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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
104/120

コミュ症は運ゲー能力を目の当たりにする。②

「よし……よし……よし……いくぞ……」


 怯える自分に鞭を打ち、大きく一歩を踏み出す。

 周囲を確認するに、使える影は相当限られてくる。

 障害物が周囲にない事から、使えるのは人影のみ。

 当然魔族の影には触れられないだろうし、さっき触ったヒガンとウラジロ、そして俺の影のみだ。

 この量の影なら、巨大な武器は作れない。

 影の大きさ的に、鎧を作った場合はそれ以外の武器が作れなくなるし、鎧を作る選択肢はない。

 となれば、使い慣れた武器で、相手が弱っているうちに叩くに限る。


「……影」


 周囲の影が集まり、使い慣れた武器へと形を変化し始める。

 数秒後、影はシャドウハンマーの姿で変化を終えた。

 それを確認すると、魔族へ視線を戻す。

 魔族は傷だらけの体で仁王立ちしているが、その様子から察するに立っているのでやっとに見える。

 それを好機ととらえ、ハンマーを握りしめ、魔族へと駆け出す。


「喰らえ!」


 魔族の至近距離に近づくと同時に、ハンマーを振り上げる。

 魔族は後ろに避けようとするが、傷のせいか上手く避けれず、その場に倒れこんだ。

 その気を逃すことなく、一気に決めに入る。


 師匠から学び、磨き上げてきた一撃。

 左足を前に出し、右足を少しずつ引く。

 それと同時にハンマーに角度をつけ、両手で握りしめる。

 そして、左足に力が入れ、魔族目掛けて全力でハンマーを振る。


 魔族は満身創痍で立ち上がり、攻撃を受け止めようとするが、満身創痍の身体で完璧に受け止めることは出来ない。

 全力を込めた渾身の一撃は魔族に炸裂した。

 魔族は受け身を取る事も出来ず、殴り飛ばされた。


「おお!おおお!おおおおおお!凄い威力の一撃!怪我してるとは言え、魔族を殴り飛ばすなんて!コウキ君凄い!凄いよ!」


 ウラジロの褒め言葉に照れながらも、冷静に魔族へ目をやる。

 魔族は今にも気絶しそうだが、それでも立ち上がろうとしている。

 決着をつけるべく、シャドウハンマーを構えながら、一歩ずつ近づいて行く。

 

 魔族は強力で強靭な生物だ。

 普通に戦っていれば、俺じゃ絶対に勝てない。

 だが、ここまで追い詰めていれば、逆に勝ち目しかない。

 有利に立てているからか、不思議と恐怖も弱まっている。

 シャドウハンマーで確実に気絶させる。


「よし……行くぞ!」


 そう叫び、シャドウハンマーを振り上げる。

 そして、魔族の頭目掛け、シャドウハンマーを振り下ろす。

 その時だった。


「馬鹿が!単調な攻撃過ぎだ!魔族を見てみろ!」


 ヒガンの大声に驚きながら、魔族に目をやる。

 よく見ると、魔族の右手に黄色い何かが集まっているのが見えた。

 何かは水のようにも見え、何かからは水滴のような物が地面に流れ落ちている。

 水滴が触れた地面は焼けるような音を立てながら、解けるようにして消えている。

 それを目にし、その何かが酸である事が一瞬にして理解できた。

 まずいと思い、攻撃をやめようとするがもう遅い。

 魔族は不気味な笑みを浮かべながら、右手の攻撃を繰り出した。


「チッ!これだからガキは!」


 右手が俺に直撃する直前。

 後方から一本の矢が放たれた。

 矢は猛スピードで魔族に飛んで行き、酸で覆われた右手をいとも簡単に貫いた。

 魔族は想定外の攻撃と、防がれた右手に焦り、すぐさま逃げようとする。


 が、反撃の体勢から回避の体勢に移るには時間が足りず、真正面からハンマーの一撃を受ける事となった。

 一撃を受けた魔族は数秒混乱すると、その場に倒れ込み、完全に気絶した。


「倒し……た……」


 危なかった。本当に危なかった。

 満身創痍の様子に、完全に油断していた。

 反撃される事はないと勝手に思い込んでいたが、余裕で反撃してきた。

 ヒガンが防いでくれなかったと思うと……ゾッとする。


「ガキが……お前は視野が狭すぎるんだよ。相手をもっと確認し、相手の動きを最大限に予想すれば、今のは避けれたはずだ。……ったく、これだからガキは……」


「あ……す、すみません……」


「何謝ってんだ、殺すぞ」


「ひゃい……」


 ……怖い。

 マジでこの人怖いんだけど。

 確かにヒガンの言っていることは事実かもしれない。

 視野が狭いかもしれないし、動きを予測すれば避ける事も出来た。

 ヒガンが居なければ、どうなっていたか分からないし、助けてくれた感謝もある。


 それはそれとして怖い!怖くて嫌いだ!

 いくら何でもそんな怖い言い方する必要はないだろ!

 と言うか、一応は冒険者仲間で、歳下に向かって殺すぞは良くないと思います!

 途中途中挟んでくる舌打ちは怖いし、言葉使いも怖い。

 睨みつけてくる顔も怖いし、もう嫌だ、怖くて泣きそうだ。


「ちょっとだんちょーう!そんな怖い言い方しなくても良いでしょ!そう言うダメな所を治してあげるのが、だんちょうの役目でしょうが!それに、魔族を殴り飛ばした一撃は凄かったと思わない?」


「はー……まあ、確かにあの攻撃は良かったと思う。動きに無駄が無かったし、放つまでの時間が長かったが、それを減らせればそこそこ良い技になると思う。ガキにしてはやるじゃねえかと思う」


「……ほ、本当ですか!」


 褒められたことの嬉しさで、思わず高い声が出た。

 その次の瞬間、冷たいヒガンの言葉が俺を襲った。


「少し褒められたからって喜ぶな。殺すぞ」


「ひゃい……」


 もう、褒めるか怒るかどっちかにしてくれ。

 感情がこんがらがって、訳が分からなくなってくるぞ。


「……あ?そう言えば……なあ、ガキ。それで、さっきの攻撃は自分で作り出したのか?」


「え、あ、いや……さっきの動きは……その……師匠から教えてもらったんです。……高火力を出すための基本の構えらしくて……」


「師匠?誰だそいつは?」


「あ……デイングの町って所で、師匠とは出会って……リュウガさんって言うんですけど、ハンマーを凄く上手く使う冒険者なんです……けど……」


「……チッ……そう言う事かよ」


 それだけ呟くと、ヒガンは難しそうな顔をして俯いた。

 訳も分からずその間の数秒間黙っていると、ヒガンは俺を睨みつけながら口を開いた。


「やっぱり駄目だ、俺はお前が嫌いだ。……この後、他の冒険者と一緒にモンスターを狩る任務がある。本当なら俺も行くつもりだったが、気が変わった。ウラジロ!お前がこのガキと一緒に行ってやれ!俺は帰る。気分が悪い」


 それだけ告げると、俺達の言葉を聞くことなく、ヒガンは街へと戻っていった。


 一体どうしたんだろうか、急に機嫌が悪くなったみたいだ。

 師匠の名前を出した途端、突然睨みが強くなった気もする。

 何か悪い事をしてしまったのだろうか。

 それとも、師匠の事を知っていたりするのだろうか。

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