コミュ症がお洒落なカフェに入るのは、一世一代の覚悟が必要である。②
「なんじゃあ……真っ黒の……モンスター?人間?それとも……魔族か?……何にせよ、面白そうじゃ!」
『……ぶち壊す!影えええええええ!』
何かが叫ぶと、周囲の影が触れていないのにも関わらず動き始める。
大部分の影は先端を刃に変化させると、触手の様に魔族へと襲い掛かる。
他の影は何かに集まると、一瞬にして2本の巨大な鎌へと変化した。
何かは触手の様に襲い掛かる影とタイミングを合わせ、鎌を軽く握り突撃する。
魔族は体験を一本引き抜くと、それ以外の剣を操り、襲い掛かる全ての影を捌く。
そして、振り下ろさせる鎌を大剣で弾くと、目にも追えない速度で反撃の一撃を繰り出す。
一撃は一直線に何かへと向かって行くが、何かは瞬時に1本の鎌を盾に変形し、それを防いだ。
何かは不気味に笑うと、鎌を大剣に、盾をハンマーに変形し、勢い良く振り下ろす。
魔族は当然の事の様にそれも捌くと、再び反撃を開始する。
しかし、それも何かは防ぎ、武器を変形させながら攻撃をする。
まさに、互角の攻防。互いの実力が均衡しているというのが良く分かる。
良く見ると、2人が戦っている周囲では、触手のように動く影と浮かぶ剣がぶつかり合っているのが見える。
どうやら、2人は直接戦いながらも、それぞれ影と剣を操り、別でも攻防を繰り広げているようだ。
凄い以外の言葉が出てこない。
速過ぎて、何が起こっているかはほとんど理解出来ない。
ただ、俺達よりも相当実力が上の戦いだってことは分かる。
至近距離で斬り合ってるのに、別の所で影と剣を操るなんてどんな集中力してるんだよ。
魔族の方は大剣と浮かぶ剣を信じられない速度で振り回してる。
影から出た何かは一瞬のうちに影を変形させて、相手の動きに合わせて剣や鎌を使い分けているが、一体どんな速度で変形させてるんだよ。
しかも、影に触れずに影を動かしていたし……一体あれは誰なんだ?
「何が起こっているのかは分からないが……この機を逃しては駄目だ!仮冒険者君、ウラジロ!今のうちに逃げるぞ!」
「あ……そうだ……はい!今のうちに!」
状況を把握できぬまま、魔族の手から逃れるべく迷路の出口へと駆け出す。
何かが完全に魔族を抑えているお陰か、魔族の攻撃は一切飛んでこない。
これなら逃げ切れる。そう思って直後。
俺の足が完全に止まった。
「……え、コウキくん、何してるの?止まってないで速く逃げないと!」
「いや……逃げようとしてるのに……足が……これ以上……」
ふと足元へ目をやると、影がどこかへ伸びているように見える。
伸びている影は、影から出た何かの影と繋がっているようだ。
逃げようと何かと逆方向へ踏み出そうとするが、何かに引っ張られるように元いた場所へ戻される。
よく見ると、俺が逆方向へ行こうとすると、何かは俺の方へと引っ張られそうになっているように見える。
これは……。
「駄目だ……俺は逃げれない」
「へ?何言って……」
「影が……俺の影があの何かと繋がってるんだ。……それでもって……この繋がってる影がこれ以上は伸びないんです。……だから、これ以上、そっちに行けないんです……」
「そんな……」
「二人とも何やってるんだ!……全く……ウラジロ、手伝え。一緒に仮冒険者君を引っ張ってみよう。自分の力じゃ無理でも、他の人の力なら出来るかもしれない」
