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大きすぎる力

中ほどと後半に流血シーンがあります

「本当に……竜の力が……。ぼく達が見た時は、あんなじゃなかったのに」

 緑の光の竜は、魔法使いではないジーンの目にもはっきりと映っていた。ただ、彼らが見た竜から現れた光は人間の頭くらいの丸い形をしていたのに。

「竜の珠が竜の形に……。あれが本来の形なのかしら。形がどうでも、あれが本当にピュアの中で十年も眠ってたの……?」

「尋常じゃないぜ、あの力」

 ピュアから現れたのは、竜の力。

 確信に近いものがあっても、やはり目の当たりにすると呆然としてしまう。

 ピュアから飛び出した緑の光の竜は、馬よりも大きい。貴族の別荘の一室とは言え、実体でなくても屋内に大きな生物が現れれば狭く感じる。竜の力の威圧感みたいなものが、余計にそう思わせているのだろうか。

 緑の竜は天井をゆっくり旋回すると、マーディンへ向かって降りて行く。両手を広げて待ち受ける彼の身体に、竜は飛び込んだ。

「ふ……ふはは……わははは……」

 竜の身体が全てマーディンの中へ入ると、力の限りといった様子でマーディンは高笑いする。ロッグ達は言葉もなく、そのマーディンを見ていた。

 渡してはいけない人間に、その力が渡ってしまった。これから何が起きるのか、予想できない。

「これが……これが竜の力か。すごい……何と素晴らしい。見たか、お前達。竜の力が俺の中へ入って行くのを」

 怖いくらいの笑顔だ。その狂気にも似た喜びを、マーディンは隠そうともしない。

「竜の力を得て、最初にしたかったのは……これだ」

 マーディンが自分の顔をなでた。その手が彼の顔を通り過ぎると、あんなに醜かった傷がきれいに消えている。その光景に、誰もが息を飲んだ。ほんの一瞬の動きだったのに。

「見える……見えるぞ。十年前に失った光が戻った。閉じたままだった左目が開いたぞ。お前達の顔もよく見える」

 自分の手を見詰め、周囲を見回すマーディン。視線がこちらに向けられただけで、ロッグ達は訳もなくぞっとする。こちらの姿なら、もうすでに知られているはずなのに。見付かってはいけない相手に見付かってしまったような、強い不安感が生まれる。

 あんなに醜かったマーディンは、左目周辺にあった肉の盛り上がりがなくなっただけで信じられない程整った顔になった。あまりの変わりように、ロッグ達も声が出ない。

 先輩魔法使い達が、自分の顔を武器に、などと話していた。男のロッグやジーンも、美男と認めざるを得ない容姿だ。確かに、興味はなくてもあの顔で迫られれば、大抵の女性は多少なりとも戸惑ってしまいそうだ。

 さらには、若くなっている。傷を治す際、同時に若返るような魔法も使ったのだろうか。聞いた話では四十半ばのはずのマーディンが、今はどう見ても二十代の青年に見えるのだ。ロッグ達より少し年上、と言われれば信じてしまいそうな姿である。

「……引き出してしまったんですね」

 そんな声が聞こえ、はっとしてロッグ達が振り返ると、イシュトラルが立っていた。

「マーディン、次はわしの番だよ」

 この場で唯一驚いていないジュパットが、いそいそとマーディンのそばへ近寄る。

「ああ、わかってるさ。お前が本当に若い頃は美人だったか、確かめてやる」

 マーディンがジュパットの前で腕を振った。

 すると、次の瞬間にはしわだらけの、少し不気味にさえ思えた老婆はもういない。小柄ではあるが、艶やかな長い黒髪をなびかせた若い女が立っていた。知らなければ、二十歳そこそこの水商売ふうの女、と思ったかも知れない。

