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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
110/120

コミュ症がお洒落なカフェに入るのは、一世一代の覚悟が必要である。①

「……あれ……生きて……る?」


 胸に突き刺さったと思っていた剣は胸に突き刺さらず、その直前で完全に停止していた。

 よく見ると、剣と胸の間には何重にもコケが重なっており、体を守っているように見える。


「……危なかった。念のため二人に苔をはっておいてよかった。大丈夫かい、二人とも」


「え……うおおお!コケくん助かったよ!ありがとう!……って、どうする!?剣を操ってるってことは、剣を司る魔族かな!?どうする!?どうする!?」


「とりあえず……ウラジロさん……お、落ち着きましょう」


 そうだ、落ち着け。

 怯えて、単調に逃げるだけじゃ駄目だ。

 それじゃあ、すぐに追いつかれて殺される。

 落ち着いて、状況を整理するんだ。

 どうすれば、あの魔族から無事に逃げれる?

 どうすれば、誰一人として死なずにこの場を突破できる?

 

「ふむ……どれだけ考えようが、ワシから逃げることは出来んよ。ワシは剣を司る魔族。ただ、強き者と戦うべく、この地に降り立った者だ」


「強き者と戦うべく……?……そ、それだったら、俺達を逃がしてくれても良いんじゃないか?……お、俺達はお前が思ってるよりも……よ、弱いぞ」


「弱い?何を言うか。この迷宮の罠を越えて来た時点で、小童どもが強い事は分かっているぞ。……ワシは人間であろうが、強き者が好きだ。そして、戦いが好きだ。……さあ、ワシの欲を満たすために、武器を手に取れ。ワシと……殺し合おうぞ!小童どもよ!」


 駄目だ。この手のタイプの奴は話を聞く気がない。

 恐らく、俺達が何を言おうが、考えは変えないだろう。

 となると、話し合いで解決するのは無理。

 何とか奴の隙を突き、上手く逃げれればいいが……どうするか。


「……仮冒険者君に、ウラジロ。考えたけど、やっぱり僕らだけじゃ、こいつには勝てない。かと言って、単純に逃げても攻め続けられてやられる。……だから、それぞれの全力の攻撃を魔族に放ち、奴が防御する隙を突いて迷路の出口へと駆け出す。……ハッキリ言って、これが今の最善策だと思う」


「……確かに、それが良いかもしれません。……俺も、普通にやって、逃げ切れるとは思わない。……な、何とか隙を作りましょう」


「よし……それなら、攻撃の準備をするぞ」


 コケは焦りながらも右手を水の地面につける。

 そして、小さく「コケコケ」と呟くと、右手を中心に苔が広がっていった。

 水で作られた地面なのにも関わらずだ。

 何となく理解していたが、恐らくコケの力はどこにでも苔を生やすことが出来るとか、生やした苔を操れるとかの生呪の力だろう。

 強い力とは言えないが、俺達を守った時の力を見るに、単純に弱いともいえないだろう。

 

 そんな事を考えながら、魔族から目を離す事なく、付近の影に手を触れる。

 全力の攻撃と言っても、魔族に近づくことは厳しい。

 つまり、遠距離で火力が十分にある攻撃を選ばなくてはならない。

 俺は今まで至近距離の戦闘をメインにしてきた。

 遠距離で攻撃を放つのはほぼ初めてだ。

 だが、失敗は許されない。何としても成功させる。

 

 遠距離で火力のある武器。

 一番に上がるのが弓矢だが、前世で友達に才能がないと言われたし、ここで使うにはリスクがありすぎる。

 弓矢が無理なら……。


「よし……影!」

 

