第62話 切れない
「このような場所に監禁されているとは……聖女様、助けが遅れて申し訳ございません。すぐその縄を切りますので、少々お待ちを」
言いながらゴルディさんは僕の背後に回り、縛っているモノを切っていく。その時何故か生唾を飲む音が聞こえた。ん? どうしたんだろう?
切ってはいてくれているんだけど、なかなか切れないのか、全然自由になれない。
「あの? 切れないんですか?」
僕は不思議に思って顔は前を向いたまま聞いてみた。だって動いた拍子に腕とか切れたら痛いだろうし。
「いや、その、聖女様に傷でも付けようものなら私といえども……ですので、絶対に動かないでいただけますか?」
「あの? 僕は聖女なんかじゃないですよ? 普通の、えと、女の子です。切りづらいなら僕の腕を掴んだらいいじゃないですか?」
「め、滅相もない‼ 聖女様の神聖なる御身に触れるなど神の天罰が下ってしまいますッ‼ ですので触れずに切るので動かないで頂きたい」
えぇー、僕の扱いおかしくないですか? ただ切るだけでいいじゃん。なんで神様から天罰受ける程の扱いなのさ? 僕に触ったってなにも起きないって。
それにしても、いつまで経っても腕の縛っているモノを切ってくれない。いや、切ってはくれてるんだけど凄く遅い。いつまで待てば解放されるんだろう?
どうにもゴルディさんが慎重すぎて進んでないみたい。誰か他の人に頼んだ方がいいのかもしれない。残念だけどゴルディさんは駄目かもしれないと思うんだ。丁重に扱われすぎて本当に切れているのか分からないんだけど? つまようじか何かで切ってるのかってくらい変化が無いんだ。
周囲を確認したら目の前の扉の向こう、廊下側に誰かが立ってるのが見えた。あの人に手伝ってもらおうかな?
「すいません! そこの廊下で立ってる人! こっち来てください!」
現在一生懸命コスコスと切ってるゴルディさんには悪いけど、早く解放されたいんだ。僕の呼び声に反応して廊下で立ってた人が一礼して入ってきた。あれ? この人--
「……え~と、エディさんでしたっけ? こんにちは?」
たしかゴルディさんの屋敷で僕の世話係としていた人だ。すぐ獣人の人達が僕を眠らせたからあまり記憶は無いんだけど。
「えぇ、エディです。こんにちは。どうされたんですか?」
エディさんは姿勢正しく立って、指示を待っている様だった。ゴルディさんはエディさんに気付きつつも懸命に切っている。本当に切ってるよね? 切ってるフリとかじゃないんだよね?
「あの、エディさん、足の方の縄っぽい奴切ってもらえませんか? その、ゴルディさんは腕の方の奴を切ってくれてるんで」
「かしこまりました」
エディさんは綺麗な会釈で腰を折り、無駄のない動きで僕の足元に膝を着いた。使用人ってみんなこんなにキッチリした動きなのかな? 僕には無理そう。
「あの、聖女、さま? 凄く地面が濡れているようですが……その、尿の匂いとは違う、甘美な、匂いが、その……もしや、いたしたので? 無理やりに……?」
エディさんは僕の下半身を見ながら、頬を赤く染めつつ聞いてきた。
「ちちちちち、違いますからぁッ‼ 変な人達が変な薬? で僕に触ってきてッ‼ それで、その、あの、ムズムズが、えと、はうぅぅッ」
これは人に言えるような事じゃないと思う。触られただけでオシッコみたいなモノ漏らしたなんて。オシッコの感覚ではなかったんだけど、出たものは出た。なんか我慢出来なくて出てしまったんだ。
僕の魔法のおかげか、服と下着は綺麗に戻っているけど、地面は濡れたままだった。 その濡れた地面から匂いがしたんだと思う。僕がやった事には変わりないです。はい。
……恥ずかしい……
〈……ユウのせいじゃない……悪いのはアイツらだから……〉
ルナ、ありがとう。やっぱりルナがいると安心するよ
そして僕は真っ赤な顔で--
「地面は見ないでッ! 地面を嗅がないでッ! そして僕を見ないでよッ‼ 早く縄切ってッ‼」
とだけ言った。顔を隠せないのが辛い。腕を縛られてるから顔がエディさんに見られてしまう。助けに来てくれたハズなのに、まるで拷問だった。せめてもの救いはアビゲイルさんがいない事なのかもしれない。もしいたら、多分ヤバかったと思う。いろいろと。
「聖女様、この縄はヤワ草で作られた縄の様です」
エディさんは縄に触りながら僕にそう教えてくれた。というか、ヤワ草? あの?
「ヤワ草? あの柔らかいだけの草?」
たしかアビゲイルさんに聞いた使いようの無い草だったような?
「えぇ、柔らかすぎて刃がなかなか通らないのです罪人等の拘束などに用いられるのですが、ここで使われているとは……」
そうか、だからゴルディさんはなかなか切ってくれないのか。ごめんなさい、ゴルディさん。僕は勝手にダメな人だと思い込んでいたよ。今も頑張ってくれてたんだね?
僕は自分の勘違いに反省しながらも、何も出来ないからただただ待っていた。
この後何が起こるのか分からないままに--




