローラルミルクティー。」


 うん。いろいろあるけど全く分からん!

 コーヒーやミルクティーはまだ分かるけど、プレチーノってなんだ!

 この世界特有の飲み物か?店専用の飲み物か?分からん!


 ケーキとかもあるみたいだけど、そもそもとしてカフェでは何から頼むべきなんだろうか。

 飲み物を頼んで、飲み物が届いてから食べ物を頼むべきなのか?

 それとも、全て同時に頼んでしまうべきなのか?

 お洒落なカフェだと頼むのにも順序とかありそうで怖い。

 

 それによく見たらこの店、店員を呼ぶボタンがない。

 つまり、大声を出して店員を呼ばなくてはならない。

 いや、そんなの無理に決まってるだろ。

 コミュ症からしたらそんなの地獄に片足突っ込むのと同じことなんだぞ。

 帰りたいけど、この状況で立って店を出る勇気は俺にはないし……これ詰んだ?


「おいしょ……注文は決まった?」


「え……あ……て、店員さん……いや……その……ど、どれが良いか……わ、分からなくて……」


「そうだなー……それなら、私のおすすめを持ってくるよ!ちょっと待ってて!」


 女性はそれだけ言い残すと、店の奥へと再び姿を消した。

 そして、数分後。女性はコーヒーとパンケーキを両手に戻って来た。


「はい!マジカルアイスファンタスティックコーヒーに、チェリースクリューアップストロベリーパンケーキです!」


 無駄に長い料理名を言いながらそれを置くと、俺の顔をまじまじと見始めた。

 状況から察するに、料理を食べるのを待っているようだ。

 焦りながらも、一先ずとして運ばれて来たコーヒーに口をつける。

 ほどほどに甘く、軽く苦い。包み込んでくれるような、優しい味がする。

 温かい気持ちになりながら、パンケーキにも手を着ける。

 ケーキは様々なフルーツの甘みとパンケーキの甘みが良い方向へ混ざり合っており、非常に美味しい。

 余りの美味しさに、不思議と笑顔になっていく。

 マリーにパンケーキを食べさせてもらった事があったが、あの時と同じレベルの美味しさ。

 いや、それ以上の美味しさかもしれない。


「……凄く、凄く美味しいです!上手く言い表せないんですけど……コーヒーは甘さと苦さが凄く丁度良くて、ケーキは甘さが上手くマッチしてて……凄く美味しいです!」


「そっかー!良かった、笑顔になってくれたみたいで!うちの店の料理は凄いでしょ!一口食べるだけで、その美味しさから笑顔になって、嫌な事も忘れちゃうんだよ!……ってことで、君は何に悩んでたの?」


「……え?……な、何に……悩んでた……?」


「なんか悩んでたんでしょ?大丈夫、お姉さんに話してみて。カフェで料理を食べて、落ち着いている今なら、きっと解決できるはずだからさ。試しに言ってみてよ」


 俺はしばらくの間黙り込む。

 そして、その場の雰囲気に流されてかゆっくりと口を開ける。


「えっとですね……最近目標が出来たんです。大きな目標が。……そ、その目標に近づくために、頑張って……やっと、近づくために必要な事が分かったんです。……だけど、実際は思っていた以上に複雑で……必要な事はもっと難しくて、今の自分じゃ全然理解出来なくて……。分かったと思ったら分かってなくて、訳わからな過ぎて、何すればいいのかも分かんなくなってきて……すみません、離すのが苦手で……」


「ふむ……要は、把握したと思ってた目標へ続く道が、把握出来てなくて……どんな道か分からなくなった上に、どうしようもなくなって、その場で立ち止まっちゃったってことね!」


「まあ……大体は……」


 話を聞くと、女性は少し考えるように目を瞑った。

 数秒後、目を開くと同時に、大きく口を開け、自信満々に言葉を放った。

 

「うん!ごめん、分かんない!」


「はい……え……わ、分からないんですか?」


「うん!良く分からないしね!けどまあさ……分からなくても、とりあえずやってみなよ!何がどうなるかは分からないけど、やってみなくちゃ、何も変わらないでしょ?それに、君の師匠も言ってたじゃん!難しい状況になったら、前を向けってさ!前を向いて……進むのが一番いいんじゃないかな?」