 触れた影を変形させ、想像通りの武器へと姿を変えさせる。

 そして、影が変化した姿は前世の世界に手、狩猟やスポーツに使われる棍棒の一種。

 誰しもが一度は使った事があるであろうブーメランだった。

 その大きさは通常のブーメランより大きく、所々に刃がついている。


「……よし……こっちは準備が出来ました。コケさんたちは……うお……!」


 コケへと目をやると、そこには苔で覆われたゴーレムのような物体が佇んでいた。

 その後ろにはコケが座り込んでおり、相当体力を消費しているように見える。


「だ、大丈夫ですか……?」


「……ああ……短時間にコケを出し過ぎると……体力を消耗してしまってね。……よし、もう大丈夫だ。……勝負は一瞬。攻撃を当てると同時に、全速力で逃げるぞ」


「わちきも……カエル投げまくったらー!」


「ふむ……小童どもも準備が整ったみたいだのう」


 一瞬にして恐怖心を思い出させる声に、反射的に魔族へと目をやる。

 魔族の周囲にはいつの間にか様々な形状の剣が刺さっており、数本の剣は空中に浮かんでいるように見える。

 恐らくはあの魔族の魔力の一貫だろう。

 様子から察するに、剣を生み出したり、自由自在に操ったり出来るのだろうか。

 

 浮かぶ剣を警戒しながらも、俺達は目線で合図を送りあう。

 そして、魔族に対しての攻撃を開始する。 


「行くよ!コケコケ!」


 コケが叫ぶと同時に、苔で作られたゴーレムが魔族へと駆け出す。

 それを確認すると、魔族に狙いを定め、ゴーレムの真後ろを進むようにブーメランを放つ。

 さらに遅れて、ウラジロが大量に生成していたカエルの人形を全体に投げる。 


 ゴーレムがその大きさから魔族の視界を狭めつつ攻撃を仕掛け、大量の人形が魔族の意識を奪う。

 ゴーレムの後ろを行くことによって、魔族の意識外になったブーメランが魔族に攻撃を喰らわせる。

 完全に流れで攻撃を放ったが……なんか滅茶苦茶それっぽくなってる!

 全く作戦とか考えてなかったけど、滅茶苦茶良い感じだ!

 これなら、倒すのは無理でも時間くらいは稼げるはずだ。

 この隙に、全力で逃げる!



「ふむ……中々面白い攻撃じゃが……その手の攻撃は何百回も見てきたぞ」



 音が聞こえた。

 逃げようと足を動かしたと同時。

 全てを破壊する、破壊音が聞こえた。


 魔族へと目をやると、そこには一瞬にして破壊されたゴーレムの姿。

 真っ二つに斬られたブーメランと大量の人形。

 そして、俺達へと迫る数本の剣があった。


 

 まずい。やばい。まずい。やばい。

 一瞬で全てが破壊された。

 いや、それよりも剣が近い。

 コケは苔で守れるかもしれないが、防御手段のないウラジロがやばい。

 この近さじゃ走って逃げきることは出来ない。

 どうすればいいんだ。防ぐか?

 いや、防いだところで次の攻撃が来る。

 だからって、この状況で無視して逃げられるわけないだろ。

 というか、何で全部一瞬で壊せんだよ。

 いくら何でも化け物だろ。

 一先ず……影で何か作らないと……!


 焦りながらも付近に目をやる。

 そして、一番至近距離にあった自らの影に触れ、口を開く。


「……か、影……あ」


 迫りくる魔族の攻撃に対する恐怖。

 全力の攻撃をいとも簡単に防がれたことによる焦り。

 様々な感情が入り交じったせいで、深い事を考えることが出来なかった。

 そのせいで、一瞬だけ忘れてしまっていた。

 暴走した影を制御することは出来ないという事を。

 今、自らの影に触れれば、影が暴走し、自らを襲い掛かってくるという事を。

 

 暴走の事を思い出し、影から手を離すが遅かった。

 既に影に触れたのちに、影へと合図を送ってしまった。

 最悪の状況に焦りと恐怖が最高潮に達し、頭の中が真っ白になる。

 剣が迫り、影が攻撃を仕掛けてくる。

 まさに、絶望的状況。


 その時だった。

 声が聞こえた。


『……しゃらくせえな』


「……え?」


 声が聞こえたと同時。

 目の前に迫っていた剣が、一本残さず弾き飛ばされた。

 剣を弾き飛ばした何かへ目をやると、そこには影で出来ているかのように漆黒で人型の角の生えた何かが立っていた。

 その姿を目にし、俺は驚愕を隠せなかった。

 

 俺が驚いた理由は恐ろしい見た目もあるが、そこじゃない。

 その何かは……俺の影から出ていたのだ。

 

 何かは不気味に笑うと、魔族へと顔を向ける。

 そして、魔族へ向かって駆け出した。

コミュ症に起こった変化とは?

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