コミュ症は苔に苔が苔になる。①
「コウキ君!ホントにごめん!だんちょう勝手すぎるよね!後でわちきからもきつく言っておくから許して!」
「いや……そんな、ウラジロさんが謝る事じゃないですよ。……だ、だけど、急にどうしたんでしょうか……師匠の名前を出してから……よ、様子が変わったと思うんですけど……。何か知ってたりは……」
「うーん、わちきは分からないなー。リュウガさんだっけ?わちきは聞いた事も……あ!いや、一回だけ聞いた事があるような気がする!……かも……?……んー、やっぱり聞いた事ないかも。……覚えてないや!ごめんね!」
「あ……はい……」
何ともあやふやな答えだ。
何となくそんな気はしていたが、ウラジロはそこまで頼りにならないのかもしれない。
しかし、ヒガンは師匠の事を知っているのだろうか。
師匠の名前を出した途端顔色が変わって、前より怖い顔で睨んできてた。
もしかしたら、師匠との間にないかあるのかもしれない。
気になるし、師匠の事をもっと知れるなら聞いてみたいな。
けどな……聞いたら聞いたで怒りそうだしな……。
怒ったら怖いしな……うん、聞くのは辞めておこう。
きっと、俺の勘違いだ。ヒガンが師匠の事を知ってるわけがないじゃないか。
全く、どうかしてるぞ、俺。
そんな事を考えている時。
前方に数人の冒険者が集まっているのが見えた。
ウラジロはその中から一人の中年男性を見つけると、その男の元へと駆け寄る。
「ヒバナ騎士団!騎士団員のウラジロ!ただいま到着しました!」
「ヒバナ騎士団、ご苦労様です!……あれ、ヒガンさんは?」
「すみません……いつものです……」
「あー……まあ、分かりました。
ため息交じりにそう答えると、冒険者は俺達の元を離れ、一人目立つ位置に立った。
そして、冒険者全員を黙らせると、大きく口を開いた。
「とりあえず、来れる者は全員集まったようだから、今回の依頼内容を説明する!」
そう言い、冒険者は説明を始めた。
今回、俺達冒険者に来た依頼は、戦場にいるモンスターの討伐。
数日かけて行う、重要な仕事だ。
何でも、魔族が特有の魔力でモンスターを戦場に放ったらしい。
多くモンスターは魔族と人間の戦闘に巻き込まれ、倒れた言ったらしいが、それでも元の数が多かったせいか、生き延びたモンスターは大量にいたらしい。
生き延びたモンスターは街に侵略するべく、街を囲む壁の数か所に集まり、それぞれの箇所から壁を破壊しようとしているらしいのだ。
壁は頑丈で丈夫だが、流石に放置するわけにもいかない。
魔族と戦っている冒険者の手を使うわけにはいかないため、手の空いている冒険者が駆り出されたのだとか。
「……というわけだ。ちなみに、魔族はギルド長たちが相手をしてくれるらしいから、心配しなくていいぞ!それじゃあ、質問はあるか?……ないなら、最初のモンスター討伐地点へ向かう!」
そう叫び、冒険者は先頭を歩き始める。
その後を追うように、俺達も駆け出す。
衝撃の連続でよく見ていなかったが、やはりここは戦場だ。
周囲を見渡すと、至る所に武器が転がっている。
所々に穴が開いており、戦闘跡も大量にある。
地面に目を凝らすと、血痕のような物も見えてくる。
余りにもリアルな戦場に、恐怖を感じながらも歩いていると、先頭の冒険者が足を止めた。
どうしたのかと前を向くと、砂埃の向こうに、何か人影のような物が見えた。
いや、人影とは少し違う。
その陰には2本の角のような物が生えており、足が人間と違い8本に分かれている。
目を凝らしてみると、全身が赤色で覆われており、足には吸盤がついているように見える。
そこで俺はようやく気が付いた。
前世でも何度か見た事がある。というか、好きで良く食べていた。
人間ほどの大きさになり、所々違う所はあるが間違いない。
こいつ……タコだ。
8本足に、吸盤に、ぬめッとしてそうな見た目。
うん。間違いなくタコの親戚か何かだろう。
この世界にもタコに似た生物がいたとは驚きだ。
「コウキ君は初めてだよね?あのモンスターの名前はタコ。基本的に水場に生息するモンスターなんだ!本当は戦いは好まないモンスターなんだけど、魔族の力で凶暴になってるみたいなの。ああ見えて強いから、気を付けてね!」
「タコ……見た目の通りですね……。わ、分かりました。……が、頑張ります」
「……全員注目。モンスターはこちらに気づいていない。全員、攻撃の準備は整っているな。合図と同時に、全員で攻撃を開始するぞ。……それじゃあ、行け!突撃だ!」
