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なりきれないヤンキーと家族

作者: 狐猫

散々と降り注ぐ夜の繁華街のネオンの電光が私の目には痛々しく感じる。このところ感じる事が多く、頭が痛む。だからといって、家に帰りたいわけではない。あの人達は本当の親ではないわけだし、施設で大半を育った私にはあの人達の愛情を大して受けていない。そんなんで親面されても困るものだ。結果的に私は家での居心地の悪さに耐えきれず、今こうやって夜の繁華街に繰り出しているわけなのだ。典型的なヤンキー女であることは私も重々承知ではあるが、友達が出来ると楽しいものだ。


「りせーー」


遠くの方で何か聞こえる。パチンコ屋がうるさくて大して聞き取れはしなかったが、十中八九私を呼んでいるものである。振り返ってみるとそこには走ってくる穂乃果の姿があった。彼女がここで出会った友達の1人であり、よく一緒に行動している。


「穂乃果どうしたのよそんなに走ってきて」

「どうしたのって、ただ見かけただけだよぉ。いつものとこにいないしさ〜」


ただ見かけただけで呼ぶわけない。絶対要件はあるに違いない。ご自慢の金髪をなびかせながらこっちにやってきた。まぁわかるとは思うが彼女も訳あり人間であり、学校にもろくに行っていない。ようするに馬鹿なのである。私が言えたことではないと思うが…類は友を呼ぶというのは本当のことなのだと、常々実感をしている。


「あんたが呼びに来たってことは、たけし達に呼ばれているってことね」

「さすがりせじゃん!わかってるね〜」


週に何回呼ばれてると思ってんだ。わかるわ。愚痴のようなツッコミを入れたところで、話を進めてくことにした。基本的にこの繁華街に居る時は穂乃果、武志、陸の3人とつるんでいる。なので呼ばれて断ることは無い。いつも通り着いていくことにした。


「一体今日は何するの」

「ドライブだって〜楽しみ〜」


楽しみではあるが、なんか気が乗らない。だとしても他にやることはないし、置いていかれるのも億劫だ。しかたないから乗りにいくか。穂乃果が電話で呼び出しているので10分以内には来るだろう。


思った通り10分程で来た。


「たけし遅いよ〜」

「おう、悪いな。この国信号が多くてな」

「理由がおかしいよ〜」


ここは京都じゃないんだからそんなに無いだろ。はぁ…乗るか


乗ると陸がいることに初めて気づいた。相変わらず無口なやつめ。


「ういっす」

「よお」


簡単なあいさつは済ませといて、ドライブに出発した。別に元から気が乗らなかったものなので、どうでもいいと思っていた。発車して騒いでいる中で、私はふと疑問に思ったことがあった。


「たけし免許持ってたの?」


乗ってから言うことではないが、不安になった。返ってきた答えはある意味予想通りではあった。


「無いよ」


あーそうか。驚きはしなかったがそういうやつだったなと改めて認識をした。となると、この車もこいつのではないのかもしれない。確認したくなかった。だが、こういう会話になってしまえば自ずとこの質問は飛ぶことになる。


「えーーじゃあこの車は?」


穂乃果が聞いてしまった。答えが聞きたくない。


「これは盗車さ」


陸が当たり前のように答えてしまった。これはれっきとした犯罪であるし、これに乗ってる私達も同伴になるということだ。さすがに犯罪に関わりたくない。降りたくなった。このバカ共と一緒にいたら明日には警察にお世話になってしまうかもしれない。なんでもいいから降りる口実は無いものか…この際嘘っぽくてもいいか。


「私降りるわ」

「おいおいなんでだよ、今始まったばかりじゃんよ」

「約束があったのよ。友達の家に行くの。ここから近いし降りるわ」

「そっちサボればいいじゃねえか」

「いいの?あなた達のこと言うわよ?その友達の父親はヤクザよ?」


静まり返ってしまった。やりすぎた…まぁこれでもう彼らには止める事が出来なくなったことだし良かったと思いたい。本当はヤクザなんて関わったこともない。


車は降りたが、やることが見当たらない。時間もそんなに遅くない。犯罪をするような奴らとはつるんでいたくはないので大人しく家に帰ることにした。


家についたはいいものの、あの人達と顔を合わせるのも嫌なので庭に行き、まだリビングにいるかどうか見てみることにした。ばれないように静かに侵入して、中を伺ってみた。案の定まだ起きていた。


(なんだよまだ起きてたのか)


庭に置いてある椅子に座り込み、リビングに人がいなくなるまで待ってるとしよう。すると話し声が聞こえてきた。


「あの子また帰ってきてないわね」


私の話をしているのか。意外であった。私の話をすることがある事があるなんて。


「大丈夫だ。放っておけばいいんだ。いずれ帰ってくる」


やっぱり放っておけばいいと思ってる。当たり前だ。話は続いた。


「あいつには帰る場所が必要なんだよ。ちゃんと自分だけの居場所が。」


ん?何を言い出したのだ?


「そうだけども、心配なのよ私は」

「まぁその気持ちもわかるが、今はあいつのやりたい通りにやらせてあげて、いつ帰ってきてもいいように親が迎えられるようにしてようや」

「そうねぇ…あの子施設で育ったから自由な時間も愛情も不十分で育ってしまって」


え、何を言ってるんだ。そんなこと思ってたのか…私がこんなことしてても全然怒ってないなんて。私の心の中で何かにヒビが入る音がした。


「私達はれっきとした家族だ。血は繋がってなくとも、あいつはちゃんとした私たちの子供だ。何があってもちゃんと怒ってやって、褒めてあげよう」


「あなたらしいわね。私たち子供が出来ませんものね…せめてものあの子をちゃんと育ててあげましょう」


子供が出来ない?確かに年の割には子供がいないのは不思議に思ったが、今どき子供を作らない人もいるから直ぐにどうも思わなかった。


「その話はやめなさい。あれはしょうがない事だったのだ」


しょうがない?何が!


「生まれてくるはずだった赤ちゃんが死産してしまって、その施術で私も産めない体に…」

「おい!やめんか!誰もお前を恨んでもないし、今子育てだってやってるさ」


………あぁ。私はこの人達のこと何も知らなかったのか。私が勝手に拒絶しただけでこの人達は私をちゃんと娘だと思っている。施設で育ったが、本当の親の顔は私は知らない。だから、親というものがわからなかった。それであの人達を避けてしまっていたのか。辛いのは私ではなく、あの人達…

今度は心の中でヒビがさっきよりも大きく入った。


「あの子そろそろ誕生日なのに、ちゃんと帰ってくるかしら」

「大丈夫。帰ってくるさ信じていれば。ちゃんとケーキも用意して、プレゼントも用意してやろう。それで帰ってこなかったら2人でこの家から静かに祝ってやろうや。祝ってやることに意義がある」


ちゃんと覚えたのか。なんで私はこんな人達を嫌っていたのだろう。ちゃんと家族なことしてるじゃないか。心のヒビが留まりを知らず、ついに壊れた。嘘をまとわなくていい。自然な自分でいていいんだ。ちゃんとした家庭で母と父と共に順風満帆に過ごしていき、家族として生きていく。まだ更生には遅くないと思う。これからゆっくり頑張って行こう。

玄関に回って家に入ろうとした。ふと、あるものが目に入った。表札だ。

あぁここに私の家族としての印があるではないか。名字「長谷川」


ドアを開けた。ビックリしたかのように親が出てくる。泣いている顔を見られるのは恥ずかしい。ただ、家族だから言える言葉をちゃんと言ってみよう。


「ただいま」

「おかえり」


ここが私の家、私の名前は長谷川莉世

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