「前を向いて進む……」


 諦めずに、前を向く。

 師匠が最後に言っていたことだ。

 そうだ……一瞬だけど、忘れかけていた。

 どれだけ困難な壁に阻まれようと、絶対に諦めないで、前を向くんだった。

 そうすれば、希望が見えてくる。


 うん、そうだよ。

 今はまだ、俺の力の中で、何が起こっているのかは全く分からない。

 だけど、分からないからなんだって話だろ。

 分からなくても、関係ない。前を向くんだ。

 そして、進むんだ。それが俺に出来る事だろ。


「確かにそうだった……忘れかけてた……影の暴走に振り回されて、大切な事を忘れそうになってた……ありがとうございます。なんか……思い出せました」


「そっか!……まあ、良く分からないけど良かったよ。これも、コーヒーとパンケーキと店のお陰だね」


「……あれ、そう言えば……何で師匠の話を知ってるんですか……?」


「あー……それは私の力の事だから、な・い・しょ!ってことで、早く残りのパンケーキも食べな!」


「あ……そうですね……」


 そう答え、残りのパンケーキに手を着ける。

 時間が立ち、冷めかけているにも関わらず美味しさは健在だ。

 食べ進めると、自然と元気も戻ってくる。

 やる気も次第に満ちていく。

 これも生呪の力で作られた料理なのだろうか。

 そんな事を考えながら、食べ進めると、すぐに全ての料理を食べ終えた。

 時間も時間だったため、料理を食べ終えると同時に帰宅の準備をする。


 当然の事如く、お洒落なカフェで会計をする方法は分からない。

 荷物を探っているふりをして、店員が話しかけてくれるのを待っていると、すぐさま女性店員が話しかけてきてくれた。


「あ、今日の会計は良いよ!私が無理やり引っ張ってきちゃったし、今日は私のおごり」


「え……え!?……いや……でも……」


「良いから良いから!気にしないで!」


「それじゃあ、お言葉に甘えて……あ、ありがとうございます」


「うん!それじゃあ、色々と頑張ってね!君なら出来るよ!」


 俺は出来る限りの笑顔で答えると、礼を言いながら店を出る。

 そして、店を出ると同時に、一つの決意を胸に決めた。


 凄く良いカフェだった。

 お洒落で雰囲気良いし、料理も凄く美味しかった。

 店員さんも最初は怖かったけど、普通に良い人だった。

 お陰絵で心にかかり始めていた霧が晴れて、元気を取り戻せた。

 これからのやる気も沸いてきた。

 このカフェなら、アリウムたちとまた行ってみても良いかもしれない。

 というか、普通にみんなで行きたい。


 ……まあ、それはそれとして、一人ではもう二度と行きたくない。

 みんなでは良いが、一人では絶対に行きたくない。

 だって……だってお洒落過ぎてやばいもん!

 女率高すぎてやばいもん!

 陽キャの雰囲気出過ぎててやばいもん!

 あの空気感は陰キャコミュ症にはきつすぎる!

 

 あの感じだと、一人で行くと注文は出来ない。

 どれを頼めば良いか分からないし、注文時に店員を呼ぶのも無理。

 食べ方があってるかとか、周りの視線とか滅茶苦茶気になるし、全ての行動が緊張する。

 帰りの会計方法だって結局分からなかったしさ。


 良い店だけど……陰キャコミュ症にはきつすぎる!


 そんな事を考えながら、騎士団本部へと戻っていく。


 それから数日間。

 俺は死に物狂いで鍛錬を続けた。

 カフェで手にしたやる気を元に、前を向き、どれだけ辛くても諦めずに鍛錬を続けた。

 暴走した影を操れるよう、分からない事だらけの中、ただ強くなるように努力した。

 そして、すぐにその日は来た。

陰キャコミュ症が一人でオシャンなカフェに入るのは難しすぎるんや……

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