 まぶたが垂れ下がり、形もよくわからなかった目。今は大きくぱっちりと開き、薄い青の瞳が長いまつげに縁取られている。

 背筋が伸びたせいか、さっきよりやや身長が高くなった。その身体にまとっていた古い黒のローブを脱ぐと、きれいとは言えない生成りのシャツと長い黒のスカート。だが、裾から見える足首は細く引き締まり、何よりシャツのボタンが弾け飛びそうな程に胸が出ていた。

「ほぉら、どうだい? 嘘じゃなかっただろ。女好きのお前さんのことだ、この身体を見てぐっときてるんじゃないかい?」

 ジュパットがマーディンに流し目を向ける。スカートの裾を膝上までたくし上げ、豊かな胸をわざとらしく揺すってみせた。

「これなら、後でお前さんをたっぷり楽しませてあげられるよ。どうだい?」

「ほう。口ばかりじゃないかと内心疑っていたが、なかなか……」

 マーディンはなめ回すようにジュパットを見る。女を値踏みする男の目だ。そんなマーディンへ売り込むように、ジュパットはさらにその胸を突き出してみせた。

 しかし、ロッグ達は二人がどれだけ外見がよくなっても、ひたすら不気味なものにしか思えなかった。本当の姿ではないとわかっているせいか、おぞましいだけだ。

 美しくなりたい、若くなりたいという気持ちはわからないでもない。だが、彼らはそんな単純な望みだけでなく、もっとどす黒い欲望を持っている。それが流れ出て、ロッグ達の気分を悪くしているのだ。

「さてと。お次は……順番から言えば、お前だな」

 マーディンがゆっくりとヴェイザーの方を向く。

「ひ……ひぃっ」

 壁際に座り込んだ男が、さらに後ずさりしようとして失敗する。後ろにある壁が、彼の逃げ道をふさいでいた。少女を外の目から隠そうとした壁が、今では彼を囲んで窮地に追いやっているのだ。

「え? 誰なの、あの人」

「見たことがないけど」

「もしかして、あいつがピュアを連れて行ったのか」

 ロッグ達は今まで、ピュアとマーディンにしか目が行かなかった。だが、マーディンの言葉で自分達以外にも人がいる、ということに遅ればせながら気付く。

「ああ、そうだ。俺がこいつをあやつってな。こいつは自分の意志で連れて来たと思っていたが……めでたい奴だ」

 イシュトラルではなかった。ロッグ達の後から現れたのだから、彼がしたことではないとすでにわかっていたはず。だが、目の前で色々と起こりすぎ、誰が連れ去り犯かということが頭から飛んでいた。

 この男がピュアを連れ去った犯人なら、見掛けない人と言われたのも当然だ。ロッグ達も初めて見る顔。その男を、マーディンがあやつっていた、と言う。

 この男が誰であれ、この件にはやはりマーディンがしっかり絡んでいたのだ。

「ヴェイザー。俺は今更、お前が持って行った金を返せ、とは言わない。だが、全く何もなかった、としてしまうのも、俺としてはどうしてもプライドが許さない訳だ」

 マーディンはねちねちとヴェイザーをいたぶり始めた。

「あ……た、助けてくれ……。な、マーディン。以前、一緒に仕事をしたこともある仲じゃないか。頼む」

 震える声で、ヴェイザーは懇願する。

 マーディンが現れる前、ピュアに話していた。ヴェイザーもわずかながらではあるが、魔法をかじったことのある男である。

 マーディンがどれだけの魔力を得たか。たった今目の前で見せられ、いやという程わかっていた。その力の大きさに、ただひれ伏すしかできない。

 恐ろしさのためか、股間部分の服の色が変わっている。

「ああ、お前と一緒に仕事をしたな。今ではいい思い出だ。だが、その思い出が頭をよぎる度に、俺ははらわたが煮えくり返るのを感じる。完全に沸騰しちまって、俺にはどうしようもない。なぁ、ヴェイザー。俺もお前に助けてほしいんだ。つらくてつらくて、本当に困ってるんだよ。この煮えてヘドが出そうなはらわたを、おさめてくれないか。それができるのは、この世でお前だけなんだ」

