第63話 地下からの脱出
「くそっ、切れないッ! このままではエリック様がッ‼」
僕の後ろでゴルディさんが何やら焦っているみたい。エリック様? はて? エリック様とは? 侯爵よりも偉い人が来てるのかな? 僕の知らない人も協力してくれてるみたい。僕の為に色んな人が動いてくれてるのかな? それにしてはゴルディさんには余裕がないみたいだけど?
「あの、どうかしたんですか? 急いでるみたいですけど?」
僕の言葉にゴルディさんの手が止まった。いや、手は動かして欲しいんですけど?
「エリック様はこの真上、居間で現在町長と戦っておられます。私共は聖女様を早く連れ出せと命令されているのですが……ですので一刻も早くここから連れ出したいのですが、縄が切れなければ……」
え? 町長と戦ってるの? なんで? 町長って町の一番偉い人でしょ? それに居間で戦ってるって、規模が狭いよね? もしかして戦いってのは口でなのかな? 口喧嘩でもしてんのかな? ってか、ココ町長の家なの? ツッコミどころいっぱいでよくわかんないや。
「よく分かんないけど出るだけなら出来るんじゃないですか? 手足縛られてるだけだし」
「そ、そうかッ‼ だが、それだと聖女様に……」
え? な、なに? 僕変な事言っちゃった? ただ、僕を担いで出れば外に出れんじゃない? って思っただけなんだけど? もしかして気付いてなかったの? そんなに慌ててたの?
「僕を担いでくれたら出れるじゃないですか? 急いでるならそうしないと間に合わないんじゃないですか? 僕にはよく分かんないけど」
慌ててる理由がよく分かんない。でも、早くここから出たい。出た後で縄を切ってくれたらいいじゃん。
「よ、宜しいので? 天罰は下らないのでしょうか?」
「僕は聖女でも神様でもないですってっ‼ 普通の女の子って言ってるでしょッ!?」
まったく、僕をなんだと思ってるんだ! 僕はどこからどう見ても普通の女の子でしょう? というか、心は男なのになんで女の子アピールしないといけないの? 頭おかしい子って思われたくないけど、さぁ?
「か、かしこまりました。ではっ‼」
ゴルディさんは僕の膝下と腰に腕を入れて僕を持ち上げた。初めてされたかもしれない。
お姫様抱っこ
いや、担いでとは言ったけどコレかぁ。てっきり肩に担いでせっせと運ばれるのかと思った。なんだか悪くはない。悪くはないんだけど、恥ずかしい。だって慣れてないし。
「あ、あの、早く行きましょう?」
僕は上目遣い気味にゴルディさんを催促した。手足を縛られたままだし、恥ずかしいからちょっと照れながら。
「ッ!? ……」
その僕を見たゴルディさんは止まっていた。早く解放されたいのに動かなくなってしまった。ゴルディさんも急いでたハズなのに、どうしたんだろう?
「ゴルディさん? 早く行きましょう? 急いでたんでしょう?」
僕の声にハッとして、やっと歩き出した。なんだったんだ? 僕の顔に何か付いてた? 思ったよりブサイクだった? 別になんだって構わないんだけどね?
「聖女様は男殺しのようですね?」
僕の隣でエディさんが話しかけてきた。んー? 男殺し、とは? 僕自身が男だからか意味分かんない。第一殺してないし。ゴルディさんはピンピンしてるし。
「僕は人を殺した事なんてないですよ? それに、ゴルディさんもピンピンしてるじゃないですか?」
「えぇ、多分ビンビンでしょう」
「こ、これっ! エディッ‼ 前を歩けッ‼ いや、早く他の使用人を集めてこいッ‼」
ゴルディさんはそんなに急いでいたのか、忘れてたかの様にエディさんに指示を出した。なにか隠し事がバレたみたいに慌てながら。エディさんは何事もない様にその場で一礼して離れて行った。なんだったの? 男殺しって?
考えながらもゴルディさんの足は進んでいく。僕にはよく分かんないけど、やっと外に出れそう。何日ぶりなんだろ?
僕は上りの階段を担がれながら久しぶりの光を待ち焦がれていた




