第98話 カッコイイ背中
「柔拳スキル、【凪裟】」
レイモンドさんが言うと同時に青いオーラは身体の中へと治まっていった。固唾を飲んで見守る僕達は周りが静かだからか、動けない。
それに静かすぎて何か怖さも感じる。
嵐の前の……って感じの。
「あぁ?何も起きねぇじゃねぇか?
ハッタリかぁ?じゃあ、……さっさと死んどけやぁッ‼」
大柄男の人は腰に差してた剣を抜いてレイモンドさんへと走りだした。
笑みを浮かべて走るその顔には一切の不安は感じられない。
だけど僕には分かった。
その『判断』はダメだって。
何故かは分からないけど、ダメだって感じたんだ。
「海は穏やか……だけど時には荒れるのよ?」
レイモンドさんはただその場に立って言った。
構えすら取らず、ただ相手を見ながら。
「意味わかんねぇ事、言ってんじゃねぇよッ‼」
走りながら大柄男の人は荒げた声で剣を振り上げ、
レイモンドさんへと……
腕を下ろせなかった。
「ッ!?……グハッ!?」
大柄男の人はお腹を押さえて後ろへとよろめいていた。
何があったのか分からないという表情で。
僕にも何があったのか見えなかった。
ただ、レイモンドさんの右足は少し動いた様に見える。
きっと何かはしたんだ。……多分。
「ぐぅぅっ、女ぁ、何をしたッ!?」
大柄男の人は気に喰わないって表情で、怒っていた。
何をされたか分からないからか、
口からよだれを垂らしながら怒鳴っている。
汚いからよだれはまき散らさないで欲しいんだけど?
「全ての動きは流水が如く、流水の動きは体動が如く」
そんな事を気にもしていないレイモンドさんは、
再び目を閉じて集中していた。
大きく息を吐き、相手に向かって身体を横にしている。
そして、構えを初めてとった。
「蒼流 体術スキル……」
『蒼天波』
スキルを口にした瞬間、レイモンドさんの脚に青いオーラが覆った。
そのまま腰を低く落として瞼を開く。
「ふ、ざけやがってェッ!」
大柄男の人は待ちきれずにキレて突撃した。
なりふり構わずに剣を振り回しながらレイモンドさんへと近付いて行ったんだ。
だけど、レイモンドさんには関係なかったみたい。
飛んだんだ。
いや、正確には跳んだ、なのかもしれないけど。
少なくとも3メートル以上は浮いていた。
そしてそのまま綺麗な反転をしながら反対側に着地した。
パッと見じゃ相手の位置と入れ替わっただけ、
なんだけど……
「……ぅウぅ?」(ドサッ)
相手は、大柄男の人は倒れた。
気付けばレイモンドさんの脚に見えていたオーラは消えていた。
また分からなかった。
僕程度では理解できない速さなのかもしれない。
「私達皆、平等だ。立場は違えど驕るな馬鹿者」
結局殺しはしなかったレイモンドさん。
その背中は女性とは思えない強さを感じる。
というか、
「カッコイイ……」
「当然!」
「さすが副長様ですわッ!」
「あぁ、あの足でシバかれたいッ‼」
みんなに慕われるのも分かる気がするよ。
僕のなりたい男性像のような人だから。
惚れちゃいそうなくらいカッコイイよ、
レイモンドさんッ‼




