第65話 化け物級の魔族
倒れている魚人に魔法を使ったユウだったが...
カイン視点です
「ほ、本当に第7魔法を...」
俺の横で侯爵が驚いている。
まぁ、当然だよな。
この数百年使い手がいない伝説の癒しの魔法なんだ。
それを今、目の前で見ているんだ。
俺だって初めは驚いたさ?
この人生で初めて見た魔法だからな。
「これが白の聖女様、だ。
まだ子供だが、紛れもない聖女様だ。
この子は人々に救いの手を差し伸べている。
だから、守らなければならない」
俺は言いながら魔法を使っている少女を見た。
見た目も中身も綺麗な色だ。
純粋な色、真っ白な少女。
何色にも染まっていない、唯一の存在。
神や天使を彷彿とさせる穢れない存在。
自身よりも他者を気遣う事の出来る存在。
聖女じゃなかったとしたら、神以外考えられない。
「カイン殿、聖女様はまさしくこの世界の光ですな?
あの煌めく魔法の様に...」
少女の放つ光は見ていても不快に思わない程に優しい。
目がチカチカする事が無いんだ。
それどころか見ている俺達の心も癒される様だ。
しかし、気付いたら嬢ちゃんはフラフラとし始めていた。
魔力の使い過ぎか?どうしてだ?
俺は嬢ちゃんの魔法をよく知らないが、
まだ大丈夫な筈なんだが?
パツール村では数人の傷を癒してた筈だが、
どうしたんだ?
いや、心当たりはあるんだが。
多分嬢ちゃんは洗脳に魔力を掛けていると思う。
思っていたより時間も労力も使う様だ。
(仕方ないか?まだ子供だしな...)
一応の警戒はしておく。
見た限りでは魚人の傷はもう癒えている。
あとは心の問題だ。
もし洗脳を解けなかったら今度は町長には死んでもらう。
用済み、だしな。
「ゴルディ、もしもの為に警戒はしておけ」
俺の言葉に侯爵は頷き、壁に掛けてあった槍を手にした。
槍とは言っても実際には銛だったが、どっちでもいい。
身構えた俺達に反応するかの様に光は収まっていく。
(そろそろ、か?)
「あらん?外に出ちゃったのん?
ドリトミーくん、これは失態ねぇ?」
唐突に現れた男に俺達は目を見開いた。
気配をまるで感じなかった。
何者なんだ?この変態は?
その姿は誰がどう見ても変態だろうと感じる恰好だった。
わざわざ考察するのも嫌になる。
「お前は誰だッ‼どこから入ってきたッ!?」
俺の言葉に変態は答えなかった。
「本当に天使じゃないッ!?
後ろ姿だけでも綺麗だわ...
はぁん、あの華奢な身体、
全部犯したくなるわぁん?」
どうやらこのオカマ野郎は敵の様だ。
俺達の光を壊そうとしてやがるッ‼
「ゴルディッ‼このオカマ野郎は俺が相手するッ‼
早く嬢ちゃんを、連れ、なッ!?」
俺はオカマ野郎から目を外さなかった筈だ。
なのに、一瞬の瞬きの間に移動した。
この部屋の入り口から嬢ちゃんの背後へと。
その常軌を逸した行動に理解した。
(クソッ‼また魔族...しかも化け物級かよッ!?)
考えてる間に嬢ちゃんは床に倒れた。
既にオカマ野郎に何かされたのか?
「あらん?魔力でも切れたのかしらん?
あぁ、この寝顔、可愛すぎぃッ!?堪らないわッ‼
早く全身舐めまわしたいわぁ...じゅるっ
でも、焦ってはだめよ、ローザッ‼
奴隷にしてしまえば誰にも邪魔されないですものねぇん」
どうやら嬢ちゃんは魔力切れの様だが、
どうしたものか。
もし町長の心が戻ってなかったらそれこそピンチだ。
それより嬢ちゃんを奴隷だと!?
このオカマ野郎は間違いなく本気だ。
オカマのクセに少女が好きとか...
いや、変態は変態なんだが。
奴隷にして全身舐めまわすだとッ!?
そんな舐めた事させっかよッ‼
(出来るならそれは俺の役目だろッ‼)
俺はオカマに向かって突撃した。
「第5魔法『無』【勇敢なる者】ッ‼オラァッ‼」
全身にオーラを纏わせ、渾身の一撃を背中に叩き込んだ。
言っては何だが、
普通の人間が喰らえば上半身とはサヨナラだ。
だが、オカマは少し前へ躓いたかのように数歩進んだだけだった。
(...マジかよ...)
「...あらぁん?なぁに?
蛾の様に汚い存在が私に何するのよ?」
オカマ野郎の口調は明らかに冷たくなった。
どうやら少しイラつかせただけの様だ。
それにしてもどうして俺は何かと虫扱いされんだよッ!?
「俺は虫じゃ、害虫じゃねぇっつーのッ‼」
「はぁ、見た目も、心も、何もかもが虫唾が走るわ。
...あぁ、そういう事?可哀想にねぇ?」
「どういう事だ!?」
俺は内心気にはなったが、
目的を果たすべく侯爵に目配せした。
(俺が気を引いてるうちに嬢ちゃんを連れて...ん?)
「なぁに?ブサイクな蛾の分際で?
汚い顔を醜く薄汚いモノへと変えないで頂戴ッ‼」
オカマ野郎は俺へと攻撃をしようとしているみたいだが、
事態は変わった。
「...ルナの、ユウの友達に...手を出さないで...くれる?...」
倒れてた筈の少女がそこに立っていた。
そして、その少女は俺の知ってる限りでは『鬼』。
どうやらこの場はどうにかなりそうだ。
あの無機質な少女は規格外だからな。
ルナは嬢ちゃんが寝たら出てくんのか?
それとも魔力切れがカギなのか?
俺の考えに関係なく物語は進んでいったんだ
さぁ、戦おうかッ‼




