第97話 青いオーラは鬼気として
僕の視線の先にはボロボロの服を着た少女がいた。
多分僕と同じくらいの歳だと思う。
そんな彼女は見るからに傷だらけだった。
全身の見える範囲の至る所に擦り傷や切り傷があったから。
きっと僕が見た、『苦しみの光』は彼女だったんだ。
だけど彼女は傷だらけになっていながらも、
泣きながら何かをやっていたみたいだった。
両手で大きな袋を持って運んでいたからね。
多分彼女の持っている袋が今回の事件の原因だ。
でも、やりたくてやってた様に見えない。
どう見ても『やらされてる』様にしか見えないんだ。
「なんだ、お前達は?」
部屋の端の方で大柄の男の人が僕達に低い声で聞いてきた。
その手には鞭の様なモノが見える。
きっとアレで彼女に……
ギリィッ
僕はそんな理不尽許せなかった。
だから僕の中の『怒り』が歯を通じて音になったんだ。
「アナタは、何を、してるんですか?」
彼女の涙はほとんど答えだと思う。
聞く必要はないかもしれない。
でも、僕は理不尽にはなりたくない。
本人の言葉でどうするか決めたいんだ。
「何を?……くくく、くはははっ!」
大柄男は声高らかにお腹を押さえて笑い出した。
もうその時点で僕には分かったよ。
この人は『悪い』んだって事が。
「俺ぁ、ここで見張りをしてるだけだぁっ!
そこのゴミがちゃんと仕事してるかのなぁ?」
「ゴミ?……彼女以外に何かいるんですか?」
この人が言いたい事は分かってるつもりだよ。
きっと彼女をゴミだと言ってるんでしょう?
「あぁ?お前……外面はいいが中身は残念だなぁ?
ゴミはそこにいんだろぉ?ホラ、ソコだよッ‼」
大柄男は僕の目の前で鞭を伸ばして少女へと腕を振るった。
ピシャーンッ
「ヒぅッ!?いだいッ!?もう、やめてぇッ‼」(バシッ)
「な、なに、してるん……ですか?」
彼女は身体を丸めて必死に身を守っていた。
だけど僕の目の前で何回も、何回も腕を振るって鞭を叩き付けている。相手は僕と同じ子供なのに。痛い、やめてと言ってるのに。
なんで平気でそんな事が出来るの?
同じ人間相手になんで笑っていられるの?
「やめて、……もうやめて下さいッ‼
アナタは間違ってるッ‼人は傷つけあう様な関係じゃ」
「うるせぇよ」
気付けば大柄男の鞭は僕へと狙いを変えていた。
僕には避ける事なんか出来ない。
でも良かったかもしれない。
これで彼女への痛みは無くなるから。
僕には魔法がある。
少しの痛みくらいなら、我慢するッ!
僕はその場で歯を食いしばって耐えようと身を固めた。
「お前がうるせぇよッ」
だけど僕の目の前にはレイモンドさんがいた。
片手には大柄男の鞭の先端が握られている。
きっと僕を守る為に前に出てくれたんだ。
……もう少し早く来てくれたら良かったのに。
というか口調が、男っぽい?
「さっきから黙って聞いてりゃ、何様のつもりだ?
子供相手にゴミだぁ?テメェの方がゴミだろうがッ‼」
怒鳴りながら鞭を握り締めるレイモンドさんは鬼気としていた。
というかオーラみたいなのが見える。
濃い青の膜がレイモンドさんを覆っているように見えるんだけど?
僕だけ?
「女ぁ……よっぽど死にたいらしいなぁ?」
大柄男は顎髭を触りながら余裕そうにレイモンドさんを見ている。きっと見た目に騙されてるんだろうね?
でもレイモンドさんは強いらしいからね?
死ななきゃいいけど。
「……お前達、近付くなよ?死にたくなければ」
「え?は、はいっ‼」
まさか、本気で言ってないよね?
本気で殺そうと……してない?
「ユウちゃんに攻撃の意思を向けた段階で半殺し決定だったんだけど、プッツン来たわ。テメェ、女と分かってて手を上げるのか。だから女の子に平気で鞭を叩き付けれんのか。」
僕の気のせいじゃ無ければ、オーラはどんどん大きくなってる。
レイモンドさんの心に影響されてるみたいに。
「……泣いて謝っているのに笑っていられるのは何でだ?」
「くはははっ、何言ってる?楽しいからだろう?
痛み付ければ痛み付ける程醜い顔で、卑しい声で許しを請うんだよ。
俺を神の様に崇めるんだぞ?おかしくて笑いが堪えれねぇよ!」
「……もういい」
レイモンドさんは目を閉じた。
怒りを抑えつけるようにゆっくりと……