 マーディンはにこやかだ。しかし、その笑みはヴェイザーの血を凍らせかねない冷たさだった。

「お、お願いだぁ、マーディン。たす……助けてくれよぉ……」

 涙と鼻水と鼻血で、ヴェイザーの顔はぐちゃぐちゃになっていた。

「これ以上、その力を使うのはやめなさい。それはあなたに御せる力ではありません」

 イシュトラルの言葉に、マーディンがぎろりと目をむいてそちらを見る。ロッグ達も「え?」という顔で彼を見た。

「ほう……ずいぶんと面白いことを言うじゃないか。はてさて、どこのお坊ちゃんかな。確か、この前もそこのガキ共と一緒にいたようだが。俺のことをよく知った上で、言ってるのかな?」

 剣呑な目つきを、マーディンはイシュトラルに向ける。自分が楽しんでいるところに水を差され、不愉快だという表情を露わにしていた。

「あなたが誰であろうと、関係ありません。人間の小さな身体でその力を持つには、あまりに負荷がかかりすぎます」

「なら、どうして魔法も使えないこんな小娘の中に、この力があったんだ? どうしてだ。できるものなら、説明してみろっ」

 マーディンは、自分の足下で仰向けに倒れて動かないピュアを指差す。

 ピュア……あれは……?

 エルナはピュアの身体を見て、あることに気付いた。

「俺が取り損ねた力を、この小娘は十年近くも持っていたんだぞ。竜の力を、魔法使いでも何でもないただの人間が、だ。それが、今まで普通に生き、普通に成長した。こいつのどこに負荷があったと言うんだ。俺はアーストでトップだった魔法使いだぞ。この小娘に扱えて、俺が扱えないはずがないだろう」

 つばを飛ばしながら、マーディンは怒鳴り続ける。

 魔法使いと一般人。

 どちらが魔力の扱いに長けているかは明らかだ。

 こんなにも強大な魔力を、何もできない一般人が持っていた。それも、十年という長い期間だ。

 それなのに、自分には御せない、などと言われた。

 冗談じゃない。この力を自由自在に使うために、ここまで来たのだ。横やりを入れられるのは、不愉快極まりない。

「彼女は扱っていた訳ではありません。何も知らずに受け入れていただけで……」

 だが、マーディンはイシュトラルの言葉を遮った。

「ごちゃごちゃとうるさいっ。余計な口出しはせず、そこでおとなしく見ていろ。こいつの次にお前を片付けてやるから、そこで待ってるんだな」

 マーディンはまたヴェイザーの方を向いた。イシュトラルと話している間に逃げればよかったのだが、ヴェイザーは腰が抜けてしまって立てないでいる。

「さぁ、ヴェイザー。俺の気分をすっきりさせてくれよ」

「や、やめてくれ……」

「それは無理な相談だ」

 マーディンはわざらしくゆっくりと、相手の恐怖が長引くのを狙うように腕を上げた。そこからどんな力が放たれるのか、予想もできないヴェイザーは顔を引きつらせる。

 マーディンの手から、彼の拳より一回り小さな白い光の球が飛び出した。だが、それは的を外して壁をぶち抜く。ヴェイザーの顔の真横を。

 ロッグが以前向けられた力は、木を貫通した。今、マーディンが貫いたのは、もろくなりつつあるとは言っても、石の壁。

 もちろん、相当強い力のはずだが、マーディンは軽く使ったように見えた。

「ひいぃっ」

 自分の横にあいた穴を見て、ヴェイザーは震え上がる。

「おっと、失敗だ。すまないな、ヴェイザー。動かないでくれよ。下手に動くと、どこに当たるか俺にもわからないからな。眉間にでも当たったら、一発で終わって面白くないだろ。沸騰したものを一気に冷やしてしまうと、身体に悪いからな」

