第94話 まさしく聖女
「間違いない、わよね?
話の途中でごめんなさい。
ユウちゃん? やっぱりその魔法は……」
「え?あぁ、はい。
僕の魔法は第『7』魔法らしいです」
僕の答えにみんな静まり返ってしまった。
薄暗い通路だから静かにされるとちょっと怖いんだけど?
静かって言っても滝の様な水の音は聞こえるけどね?
「それって」
「伝説の?」
「失われた、魔法ですか?」
「失われた魔法?」
3人は目を見開いたまま僕に聞いてきた。
小動物だったら驚いて失神そうな顔で。
うん、見ないで欲しい。怖い。
というか、僕はそんな話初めて聞いたんだけど?
伝説というか昔の魔法なのは聞いたけど。
失われたってどういう事なんだろ?
「……もしかしてユウちゃんは知らないの?
それに『らしい』って、自分の事でしょ?」
レイモンドさんも首を傾げて聞いてきた。
その仕草は普通に可愛いかった。
でも返答に困る質問だよ?
……あー、コレあのパターンだね。
お決まりの言葉を言わなきゃだよね?
「僕、記憶がないんです。
だから今は何も覚えてないんですよ」
僕は自然と困った顔になった。
なんでこの世界にいるのか分からないしね?
そもそも本当は知らないだけなんだけどね?
僕は説明出来ないからこう言うしかないんだ。
実際似たようなもんだし?
「こんなに小さいのに随分と苦労していたのね?
こんな事に巻き込んでごめんね、ユウちゃん」
レイモンドさんは僕に近付いて来て、
悲しそうな顔で僕を抱きしめてくれた。
優しい香りが僕を包みこんで、
力強い腕が僕を窒息させようとしている。
「……ぅ、ぐ、ぐるじぃ」
「ッ!?ご、ごめんッ!?」
どこにそんな力があるのか全然分からない。
どう見ても華奢な女性なのに。
それに胸も華奢だから抱かれると余計に痛く感じるんだ。
……ここだけの話だけど。
「え、えっとぉ、さっきの失われたって?
僕、その知らないんだけど?」
ホントはルナ先生に聞いたらいいと思うんだけどね?
変に知り過ぎたら変な目で見られそうだし。
この世界の常識が分かるかも、だしね?
「どこから話せばいいのかしら?
ユウちゃんは難しい話は分からないわよねぇ?」
「は、はい!出来れば分かりやすくお願いします」
「う~ん、どうしようかしら?」
レイモンドさんは顎に手を当てて考え始めてしまった。
まだ先に行かなきゃいけないんだけど?
「あの、後でもいいですよ?
まだ先がありますし。
苦しんでいる人達がいるかもしれませんし」
少なくともあと4つの光が見えてる。
もしかしたら今も苦しんでるんじゃないかな。
荒れ狂ってたあの人と同じ様に。
そう思いながら、僕の魔法で治した人を見てみた。
「あ、えっと、あぁー、……」
何故か顔を赤くして僕を見ていた。
それになんかモジモジしている様に見える。
僕より大人の人なんだけどね?
どうしたんだろ?
「どうしたんですか?
あ、そっか!ずっとここにいたからトイレが?」
多分そうだ。
トイレが行きたいんだけど我慢しているんだ。
僕達が立ち止まって話始めたから我慢してたんだ、きっと。
忘れてたよ。ごめんね、ナントカさん。
「あ、ち、違うんです!
その、もし良ければ俺が教えて差し上げましょうか?
実はウチのガキにいつも伝説のおとぎ話をしてるんですよ。
多分理解できる様に説明出来ると思います。
どうでしょうか?」
あれー?違った。
トイレじゃなかった。
それにしてもナントカさん、知ってるんだ?
もしかしたら常識だった?
「お願いはしたいんですけど……
僕達と一緒で大丈夫ですか?
安全か分かんないですけど?」
この先に何があるか分かんないしね?
危ないかもしれないよ?
それに子供がいるんだったら……
そう思っていたらレイモンドさんが口を開いた。
「貴方は家に帰りなさい。
ここは安全とは言えないわ。
子供がいるなら尚の事。
命を大事になさい。
謎の病気?の事は黙っていてあげるわ。
帰り道は何もいなかったから安心して行きなさい。」
レイモンドさんはナントカさんへ優しく声を掛けた。
僕もそれがいいと思う。
何があるか分からないんだ。
帰れる家があるなら帰った方がいいよ。
残された人はきっと心配、するからね。
そんな事を考えていたら胸が痛くなってきた。
お父さんとお母さんは今頃どうしているんだろう?って。
悲しくなってきた。
もし逆だったらって思うと……
「あの、出来れば早く帰って元気なお顔で『ただいま』って言ってあげてください。
それが何よりのお願いです。お父さんがいないって、子供にとっては不安なんです。
ぼ、僕も子供なんですけどね?ははは。
……安心、させてあげて下さい」
言いながらも僕は泣きそうになってしまった。
僕のお父さんも同じ事考えてるかもしれないって思って。
僕の『ただいま』って聞きたいかもしれないって思って。
きっとお母さんも同じハズだと思って。
僕も出来れば、出来るなら早くお家に帰りたい。
それが出来るかどうかは分からないけど……
それに、妹がこの世界にいるかもしれないんだ。
1人で寂しい思いをしているかもしれないんだ。
だから僕は前を向かなきゃいけない。
出来る事を精一杯やらないといけない。
そうしたらいつか報われるんじゃないかって思ってるから。
「……そう、ですね。
俺も『おかえり』って言って貰いたい、です。
あのッ、何もお返しできないですけど、このご恩はッ」
「大丈夫です。僕は何もいりません。
僕は僕の出来る事をしただけですから。
それにみんなが幸せなら周りも幸せになるんですよ?
……だから僕が困っていたら、助けて下さいね?へへへ」
僕の言葉を聞いたナントカさんは大きく頭を下げ、
「ありがとうございましたッ‼
俺、絶対守るからッ‼
絶対幸せになって女神様に幸せ返すからッ‼
だからっ、そのっ、失礼しますッ‼」
と、大声で叫んで行ってしまった。
まぁ、良かったんじゃないかな?
この先でケガしたりしたら困るしね?
なにより家族は一緒にいるもんだよ。
これで良かったんだ、きっと。
「ヒュ~ッ。ユウちゃん、アナタ『本物』だわ。
ますます気に入っちゃった」
「まさしく聖女、だわ」
「偽物とは比べようもないわね?」
「白い聖女……子供ながらに美しいです」
「え?本物?聖女?
いや、だからっ、聖女なんかじゃないですぅぅぅっっッ!!」
僕も大声で叫んだ。
なんでみんな僕の事聖女とかいうんですかぁ~?




