第7話 100匹の豚と赤い人
僕は未だに姿を見せないルナを相手にしながら森の奥へと進んでいた。
「ルナさん? この先に何があるのかな?」
〈……人がいる……赤い人……〉
「えっ、人? 本当にっ!?」
〈……でも……〉
「でも?」
〈……こっち……〉
なんとも歯切れの悪い言い方だなぁ。でもルナの言う通りならやっと人に会えるかも
僕を助けてくれるかもしれない。この森から出れるかもしれない。家族に会えるキッカケになるかもしれない。僕の今の絶望を救ってもらえるかもしれない。
一筋の光明が今僕の歩く道しるべを作っているようにも思える。ただの木漏れ日でも僕には光の道に見える、そんな気がするんだ。
〈……フッ……〉
え? 何? なんか馬鹿にされてる気がするんですけど? 心を読めるならせめて励ましてと言いたいんですけど? いいじゃないか。今の僕には誰かに助けてもらう以外に助かる術がないんだから。
〈……着いたよ……そこの広いとこ……〉
確かにルナの言う通り、開けた場所があるみたい。ルナの反応に釈然としないまま、僕は開けた場所へと足を踏み入れた。
そこには--
「え、なにこれ? なん、で……ッ……ぅおぇっッ!」
100匹を超えるであろう無数の化け物が死んでいた。腕や首など無惨に切り刻まれた死体が生々しく、紫の体液をまき散らしている。生き物の死骸に免疫のない僕はあまりの生々しさと生臭さにその場で吐いてしまった。現実に生きてきてこんなにリアルに、こんなに気持ち悪い死に方は見たことが無い。
あの時はあの人に気をとられていて他の人に構っていられなかったんだけど……あの時はここまで酷くなかったと思う。でもここはあの時とは違う。目の前に広がるこの血溜まりと肉片は本物なんだ。
〈……あの木に……早く……〉
気持ち悪さよりも恐怖によって足がすくんでしまう。だけど僕の事など気にもかけてくれないルナは早く行けと催促してくる。こんな非現実を受け入れられる程に僕は大人じゃないんだけど?
「分かった。あっちの木に行けばいいんだね?」
〈……そう……大事な人だから……早く……〉
ルナにとっての大事な人がここにいるらしい。こんな争いの場にいる人とはいったいどんな化け物なんだろうかと不安になった。だけどルナがやたらと急かす事が気になる。ケガをしているのかもしれない。こんなところでウジウジしている場合ではないのかもしれない。だからガクガク震える足を抑えて僕は一歩づつ前へと進んだ。
ちらりと見た倒れている化け物は僕の知っているゲームだとオークに似ている。豚顔であったり猪顔であったりゲームによっては種類がある方だと思うけど、ここに倒れているモンスターはオークであることに変わりはないが、全員同じ鎧を着ている。まるでどこかの軍隊のようだと僕は感じたけど、今は気にしない。
そして僕は死骸を避けながらもやっと目的の大木へと着いた。
「やっと着いたけ、どッ!?もしかしてあの人?でも……」
僕の目の前には女の人が口から血を流して木に寄りかかっていた。まるで死んでいるかの様に座り込んで目を閉じていたんだ。その姿はとても綺麗だけど、燃え尽きた表情がとても儚く見えた。
僕の気のせいでなければ多分、もう、手遅れだと思う、けど?
〈……良かった……まだ間に合う……〉
「いや残念だけど、多分僕には助けられないよ?」
〈……大丈夫……|優の魔法なら助けられる……〉
僕の魔法なら、助けられる……? 僕の……魔法……???
「ッま、まままま、魔法ッ!? はぁっ!?」
魔法なんてつかえるわけないでしょっ!? なに当たり前な感じに言ってんの?
〈……私の言う通りにすれば……大丈夫……〉
ルナさんはただのストーカーではなく、病んでらっしゃるストーカーらしいです。現実で魔法なんてどこのファンタジーなのさ?




