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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
107/120

コミュ症は苔に苔が苔になる。③

 それは今から数年前。とある街での出来事だったらしい。

 当時、まだ子供だったウラジロは貧乏な家で暮らしていた。

 新しい服どころか、毎日のご飯すらろくに食べられていなかったのだとか。

 そのせいで、ウラジロの見た目は貧相で、周りの者たちから嫌な目にあっていたらしい。



「あー!またうらじろがひとりでいるー!」


「ほんとうだー!くさいくさいー!うらじろきんがついちゃうよー!」


「…………」


 若き日のウラジロは冷たい子供たちの声を無視し、一人砂場で遊んでいた。

 片手には幼い頃に亡くなった父親が勇逸買ってくれたカエルのぬいぐるみが握られている。

 自我が芽生えて間もない頃、カエルを見て大喜びしたのを目にし、気に入ったのならと似た見た目のぬいぐるみを買ってくれたのだ。

 今では傷だらけで、みすぼらしい姿だが、ウラジロからしたら大切な宝物だった。


「……おい!なにむししてんだよ!きたないうらじろ!」


「そうだぞー!そんなところでなにやって……わー!みんなみてよ!このぼろぼろのかえる!」


「あ!や……や……やめて!」


 いじめっ子の一人がぬいぐるみに気づき、からかいながら奪おうとする。

 何とかやめさせようとするが、非力で、怯えてばかりのウラジロには難しかった。

 ぬいぐるみは簡単に取られてしまい、いじめっ子たちの玩具にされた。


「うわー!これきたねえ!」


「ぼろぼろだし、うらじろがもってたからかへんなにおいもする!」


「やめてよ……か、かえしてよ!それは……それはわちきのなの!」


「でたー!わちきだってよ!へんなよびかただー!」


「おんななら、わたしとかつかえよなー!わちきってなんだよー!てか、おねがいするならめをみていえよ!」


 そう言いながら、いじめっ子の一人が無理やり目を合わそうとしてくる。

 ウラジロは反射的に目を逸らすが、それを良しとせず、いじめっ子が全員で囲って目を合わせる。

 いじめっ子の一人と目が合うと、ウラジロは焦り、思わず目に涙を浮かべた。

 そして、物の数秒で泣き出してしまった。


「うわー!なきむしだー!」


「ないてやんのー!おまえほんとによわむしだな!ちからもにんぎょうだすだけだし、ふくもきたないし……なんもいいところないよな!」


「ほんとにな!それになにより……こいつには()()があるもんな!」


「あー!()()はきもちわるいよなー!」


「やめてよ……そんな……いわないでよ……」

 

 ウラジロはぬいぐるみを取られたことと、酷い言葉の暴力に涙を止めることが出来ずにいた。

 その様子を楽しそうに笑いながら、いじめっ子たちは何かを話し始めた。

 大きく笑い、話を終えると、満面の笑みでウラジロへと口を開く。


「おれたちやさしいんだぜ!だからさ、このきたないぬいぐるみすてといてやるよ!」


「こんなきたないの、ないほうがいいもんな!」


「え……それはわちきのたからもの……」


「うるさい!いやならとりかえしてみろよ!じゃーな!」


 最後にそう告げ、いじめっ子たちは駆け出した。

 当然、その手にはぬいぐるみが握られている。

 追いかけようと立とうとするが、恐怖で足がすくみ、立ち上がることが出来ない。

 やがて、いじめっ子が見えなくなったところで、ウラジロは全力で泣き出した。

 ぬいぐるみを取られたことの悲しさ。バカにされたことの悔しさ。

 そして、何も出来ない自分への恨み。様々な感情を乗せて、涙を流し続けた。


 ウラジロ自身、自分も悪い事は分かっているのだ。

 もう少し自信を持てば、もう少しまともに話せれば。

 もう少し力を磨けば、もう少し努力すれば。

 何かしらを行えば、何かが変わる。

 それは分かっているが、それが出来ない。

 だからこそ、ウラジロは泣き続けた。

 

