コミュ症は運ゲー能力を目の当たりにする。①
「え……え……ま、魔族……え……え……ええ…………?」
「おい、いつまで寝ぼけてんだガキ。状況を見れば分かるだろ」
状況を見れば分かる。
今座っているのは土の地面。
目の前にいるのはいかつい角が生えているイケメン男魔族。
俺を睨んでいるのは怖い女冒険者ヒガン。
土埃は凄くて……凄い。
いや、分からない。
どれだけ考えても、一体どういう状況なのか見当もつかない。
昨日は掃除した後、間違いなくベッドの上で眠りについたはずだ。
それがなんでこんな絶望的な空間に寝転んでいたんだ。
全くもって理解が追い付かない。
「……あの、これって……どういう状況です……か?」
「……チッ……良いか、昨日俺が言った事を思い出してみろ。任務には連れて行くっつったろ。だから連れてきてやったんだよ」
「……ええ…………あの、それで……こ、こ、ここって……ど、どこですか?」
「決まってんだろ。魔族と人間の戦争の最前線。昼夜問わず魔族と人間が殺し合ってる戦場だよ」
「……せん……じょう……」
まさかと思い、すぐさま周囲を見渡す。
振り返り、後ろの先をよく見てみると、そこには巨大な壁のような物が見える。
所々に穴が開いており、そこから大砲のような物も見え隠れしている。
その壁から、ここが街の外であることは一目瞭然。
大体の状況を理解した上で、魔族に目を戻す。
殺意に駆られた目。見られるだけで、体中の震えが止まらなくなる。
そんな魔族と戦っている戦場に座らされている。
今になって、自らの状況が最悪である事を理解し、嫌な汗が止まらなく出て来る。
「……あの……これって……え……だって……え…………」
「はあ……お前は別に何もしなくていい。何もしないで、ただ俺がこの魔族を倒すのを見てればいいんだよ」
「倒すのをって……あ、相手は魔族ですよ……?」
「ガキ、お前は俺を舐めてんのか?魔族だから何だって話だ。黙ってそこで見てろ」
そう言い放つと、ヒガンは自らのポケットから何かを取り出した。
取り出したものは立方体で、面には星が刻まれている。
面によって書かれている星の数は変わり、一から六まで刻まれている。
流石の俺でも、こんな特徴的な物は一目で何か理解できる。
あれはゲームなどで使用する六面ダイスだ。
ここから見たら普通のダイスだが、あれで一体何をするつもりなのだろうか。
「さて……ギャンブルと行こうか!」
そう叫び、ダイスを大きく振り投げた。
ダイスは高く投げられ、数秒の時間を掛けて地面に落下した。
その時、完全に止まった時点でのダイスは5の面を出している。
その直後。ダイスは黄金に輝くと同時に、形を変えながらヒガンの元へと戻っていく。
ヒガンがそれを手に取ると同時に、輝きは消え去り、形も全く別の者へと変化していた。
その形は古くの時代から使われていた武器。ボウガンその物の形をしていた。
ヒガンをよく見ると、いつの間にか数百本の矢も背負っている。
状況から判断するに、ボウガンの発生時に、一緒に発生したと考えるのが妥当だろう。
「……チッ!これは使いずらいから嫌いなんだけどな。まあ……殺すか」
呟きながらボウガンに矢を通し、魔族へと放つ。
矢の動きを目で追おうとするが、気が付いた時にはすでに矢が魔族の腕を貫通しており、魔族に巨大なダメージを与えていた。
それで満足することなく、ヒガンは走り回りながら、魔族目掛けて矢を連発する。
魔族は体から酸のような物を発射しながら、その攻撃に対応していく。
目で追えない速度の矢に、それに対応する魔族の動き。
ハッキリ言って、何が起こっているのかいまいちよく分からない。
モモ校長のような圧倒感はないが、現実的な強さだからこそ、その強さを強く感じる。
「……なるほど、流石に魔族だな。じゃあ……必殺技と行かせてもらおうか」
ヒガンはポケットから何かを取り出すと、それを空高く投げる。
よく見るとそれは、六面ダイスと同じく、星が刻まれた12面ダイスだ。
ダイスが地面に落下すると、ダイスではなく、ヒガンの手にあるボウガンが銀色に輝きだす。
「5か……必殺技的にはまあまあだが……良しとしてやろうじゃないか!」
ヒガンは銀色に輝くボウガンを魔族へと向ける。
ボウガンが最大限に輝くのを確認すると、力強く矢を放つ。
矢は突如として発火しながら、魔族へと向かいだす。
魔族は地面を強く蹴り上げ、矢を華麗に避ける。
その次の瞬間。
矢が地面に直撃すると同時に、矢が炎を撒き散らしながら爆発した。
魔族は突然の爆発を避けることは出来ず、一瞬にして炎に包まれた。
魔族は苦しみながら地面にのたうち回るが、炎が消える気配はない。
「無駄だ。その炎は特定の時間が経過するまで、決して消える事はない。まあ、時間はそこまで長くないがな。……だが、高温の炎に巻かれながらでは、この攻撃は避けられないよな」
数本の矢を右手に握ると、ボウガンを構え、転がっている魔族に狙いを定める。
そして、目にもとまらぬ速さで、魔族目掛けて矢を連射する。
当然、燃える魔族は矢を避けることは出来ず、全ての矢を体に喰らった。
数秒後、炎が消え去ったかと思うと、魔族は耐力が切れたのか、その場に蹲るだけとなった。
「魔族を……こんな簡単に……」
「簡単に?今のが簡単に見えたのか。……やっぱりお前は駄目だな」
「…………え?……えっと……え?」
「だんちょーう!そんなんじゃ、コウキ君も分かんないでしょ!ちゃんと説明してあげなさい!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはアヒルのような着ぐるみを着た誰かが立っていた。
その声色や身長から察するに、中に入っているのはウラジロで間違いないだろう。
「元からこいつになにか教えるつもりはないから別に良いんだよ」
「だんちょう!ゲッケイさんにお願いされたでしょ!特訓してあげてって!だーかーらー!ちゃんと教えてあげなさい!」
「……全く。おい、ガキ。今の戦いを見て何を思った?」
「何を思った……?」
何と言うか凄かった。
ヒガンも魔族も、信じられないほどの速さで動いていて、ほとんど目で追えなかった。
生呪の力も凄かったし、魔力も凄かった。
ヒガンの猛攻が凄かったが、それに対応する魔族も凄かった。
「……凄かったとしか…………」
「チッ……。良いか、お前はそもそも視野が狭いんだよ。お前には見えてないものばっかりなんだ」
「は、はあ……」
「……分かった。ガキ、お前今からそこで倒れてる魔族と戦え」
「……へ?」
「相当なダメージは与えてるし、あの調子なら本調子の1割の力も出せないはずだ。戦ってみれば、俺が魔族を簡単に倒せたなんて言えなくなるはずだ。ほら、さっさと行け!」
そう言いながら、ヒガンは俺の背を押し、魔族の眼前に追いやった。
魔族はそれを目にすると、ボロボロの体を抑えながら、ゆっくりと戦闘態勢に入る。
魔族と戦えって……。
確かにボロボロだけど、魔族は魔族だぞ。
魔族に俺が勝てるのか?
いや、勝しかないか。
だって、ここで無理って言ったら何するか分からないし。
状況的に拒否権ないし。あんな怖い人に反抗するなんて出来ないし。
こうなったら……やるしかない。
……怖い!
ダイスの目によって何かが起こる
これこそ運ゲー能力