合図と同時に、冒険者はタコへ向かって駆け出した。
数体のタコは不意打ちを喰らい、一瞬にして倒された。
それを目にした残りのタコは怒りを露わにし、全員が戦闘態勢に入る。
冒険者の素早い動きに置いて行かれた俺は焦りながらも、遅れてタコへと走り出す。
影を操り、右手に剣を、左手に槍を装備すると同時に、至近距離のタコ目掛けて斬りかかる。
タコは自慢の足で防ごうとするが、それを簡単に切り捨てると、槍を使い、タコを地面に固定する。
タコは何とか抜け出そうとするが、体を貫通し、地面の奥深くに突き刺さった槍を抜くことは出来ない。
その様子を確認すると、影で新たに槍を突き刺し、別のタコ目掛けて駆け出す。
タコは8本足と軟体を利用し、特殊な攻撃を仕掛けてくるが、触手使いとの戦いや、様々なモンスターとの戦いのお陰で、難しくはあるが上手く対応できる。
攻撃を避け、厄介な足を斬り、隙を突いて槍で固定する。
単純だが、完璧な作戦。
想像以上に上手くいっている。
もしかしたら、俺が思っていた以上にここのモンスターは弱いのかもしれない。
「凄い……凄いよコウキ君!めちゃくちゃ倒してるじゃん!」
「え……あ、ウラジロさん……あ、あ、ありがとうござます……」
「よーし!こうなったらわちきも頑張っちゃうぞ!」
ウラジロは一歩踏み出すと両手を前に出した。
数秒後。両手の前に、何もなかったはずのそこに透明のガラスの様な何かが出現し始めた。
十数センチにもなるそれは分裂したのち、形を変え、ビー玉のような物へと変化した。
さらに、ビー玉はそこから変化をはじめ、少しずつ大きく、少しずつ人型へと変化していく。
それは数センチ程の大きさで、人間と同じ二足歩行。
頬が少し膨らんでおり、手には水かきのような物がつけられている、水辺に棲んでいそうな生物。
変化が終わると同時に、俺は理解した。
それはどこからどう見てもカエルだった。
いや、二足歩行で、人間に近い見た目をしているし、カエルではないのかもしれない。
それでもカエルにしか見えない。
言うならば、カエルを二足歩行のゆるキャラにして、慎重を高くしたような感じ。
不思議と不気味な要素はなく、どことなく可愛い。
「どーよ!わちきの必殺技!カエル君生成!」
カエル君生成か……そのまんまの技名だ。
というか、この世界でもカエルはカエルなのか。
タコもタコだったけど、もう良く分からなくなってくるな。
「よーし!コウキ君、見ててよ!わちきの力見せてやるよ!」
ウラジロは着ぐるみの物を持ちづらそうな手でカエルを掴むと、それをタコに向かって全力で投げつけた。
カエルは一直線にタコに直撃した。
そして、そのまま地面に落ちた。
ただ普通に落ちた。
タコは全く動じていない。
「…………え?」
「………………?」
「…………あれれ?」
ただ当たって、普通に落っこちた。
生呪の力だろうし、何かあると思っていたけど、何もなかった。
爆発しなかったし、貫かなかったし、潰しもしなかった。
本当に何もなかったし、傷一つついていないように見える。
拍子抜けというか……ええ………。
ウラジロは何をしたかったんだ……一体ウラジロさんの生呪の力はどんな力なんだ?
そんなことを思っていると、カエルを投げられたタコが怒り、ウラジロ目掛けて駆け出した。
ウラジロは叫び散らしながら、逃げるように俺の周りを走りだした。
それを追い、タコも俺の周りを走りだす。
困惑しながらも、タコに足を掛け転ばせると、槍を体に突き刺し、タコの体を地面に固定する。
「いやー、助かったよ!もう少しで危ない所だった!」
「いえ……そんな……。……その、あの……ウラジロさんの生呪の力って……」
「あー、教えてなかったね!わちきの力は無から良く分からない物を作り出して、良く分からない物を自由に動かせる力だよ!」
なるほど。
良く分からない物を作り、それを操れると。
良く分からない物か……良く分からない物ってなんだよ。
いや、あの見た目はガラスとかじゃないのか?
いや、ガラスだったら地面に落ちた時に割れてるか?
いやでも……だって……ええ……良く分からない物って何だよ。
というか、何で自分の力を把握できてないんだ……。
ウラジロの力は謎の物質を生成し、それを自由に形作れ、自由に動かせるという物。カエル人形以外にも、剣や玩具や戦車など、知っているものなら何でも作れる。
しかし、本人の技量の問題か、自由に動かすことはなく、作ったあとは投げつけるだけとなっている。




