第93話 アナタは女神様ですか?
「な、治す、ですって?
いや、でも私の身体も……
そもそもその人は怪我ではないし……?」
「大丈夫です、僕には『治す力』がありますから」
そう、僕には力があるんだ。
まだ魔物を倒す力は無いけど、
人を助ける『力』はあるんだ。
ねぇ、ルナ先生?
〈...そうだね...間違いではない...かな?...〉
だったら、やらなくちゃ。
僕の為に、みんなの為に、
出来る事しなくちゃ。
「だから……」
と、僕は荒れ狂う人へと歩いて向かった。
「ユ、ユウちゃん?
ア、アンタ達ッ‼絶対拘束しときなさいよッ!?」
「もちろんですよぅ?」
「了解してますわ?」
「当然の事です」
3人の返事を聞きつつ僕は荒れ狂う人の前まで来た。
横には心配してくれたのかレイモンドさんがいてくれてる。
何かあっても大丈夫だと思った僕は魔法を使う前に、
善良な民だと言われていたその人を改めて見てみた。
さっきまでは怖くてあまりしっかり見ていなかったから。
でも荒れ狂う人の表情は……
「……苦しいの?……痛いの?」
なんだか僕には辛そうな顔に見えた。
苦しいのかもしれない、そう思えたんだ。
「グルァァァァッ‼」
一歩間違えたら本当に襲ってきそうな雰囲気。
でも本当はそんな事したくないのかもしれない。
本当は気の優しい人なのかもしれない。
そう思うと僕の心も苦しくなってくる。
「すぐ、治すからね?」
僕はその場に膝を着き、目を閉じた。
いつも通りのやり方。
手を前へ出し、光をイメージするだけ。
「治れッ!」
僕にだけ見える光は段々と強くなっていく。
どこか温かみを感じるオレンジ色の光。
きっとこの人は温かい人だと感じる光。
その光を感じるだけで僕も安心していく。
「……ウ……ソ?」
「は、はぁぁっ!?」
「マ、マジでぇッ!?」
「光の、……魔法?」
レイモンドさん達の声は驚いているみたいだった。
でも僕は集中する事を続けた。
それから光は強い光となって、次第に消えて行った。
多分、治すのが終わったんだと思う。
そしてこの人の苦しみも終わったんだと思う。
「う、うぅぅぅっ、こ、こは?」
声が聞こえて、僕は瞼を開いた。
その人は今も3人に押さえつけられたままだった。
でも、目に意思が宿っている様に見えた。
「ア、アンタ達……離してあげなさい」
レイモンドさんの言葉に3人は何も言わずに従ってた。
口はあんぐりと開いたままだったけど。
その様子を見て、僕は解放された人に声を掛けてみた。
ちゃんと治ったか気になったし。
「大丈夫、ですか?」
でも、その人は僕を見て放心しているみたいだった。
「き、君が? お、俺を……悪夢から?」
この人はやっぱり苦しんでいたみたい。
悪夢かどうかは分かんないけど、
本人がそう思ったのならそうなんだと思う。
でも僕はその様子を見て嬉しくなった。
僕の行動が人を助けれたって分かったから。
「……君は、いや、アナタは一体?
私の悪夢を拭い去ったアナタは、
……女神様なんでしょうか?」
「え? 女神様?僕が?」
急に何言ってんだろ?
僕の魔法は、まぁ、珍しいのは分かるけどさぁ?
女神様? 神様? 僕、人間なんだけど?
僕、人間辞めてませんけど?
首を傾げて僕はそう思った。