 その時、目の前に何かが落ちてきた。

 ふと前を見ると、そこには奪われたはずのぬいぐるみが落ちていた。

 動揺しながらもそれを抱きしめると、数分前以上に大声で泣き出した。


「はあ……ったく、いつまで泣いてんだ、お前」


 声に反応し、ゆっくりと見上げてみる。

 そこには見た事がない、鋭い目つきの女性が立っていた。


「あ……あなたは……?」


「……俺はヒガンだ。お前はウラジロだな。俺はお前の親父の仕事仲間でな。万が一の事があった時、お前と母親をよろしく頼むって言われてたから、ここまで来たってわけだ」


「おとおさんの……」


「にしてもお前……泣き虫だな。ハッキリ言って、俺はお前が嫌いだ。泣いてばっかで何もしようとしない弱い奴。俺が嫌いな奴まんまだ」


「だって……だって……しょうがないじゃん。わちきはかわってるんだもん。わちきっていうのもへんだし、ふつうのひととちがって、ふつうにしゃべれないし……」

 

「は?変わってるからなんだ?変わってるってのはお前……滅茶苦茶良い事だろうが」


「……へ」


 予想外の言葉に、ウラジロは思わず目を丸くした。

 そして、脳内で耳にした言葉の意味を考え続けるが、理解が追い付かない。

 変わっているのが良いことと言うのは、一体どういうことなのか。

 その疑問が永遠と脳内で


「良いか!変わってるってのは悪い事じゃない!変わってるってことは、他の奴とは違う。他の奴とは違って、何か凄い点があるってことだろ!よく考えてみろ。少し変わってる奴と、皆と全く同じ奴。その二人なら、どっちの方が大きい事を出来ると思う?」


「それは……かわってるひと」


「そうだ!良いか!全部が全部、みんなと同じ方が良い訳じゃない。人より変わっているからこそ出来る事はあるし、凄い事もある。変わってるってのは良い事なんだ。それを嫌だとか、変えたいなんて思うんじゃねえよ!もっと変わってる自分に自信を持て!」


「じしんを……」


 彼女から言われた言葉の全てが初めて言われる言葉だった。

 変わっていることが悪い事ではなく、逆にいことであると言う事。

 変わっている自分に自信を持つべきであるという事。

 変わっているからこそ、自分に出来る事があるという事。

 どれも初めて言われる言葉。その言葉に棘はなく、とても優しく感じる。

 両親以外にここまで優しい言葉を掛けられたのは初めてだった。

 その優しい言葉に、ウラジロは再び涙をこぼしそうになる。

 それを何とか抑えながら、ゆっくりと口を開く。


「でも……だめだよ。わちきは……のろわれてるから」


「あー、確か胸から頬にかけてあるらしいな。魔の傷跡が」


 魔の傷跡。

 数百万人に一人の確率で、生まれつき出来る傷跡の事。

 昔、呪を司る魔族が消滅する直前。

 人間を呪う一心で、全人類に呪いをかけた。

 その呪いこそが魔の傷跡が出来た原因である。

 傷跡が出来たものは呪われ、一生激痛に苦しんで行く。

 と、言うようなことはない。

 

 全力の呪の魔族が命をとして呪った場合、似たような効力が出た可能性もある。

 しかし、消滅寸前だったためか、呪いは完全には成功しなかった。

 結果的に、ただ生まれつきに傷跡が出来る者だけとなった。

 そう、ただの傷跡なのである。

 しかし、現実は非情だ。


 不気味な傷跡を見た人間はそれを恐れ、汚らわしい物として扱った。

 傷跡のある者は避けられ、

 やがて、傷跡は隠さなくてはならないものとなった。 


「……わちきはのろわれてるから……だから……」


「別にただの傷跡なんだから呪われてるも何もないだろうが」


「でも……でも……」


「……チッ……分かったよ……それなら、これでも着とけ」


 イラつきながらヒガンは何かを投げつけた。

 それを手に取れ広げると、それはカエルの着ぐるみだった。

 

「着ぐるみを被ってれば、傷跡も隠せるし、普通に話せるまで、直接顔を見ずに話せるだろ」


「きぐるみ……かわいい……これ……も、もらっていいの?」


「それぐらいで遠慮そんな。……さて、本題はここからだ。お前、俺の騎士団に入らないか?ちょうど団員を探しててな。俺の推薦なら冒険者になる前から騎士団に入れるんだ。……お前の父親にも頼まれたし、お前には素質があると思うからな」


