コミュ症は運ゲー能力を目の当たりにする。②
「よし……よし……よし……いくぞ……」
怯える自分に鞭を打ち、大きく一歩を踏み出す。
周囲を確認するに、使える影は相当限られてくる。
障害物が周囲にない事から、使えるのは人影のみ。
当然魔族の影には触れられないだろうし、さっき触ったヒガンとウラジロ、そして俺の影のみだ。
この量の影なら、巨大な武器は作れない。
影の大きさ的に、鎧を作った場合はそれ以外の武器が作れなくなるし、鎧を作る選択肢はない。
となれば、使い慣れた武器で、相手が弱っているうちに叩くに限る。
「……影」
周囲の影が集まり、使い慣れた武器へと形を変化し始める。
数秒後、影はシャドウハンマーの姿で変化を終えた。
それを確認すると、魔族へ視線を戻す。
魔族は傷だらけの体で仁王立ちしているが、その様子から察するに立っているのでやっとに見える。
それを好機ととらえ、ハンマーを握りしめ、魔族へと駆け出す。
「喰らえ!」
魔族の至近距離に近づくと同時に、ハンマーを振り上げる。
魔族は後ろに避けようとするが、傷のせいか上手く避けれず、その場に倒れこんだ。
その気を逃すことなく、一気に決めに入る。
師匠から学び、磨き上げてきた一撃。
左足を前に出し、右足を少しずつ引く。
それと同時にハンマーに角度をつけ、両手で握りしめる。
そして、左足に力が入れ、魔族目掛けて全力でハンマーを振る。
魔族は満身創痍で立ち上がり、攻撃を受け止めようとするが、満身創痍の身体で完璧に受け止めることは出来ない。
全力を込めた渾身の一撃は魔族に炸裂した。
魔族は受け身を取る事も出来ず、殴り飛ばされた。
「おお!おおお!おおおおおお!凄い威力の一撃!怪我してるとは言え、魔族を殴り飛ばすなんて!コウキ君凄い!凄いよ!」
ウラジロの褒め言葉に照れながらも、冷静に魔族へ目をやる。
魔族は今にも気絶しそうだが、それでも立ち上がろうとしている。
決着をつけるべく、シャドウハンマーを構えながら、一歩ずつ近づいて行く。
魔族は強力で強靭な生物だ。
普通に戦っていれば、俺じゃ絶対に勝てない。
だが、ここまで追い詰めていれば、逆に勝ち目しかない。
有利に立てているからか、不思議と恐怖も弱まっている。
シャドウハンマーで確実に気絶させる。
「よし……行くぞ!」
そう叫び、シャドウハンマーを振り上げる。
そして、魔族の頭目掛け、シャドウハンマーを振り下ろす。
その時だった。
「馬鹿が!単調な攻撃過ぎだ!魔族を見てみろ!」
ヒガンの大声に驚きながら、魔族に目をやる。
よく見ると、魔族の右手に黄色い何かが集まっているのが見えた。
何かは水のようにも見え、何かからは水滴のような物が地面に流れ落ちている。
水滴が触れた地面は焼けるような音を立てながら、解けるようにして消えている。
それを目にし、その何かが酸である事が一瞬にして理解できた。
まずいと思い、攻撃をやめようとするがもう遅い。
魔族は不気味な笑みを浮かべながら、右手の攻撃を繰り出した。
「チッ!これだからガキは!」
右手が俺に直撃する直前。
後方から一本の矢が放たれた。
矢は猛スピードで魔族に飛んで行き、酸で覆われた右手をいとも簡単に貫いた。
魔族は想定外の攻撃と、防がれた右手に焦り、すぐさま逃げようとする。
が、反撃の体勢から回避の体勢に移るには時間が足りず、真正面からハンマーの一撃を受ける事となった。
一撃を受けた魔族は数秒混乱すると、その場に倒れ込み、完全に気絶した。
「倒し……た……」
危なかった。本当に危なかった。
満身創痍の様子に、完全に油断していた。
反撃される事はないと勝手に思い込んでいたが、余裕で反撃してきた。
ヒガンが防いでくれなかったと思うと……ゾッとする。
「ガキが……お前は視野が狭すぎるんだよ。相手をもっと確認し、相手の動きを最大限に予想すれば、今のは避けれたはずだ。……ったく、これだからガキは……」
「あ……す、すみません……」
「何謝ってんだ、殺すぞ」
「ひゃい……」
……怖い。
マジでこの人怖いんだけど。
確かにヒガンの言っていることは事実かもしれない。
視野が狭いかもしれないし、動きを予測すれば避ける事も出来た。
ヒガンが居なければ、どうなっていたか分からないし、助けてくれた感謝もある。
それはそれとして怖い!怖くて嫌いだ!
いくら何でもそんな怖い言い方する必要はないだろ!
と言うか、一応は冒険者仲間で、歳下に向かって殺すぞは良くないと思います!
途中途中挟んでくる舌打ちは怖いし、言葉使いも怖い。
睨みつけてくる顔も怖いし、もう嫌だ、怖くて泣きそうだ。
「ちょっとだんちょーう!そんな怖い言い方しなくても良いでしょ!そう言うダメな所を治してあげるのが、だんちょうの役目でしょうが!それに、魔族を殴り飛ばした一撃は凄かったと思わない?」
「はー……まあ、確かにあの攻撃は良かったと思う。動きに無駄が無かったし、放つまでの時間が長かったが、それを減らせればそこそこ良い技になると思う。ガキにしてはやるじゃねえかと思う」
「……ほ、本当ですか!」
褒められたことの嬉しさで、思わず高い声が出た。
その次の瞬間、冷たいヒガンの言葉が俺を襲った。
「少し褒められたからって喜ぶな。殺すぞ」
「ひゃい……」
もう、褒めるか怒るかどっちかにしてくれ。
感情がこんがらがって、訳が分からなくなってくるぞ。
「……あ?そう言えば……なあ、ガキ。それで、さっきの攻撃は自分で作り出したのか?」
「え、あ、いや……さっきの動きは……その……師匠から教えてもらったんです。……高火力を出すための基本の構えらしくて……」
「師匠?誰だそいつは?」
「あ……デイングの町って所で、師匠とは出会って……リュウガさんって言うんですけど、ハンマーを凄く上手く使う冒険者なんです……けど……」
「……チッ……そう言う事かよ」
それだけ呟くと、ヒガンは難しそうな顔をして俯いた。
訳も分からずその間の数秒間黙っていると、ヒガンは俺を睨みつけながら口を開いた。
「やっぱり駄目だ、俺はお前が嫌いだ。……この後、他の冒険者と一緒にモンスターを狩る任務がある。本当なら俺も行くつもりだったが、気が変わった。ウラジロ!お前がこのガキと一緒に行ってやれ!俺は帰る。気分が悪い」
それだけ告げると、俺達の言葉を聞くことなく、ヒガンは街へと戻っていった。
一体どうしたんだろうか、急に機嫌が悪くなったみたいだ。
師匠の名前を出した途端、突然睨みが強くなった気もする。
何か悪い事をしてしまったのだろうか。
それとも、師匠の事を知っていたりするのだろうか。