「確かに!よし、コウキくん!コウキくんも力入れて!」
「は、はい……」
二人は俺を掴むと、力を込めて引く。
俺も力を入れ、影から逃れるように一歩踏み出す。
その時だった。
『なっ……てめえら!何引っ張って……しまっ……』
突然の大声に振り向くと、そこには体勢を崩したのか倒れかけた何かの姿があった。
何かは体勢を戻そうとするが、その時にはもう遅い。
その隙を魔族が見逃す事はなく、魔族は何かの右腕を斬り裂いた。
何かは反撃しようとするが、さらに生まれた隙を突かれ、胸を大きく斬り裂かれる。
『くそがっ……!このクソ野郎が!』
「残念じゃ……黒き者よ。……これで終わりじゃ」
魔族は一気に仕留めるべく、大剣を大きく振り上げる。
何かはそれに対して不気味な笑みを浮かべると、残った腕を魔族へ向ける。
『確かに残念だ!今回はこれで終わりだからな!……シャドウイイイイタアアアアア!』
直後。腕に纏った影へと周囲の影が集まり始まる。
それと同時に、魔族方向へ影が増幅していく。
影は剣や地面、触れる物全てを抉り取るように飲み込み、魔族へと向かって行く。
防げないと考えたのか、魔族は攻撃をやめ、後方へと全力で逃げていく。
それを見ると、何かは影を全力で放つと、俺の元へと高速で戻ってきた。
じっくりと俺の体中を見ると、強く俺を睨みつける。
『てめえらのせいで、十分に楽しめなかったじゃねえか!……おい、今の影使い。てめえは影の本質を全く分かっちゃいねえ!……そんなんだったら、俺がてめえを喰らってやるからな!』
それだけ叫ぶと、何かは俺の影へと沈んで行った。
完全に影に入ると、何かが操っていた影は全て元の場所へと戻っていく。
その状況に、俺達は誰一人として口を開けず、その場に佇んでいた。
十数秒後。やっとコケが逃げるように指示を出し、全員で迷路の出口へと駆け出す。
俺達は振り返ることなく、必死に迷路を駆けて行き、数十分立った頃にようやく迷路から抜け出した。
俺達は迷路から抜け出すと、その場に倒れ込み、全力で深呼吸を繰り返す。
生きてる……生きてる……。
本気でやばかった。まじでやばいと思った。
全員何とか生き延びれた。良かった……。
……けど、本当にさっきの黒いのは何なんだ。
俺と同じ力を使ってて、俺の影から出てきた。
あれも暴走の一部なのか?
それにしては話をするし、考えるし、自由に動いた。
あれは暴走と言うには、余りにも生物の様だった。
一体あれは……それに、本質を分かってないってどういうことだ。
俺はまだ力について理解し切れていないのか?
「あの……二人とも……あの黒いのが言ってた力の本質を分かっていないって、どういうことですか……ね?」
「はあはあ……え?黒いのが言ってたって……あの黒い化け物?あの化け物は何もしゃべってなかったよー」
「……え?いや、ずっと話してましたよね……ね、コケさんも聞きましたよね?」
「……はい?あの黒いのはただ咆哮するだけで、話したりはしてなかったよ?」
話してなかった?
だって、あの黒い奴はずっと話してただろ。
初めて出た時から、ずっと叫ぶように話していたはずだ。
あんな大声、聞き取れないはずだない。
まさか、二人には聞こえない声……俺にだけ聞こえていたのか?