「……陰険な奴」

「おほめにあずかり、光栄」

 ロッグが思わずつぶやいた言葉に、マーディンは嫌みな笑いを浮かべる。

「こんなこともできるぞ」

「うわっ」

 頭上に掲げたマーディンの手から、さっきと同じ光が飛び出す。しかも、一つだけでなく、四方に飛び散って。つまり、ロッグ達の方にまで飛んで来たのだ。

 かろうじて避けたが、彼らがいる部屋はもう穴だらけだ。部屋だけではない。強い力を持つ光は壁を突き抜けてもその勢いが衰えず、隣接する他の部屋の壁にまで穴をあけた。別荘そのものが穴だらけになってきているのだ。

「さらにはこんなことも」

 今よりも小さな光が、さっきよりさらにたくさんの数で飛び散る。まるで雹が降っているみたいだ。死に直結する、光の雹。

 無差別に攻撃する無数の力に、ロッグ達は床にふせて逃げるしかない。

「大きいのも出るぞ」

 マーディンが天井に手の平を向けると、一気に屋根が吹き飛んだ。曇り空が目に飛び込む。ただでさえ古くてもろい建物なのに、こんなことが続けばこの別荘そのものが完全に崩れてしまうのも時間の問題だ。

「この……」

 ロッグが攻撃を仕掛けようと、構える。

 たとえあの力に対抗できなくても、隙を突いて彼を転ばすなりし、魔法を使えない状態にすれば。飛び掛かって取り押さえることも可能なはず。

 だが、それに気付いたイシュトラルがロッグを止めた。

「駄目です、ロッグ。彼を刺激してはいけません」

「な、何でだよ。どうしてイシュトラルが止めるんだ」

「力を使わせたら、彼の限界が早く来てしまいます」

 イシュトラルがそう説明するが、ロッグには、そしてエルナとジーンにも、彼の言う意味が理解しきれない。

「マーディン、いい加減におしよ。ほこりだらけになるじゃないか」

 ジュパットが髪や肩にふりかかるほこりを払いながら文句を言う。

「そうだな。それに、この程度の力を使ったくらいで見せびらかしてると思われるのも、ちょっとばかりシャクだ。でも、お前は十分に楽しんだだろう、ヴェイザー?」

「あ……あ……」

 もうまともな言葉にならない。ヴェイザーの歯が鳴っているのが聞こえた。

「お前は何回分の稼ぎを、俺からちょろまかしたかなぁ。ヴェイザー、覚えてるか?」

「い……い……一回だ……」

 必死に絞り出したような声で答える。わざらしく、マーディンは片眉を上げた。

「一回? 違うなぁ。確かに、ちょろまかすという行為をしたのは一回だ。でもなぁ、俺が言ったのは何回()だぞ。少なくとも、お前は五回分の稼ぎを盗んだろう」

 マーディンの言葉に、ヴェイザーは何度も必死に首を横に振る。

「ご、ご、五回も仕事、してない」

「おや、そうだったか。数え間違えたかな。だが、五回分に相当する金額だったぞ」

 マーディンは相手の恐怖をじっくりと、心ゆくまで楽しむつもりのようだ。その顔は本当に嬉しそうで、相手は対照的な表情をしていた。

「ち……ち、ちが……」

 そんなにたくさんは盗んでいない。

 ヴェイザーはそう言いたいのだが、歯の根が合わない程震えているので、もうそれ以上の言葉が出せない。首を横に振るのが精一杯だ。

「いいや、違わないさ。まぁ、そういう訳で……まず一回」

 ふいに上げたマーディンの手から、光が走った。その直後、部屋に、いや、部屋だった場所に悲鳴が響く。

 石の壁や屋根を貫いた光は、ヴェイザーの左肩を直撃していた。肩から腕の付け根にかけてえぐられ、ヴェイザーの左腕が床に落ちる。エルナが直視できずに顔をそむけた。

「二回目は……どこがいいかな」

 獲物を前にする肉食獣のように、マーディンは舌なめずりする。

「やめなさい、マーディン。それでもう十分でしょう」

「は? もう十分、だと? 何も知らない奴が、何度も横から口を出すなっ。今すぐ殺す順番を変えてやってもいいんだぞ」

