第69話 魔物討伐
獣人と手を組んで魔物を倒そうと考えるアビゲイルだが...
「クソッ!コイツ早ぇッ!?」
「第1魔法『火』【火団】‼
ッ!?駄目ですかッ!?」
流石はs級の魔物って事だな。
ザコ共ではまるで話にならない。
魔法も剣も避ける事すら必要としてない。
やはり、私しかいないか。
「お前ら下がれ、私が出るッ‼
余力があれば怪我人を介抱してやれッ‼」
「「「「う、うっすッ‼姉御ッ‼」」」」
私はいつから姉御になったんだ?
まぁいい。
馬鹿共は周囲の人々を守ってくれるだろう。
それよりは、コイツ、だな。
「GYAAAAAA」
猫型だからか、なかなか早い。
今のところは前爪と獰猛な牙さえ気を付ければなんとかなる。
しかし、他の攻撃初段が無いとも限らない。
「私はAランク冒険者。
狩りなら、私の方が、上だッ‼」
赤髪を揺らして全速で駆ける。
私の強さは身体能力、獣人の血だ。
赤狼の獣人、血肉を喰らう赤の一族なんだッ‼
牙と足なら誰にも負けないッ‼
「秘剣技 【炎刺】」
猫型の魔物の足元へ瞬時に移動し、
一族の奥義を横腹に放つ。
「ッ!?GYAAAAAAッ!?」
突然の痛みに悲鳴を上げる魔物。
しかし、剣は奥まで刺さらず威力は半減だ。
剣は皮膚の途中で止まり、燃え上がるが、
たいした傷では無さそうだ。
「チッ!?腹は硬いかッ!?」
相手が油断していたからこそ容易に放てた。
しかし、2度目はなかなか難しい。
「警戒するよな?ここからが本番か...」
猫の魔物は2つ首両方コチラを睨んでいる。
さっきみたいに懐へは潜り込めそうにない、か?
それに急所を探らねばならない。
「一筋縄ではいかぬか?ックッ!?」
怒りを露わに魔物は飛び掛かってくる。
前足の爪で払いつつ、空いた首が噛みつこうとしてくる。
「グッ‼このままでは、押され、グハッ!?」
前足、首に続いて、
尻尾までもが続けて攻撃してきた事により、
不意を付かれて吹き飛ばされてしまった。
衝撃によって視界が少し歪んでしまう。
「クソッ‼ここに来ての3段攻撃かッ‼」
頭を横に振り、混濁する意識を覚醒させる。
しかし敵は待ってはくれない。
「GYAAAAAAッ‼」
「グッッ!?」
猫の魔物は襲い掛かり、
私を喰らわんと懸命に獰猛な牙を向けてくる。
剣一本では太刀打ちできない。
攻撃を捌ききれずに徐々に押され始めてしまう。
「クソったれがぁぁッ‼」
私は守るより攻める方が性に合ってるんだッ‼
こんなトコで喰われてたまるかッ‼
諦めずに懸命に抗う私に膜が掛けられた。
「シールドッ‼」
その黄色い膜は嫌でも知っている。
私が嫌いなアイツのスキル。
「よォ、息災だな?生きてっか?」
一番嫌いな人間。だが、
一番頼れる人間。だった。
私の中では、今一番欲しい盾の人柱。
「誰だ、貴、様は?見てるならさっさと手を、貸せッ‼」
魔物の攻撃を剣で防ぎつつ、害虫を煽る。
「それに、貴様口元血だらけだぞ?何喰ってんだ、気持ち悪い」
「お前こそズタボロじゃねぇか?...ポロリはねぇの?」
「無いわッ‼ポケットに手を突っ込んでないで早くしろッ‼」
害虫はズボンのポケットに手を入れたまま、
ただただ傍観している。
やはり、コイツを見てるとイラついてくる。
「わぁーってるよ。俺もそいつにゃ返すもんがあるからな。
俺の盾貸してやっからお前の剣貸せ」
「...すぐ終わらせるぞ?」
私は早く終わらせてユウの無事を確かめたい。
こんな魔物など相手にする暇はないんだ。
「いいか?合わせろよッ‼3...2...1...