ますます分からなくなってきた。あれは一体何なんだよ……。
「……とりあえず、ここで起きたことを団長に伝えに行こう。罠だらけの迷路の事、剣の魔族の事、黒い何かの事。伝えなきゃいけないことだらけだ」
「うん、そうだね!いやー、何はともわれみんな生きててよかったー!二人とも助かったよ!ありがとう!」
「そ、そんな事ないですよ。……う、ウラジロさんも凄かったです」
「そうかなー?」
そう話しながら、ヒガンに全てを伝えるべく、騎士団本部へと向かって行く。
本部に着くと、広場で団長が一人大量の肉を食べていた。
俺達は死にかけてたって言うのに、何肉食ってんだ……と、怒りそうになりながらも、迷路で会ったことを伝え始める。
迷路中のトラップの事。迷路中心部にいた魔族の事。突然現れた何かの事。
全てを聞き終えると、ヒガンは肉を一口食うと、ゆっくりと話し始めた。
「……実はギルドで大体の予測はついててな。聞いた感じ、大体予想と同じ見てえだ。……まあ、黒い何かとかの想定外はあったがな。……とりあえず、これなら作戦を実行できるな」
「……作戦を実行?」
「ああ。予測が的中した時のために、騎士団で連携を取って作戦を練ってたんだ。作戦は簡単。騎士団から選りすぐりの騎士を出し合って、真正面から魔族を叩く。つっても、作戦に関わる騎士団は俺の所とバラの所だけだからな。……ってことで、お前らに次の指示を出す。バラの騎士団と協力して、この迷路を攻略してこい。もちろん、魔族も倒してな」
「魔族も倒してって……」
この人は本気で行っているのだろうか。
これに関しては無茶ってレベルを超え過ぎている。
一つ一つの殺意が高く、俺達が少しでも気を抜いていたら、確実に俺達を殺せていたトラップ。
黒い何かが居なければ、確実に俺達を殺せていた魔族。
そんな魔族を倒して、迷路を攻略するなんて無理に決まってるだろ。
「……無理だと思うか?大丈夫だ。俺は行かないが、バラは行くって言ってたからな。あいつはこの街では10本の指には入るくらいの実力者だ。まあ、そこそこ強いから安心しろ」
「いや……でも……」
「大丈夫だよ、仮冒険者君。バラーンさんは団長に並ぶくらい強いからね。あの魔族相手でも、大丈夫さ」
「え……そ、そうですか……」
あの魔族を前にしたコケが言うなら大丈夫……なのか?
いや、それにしても心配は心配だ。
バラーンって言ったら、アリウムとカンナを鍛錬しているオカマだよな。
あのオカマがそんなに強いとは思えないんだが……。
……いやまあ、心配するだけ無駄か。
どうせ、ここでどれだけ言っても、きっと言いくるめられる。
それなら、心配なんかせずに、魔族に勝つ方法を考える方が良いか……。
……心配だな。
「とにかくだ。作戦は一週間後に行われる。時間と場所は後日伝えるから、それまでそれぞれ好きなことしとけ。そう言う事だから、じゃあな」
「あ!待って、団長!約束覚えてないの?調査して、無事に帰ってきたらコウキくんを鍛えてあげるんだよね!約束は守るでしょ?」
「ウラジロ。俺は完璧に調査したらって言ったんだ。もしかしたら魔族を倒した後になにかがあるかもしれないだろうが。完璧じゃない以上、俺は鍛えねえよ」
「何それ!だんちょうのイジワル!アホ!ギャンブル下手くそ!」
「何とでも言え。俺はギャンブルしてくる」
それだけ告げると、ヒガンは本部を後にした。
何と言うか、大人げない人だ。
ハッキリ言って、ここまで来たらヒガンに鍛えてもらわなくても良いが、何で俺を鍛えたくないのかは気になる。
ウラジロの話を聞いた感じ、悪い人ではないっぽいが……やっぱり気付かぬうちに何かやっちゃったんだろうか。
「もう、だんちょうったら!コウキくん!攻略絶対成功させようね!まあ、バラーンさんがいるなら大丈夫だろうけどさ!」
「う、うん……そうだね」
「あ、そう言えばわちきはギルドに呼ばれてるんだった!二人とも今日はお疲れ様!また明日ね!」
「それじゃあ、僕はゆっくり部屋で休むよ。二人ともお疲れ」
そう話すと、二人はそれぞれ部屋を出て行った。
一人になった俺はやる事もない事だし、暇な時間を潰すために街を見て回る事にした。
色々あったが、まだまだ街には知らない所だらけだろう。
新たな面白い場所を見つけるべく、本部を出て街を歩く。
そうだな……今日はまだ言った事のない方向へと行ってみようか。
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