「……わ、わちきでいいの?」


「良いに決まってんだろ。もっと自信を持てよ」


「……いく。……はいる……はいる!わちき……きしだんにはいる!」


「良く言った!さて、着ぐるみ着てついて来い!お前の母親に合わなきゃいけないし、いろいろやんなきゃいけない事もあるしな!」


 ヒガンは荷物を持つと、公園の外へと歩き出した。

 ウラジロは着ぐるみに身を包むと、大切なカエルのぬいぐるみを手に駆け出した。



「そして……わちきはだんちょうの騎士団に入ったってわけ!それから冒険者になるために努力したり、だんちょうの役に立てるよう努力したり……色々大変だったよー」


「そうだったんですか……その……あの……す、すみません」


「え、なんで?」


「いや……実は最初着ぐるみを着てるのを見た時、変な人だと思ってました。まさか、そんな過去があったなんて……」


 これは謝っておかなくてはならない。

 知らなかったとはいえ、着ぐるみを着ているのを変だと思ってしまった。


「別に気にしなくていいよ!わちきだって、初めてそんな人見たら変だと思うしね!まあ、とにかく!だんちょうは良い人だから、悪く思わないであげて!」


「……分かりました」


 確かに、話を聞いた限り悪い人ではなさそうだ。

 見た目と話し方の怖さで、悪そうな人だと決めつけていた。

 人は見た目に寄らないな。

 

 ウラジロも、その明るさから強い人だと思い込んでいた。

 実際は強くもなんともない。辛い思いを経験してそれでも明るく生きているんだ。

 ウラジロも凄い人だったんだ。 


「あ!ちょうどついたみたいだね!さっさと入っちゃおう!」


 そう言うと、箱の扉を開き、中へと入って行った。

 それに続くように、箱の中へと入って行く。

 昨日も思ったが、一体どんな仕組みになっているのだろうか。

 この小さな箱に入ると、あの凄い建物に移動できるのは意味が分からない。

 物理法則無視し過ぎてるだろ。


「さて、それじゃあ、ベルトを渡してくれ!すぐに直せるだろうし、今すぐ直してくるよ!」


「あ、はい……あ、ありがとうございます」


「気にしないで良いってー!じゃ、直してくるからここで待ってて!」


 それだけ言い残し、ウラジロは自室へと入って行った。

 苔だらけの部屋の中から苔がついていない空間を探すと、そこにゆっくりと腰を下ろす。

 やる事もないので辺りを見渡していると、一つの事に気が付いた。

 どうやら、本部中に転がっているビー玉。

 これはウラジロがカエルの人形を作る途中に現れていた丸い状態での謎の物質だ。

 恐らく、カエル人形を作る過程で飽きて、出すだけ出した物質をそのまま放置しているのだろう。

 まさか、このビー玉のような物がウラジロの力によるものだったとはな。

 

 あれ、ということはこの苔も誰かの力によるものだったりするのだろうか。

 いや、これだけ苔があるなんて生呪の力以外ありえないか。

 それなら一体誰の力なんだろう……。


「君……誰?」


 考えていると背後から呼ぶ声がした。

 驚いて振り向くと、そこには信じられない程のイケメンな美青年が立っていた。

 彼はフードを被っており、隙間からは綺麗な金髪が少し見えている。


「あ……え……あ……と……」


「……もしかして、君が噂の仮冒険者君か?」


「あ……は、はい……」


「……そうか。……とりあえず、握手をしよう。ほら、はやく」


 言われるがままに手を伸ばし、初対面の男と握手を交わす。

 その手は湿っており、どこか変な感触もする。

 強い握手を終えると、男は不気味に笑い、呟いた。


「……コケコケ」


 次の瞬間。

 体中に違和感が走った。

 体中を何かが動き回る感触。

 いや、体中から何かが生えてくるような感触もする。

 恐る恐る自らの手に目をやると、その手から緑色の苔が侵食するように生えてきているのが分かった。


「え……あ…………う、うわあああああああ!」


 驚き、すぐさま苔を抜き始める。

 しかし、抜いても抜いても苔は新たに生えてくる。

 次第に苔は広がっていき、数秒後には顔以外完全に苔に覆われていた。

 何も理解できないまま、このまま死ぬのか。

 そう思った直後。一つの扉が開くと同時に、大声が響き渡った。


「あ!コケくん!何やってるの!」


「あー、良い所だったのに」


「良い所じゃない!コウキくん、大丈夫!」


「いや……大丈夫じゃ……あれ……?」


 ふと体を見ると、数秒前まで体を覆っていた苔が消え去っていた。

 体中の違和感は消え、体の調子は普段通りと変わらない。。

 

「ごめんね、仮冒険者君。初めての人と出会うと、体を調べたくなるんだ。改めて始めまして。僕はコケだ。よろしく」


 そう言うと、コケは軽く笑った。

 

 ……いや、何だこいつ。

 さっきの苔は間違いなくこいつの仕業だ。

 マジで……何だこいつ!

想像以上に長くなった…分ければよかったと後悔

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