盾技スキル【皇盾】ッ‼」
私は害虫のスキルに合わせて上へ飛び、
その盾を足場にさらに高く跳躍して魔物の背に飛び乗った。
魔物は盾を叩いて私を見失っている様だ。
「秘剣技 【炎刺】ッ‼」
私は振り向き様に2つ首の根本に剣を刺しこんだ。
そこが弱点だったのか、抵抗なく奥まで刺さる。
「GYAA、Ga、Gya、Ga...」
ズドォ-----ンッ
剣を刺したまま燃え上がり、魔物の身体は横に倒れた。
そのままの反動で私も投げ飛ばされてしまう。
「わッ!?」
着地は無事に出来たが勢いが止まらない。
「おぅ、大丈夫か?」
そのよろめく私を害虫が受け止めた。
抱きしめるような形、で。
「おおおおおお、お前ッ!?
何抱き着いてんだッ!?気持ち悪いッ‼離れろッ‼」
私は顔を真っ赤にしながらも、害虫を突き飛ばした。
まるでゴキ...に抱きしめられるような鳥肌が襲う。
「お前、気持ち悪いて...」
「だ、抱き着く奴があるか‼
害虫の分際で触るなッ‼」
死線を潜り抜けても嫌いなものは嫌いだ。
死ねば良かったのに。
この魔物に喰われて死ねば良かったのに。
猫なら虫など喰うだろ?
「お、お前今ロクでもねぇ事考えてるだろ?」
「んむ?猫なら虫ぐらい喰うだろ?くらいしか考えてない」
まぁ、猫の方が狼に喰われたが。
狼は気高いんだ。
虫など喰わん。
喰わんが嫌いだ。
鬱陶しい。
「今は?」
「狼は虫など喰わん。鬱陶しい。さっさと消えろ」
そんな事より、なんでこんなトコに害虫がいるんだ?
侯爵と探してるんじゃなかったのか?
「ユウはどうなんだ?なんで害虫がこんなとこにいるんだ?」
「あー、嬢ちゃんは見つけた。だが、今戦ってる。」
「は!?戦ってる?ユウが!?おまッ‼
なんで知っててココにいるんだッ!?」
「あー?今の鬼状態なら大丈夫だろ?多分。
今はユウじゃなくてルナみたいだし、な?」
は?
鬼状態?
ユウじゃなくてルナ?
何を言ってるんだコイツは?
「あ?なにその顔?...お前知らねぇのか?
つーと、パツール村が初めてなのか?はぁ?
意味分かんねぇ!?どういう事だ?」
害虫は首を傾げて何か考えていた。
それより、あのユウが戦ってて何で大丈夫とか言ってるんだ!?
「はぁッ!?
お前よく分からんままユウを戦わせてるのかッ!?
やっぱり害虫だなッ‼おいッ‼どこだ、ユウの居場所はッ!?」
「あ、あぁ、町長のトコで変態魔族と戦ってる。」
「変態魔族ぅッ!?もしや、あのオカマ魔王の事か?」
行こうとした足が私の意思関係なく止まってしまった。
す、すまんユウ。少しだけ心の整理が必要だ。
「オカマ野郎ではあったが、魔王ではなかったぞ?」
十中八九アレじゃないかッ!?
うわぁ、アレと私の天使が戦ってるのか!?
こうしてはいられないよな?
私の天使が穢されてしまうッ‼
鳥肌続きで身体がおかしくなりそうだが、私は走ることにした。
害虫も付いてくるみたいで鬱陶しいが、
流石にあの魔王は私だけでは色々と苦しい。
それでも、ようやく会えるんだッ‼
無事でいてくれッ、ユウ‼
次でもう70話になるのか。
このペースだと...なげぇー、エンドまでなげぇー。
処女作だからこそなのか、終わりが見えないっす。