 楽しそうだったマーディンの顔が、一気に怒りの形相に変わる。魔法使いでないジーンにもわかる程、マーディンの身体から魔力があふれ出した。

「うぉーっ!」

 マーディンが大声で吠えた。彼から流れ出す魔力の波動が見えない手となってその場にいる者を押し動かし、さらにはバキバキと大きな音をたてて別荘が崩れ落ち始める。

 ロッグはマーディンの足下に倒れているピュアに、エルナはジーンやイシュトラルの周りに防御の壁を張って、落下物を回避した。

「ふふ、やってくれるよ。やっぱり見込んだ通りの男だねぇ。ほれぼれするよ」

 ジュパットだけが、吠えるマーディンにみとれている。

「くそ、こんな奴、どうやって相手にしたらいいんだ」

 吠えるマーディンに、ロッグは歯がみした。

 あまりにも力が違いすぎる。竜の魔力を得る前でもレベルの差があったのに、今ではその差がどれだけかわからなくなる程に開き切ってしまった。

 対抗しようにも、今は相手の出す波動に耐えてこの場に踏ん張るだけで必死だ。マーディンにすればこれはまともな攻撃ですらないのに、こちらはそれさえもたやすく受け流すことができないでいる。

 やっぱり、さっきのうちに攻撃しておいた方がよかったんじゃないのか。

 ロッグがそう考えた時。

「……がはっ」

 突然、マーディンが咳き込んだ。同時に、見えない手を作り出し、ロッグ達を押し動かしていた波動がふっと消える。

 何事かと見ているロッグ達の前で、マーディンはのどや胸をかきむしった。毒でも飲んで苦しんでいるかのような顔だ。

「マーディン? どうしたんだい。しっかりおし」

 ジュパットが声をかけるが、マーディンには聞こえていないようだ。

「ぐほっ」

 いきなりマーディンが大量の血を吐いた。足下に血溜まりができる。

「な、何だ?」

 予想もできない展開に、ロッグ達はただ驚くばかりだ。

「彼の……力を操る限界が、もうきてしまったんです」

 イシュトラルの短い説明の間にも、マーディンは妙な動きを始める。

 まるで素人が操るマリオネットのように、手足がおかしな方向へ動くのだ。さらに身体そのものも曲がるだけ曲げたり、ひねったり。

 その動きは、明らかに彼の意志とは別のものだ。

「マーディン、何をやってるんだい。お前さんは竜の力を扱える魔法使いだろ。遊んでるんじゃないよ」

 ジュパットが焦ったように声を張り上げる。だが、もうすでにマーディンの意識はない。あるとは思えない。

 口の周囲を自らの血で汚し、白目をむいていた。人形が力の加減を知らない子どもに遊ばれているように、何度もありえない方向に手足が曲がる。その度にゴキッといういやな音が聞こえた。耳にすると、血の気が引く。

 急にマーディンの動きが止まった。誰もがどうなるのかと彼に注目する。

 一瞬の静寂の後、マーディンの身体を突き破って無数の光が飛び出した。さっきマーディンが攻撃のために出していたものとは違う、緑の光だ。

 顔と言わず、手足と言わず、身体全体から飛び出す光。しびれているかのように、マーディンの身体が小刻みに震える。その半開きの口からは、もう悲鳴すら出なかった。

「うっ……」

 堪えきれず、エルナがまた目をそらした。ジーンがそんな彼女の肩を抱く。それでも、目はマーディンから離せない。ロッグもただ見ているだけしかできなかった。

 手を出そうとしたところで、何ができるだろう。

 マーディンから飛び出した光は、それぞれ軌跡を描いて一つにまとまる。それは、さっきマーディンの中へ入って行った、緑の光の竜だった。

 竜は人間達の頭上で一度ゆっくり旋回すると、一気に下降する。

 そして、ピュアの身体へ入った。

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