コミュ症は想定外の力を得る。②
「コウキ君大丈夫!?」
「え……ああ……だ、大丈夫です……けど……」
今、影に触れていないよな。
影に触れていないし、影をどうやって操ろうか考えてもいない。
考えようとした時には既に、サメを影が貫いていた。
こんな事、今までなかったはずだ。
それに、この影はどこか変だ。
他の影と比べて……黒い?
いや、他の影も黒いは黒いが……それ以上に深い黒。
俺の影だけが、他の影とは違うように見える。
まさかこれが……ベルトが強化された影響なのか?
「コウキ君凄いよ!よく後ろからの攻撃に反応で来たね!流石にもう大丈夫だろうし、一回影戻したら?体力消耗しちゃうしさ!」
「あ……はい……いや、戻したいんですけど……」
戻るよう願っても、影が元の影へ戻る気配がない。
地面から空中へ伸びたまま、一向に動かない。
不思議に思い、影へと手を伸ばす。
その直後。
影は突如として動き、俺の顔目掛けて影の刃を放った。
反射的に体を曲げ影を避けると、嫌な予感を察し、自らの影に触れる。
そして、暴走する影を変化させ、シャドウハンマーへと姿を変えさせた。
しかし、それでも影は動きを止めず、ハンマーから刃の様に形状を変えながら、俺目掛けて襲い掛かってくる。
影の刃は一直線に俺へと向かい、殺しにかかる。
影の刃が直撃する、まさにその時。
突如として、影の先端に苔が生え始めた。
苔は一瞬にして影全体に広がり、苔に包まれた影は一切の動きを停止した。
その後、普段と同じただの影へと姿を変えた。
「ごめんね、何かやばそうだったから苔を生やさせてもらったよ。大丈夫かい、仮冒険者君」
「え……今のはコケさんが……あ、ありがとうございます」
危なかった。まじで危なかった。
一瞬、普通に死ぬかもしれないとも思った。
影が動き出したかと思ったら、俺の事を殺そうとしてきた。
こんな事あり得るのか?
「……恐らくだけど、生呪の力の暴走だね。ウラジロに強化されたベルトが生呪の力を増す力を得たみたいだけど、力を増した生呪の力に君自身がついていけていないようだ。君自身が力を制御し切れず、制御しようとした君に反発して、影が攻撃を起こしたみたいだね」
「そうだったんだ……あれ、てことはこれ……わちきのせいって事!?ごめん!コウキくん!すぐに宝石の力を元に戻すよ!」
「いや……待ってください……」
なるほど。話を聞いて納得はいった。
影が暴走したのは、ベルトが生呪の力をパワーアップさせたから。
だが、それは別にベルトが悪いからじゃない。
力の増した生呪の力を操れないほどに俺が弱いから。
だったら……だったら、力を扱えるくらいに俺が強くなれば良いだけだ。
丁度良いきっかけだ。
ヒガンが特訓をしてくれないのなら、自分自身で強くなってやる。
制御できない力を諦めるんじゃなく、前を向いて向き合ってやる。
影の力を完全にコントロールして、魔族も、モンスターも、人間も、全てを倒せるくらいに強くなってやる。
「……この力を制御できれば……操れれば、強くなれるってことですよね。……それなら、このままで良いです。……この力になれて……制御して……強くなります」
「え……あ!そう言う事ね!逆に制御できない力を利用するのか……良いね!なんか凄くカッコいいし!なんか……なんかわちきまでやる気出てきたよ!ね!コケくん!」
「え、僕は別にだけど……」
「よーし!なんかやる気も出てきたし……この仕事もすぐに終わらせちゃおう!……ん?あ!ボタンだー!」
「え、いや……まっ……」
ウラジロは叫びながら、水で作られたボタンを押した。
それも今回は信じられない速度での連打だ。
当然、水で作られた魚が発生し始める。
それも大量にだ。
何と言うか……バカすぎる。
何でボタンがあると押したがるんだ。
ボタンに呪われでもしてるのか?
まあ……仕方がないか。練習相手と思って、戦ってやるか。
ため息をつくと、影に触れ、武器を形作る。
そして、迫りくる魚へと向かって行く。
それから、罠を真正面から突破しながら、迷路探索は進んで行った。
分かりにくい罠から、分かりやすい罠まで。
ありとあらゆる罠に引っかかるウラジロにため息をつきながらも、次々に罠を突破していく。
そして、罠を突破する上でいくつか分かった事がある。
ベルトによって暴走した生呪の力。
暴走したのは、力全てではなかった。
俺以外の影に触れ、それを武器にすることは普段通りできる。
しかし、俺自身の影を変化することは出来ない。
変化させようとすると、変化した影が俺自身を殺しに来る。
そして、影に触れずに影を動かそうとすると、その影も暴走する。
これは俺以外の影で試してみても、暴走する。
つまりだ。
俺自身の影を再び操れるようになる。
そして、触れずに影を操れるようになれば、俺は大きく成長できる。
ハッキリ言って、信じられないほどに急で想定外の出来事だった。
だけど、これは間違いなく大きな成長につながる。
この街に来てから、魔族に襲われて、最悪な先生に当たって、魔族と強制的に戦わされて……。
散々なことだらけだったが、ようやく希望が見えてきた。
この街で、師匠の様に強くなってやる。
「……あ!二人とも!前見て!大きな空間があるよ!」
考え込んでいると、サメの着ぐるみに身を包んでいるウラジロが叫んだ。
前を向くと、確かに大きな空間が広がっているように見える。
どうやら、迷路の中心部に到着したようだ。
俺達は顔を見合わせると、中心部へと一気に駆けだした。
そして、中心部に一歩踏み込んだ。
「お、誰か来たのう」
「…………は」
一歩踏み込んだと同時に、俺達三人は一瞬で理解した。
考えるより先に、本能的な何かが理解したのだ。
これは不味い。これは……死ぬ。
大きく広がる空間の中心部に座り込む老人。
白髪で、着物を身に纏った、黒く禍々しい角を生やしている老人。
その老人を目にすると同時に、そう理解したのだ。
最初サメに殺されかけた時。
暴走した生呪の力に殺されかけた時。
そのどちらをも超える恐怖。
間違いない。この魔族には勝てない。
「……ウラジロさん……コケ……さん……」
「……分かっている。ウラジロ、仮冒険者君。……3つ数えたら、振り返って全力で逃げるよ。……1……2……3……行け!走れ!」
コケの合図で全力で駆け出す。
それはもう死に物狂いだ。
あれは駄目だ。
あれはレベルが違う。
生命を操る魔族程ではない。
だが、太陽を操る奴より確実に強い。
恐らく、今まで出会った生命を操る魔族以外の全ての魔族より強い。
今の俺達じゃ、絶対に勝てない。
「全く……判断が早すぎじゃ。小童ども」
「……ウラジロ!右へ避けろ!」
「……へ?」
突然のコケの叫び声に、ウラジロの方を向く。
そこには、一本の剣が突き刺さったウラジロの姿があった。
「ウラ……ジロ……ウラジロ!!」
足を止めると、すぐさまウラジロへ近づく。
その直後。魔族から放たれた一本の剣が胸に直撃した。
突然の魔族にコミュ症死す?




